2022年5月1日日曜日

エクソソームの異種性と細胞間コミュニケーション

エクソソームは細胞間コミュニケーションを果たすための
輸送媒体として働きます。
エクソソームの表面リガンドが
細胞の表面受容体に結合することで
細胞内の特定の生理経路が誘発されることもあります。
また、エンドサイトーシスした後
エクソソームの内容物が受け細胞内で作用する事も考えられます。
このような相互作用は細胞単位で起こっていますが、
それをより集団的に考えると組織単位
それを超えると臓器単位ということになります。
脳神経系が末梢神経なども含めると
身体全体と連携している事は通常知られていますが、
例えば、腎臓が周りの臓器とつながっているとは
あまり考えられません。
しかし、腎臓の細胞から生み出されたエクソソームが
周りの腸、肝臓、すい臓、肺、心臓、脳、血液、骨、筋肉などと
この輸送媒体を介して複雑に連携をとっていることが
おそらく想定されます。
地球の全世界が一つの身体だとすると
エクソソームの連携は複雑に入り組んだ航空網のようだ
といえるかもしれません。
そのエクソソームは
大きさ、形、膜構成、表面リガンド、内容物
あらゆるものが異なると考えられます。
同一細胞でもその異種性は高次的です。
従って、その生理を単純なモデルで掌握する事は
極めて困難ですが、この異種性があるからこそ
身体の恒常性が非常にノイズに強いシステムで
日々守られていると考える事もできます。
--
Raghu Kalluri and Valerie S. LeBleu(敬称略)からなる
医療研究グループはエクソソームの異種性と
細胞間コミュニケーションについて総括されています(1)。
その内容の一部を追記しながら
読者の方と情報共有したいと思います。

エクソソームは単一の細胞から取り出したとしても
その物理、化学、生物、生理学的な特性において
異種性があると考えられています。
例えば
〇大きさ(40-160nm)
〇内容物(タンパク質、脂質、核酸など)
〇受け細胞への機能性
〇ドナー細胞によるもの
これらが挙げられています(1)。
大きさがそれぞれ異なる事は
エクソソームの生成過程によります。
エンドソーム後期課程の多胞体膜への陥入の
プロセスにバラツキがあるからであると考えられています。
これは細胞内の生物学的な起源になるので
その大きさの偏差を制御する事は容易ではありません。
また、大きさが異なる事によって
内容物である液体、固体の量、種類も異なってきます(2-4)。
そのため精製のための分別方法が必要です。
それによって大きさレンジ別に亜群を作る事です(5)。
細胞の微小環境や元々の生物的特徴が
エクソソームの内容物や生物マーカーとなる
表面リガンドに影響を与えます。
エクソソームは
〇膜タンパク質
〇細胞質タンパク質
〇細胞核タンパク質
〇細胞外マトリックスタンパク質
〇代謝生成物
〇核酸(mRNA, noncodingRNA, DNA)
これらを含みます(6-9)。
エクソソームの内容物の分析は
精製したエクソソームを多く必要とします(large pools)。
しかしながら、
エクソソームは同じ内容物を含みません。
例えば、miRNA(10)。
エクソソームを含む細胞外小胞のタンパク質分析では
エクソソームの物質マーカー異種性が顕わになりました。
それによってマーカー依存的な精製方法の
実験デザインが難しくなります(11)。
一方で、、
乳癌細胞でのタンパク質分析では
細胞の起源が上皮様か間葉様かを示し、
特徴的なたんぱく質、核酸を含んでいることがわかりました。
従って、癌細胞特有のエクソソーム生物生成や
内容物の積載のメカニズムがあることが考えられます。
従って、細胞の状態が大きく異なる細胞同士での
比較においては、内容物、表面リガンドなどに
差が現れてくると考えられます。
細胞間コミュニケーションによって
ドナー細胞から放出されたエクソソームを
受け取る細胞におけるエクソソームの効果は異なります。
なぜなら、エクソソームと結合する細胞の表面受容体が
異なるからです。
細胞の生存、細胞死、免疫調整など
受容体特有の機序によって生理経路が異なってきます。
エクソソームはドナー組織、細胞の特徴を持っているので
それによって細胞種特異的な走化性、向性を示すことがあります。
例えば、乳癌細胞由来のエクソソームでは
インテグリンリガンド依存的に
肝臓、脳、肺などに臓器向性を持つことがわかっています(12)。
大きさ、内容物、膜構成、形、表面リガンドなど
様々な要因において異種性をもつエクソソームの
特徴を考えると、全体としてその特性は
非常に高次に複雑で、異種的であると考えられます。

