//背景//ーー
ある程度の大きさな成長した腫瘍組織を
免疫機能によって退行させようとした場合には、
通常の免疫監視よりも顕著に鋭い
免疫原性が必要になります。
自然免疫系、獲得免疫系が連携して働く必要がありますが、
治療による助けが必要です。
その自然免疫系の癌特異的な免疫原性を
生み出すためにはいくつかの信号があります。
〇Toll様受容体
〇RIG-Ⅰ様受容体
〇NOD様受容体
〇STING経路
これらです(3,18)。
その中で癌細胞のSTNIG経路を細胞外部、内部の
経路を使って治療することは
癌免疫療法において有望であると考えられてます(4,5)。
しかし、
STINGを標的としたアゴニストによる活性化による
癌特異的な免疫原性を得る事は難しさがあると言われています。
その理由はその活性を高めるアゴニストである
環状ジヌクレオチド(CDNs)は
親水性、低分子量であり、
組織浸透性が低く、
酵素によって分解されやすい特徴があります。
従って、静脈注射や経口投与など
全身性の投与方法では適さない物質である
と考えられています(3)。
新しいSTINGアゴニストも有毒性の問題があります(6-8)。
--
リポソームによって
STINGアゴニストを輸送する方式もありますが、
CDNは2~10%程度の少量しか
癌細胞や腫瘍浸潤免疫細胞に届かなかった
とされています(9,10)。
その理由としては
細胞外マトリックスが癌組織回りでは
密に張り巡らされていることと
細網内皮システムによる除去が挙げられています(1)。
ナノ粒子の腫瘍組織浸潤のためには
〇大きさ
〇形
〇電荷
〇表面化学
〇堅牢性
など多くのパラメータが影響を与えます(11,12)。
最近の研究では
〇100nm以下
〇高いアスペクト比
これらが適していると報告されています(12-17)。
上述した背景から
Eric L. Dane, Alexis Belessiotis-Richards(敬称略)
らからなる医療研究グループは
〇PEGylated脂質
〇高融点リン脂質
から成るナノディスクにへき開可能な結合によって
STINGアゴニスト環状ジヌクレオチドを
形成されています(1)。
形は高アスペクト比のナノディスクで
短辺は15nm~45nmです。
これ自身は癌細胞を死滅させる能力はありませんが、
STING経路依存的に免疫機能が高まり
腫瘍組織の退行がマウスのケースで確認されました。
比較対象のリポソームよりも顕著に優れています(1)。
その内容の一部、追記、考察について
読者の方と情報共有したいと思います。
//膜浸透性//ーー
(*)参考文献(1) Fig.2参照
脂質ナノディスクは
被膜の細孔サイズが200nmでは
シミュレーション結果によると
ほぼ100nmの浸透率があります。
一方、100nm程度のリポソームでは
浸透率が10%程度でした。
細孔サイズが50nmになると
リポソームはほぼ0%で
脂質ナノディスクは50%以上ありました、
つまり、
ある程度力がかかると
浸透性に関しては薄いほうが反映される
ということです。
脂質材料の弾性が関係していると考えます。
従って、癌細胞周りに張り巡らされている
密にある細胞外マトリックスを超えて
癌組織まで到達する確率が上がると考えられます。
このような高アスペクト比の設計は
細胞種特異的輸送系統のナノ粒子でも採用できます。
一方で、細胞外小胞の場合は
このような操作はできないことから
この点に関して脂質ナノ粒子の利点が見いだせます。
一方向を大きくできるということは
製造の面で有利であると言えます。
//生体内分布//ーー
ナノディスクの癌組織輸送向性は
リポソームのおおよそ8倍程度であることが分かります。
他の臓器では
肝臓、脾臓、血中が高く
リポソームでは脾臓が顕著に高くなっています。
(参考文献(1) fig.3b)
また、Fig.3dから
ナノディスクは腫瘍組織の内部に均一に
分布していることがわかります。
しかし、
リポソームは最外周部分だけに分布しています。
この事からナノディスクの浸潤性の高さが
確認できます。
//癌の経時変化//ーー
マウスへの癌の接種から
成長は指数関数的でリポソームでも当てはまります。
しかし、ナノディスクでは
一旦退行が見られ、やや上昇がみられるものの
腫瘍組織の量としては低水準に収まっています。
(参考文献(1) Fig.4c)
//免疫機能//ーー
特にリポソームと比べて
ナノディスクでは
IFN-βが高く、IL-6, TNF-αも高まっています。
(参考文献(1) Fig.5b)
またSTINGアゴニスト陽性の
樹状細胞も高まっています。
これは自然免疫系なので応答は早く
治療から1日で急激に上昇しています。
(参考文献(1) Fig.6f)
獲得免疫系のCD8+T細胞も高まっています。
(参考文献(1) Extended Data Fig. 9a)
//疑問//ーー
PEGを使った脂質ナノ粒子は新型コロナウィルスの
mRNAワクチンで利用されています。
その中で許容的な副反応で収まっています。
一部、アレルギー反応はありますが、
ケースとしては稀です。
しかし、今回は形状がディスク状で大きく違う事と
