2022年5月22日日曜日

細胞内の膜の動的機序に関わるホスフォイノシチド

細胞外小胞を薬剤輸送媒体として利用するためには
細胞外小胞がどのように細胞質内で形成されるか?
それについて知る必要があります。
エクソソームの場合はエンドソームの機序について
も知る必要があります。
その小胞の特徴は遊離している裸の物質とは異なり
主に脂質からなる被膜を含んでいて
それが内腔を囲むように閉経路を形成しています。
その形は円形とは限りません。
また、細胞外小胞の標的性を上げるために
細胞種特異的なリガンドを形成する場所は
今述べた細胞膜を含めた被膜上です。
この被膜は下述するようにホスフォイノシチドから
一部構成され、このホスフォイノシチドは
その被膜、そして小胞を方向付ける機能性を持っています。
またエンドサイトーシス、エクソサイトーシスなど
臨界的な小胞の生成、放出機序にも関わります。
従って、細胞外小胞が
どのような表面リガンドを引き込み、
それが生成、放出されるまでに
どのような軌跡を描くかなど
様々な機能において被膜中にある
ホスフォイノシチドは重要になります。
York Posor, Wonyul Jang & Volker Haucke(敬称略)ら
医療研究グループは
被膜の動的機序に関わるホスフォイノシチドについて
基礎的な物理、生理学について総括されています(1)。
本日はその要約、背景部分の一部、追記、考察を
読者の方と情報共有したいと思います。

//要約//ーー
ホスフォイノシチドはホスファチジルイノシトール
から由来した信号伝達脂質です。
これは真核生物の被膜の細胞質の小葉の中の
遍在するリン脂質です。
ホスフォイノシチドは被膜動的機序に関わる集成機能を
持つ物質として認識されていました。
これは細胞生理学や病気のすべての状況に
広く影響を与えます。
細胞質、内腔からのエンドサイトーシス。
細胞質、内腔からのエクソサイトーシス。
これらにおいてホスフォイノシチドは
小胞の輸送器として被膜を内側、外側へと誘導します。
その中でホスフォイノシチドの変換が伴います。
他方で
オートファジー、エンドリソソームシステムにおける
ホスフォイノシチドの役割は
リソソーム生物学をより複雑にしました。
細胞内小器官の間での被膜接触サイトにおける
非小胞性の脂質、イオン、代謝生成物の交換は
ホスフォイノシチドによるとされています。
York Posor, Wonyul Jang & Volker Haucke(敬称略)らは
ホスフォイノシチドが
どのように被膜動的機序を形作って方向づけるか?
その細胞生理学への影響はどうか?
これにおける現在の理解と
ホスフォイノシチドの制御のコンセプトについて
総括されています(1)。