エクソソームは離れた細胞間のコミュニケーションのため
の輸送媒体として定義されますが、
エクソソームが受け細胞でどのような運命をたどるか?
これについて今まで集中的に考えられてきています。
その構成物質はどうなるのか?
それによって受け細胞でどう表現されるのか?
分子的な変化はあるのか?
これらなどです。
エクソソームの細胞間のコミュニケーションは
生成、消滅の過程が1次的ではなく、
複雑に交差している可能性が考えられています。
つまり内的に生成されたエクソソームと
エクソソームが再び2次的に利用されるという交差です。
従って、新しいエクソソームと古いそれが
複雑に体内で交じり合っていると考えられています(1)。
そのようなエクソソームの寿命や経路は
細胞の機能伝達によって改変される事もあります。
例えば、発がん性信号である変異KRASによって
膵臓癌細胞のマクロピノサイトーシスによって
エクソソームの取り込みが促進されるとあります(13,14)。
メラノーマ細胞ではエクソソームを
細胞膜との融合によって取り込むと言われています(15)。
副腎髄質腫瘍由来の細胞では
クラスリン依存的なエンドサイトーシスが
起こりやすいと言われています(16)。
従って、癌細胞は特異的な経路によって
エクソソームによる物質の受け取りを高めている
と考える事ができます。
逆に考えるとこの経路をうまく使って薬剤を輸送する事で
特異的な抗がん作用が得られる可能性もあります。
--
エクソソームがどのように生体内で動いているか
トレースする事によって
複雑に絡み合っていると考えられる
エクソソーム依存的な細胞間コミュニケーションの
一部を切り取ることができます。
それを遺伝子的な戦略で行った報告があります(17-19)。
その研究では
エクソソームがmRNAを受け細胞に輸送するのは
稀なケースであるとされています。
この頻度はエクソソームを生み出す免疫細胞が
活性化、多く増殖する事によって高まります。
この状態では急性、慢性の炎症が生じています(17)。
癌治療における化学療法では
エクソソームの取り込みに影響を与え、
その後、癌細胞の生物学的な反応に影響します。
プロトンポンプを抑えたり、
細胞のpHを変える事で
メラノーマのケースでエクソソームの取り込みは制限されました(20)。
従って、受け細胞の表面電荷や酸性度などが
エクソソームの取り込みに影響を与えている事がわかります。
これは他のナノ粒子の特徴と一致する事です。
--
エクソソームは内容物に含むタンパク質を
ドナー細胞内で仕分けして、
特定の信号を誘発する事ができることが示されています。
例えば、炎症性サイトカインを欠乏させた
神経幹細胞は
IFNγ-bound-IFNGR1を持つエクソソームを生成しました。
これによりIFNGR1を表現している受け細胞で
STAT1信号が活性化されました。