STINGアゴニストが入っているので
それによる免疫系の副作用がどうか?
という点が疑問です。
//考察1//ーー
今回、一つの興味深い結果は
PEG複合ナノディスクにSTINGアゴニストを結合させた
Eric L. Dane, Alexis Belessiotis-Richards(敬称略)
ら医療研究グループのナノ粒子デザインでの生体内分布です。
血液が多くなっています。
これは血液中の免疫細胞のSTING経路を活性化させたのか?
上述した副作用も含めて
それによる全身の影響はどうか?
この点に関心があります。
Fig.3を見ると肝臓と尾の部分と腫瘍組織部に
局在化しているので
肝臓、血中での取り込みを減らすことができたら
さらに薬剤輸送効率は高まると考えられます。
//考察2//ーー
Eric L. Dane, Alexis Belessiotis-Richards(敬称略)らが
Fig.1b示すナノディスクのデザインでは
PEG-5000脂質が
STINGアゴニストCDNを結合しているPEGよりも長く
それによってCDNが窪みに形成されるデザインとなります。
これによって分解しやすいCDNが守られている
構造になっていると考えられます。
このような構想は
細胞種特異的輸送系統(*)でも利用できます。
(*)Cell-type-specific delivery system
標的細胞特異的な表面リガンドを
低分子量のPEGに結合させ
高分子量のPEGを周囲に形成することで
輸送経路での劣化を防ぐことができます。
//考察3//ーー
Rebecca C. Larson, Michael C. Kann(敬称略)ら
医療研究グループは
CAR-T細胞療法が血液性の腫瘍には有効で
固形の癌には効果を発揮しにくいことは
単に輸送の問題ではない事を示されています(2)。
IFNγR信号経路の遺伝子を欠損させた状態では
よりCAR-T細胞の腫瘍細胞への効果が弱まり、
これは血液性の癌では確認されなかったとあります(2)。
STING経路はIFNγ信号と関連するので
STINGアゴニストなどによる免疫原性を向上させる方法は
固形癌の免疫療法の場合では
CAR-T療法に限らず
ナノ粒子を使った癌免疫療法
それ以外の癌免疫療法でも
必要条件である可能性があります。
免疫チェックポイント阻害薬と融合させる形での
治療も考えられます。
考えられる理由としては
血液中では癌細胞はある程度のクラスターはあっても
バラバラに存在します。
しかし、固形癌は塊の組織になっています。
このような細胞の集中性が関係しているのではないか
と考えられます。
より狭い範囲に癌細胞が濃縮された固形の癌組織の場合には
より集中的な治療が退行のために必要であるため
免疫的に治療する場合には
局所的に強い癌特異的免疫原性を生み出す必要がある
と考えます。
(参考文献)
(1)
Eric L. Dane, Alexis Belessiotis-Richards, Coralie Backlund, Jianing Wang, Kousuke Hidaka, Lauren E. Milling, Sachin Bhagchandani, Mariane B. Melo, Shengwei Wu, Na Li, Nathan Donahue, Kaiyuan Ni, Leyuan Ma, Masanori Okaniwa, Molly M. Stevens, Alfredo Alexander-Katz & Darrell J. Irvine
STING agonist delivery by tumour-penetrating PEG-lipid nanodiscs primes robust anticancer immunity
Nature Materials (2022)
(2)
Rebecca C. Larson, Michael C. Kann, Stefanie R. Bailey, Nicholas J. Haradhvala, Paula Montero Llopis, Amanda A. Bouffard, Irene Scarfó, Mark B. Leick, Korneel Grauwet, Trisha R. Berger, Kai Stewart, Praju Vikas Anekal, Max Jan, Julia Joung, Andrea Schmidts, Tamara Ouspenskaia, Travis Law, Aviv Regev, Gad Getz & Marcela V. Maus
CAR T cell killing requires the IFNγR pathway in solid but not liquid tumours
Nature volume 604, pages563–570 (2022)
(3)
Seelige, R., Searles, S. & Bui, J. D. Innate sensing of cancer’s
non-immunologic hallmarks. Curr. Opin. Immunol. 50, 1–8 (2018).
