細胞外小胞(Extracellular vesicles)は細胞由来の胞であり、
異種性に富み、生成過程に応じて分類する事ができます。
例えば、エンドソーム(後期課程:多胞体)内に陥入して、
多胞体内で生じる細胞外小胞は
エクソソーム(Exosome)と呼ばれます。
一方、細胞膜から直接萌芽して細胞外に放出される細胞外小胞を
〇微小胞(Microvesicle)-エクトサム(Ectosome)
〇オンコサム(Oncosome)
〇アポトーシス小体(Apoptotic bodies)
と呼びます。これらの統一的な名称、定義は
今、世界的に求められています(4,5)。
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細胞外小胞はRNA、タンパク質、脂質、DNA、代謝生成物など
多くの物質を胞内に搭載しています。
これらは他の細胞に取り込まれることができます。
それが傍分泌様に近くの細胞の場合もあります。
あるいは循環器を通じて遠いサイトで取り込まれる事もあります。
その様な受け渡しを通じて様々な表現型を生み出します。
身体の多くの生理機能に関わっています。
その細胞間のコミュニケーションにおける
特異的な生物学、役割によって
細胞外小胞は強く着目されています。
また、この細胞外小胞を臨床、治療に利用しよう
とする試みもあります。
細胞外小胞はそれが生成された親細胞の内容物を含む
とされているので、その親細胞由来の様々な疾患の
バイオカーカーとして有望であるとされています。
内容物だけではなく、細胞外小胞の周りの表面リガンドも
膜形成で細胞膜を材料とすることから
親細胞の表面リガンドの(一部を)引き継ぐと考えられます。
従って、内容物だけではなく、表面リガンドも
バイオマーカーに使用できると考えられます。
また上述したRNAなどの核酸を始めとした内容物、
あるいは表面リガンドは標的となる受け側の細胞で
特異的な生理反応を示すので、
これを治療の為の輸送媒体として使おうという試みもあります。
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例えば、細胞種特異的輸送系統(*)としても利用できます。
(*)Cell-type-specific delivery system
具体的には細胞外小胞が特定の細胞種へ輸送されるように
表面リガンドが形成されていれば、
それをそのまま輸送媒体として利用することができます。
あるいは、意図的に表面リガンドを形成することができます。
細胞外小胞を生体外で生成するときに
親細胞に遺伝子導入をして特定の表面リガンドを発現するように
プログラムする事ができます。
その表面リガンドが標的細胞種の特定の表面リガンドに
結合親和性が高くなるように設計します。
その標的細胞の結合させる表面リガンドが
他の細胞にはない特異性の高い表面リガンドであればより有効です。
従って、重要となるのは
それぞれの導入する遺伝子が
どのようなたんぱく質の構造を生み出すか?
そして、標的タンパク質との結合状態を
正確に予測する必要があります。
最も細かくはエピトープ(結合部位)を定める必要があるからです。
輸送媒体の設計の他に薬剤をどのように封入するか?
という問題もあります。
薬剤の受動的封入と能動的封入があります。
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細胞外小胞は親細胞のRNA、DNA、タンパク質、脂質など
多様な物質を含んでいますが、
とりわけRNAは受け細胞の遺伝子の発現、機能を改変するという
強い証拠があります。
ここ10年間で細胞外小胞とその内容物RNAは
より明確に定義され、受け細胞でどのような影響があるか?
もっとマクロな生理機能としてどのような影響があるか?