真核生物の特徴は精巧な被膜システムを持ち
それが生理学、機能的に特異的な細胞外小胞を
生み出すことに貢献しています。
その機能的な被膜によって
細胞の活動に必要な代謝的なネットワーク
信号伝達のカスケード(雪崩的な信号伝達)
を可能にします(2)。
--
〇小胞体
〇ゴルジ複合体
〇エンドソーム
〇リソソーム
〇細胞膜
これらの異なる被膜を含む細胞内小器官は
タンパク質、核酸、代謝生成物などの
マクロ分子の交換を行います。
その交換は小胞やチューブを通して
・内包化(エンドサイトーシス)
・分泌(エクソサイトーシス)
これらの機序の中で行われます。
多くの細胞内小器官は
複数のそれらの膜が接触する
被膜接触サイト(Membrane contact sites(MCSs))を
形成する事が出来、
それによって非小胞交換を行うことができます。
その交換物は脂質、イオン、代謝生成物などです(3,4)。
--
細胞内小器官は融合、分裂、成熟を経験します。
それは飢餓状態やストレス状態など
環境が変わる事に対する生理学的な反応です。
これらのプロセスは統合的に
"Membrane dynamics"
つまり被膜の動的機序として参照されます。
これは被膜とタンパク質の相互作用が
精密に制御される事が必要です。
--
ホスフォイノシチドは
「ミオイノシトール含有被膜リン脂質
フォスファジルイノシトール(PtIns)」
これです。
このホスフォイノシチドは
どのような被膜を形成するかの決定因子であり
被膜を特定の方向に動かすための
時空間の合図として働きます(5-7)。
--
例えば、
PtdIns 3-phosphate (PtdIns(3)P)。
これはマーカー脂質として働きます。
それによってエンドソームへ
重要な細胞質のタンパク質を引き付けます(5,7,8)。
--
ホスフォイノシチドは小胞体で合成され、
他の細胞内小器官に輸送されます。
それは被膜接触サイトでタンパク質を
交換することで実現します。
また、小胞、チューブキャリアによって
分泌経路に沿って、エンドリソソームシステム内で
輸送されることもあります(5)。
--
ホスフォイノシチドキナーゼ、ホスファターゼ
によってイノシトール環の
可逆的なリン酸化、脱リン酸化によって
7種類の特異的なホスフォイノシチド種を形成します。
これらのホスフォイノシチドは
互いに酵素の働きで変換することができ、
それは代謝ネットワークに影響を与えます。
(参考文献(1) Fig.1b参照)
--
ホスフォイノシチドは細胞内のリン脂質の貯蔵の
1%以下の量しか含んでいませんが、
非常に高い局在性を持っています。
その結果、合成、回転率において
精緻な時空間制御性を有しています(5)。
これは
〇受容体
〇イオンチャンネル
〇輸送体
これらのような
細胞質エフェクタータンパク質
被膜に統合されたタンパク質
これらの局在化、活性化に影響を与えます。
これは下述する細胞外特異的輸送系統で
非常に重要な事実になります。
つまり、ホスフォイノシチドのタイプ、状態によって
膜上に表現される受容体が変わる可能性を
示唆しているからです。
エフェクタータンパク質の
フォスフォイノシチド結合ドメインは
親和性の低い形でその標的脂質と結合します。
従って、
付加的な因子として多価の認識、結合が必要になります。
それは
〇スモールGDP結合タンパク質
〇他の脂質
〇Avidity effects 
これらを含みます。
複数の脂質結合サイト、ドメインを必要とします(2,5,7)。
これらの脂質、タンパク質の
結合性を高める同時認識は
ホスフォイノシチド結合ドメインベースの
脂質バイオセンサーの区画特異性を基礎とします。
そのセンサーは型ごとに定義されています。
(参考文献(1) Table 1参照)
ホスフォイノシチドのエフェクターモジュールは
独立に制御されます。
それによって
高速に細胞の被膜動的機序を再構築します。
また環境に適合するように代謝生成物の
連携を同様に再構築します。
--
ホスフォイノシチドの細胞生物学での重要性は
それを代謝する酵素の不全が生じる人の病気で
明らかにされています。
これらの酵素の特定のアイソフォームの変異は
驚くべき程組織、細胞種特異的に生じます(9)。
例えば、
神経-筋肉組織、骨格筋、腎臓の疾患では
ホスフォイノシチドのフォスファターゼ(酵素)の
機能不全が生じる事があります。
また、過成長症候群、免疫不全、癌でも
同様に酵素の不全が生じることがあります(6,10)。
バクテリアやウィルスなどの病原体も
ホスフォイノシチドの制御を巧みに利用する
ことがわかっています。
例えば、ホスフォイノシチド-3の酵素由来の
ペプチドはインフルエンザウィルス感染による
エンドサイトーシスを抑制することが知られています(11)。
--
York Posor, Wonyul Jang & Volker Haucke(敬称略)らの
総括では、特定のホスフォイノシチドの
時空間で制御された状態での変換が
どのように内包化、分泌の中で
被膜の流動性に影響を与えるか?
オートファジー、リソソームシステムでの役割は何か?
将来の展望や臨床応用への展望はどのようか?
それについて述べられています(1)。