(4)
Woo, S.-R. et al. STING-dependent cytosolic DNA sensing mediates innate
immune recognition of immunogenic tumors. Immunity 41, 830–842 (2014).
(5)
Corrales, L. et al. Direct activation of STING in the tumor microenvironment
leads to potent and systemic tumor regression and immunity. Cell Rep. 11,
1018–1030 (2015).
(6)
Ramanjulu, J. M. et al. Design of amidobenzimidazole STING receptor
agonists with systemic activity. Nature 126, 1–16 (2018).
(7)
Pan, B.-S. et al. An orally available non-nucleotide STING agonist with
antitumor activity. Science 369, eaba6098 (2020).
(8)
Chin, E. N. et al. Antitumor activity of a systemic STING-activating
non-nucleotide cGAMP mimetic. Science 369, 993–999 (2020).
(9)
Wehbe, M. et al. Nanoparticle delivery improves the pharmacokinetic
properties of cyclic dinucleotide STING agonists to open a therapeutic
window for intravenous administration. J. Control. Release 330,
1118–1129 (2020).
(10)
Cheng, N. et al. A nanoparticle-incorporated STING activator enhances
antitumor immunity in PD-L1-insensitive models of triple-negative breast
cancer. JCI Insight 3, e120638 (2018).
(11)
Zhu, X., Vo, C., Taylor, M. & Smith, B. R. Non-spherical micro- and
nanoparticles in nanomedicine. Mater. Horiz. 6, 1094–1121 (2019).
(12)
Albanese, A., Tang, P. S. & Chan, W. C. W. The effect of nanoparticle size,
shape, and surface chemistry on biological systems. Annu. Rev. Biomed. Eng.
14, 1–16 (2012).
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lipid-based nanoparticles into tumor spheroids. ACS Omega 5,
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Ding, J. et al. Engineered nanomedicines with enhanced tumor penetration.
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(17)
Cabral, H. et al. Accumulation of sub-100 nm polymeric micelles in poorly
permeable tumours depends on size. Nat. Nanotechnol. 6, 815–823 (2011).
(18)
Flood, B. A., Higgs, E. F., Li, S., Luke, J. J. & Gajewski, T. F. STING pathway
agonism as a cancer therapeutic. Immunol. Rev. 290, 24–38 (2019).
2022年5月24日火曜日
Cell-type-specific delivery system,
医療工学,
癌・腫瘍学,
免疫学,
薬学
STINGアゴニスト-PEG脂質ナノディスク複合体による固形癌免疫治療
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