(参考文献(1) Table 1など)
ということが調べてこられましたが、
細胞外小胞の生物学の多くの状況はまだ不明瞭なままです。
例えば
〇親細胞内での積載物の選択性
〇細胞外小胞の異種性
(構成材料、内容物、表面リガンド、大きさ、表面状態、形成過程など)
〇受け細胞での振る舞い
(取り込み過程、積載物の放出、再放出など)
〇細胞外小胞の親細胞での生成過程の詳細
〇細胞外小胞の細胞外での輸送機序
(輸送向性、細胞や生体内物質との相互作用など)
これらの基礎的、詳細な理解が必要です。
--
Killian O’Brien, Koen Breyne, Stefano Ughetto, Louise C. Laurent & Xandra O. Breakefield
(敬称略)からなる医療研究グループは
細胞外小胞のRNAの積載、輸送、機能に関連する
現在の知見について焦点を当てられています。
またその臨床応用への発展について要点を述べられています(1)。
本日はその背景、序章の一部、追記、考察について
読者の方と情報共有したいと思います。
//潜在性//ーー
細胞外小胞は原則的に全ての原核生物、真核細胞から
放出される小さくはナノスケールの粒子であり、
その内容物はタンパク質、脂質、RNA、DNAを含みます。
細胞外小胞はあらゆる細胞のコミュニケーション媒体として
の機能を持つので、複雑に入り組んでいる
生物学、生理学、医学、薬学などの分野横断的な理解に
繋がる可能性があります。
各学問で過去からすでにわかっていることを
さらに高次に学問同士をつなぎ、
それぞれの連携性の中での理解が進む可能性があります。
そのような生体の基本的な機能についての理解が進むだけではなく、
輸送媒体である特徴から、薬剤の輸送に利用する事も出来ます。
また、液体生検からの分析が可能なので
人のケースにおける即時の病態を分析、診断することもできます。
薬剤輸送、分析の際、いずれにおいても
細胞種特異的に実施することができるため、
薬剤輸送の場合はナノキャリア任意選択性が非常に高い事と、
より分類性に優れた分析がでる可能性があります。
例えば、輸送媒体では細胞外小胞を分泌させる
親細胞を神経細胞、間質系幹細胞、骨髄系免疫細胞
など任意に選ぶことができます。
但し、後述するように
スケールが小さい事の根本的な困難性や
異種性、分類、分別、精製などの難しさがあります。
//複雑性、曖昧性、混在//ーー
Killian O’Brien(敬称略)らがFig.1で示すように(1)、
親細胞から受け細胞までの細胞外小胞の流れ
それが及ぼす表現型、機能を理解、掌握する事は
容易ではありません。
細胞外小胞は親細胞の情報を取り込みますが、
RNAだけを切り取っても、全ての機能を理解できるわけではありません。
既知、予測、未知のRNAがあります。
また単一の細胞からは数十時間で数千個から数万個の
エクソソームが放出されるという報告もあります(2)。
親細胞を1つに固定しても
そこから放出される細胞外小胞は
大きさなどの基本的な特性が異なるだけではなく、
多くのRNAの構成比が異なる事も想定されます。
それが生体内では全体として天文学的な数の相互作用をしながら
受け細胞まで輸送される中で
さらに受け細胞でも同様に既知、予測、未知のRNA機能があります。
//分類、定義//ーー
細胞外小胞は大雑把には大きさで分けられます。
〇エクソソーム(50-150nm)
〇微小胞(100-1000nm)
〇ラージオンコサム(1000nm-10000nm)
〇アポトーシス小体(100-5000nm)
しかし、これらと
●高密度、低密度リポタンパク質
●カイロミクロン
●タンパク質凝集物
●細胞デブリ
これらを区別するのは容易ではありません(3)。
専門用語、方法、報告の標準化のためのガイドラインは
細胞外小胞専門の科学雑誌の報告の中で
議論されてきました(4,5)。
//分析、仕分けの困難性//ーー
特に大きさが小さいエクソソームでは
分析する光の波長よりも有意に小さいため
ラベル蛍光発光を検知する光顕微鏡などを使って
単一細胞外小胞を分析できる解像度を得る事が
原理的に難しいとされています。
例えば、大きさごとに仕分けする際には
ナノ経路などを使って機械的、物理的に行う
必要があるかもしれません。
その場合、超高精度の微細加工技術が必要になります。
一方、ナノ粒子分離システムは
以下に示すようにいくつかすでに提案されています。
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また数種類ある細胞外小胞を単一サブカテゴリに
分類することの困難性があります。
生成過程を基準に分類するのであれば、
大きさが重複する部分があるということです。
また、原理的にはどの細胞外小胞も
親細胞の細胞膜の情報を差別化することなく
引き継ぐことが想定されるため、
サブカテゴリごとに分類するための
表面リガンドがないということです(6,7)。
従って、それぞれの萌芽機能を細胞内で抑える
独立の遺伝子的な機序がわかれば
その遺伝子をノックアウトして
特定の細胞外小胞だけを放出させるということが考えられます。
しかし、そのような操作をすると
細胞の質、特性が変わってしまう可能性があります。
従って、特定の性能(例えば大きさだけ)を調べるために
行うことが考えられます。
あるいは、大きさが重複しない領域だけで
物理的に仕分けするということです。
例えば、エクソソームであれば、
50nm付近だけの細胞外小胞を集めるということです。
しかし、大きさが小さくなると
それだけ扱いが難しくなります。
--
特定の環境内でのRNA集団から
細胞外小胞だけのRNAを分類する方法は困難です。
細胞外小胞外のRNAとの仕分けが難しいです。
例えば、リポタンパク質内、リボ核タンパク質内の
それが含まれる可能性があります(3,4,8-11)。
これもこれらのリポタンパク質の放出経路を
何らかの方法によって蓋する
(トラフィッキング受容体など)ことによって
環境内のコンタミネーションを減らすことができる
可能性があります。
但し、この場合もそれをすることによる
親細胞の特性の変化は頭に置いておく必要があります。
--
(解決への試み)
〇血液成分が含まない培養環境
コンタミネーションを減らす。
〇高解像密度の遠心分離機
High-resolution density gradient centrifugation(8)
〇サイズ排除型クロマトグラフィー
Size-exclusion chroma tography(12)
〇粒子/分子分離システム
Asymmetric field-flow fractionation(13,14)
