エクソソームは細胞間のコミュニケーションに
関わる細胞外小胞です。
この仕組みは通常の細胞同士で行われ、
身体の恒常性に寄与していると考えられますが、
生物の細胞の中の癌細胞、癌組織でも
同様にエクソソームは細胞外の連携媒体として
働き、その恒常性に関連していると考えられます。
従って、
エクソソームは
〇癌の新生組織形成
〇癌組織の成長
〇癌組織の転移
〇腫瘍随伴症候群
〇治療抵抗性
これらに関わっているとされています(1)。
エクソソームの役割は動的で
癌細胞種、遺伝子、発達ステージ特異的である
とされています。
Raghu Kalluri and Valerie S. LeBleu(敬称略)
からなる医療研究グループは
エクソソームと癌の関連を以下、複数の視点で
総括されています(1)。
本日はその内容の一部、追記、考察を
読者の方と情報共有したいと思います。
//癌エクソソーム由来RNA//ーー
-
(前立腺癌)
前立腺癌由来のエクソソーム内容物
miR-125b,miR-130,miR-155
HRas mRNAs, Kras mRNAs
これらが癌組織形成、脂肪幹細胞の癌化
これらに関わっているとされています(2)。
-
(乳癌)
転移性乳癌細胞由来のエクソソーム内容物
〇miR-200が転移性が弱い細胞に対しても
上皮間葉転換を促進する事が知られています(3)。
〇miR-122が肺の糖の取得を抑制し、転移を促進します(4)。
-
(癌関連線維芽細胞)
乳癌が癌関連線維芽細胞からのエクソソームに
RN7SL1 RNAを蓄積させます。
それによって炎症性免疫細胞引き込み依存的に
癌の成長や転移を促すことがマウスのケースで
知られています(5)。
//転移関連//ーー
癌細胞由来のエクソソームによって
転移サイト骨髄前駆細胞、マクロファージが
引き込まれることが転移に関係しています。
特にメラノーマ(5), 膵臓癌(6)。
-
癌細胞由来のエクソソームの
転移の際の臓器向性はインテグリンの型によって
決まります。それが乳癌、膵臓癌の転移のケース
で確認されています(7)。
-
エクソソーム内のEGFRの胃癌細胞から
肝臓のクッパー細胞、肝星細胞への輸送は
肝臓特異的な転移を促進します(8)。
//通常-癌細胞のエクソソーム交換//ーー
癌関連線維芽細胞由来のエクソソーム内のmtDNAは
乳癌細胞の酸化的リン酸化を誘発し、
生存性を高めたり、代謝的休眠から目覚めさせる
効果があるとマウスのケースで確かめられています(9)。
-
星状膠細胞由来のエクソソームによる
miR-19aの乳癌細胞への輸送は
PTENを抑制し、転移を促進するとされています(10)。
-
線維芽細胞由来のエクソソームは
Wnt-PCP自己分泌信号を誘発する事によって
乳癌細胞の遊走を促進するとされています(11)。
//癌細胞の代謝改変//ーー
癌関連線維芽細胞由来のエクソソームは
癌細胞のTCAサイクルを活性化させます。
-
前立腺、膵臓の癌関連線維芽細胞由来の
エクソソームは癌細胞の脂質形成を活性化させます。
それによって癌成長の為の
環境の適合性を高めます(12)。
-
癌関連線維芽細胞由来のエクソソームは
miR-22, let7a, miR-125bを輸送する事によって、
前立腺、膵臓癌の酸化的リン酸化を抑制し、
糖化、グルタミン依存還元カルボキシル化を
促進します。このような代謝改変が生じます(12)。
これらのような代謝改変は
マウスのケースで癌成長の為の
代謝的適合性を高める事が想定されています。
//血管への影響//ーー
乳癌細胞由来のエクソソームのmiR-105は
血管内皮組織の結合組織ZO-1を抑制し、
血管がリーキーになり、転移しやすくなりました(13)。
-
低酸素状態の膠芽腫からのエクソソームは
内皮の血管生成を誘発し、癌成長を促しました(14)。
//治療抵抗性//ーー
B細胞リンパ腫からCD20+エクソソームは
B細胞に対してデコイ機能があり、
CD20抗体による治療抵抗性を示しました(15)。
同様にHER2治療でもデコイ機能が確認されました(16)。
-
癌関連線維芽細胞由来のエクソソームは
癌幹細胞の成長を促す事によって
大腸がんの抗がん剤抵抗性を促進しました(17)。
-
エクソソームのlncARSAはmiR-34とmiR-449。
これらと結合し、AXL、METの発現を促進することによって
スニチニブに対して抵抗性を示しました(18)。
-
癌関連線維芽細胞由来エクソソーム内のRNAが
癌細胞に輸送されることで
放射線治療に対しての抵抗性を示しました(19)。