//細胞種特異的輸送系統の観点(*)//--
(*)Cell-type-specific delivery system
細胞種特異的輸送系統を実現するための
1つの有力な方法は輸送媒体として
エクソソームを使う事です。
エクソソームはエンドソームへの陥入を通じて
腔内膜小胞として多胞体内に形成されます。
その時に細胞膜の膜情報を引き継ぐので
細胞膜の表面リガンドを
遺伝子ベクトルなどで任意に作製できれば
標的の細胞種が特異的に発現する表面リガンドに対する
親和性の高い結合因子を設計できます。
それにより特異的輸送が可能になる可能性があります。
しかし、その際に
無作為に、ランダムに細胞膜の情報を引き継ぐか?
その点についてはわかっていません。
それを解く一つの糸口が
数種類あるホスフォイノシチドです。
膜がどのように流動してエンドソーム、小胞を形成するか?
この事に密接に関わっているからです。
その時に表面リガンドも膜に結合した状態で
動く可能性が考えられます。
York Posor(敬称略)らがFig.1に示すように(1)、
どのタイプのホスフォイノシチドを引き継ぐかは
条件による可能性があります。
それぞれの型のホスフォイノシチドと
形成されやすい表面リガンドの関係があれば、
どの表面リガンドを最終的にエクソソームが引き継ぐかは
ランダムではない可能性があります。
環境によって変わるかもしれないということです。
あるいは人工的に制御できるかもしれません。
また、一部はゴルジ複合体などの
細胞内小器官の被膜情報も引き継ぎます。
この点は非常に重要なところなので、
詳しく調査していく必要があります

//考察//ーー
ホスフォイノシチドは膜形成の方向づけ、変形などの
役割を担っていると理解しています。
すべてのリン脂質の中で1%程度の量ですが、
被膜の構成要素となるため
細胞内の様々な小器官、小胞において
非常に重要な役目を持っています。
その基本的な物理の中で「動力」があります。
なぜなら、被膜を方向付けするからです。
このホスフォイノシチドは
従って、動力源となるアクチンと相互作用します(11)。

(参考文献)
(1)
York Posor, Wonyul Jang & Volker Haucke
Phosphoinositides as membrane organizers
Nature Reviews Molecular Cell Biology (2022)
(2)
Behnia, R. & Munro, S. Organelle identity and  
the signposts for membrane traffic. Nature 438, 
597–604 (2005).
(3)
Prinz, W. A., Toulmay, A. & Balla, T. The functional 
universe of membrane contact sites. Nat. Rev. Mol. 
Cell Biol. 21, 7–24 (2020).
(4)
Wu, H., Carvalho, P. & Voeltz, G. K. Here, there,  
and everywhere: the importance of ER membrane 
contact sites. Science https://doi.org/10.1126/ 
science.aan5835 (2018).
(5)
Balla, T. Phosphoinositides: tiny lipids with  
giant impact on cell regulation. Physiol. Rev. 93, 
1019–1137 (2013).
(6)
Bilanges, B., Posor, Y. & Vanhaesebroeck, B. PI3K 
isoforms in cell signalling and vesicle trafficking.  
Nat. Rev. Mol. Cell Biol. https://doi.org/10.1038/
s41580-019-0129-z (2019).
(7)
Di Paolo, G. & De Camilli, P. Phosphoinositides in cell 
regulation and membrane dynamics. Nature 443, 
651–657 (2006).
(8)
Gillooly, D. J. et al. Localization of phosphatidylinositol 
3-phosphate in yeast and mammalian cells. EMBO J. 
19, 4577–4588 (2000).
(9)
Staiano, L., De Leo, M. G., Persico, M. &  
De Matteis, M. A. Mendelian disorders of PI 
metabolizing enzymes. Biochim. Biophys. Acta 1851, 
867–881 (2015).
(10)
Goncalves, M. D., Hopkins, B. D. & Cantley, L. C. 
Phosphatidylinositol 3-kinase, growth disorders,  
and cancer. N. Engl. J. Med. 379, 2052–2062 
(2018).
(10)
Yoichiro Fujioka, Aya O. Satoh, Kosui Horiuchi, Mari Fujioka, Kaori Tsutsumi, Junko Sasaki, Prabha Nepal, Sayaka Kashiwagi, Sarad Paudel, Shinya Nishide, Asuka Nanbo, Takehiko Sasaki, Yusuke Ohba
A Peptide Derived from Phosphoinositide 3-kinase Inhibits Endocytosis and Influenza Virus Infection
J-Stage home / Cell structure and function 2019 Volume 44 Issue 1 Pages 61-74
(11)
Helen L Yin, Paul A Janmey
Phosphoinositide regulation of the actin cytoskeleton
Annu Rev Physiol. 2003;65:761-89. 


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