〇免疫親和性精製法
Immunoaffinity purification(7)
//潜在性2//ーー
前述したように非侵襲で血液や尿などの液体生検から
個体ごと、患者さんごとにRNAなどの情報を
細胞外小胞から得る事ができます。
それは「今の状態」を色濃く反映しています。
液体生検は尿であれば毎日得られます。
トイレに採取システムを自動でセットすれば、
それを行う負荷は大きくありません。
分析の負荷はありますが、
原理的には患者さんの病状がどのように進行しているか
のモニタリングにおいて数段深い分析、診断が
非常に高頻度でできる可能性があります。
また、バイオマーカーの選別技術が発達すれば
細胞種、組織種特異的な分析ができます(15)。
病変部位だけではなく、その周辺の組織、細胞種も含めて
分離した形で、経時病態変化を分析することができます。
非常に高次に高頻度での診断が可能になる可能性があります。
--
細胞外小胞は2つの特徴が期待できます。
〇RNAを無傷で輸送することができる。
〇免疫的な惹起(拒絶反応)を防ぐことができる。
これらです。
それによって以下のRNA治療の輸送媒体として期待できます。
〇Small interfering RNAs
〇MicroRNAs
〇Antisense oligonucleotides
〇mRNA
〇guide RNAs
〇self-amplifying RNAs
//総合的な見解//ーー
Killian O’Brien(敬称略)らは
上述した課題はすぐに解決できるだろうと
楽観的な視点を持っています(1)。
少なくとも細胞外小胞の生物学、医療は
化学、物理学、工学分野なども含めて分野横断的なので、
課題を共有して、協力的に進めれば、
より良い解決策が見いだせると考えられます。
それが実現した時には
生物学、医療において大きな発展がある事は
現状見えている潜在性だけでも少なくとも示されます。
医療応用する際には
Killian O’Brien(敬称略)らが示す
心臓血管疾患、神経変性疾患、代謝疾患、癌だけではなく
希少疾患を含めたあらゆる疾患に対して
何らかの積極的な影響を与えると考えられます。
細胞種特異的輸送系統において
細胞外小胞の利用は最もそのポテンシャルを
引き出してくれる方式であると考えています。
(参考文献)
(1)
Killian O’Brien, Koen Breyne, Stefano Ughetto, Louise C. Laurent & Xandra O. Breakefield
RNA delivery by extracellular vesicles in mammalian cells and its applications
Nature Reviews Molecular Cell Biology volume 21, pages585–606 (2020)
(2)
Kazuki Hattori, Yuki Goda, Minato Yamashita, Yusuke Yoshioka, Ryosuke Kojima, and Sadao Ota
Droplet array-based platform for parallel optical analysis of dynamic extracellular vesicle secretion from single cells
bioRxiv April 10, 2022
https://doi.org/10.1101/2022.04.07.487410
(3)
Mathieu, M., Martin- Jaular, L., Lavieu, G. & Théry, C.
Specificities of secretion and uptake of exosomes
and other extracellular vesicles for cell-to-cell
communication. Nat. Cell Biol. https://doi.org/
10.1038/s41556-018-0250-9 (2019).
(4)
Théry, C. et al. Minimal information for studies
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for extracellular vesicles and update of the
MISEV2014 guidelines. J. Extracell. Vesicles
https://doi.org/10.1080/20013078.2018.1535750 (2018).
(5)
Van Deun, J. & Hendrix, A. Is your article EV- TRACKed?
J. Extracell. Vesicles https://doi.org/10.1080/200130
78.2017.1379835 (2017).
(6)
Lee, K. et al. Multiplexed profiling of single
extracellular vesicles. ACS Nano https://doi.
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(7)
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markers to characterize heterogeneous populations
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(8)
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Shamburek, R. D. & Remaley, A. T. MicroRNAs are
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(15)
Ravi Shah, M.D., Tushar Patel, M.B., Ch.B., and Jane E. Freedman, M.D.
Circulating Extracellular Vesicles in Human Disease
The New England Journal of Medicine 2018; 379:958-966
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