-
癌関連線維芽細胞由来エクソソーム内のmiR-21
が卵巣癌細胞のAPAF1に結合することで
パクリタキセルへの抵抗性を示しました(20)。
-
マクロファージ由来のエクソソーム内のmiR-385は
シチジンデアミナーゼ活性を誘発することで
膵臓癌においてゲムシタビンへの抵抗性を
示しました(21)。
//考察1//ーー
エクソソーム依存的な癌細胞の成長、転移の例は
癌関連線維芽細胞(Cancer-associated fibroblast)。
これが多いことがわかります。
特に代謝系の改変が多いです。
それによって環境への適合度(fitness)が上がるからです。
癌関連線維芽細胞は
〇通常の線維芽細胞、
〇周皮細胞、
〇平滑筋細胞、
〇線維化関連細胞
〇間質系幹細胞
これらからなると言われています。
従って、血管や間質と関連のある
癌組織の下地、周辺の微小環境と関連します。
ステージの進行に伴って、
癌組織を成長させる機能が高まるとされています(22)。
これらの細胞はアポトーシスしないので(23)、
数を減らすことは容易ではありません。
癌細胞の成長においてエクソソームを使った
傍分泌性の機序で多岐にわたり関わると考えられます。
この成長基盤を改変することができれば、
癌組織を周囲の環境から改善することができる
と考えられます。
癌関連線維芽細胞を標的とした(CAF-targeting)
治療はこの組織が上述したように異種性があることから
困難であるとされていますが、
免疫療法や化学療法の治療効果を高めることが期待されます。
癌関連線維芽細胞は炎症性などの表現型(iCAF)などが
あることからまずはその特定を
バイオマーカーなどで行うことが挙げられています(24)。
ステージが初期の癌関連線維芽細胞は
癌成長抑制的に働くとされています(22)。
従って、抑制的、促進的に働いたそれぞれの
線維芽細胞由来のエクソソームを分析して
その差を調べる事で癌関連繊維芽細胞標的の
治療の道筋が整う可能性があります。
例えば、
抑制的に働いている時の内容物(その一部)に
線維芽細胞由来のエクソソームにおいて入れ換えることで
表現型を変える事ができるか?
という視点です。
//考察2//ーー
エクソソームは癌細胞内の様々な物質。
〇核酸:miRNA,siRNA,ASO(*1),mRNA, DNA
(*1)アンチセンスオリゴヌクレオチド
〇タンパク質
〇低分子量分子
〇抗体
〇代謝生成物
これらなど多種多様な物質を含んでいます。
エクソソームは細胞内で生成されるので、
その内容物は親細胞内に含まれる物質で構成されます。
また、エクソソームの結合を通じた相互作用は
主に表面リガンドが担います。
これも親細胞の表面リガンドを引き継いでいると考えられます。
従って、エクソソームは
"親細胞の小さな分身"という見方もできます。
それが体内に機動性を持って循環します。
従って、癌細胞であれば、
癌細胞の小さな分身が多く組織の中や
循環器の中に含まれるようになります。
上述したようにエクソソームが
癌細胞種、癌細胞遺伝子、発達ステージ特異的なのは
それを形成する細胞種の特徴を色濃く反映しているからである
と考えられます。
従って、一つの視点としては
患者さんの癌の特徴を捉えるためには
循環器に含まれる癌由来のエクソソームを
詳しく分析することが有効であると考えられます。
エクソソームが分析の上で優れているのは
その表面リガンドを分析することで
どの細胞種由来かということがわかるからです。
それによってまとめて特定の細胞種由来の
内容物を識別することができます。
また、一方で
そのような身体にプログラムされた
細胞種特異的なエクソソームの動的な振る舞いを
分析する事によって、
治療としてエクソソームを使った
細胞種特異的輸送系統(Cell-type-specific delivery system)。
これがどれくらい効果を発揮するかの
想定の為の一要因となると考えられます。
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Targeting cancer associated fibroblasts to enhance immunotherapy: emerging strategies and future perspectives
Oncotarget. 2021 Jul 6; 12(14): 1427–1433.
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