(参考文献)
(1)
Raghu Kalluri and Valerie S. LeBleu
The biology, function, and biomedical applications of exosomes
Science 367 , eaau6977 (2020)
(2)
M. Mathieu, L. Martin-Jaular, G. Lavieu, C. Théry, Specificities
of secretion and uptake of exosomes and other extracellular
vesicles for cell-to-cell communication. Nat. Cell Biol. 21,
9 – 17 (2019). doi: 10.1038/s41556-018-0250-9;
pmid: 30602770
(3)
M. P. Bebelman, M. J. Smit, D. M. Pegtel, S. R. Baglio,
Biogenesis and function of extracellular vesicles in cancer.
Pharmacol. Ther. 188, 1 – 11 (2018). doi: 10.1016/
j.pharmthera.2018.02.013; pmid: 29476772
(4)
C. Ciardiello et al., Focus on extracellular vesicles: New
frontiers of cell-to-cell communication in cancer. Int. J. Mol.
Sci. 17, 175 (2016). doi: 10.3390/ijms17020175;
pmid: 26861306
(5)
H. Zhang et al., Identification of distinct nanoparticles and
subsets of extracellular vesicles by asymmetric flow field-flow
fractionation. Nat. Cell Biol. 20, 332 – 343 (2018).
doi: 10.1038/s41556-018-0040-4; pmid: 29459780
(6)
S. Keerthikumar et al., ExoCarta: A web-based compendium
of exosomal cargo. J. Mol. Biol. 428, 688 – 692 (2016).
doi: 10.1016/j.jmb.2015.09.019; pmid: 26434508
(7)
M. Pathan et al., Vesiclepedia 2019: A compendium of RNA,
proteins, lipids and metabolites in extracellular vesicles.
Nucleic Acids Res. 47, D516 – D519 (2019). doi: 10.1093/nar/
gky1029; pmid: 30395310
(8)
B. W. van Balkom, A. S. Eisele, D. M. Pegtel, S. Bervoets,
M. C. Verhaar, Quantitative and qualitative analysis of small
RNAs in human endothelial cells and exosomes provides
insights into localized RNA processing, degradation and
sorting. J. Extracell. Vesicles 4, 26760 (2015). doi: 10.3402/
jev.v4.26760; pmid: 26027894
(9)
E. Lasda, R. Parker, Circular RNAs co-precipitate with
extracellular vesicles: A possible mechanism for circRNA
clearance. PLOS ONE 11, e0148407 (2016). doi: 10.1371/
journal.pone.0148407; pmid: 26848835
(10)
J. R. Chevillet et al., Quantitative and stoichiometric analysis
of the microRNA content of exosomes. Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A.
111, 14888 – 14893 (2014). doi: 10.1073/pnas.1408301111;
pmid: 25267620
(11)
J. Kowal et al., Proteomic comparison defines novel markers
to characterize heterogeneous populations of extracellular
vesicle subtypes. Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 113, E968 – E977
(2016). doi: 10.1073/pnas.1521230113; pmid: 26858453
(12)
Ayuko Hoshino, Bruno Costa-Silva, Tang-Long Shen, Goncalo Rodrigues, Ayako Hashimoto, Milica Tesic Mark, Henrik Molina, Shinji Kohsaka, Angela Di Giannatale, Sophia Ceder, Swarnima Singh, Caitlin Williams, Nadine Soplop, Kunihiro Uryu, Lindsay Pharmer, Tari King, Linda Bojmar, Alexander E. Davies, Yonathan Ararso, Tuo Zhang, Haiying Zhang, Jonathan Hernandez, Joshua M. Weiss, Vanessa D. Dumont-Cole, Kimberly Kramer, Leonard H. Wexler, Aru Narendran, Gary K. Schwartz, John H. Healey, Per Sandstrom, Knut Jørgen Labori, Elin H. Kure, Paul M. Grandgenett, Michael A. Hollingsworth, Maria de Sousa, Sukhwinder Kaur, Maneesh Jain, Kavita Mallya, Surinder K. Batra, William R. Jarnagin, Mary S. Brady, Oystein Fodstad, Volkmar Muller, Klaus Pantel, Andy J. Minn, Mina J. Bissell, Benjamin A. Garcia, Yibin Kang, Vinagolu K. Rajasekhar, Cyrus M. Ghajar, Irina Matei, Hector Peinado, Jacqueline Bromberg & David Lyden
Tumour exosome integrins determine organotropic metastasis
Nature volume 527, pages329–335 (2015)
(13)
C. Commisso et al., Macropinocytosis of protein is an amino
acid supply route in Ras-transformed cells. Nature 497,
633 – 637 (2013). doi: 10.1038/nature12138; pmid: 23665962
(14)
S. Kamerkar et al., Exosomes facilitate therapeutic targeting
of oncogenic KRAS in pancreatic cancer. Nature 546,
498 – 503 (2017). doi: 10.1038/nature22341; pmid: 28607485
(15)
I. Parolini et al., Microenvironmental pH is a key factor for
exosome traffic in tumor cells. J. Biol. Chem. 284,
34211 – 34222 (2009). doi: 10.1074/jbc.M109.041152;
pmid: 19801663
(16)
T. Tian et al., Exosome uptake through clathrin-mediated
endocytosis and macropinocytosis and mediating miR-21
delivery. J. Biol. Chem. 289, 22258 – 22267 (2014).
doi: 10.1074/jbc.M114.588046; pmid: 24951588
(17)
K. Ridder et al., Extracellular vesicle-mediated transfer of
genetic information between the hematopoietic system and
the brain in response to inflammation. PLOS Biol. 12,
e1001874 (2014). doi: 10.1371/journal.pbio.1001874;
pmid: 24893313
(18)
A. Zomer et al., In Vivo imaging reveals extracellular
vesicle-mediated phenocopying of metastatic behavior. Cell
161, 1046 – 1057 (2015). doi: 10.1016/j.cell.2015.04.042;
pmid: 26000481
(19)
M. Tkach, C. Théry, Communication by extracellular vesicles:
Where we are and where we need to go. Cell 164, 1226 – 1232
(2016). doi: 10.1016/j.cell.2016.01.043; pmid: 26967288
(20)
I. Parolini et al., Microenvironmental pH is a key factor for
exosome traffic in tumor cells. J. Biol. Chem. 284,
34211 – 34222 (2009). doi: 10.1074/jbc.M109.041152;
pmid: 19801663

0 コメント:

コメントを投稿

 
;