2022年5月23日月曜日

細胞外小胞治療の課題、現状、展望

細胞外小胞は臨床応用としては
まだ黎明期にあります。
その一つの理由は、
従来の薬剤と根本的に異なるからです。
ナノ、マイクロスケールの小胞を使った治療であるため
従来の遊離分子型の薬剤とは異なるからです。
細胞外小胞そのものだけを治療に使う場合もありますが、
細胞外小胞を輸送媒体として
その中に薬剤を封入して治療する場合もあります。
その場合、
従来の薬剤とは異なる評価指標が求められます。
Lesley Cheng & Andrew F. Hill(敬称略)
からなる医療研究グループは
治療としての細胞外小胞の総括の末尾として
その課題、展望、現状などをまとめられています(1)。
その内容の一部、追記、考察を
読者の方と情報共有したいと思います。

//課題と展望//ーー
細胞外小胞は治療や診断の応用の為
有望ですが、いくつかの課題があります。
その課題は
特定の細胞外小胞を分離することから
その適切な過程を標準化する事まで及びます。
--
細胞外小胞を分離する方法は
超遠心分離機のようなスループットの低い
方法が基本的に使われます。
新しい方法として
〇Tangential flow filtration 
〇Size exclusion chromatography
これらが有望で、多量の培地から
細胞外小胞を準備する事ができます。
しかし、
臨床応用の為に十分な細胞外小胞を生産するための
細胞培養をスケールアップするためには
顕著な技術的な困難性があります。
〇バイオリアクター
〇ウシ胎仔血清
これらはそれそのものが細胞外小胞を含んでいます。
生産のスケールアップの一環として
特性評価の重要性を証明します。
そのような特性評価は標準化される必要があります。
とりわけ、
製造の中の細胞外小胞の機能活性は
定義される必要があります。
--
効果的な用量や
治療用細胞外小胞の薬物動態学機序は
幹細胞などの選択が考えられますが、
その評価は困難であるとされています。
また、
製造過程での細胞外小胞の機械的な機序の理解は
適性な用量と機能評価を改善するのに役立ちます。
これらの評価は
〇細胞外小胞の異種性を理解する事。
〇優れた機能性を持つ細胞外小胞を豊富に生み出し
 その分離のための手順を改善する事。
これによってより容易になります。
--
細胞外小胞の効力検定の改善は課題の一つです。
特定の生物学的活性が
治療効力マーカーとして使う細胞外小胞
を原因として考える事は
この課題を乗り越えるための一つの手法です。
つまり特定の生物学的活性と
細胞外小胞の因果を明らかにするということです。
このような効力検定を発展させる事は
細胞外小胞治療の規制承認のため重要です(2)。
--
細胞外小胞に薬剤を封入する場合には
外因的に封入した物質が
元々内容物としてあった物質と相互作用したり、
それを乱すことがないか?
という問題があります。
このような事は標的細胞以外に
細胞外小胞が輸送されてしまう
オフターゲットとも関係します。
このオフターゲットの問題は
細胞外小胞の異種性を考えると複雑です。
特に癌治療の場合には、
複数の要因が関わってきます。
また、
iExosomeのように単一のmiRNAを入れたとしても
病気を完全には治すことができません。
複数の治療効果のあるmiRNAが
受け細胞の上流から下流を標的として
それを確実に正常化させるために必要です。
--
細胞外小胞を使った治療を安全に行うためには
〇免疫原性を避ける事。
〇有毒な内容物を除去する事。
これらが必要です(2)。
これらの副作用に関わる問題に対処するため
適切なプレ臨床試験モデルを設立する必要があります。
この時も細胞外小胞を製造、準備する段階で
どのような動的機序が生じているか
ということの理解が問題解決のために役に立ちます。
--
細胞種特異的輸送系統(*)にも関連する
治療効果を示す病変部位特異的に
細胞外小胞を機能化して、標的化する場合には
付加的な調査が必要になります。
(*)Cell-type-specific delivery system
このアプローチでは表面リガンドを含む表面状態を
守る必要性があるため、
小胞を覆うコロナなどのデブリなどを含めた
生体内で生じうる自然のプロセスを考慮する必要があります。
オフターゲットは
免疫細胞、肝臓、脾臓、腎臓、血管内皮など
様々な組織で生じる可能性があります。
それを最小化するために特別なデザインが必要です。
例えば、エクソソームの適用が考えられている
脳への輸送の場合は神経系の受容体などに
対する標的化も必要ですが、
血液脳関門を超える設計が必要になります(3)。
しかし、このような複雑な設計は
臨床レベル、大量生産など
実現する上での技術的な課題を露呈させます。
よりシンプルな方法としては
抗体、ナノボディー、RNAアパタマーなど
標的性のある物質を細胞外小胞外側に
複合体化させる事が挙げられています。
その成果はいくつかで報告されています(4,5)。
--
細胞外小胞は治療目的としては薬剤輸送の他に
診断のためのバイオマーカーとしても期待されています。
タンパク質、核酸、脂質、グリカンなど
疾患特異的なバイオマーカーを
細胞外小胞から見つけ出すということです。
癌、神経変性疾患などで検討されます。
しかし、
臨床応用までつなげるトランスレーショナルな視点としては、
スループットが低い事が懸念されます。
従って、スループットを上げる
サンプリング、検出の手順が必要です。
それが標準化すると臨床応用への道筋が
より鮮明化すると考えられます。

//現状と展望//ーー
現状では細胞外小胞のバイオマーカーとしての
利用は少ない種類に留まっています。
また、
細胞外小胞を使った治療は
プレ臨床試験は多く行われていますが、
臨床試験はまだ少数にとどまっています。
従って、
臨床応用という点ではまだ黎明期にあります。
臨床応用を推し進めるためには
上述したように
大量生産、機能評価、安全性確保
これらを含めた上での標準化、
規制などの法整備などが必要です。
--
近年、細胞外小胞の生理学、病態学などに対する
役割の理解が進んできました。
このような盛んな研究と積みあがる知見は
臨床応用の実現性を上げるものです。

//考察//ーー
細胞外小胞は特に機能評価や大量生産などの
問題が挙げられる事が多いです。
おそらく大量生産するときの課題は
研究機関と企業では異なる可能性があります。
投資できる金額、設備、
あるいは従事する人などの組織や専門性など
異なる要因は多いです。
産学連携や分野横断的に価値を共有して取り組むことで
今まで困難とされていた問題が解決する事もある
と考えられます。

(参考文献)
(1)
Lesley Cheng & Andrew F. Hill
Therapeutically harnessing extracellular vesicles
Nature Reviews Drug Discovery volume 21, pages379–399 (2022)
(2)
Gimona, M. et al. Critical considerations for the 
development of potency tests for therapeutic 
applications of mesenchymal stromal cell-derived 
small extracellular vesicles. Cytotherapy 23,  
373–380 (2021).
(3)
Alvarez-Erviti, L. et al. Delivery of siRNA to the mouse 
brain by systemic injection of targeted exosomes.  
Nat. Biotechnol. 29, 341–345 (2011).  
(4)
Pi, F. et al. Nanoparticle orientation to control RNA 
loading and ligand display on extracellular vesicles  
for cancer regression. Nat. Nanotechnol. 13, 82–89 
(2018).
(5)
Wang, J. H. et al. Anti-HER2 scFv-directed 
extracellular vesicle-mediated mRNA-based gene 
delivery inhibits growth of HER2-positive human 
breast tumor xenografts by prodrug activation.  
Mol. Cancer Ther. 17, 1133–1142 (2018).


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