運動をしたときに体内の物質(エクサカイン)の循環が
どのような走化性、向性を持って起こるか?
これについて調べる事で
身体全体がどのような恒常性を持って機能しているか?
というのが見えてくると考えられます。
その連携を考える上で一つ着目されるのが
傍分泌効果(Paracrine effects)です。
ーー
Lisa S. Chow(敬称略)ら医療研究グループは
それぞれの物質に対する傍分泌効果について
まとめられています(Ref.(1) Table.1)。
この情報を起点にもう少し掘り下げて考えていきます。
それぞれエクソソームとの関連も調査します。
//アディポネクチン//ーー
輸送向性:脂肪組織→筋肉。
アディポネクチンは脂肪細胞から放出され
エネルギーを調整するものです。
アディポネクチンは
〇phosphorylation of acetyl coenzyme A carboxylase (ACC)
〇fatty-acid oxidation
〇glucose uptake
〇lactate production
これらを筋組織で促すとされています(2)。
運動時、筋肉は収縮運動を繰り返しますが、
そのためのエネルギーが必要です。
その一部を脂肪組織のアディポネクチンから受け取っている
と考えられます。
<エクソソームとの関連>
アディポネクチンは骨格筋などのTカドヘリン発現細胞に
作用し、エクソソームの産生を促進し、
全身の内分泌、代謝調整に重要な役割を担っています(3)。
応用として、間質系幹細胞治療における
エクソソームの分泌をアディポネクチンが高めて
心不全のマウスに対して治療を行っています。
アディポネクチンは上述したように筋組織の
エネルギー供給に貢献するだけではなく
エクソソームにより心臓の機能が高まったことが
示されています(4)。
<参考>
アディポネクチンは生体外でエクソソームを生成する際に
効率的にエクソソームを生成するための添加物質として
使える可能性があります。
//アンジオポエチン-1//ーー
輸送向性:血管平滑筋→血管系組織
〇Tie2 receptor
〇PI 3'-kinase
〇Akt
これらの形質導入経路を通じて
血管平滑筋のアンジオポエチン-1が傍分泌様活性で
血管内皮の細胞の生存に貢献します。
脈管生成、血管新生に関わる糖たんぱく質です。
他方で、
運動時には血管平滑筋は血圧を維持するために
周辺組織と連携をとるとされています(5)。
その連携の一つかもしれません。
実際に運動時にアンジオポエチン-1は高まると
されています(6)。
//βアミノイソ酪酸-BAIBA//ーー
輸送向性:筋組織→白色脂肪組織、骨
βアミノイソ酪酸は小さな分子のマイヨカインで
白色脂肪細胞の中の褐色脂肪細胞特異的遺伝子の発現を
上昇させ、白色脂肪組織を褐色化させる事が知られています(7)。
このβアミノイソ酪酸は運動中に上昇する事が知られています(7)。
他方で、βアミノイソ酪酸は
骨を活性酸素などの死因から守る事が知られています(8)。
運動中ではPGC-1aタンパク質の増加が
運動している筋肉から血液の
βアミノイソ酪酸の分泌の引き金となるとされています。
脂肪の燃焼、インスリン、トリグリセリド、
総コレステロール調整、細胞代謝に役割を持つことが知られています。
//脳由来神経栄養因子-BDNF//ーー
輸送向性:筋組織→神経系
統合失調症や自閉症スペクトラム症には神経回路の発達異常がある
とされています。生後間もない脳には過剰な神経結合(シナプス)
があり、その後不要なシナプスが除去されて
機能的な神経回路が感染します。
この除去は「シナプスの刈込(denervation)」と呼ばれます。
脳由来神経栄養因子はこの不要な神経の除去において
重要な役割を果たすとされています(9,10)。
運動はこの脳由来神経栄養因子の発現を促すとされています(11)。
<エクソソームとの関連>
この脳由来神経栄養因子は
鬱病の患者さんでは血液中、エクソソーム中両方で
下がっていることがわかります。
一方、前駆物質であるproBDNFは高まっています。
<proBDNFについて>
このproBDNFはp75NT受容体に特異的に結合後、
神経細胞のアポトーシスを誘導し、神経伝達では
長期抑圧を増強すると言われており、
BDNFと逆の効果があります(12)。
このBDNFの成熟はdorsal-retina特異的分子の一つである
Follistatin-like protein 4(SPIG1)が
成熟抑制的に働いていることが知られています(13)。
これを調べた理由は、BDNFの前駆体が
神経細胞伝達を抑制的に働き、うつ病の病理の一つである
と考えられ、一方で、成熟(?)BDNFが
逆に抗うつ的な役割があると考えられるので
その成熟について調べる事が鬱病の病理の理解
あるいは治療につながる可能性があると考えたからです。
//フラクタルカイン//ーー
輸送向性:筋組織→白血球
このフラクタルカインはCX3C受容体1依存的に
白血球の血管内皮でのマイグレーション(動き)と吸着を
誘発することが知られています。
NK細胞は腫瘍にこのCX3C受容体1を表現している事が
知られています(14)。
このフラクタルカインは上述したように
白血球と血管内皮細胞の相互作用において
重要な役割を果たしています(15)。
一方で、
運動とどのように機能的に結びついているか?
膵臓のβ細胞の機能が高まる事による
グルコース由来のインスリンの分泌を
好ましい量に調整する働きがあると考えられています(16)。
//細胞種特異的輸送系統(*)の観点//ーー
(*)Cell-type-specific delivery system
重い疾患を持つ方、あるいは高齢の方など
適度な運動が難しいケースもあります。
しかし、運動が傍分泌の様式でどのように組織間で
連携性を高めているかを上述したように
明らかにすることで、
そのベクトルに合わせた形で運動効果に類似させた
治療を行うことができる可能性があります。
例えば、アディポネクチンであれば
脂肪細胞由来のエクソソームを使って
筋組織に輸送する事で筋力が高まりやすいかもしれません。
また、一度に複数の機能を組みこむという観点では、
運動、エクサカインと関連が深い
筋細胞から生み出したエクソソームを使って
傍分泌の出発点となっているエクサカイン
〇BAIBA
〇BDNF
〇Fractalkine
〇IL-6
〇IL-7
〇IL-8
〇IL-15
〇Myostatin
〇SPARC
〇TGFβ1
〇VEGF
これら複数をエクソソームに人為的に封入する事も
考えられます。
しかし、IL-6など炎症性のサイトカインもあるので
運動していない時に過剰に入れる事で
逆効果となる可能性もあります。
一方で、脳由来神経栄養因子など特定の部位に絞って
治療する場合にはそれに関連するエクサカインを
特定して特異的に組み込むことで
治療に効果を生む可能性もあります。
脳由来神経栄養因子の場合には脳神経に効率的に届くように
筋組織由来のエクソソームの表面に
神経特異的なそれと親和性が高いリガンドを形成する
細胞種特異的輸送系統を利用することができます。
(参考文献)
(1)
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Exerkines in health, resilience and disease
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(2)
T. Yamauchi, J. Kamon, Y. Minokoshi, Y. Ito, H. Waki, S. Uchida, S. Yamashita, M. Noda, S. Kita, K. Ueki, K. Eto, Y. Akanuma, P. Froguel, F. Foufelle, P. Ferre, D. Carling, S. Kimura, R. Nagai, B.B. Kahn & T. Kadowaki
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(3)
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