2022年5月2日月曜日

肺損傷を持つ新生児の間葉系幹細胞機能の不全と治療

肺組織を修復するためには
損傷した細胞をマクロファージなどの免疫細胞によって
取り除いて一掃し、
その欠乏を埋めるために幹細胞など
任意の細胞種に分化能を持つ細胞が生着する必要があります。
しかし、このような創傷治癒に関わる免疫機能や
幹細胞機能が気管支肺異形成を生じているお子さんで
歪められていることが考えられます。
従って、免疫機能や幹細胞機能を正常化させるために
積極的な治療を行う必要があります。
現状では
〇サーファクタントの投与
〇コルチコステロイドの投与
などによって肺組織の運動円滑性の確保や
免疫調整などを行っていますが、
Gareth R Willis, S Alex Mitsialis & Stella Kourembanas
(敬称略)からなる医療研究グループは
次世代の治療として
間葉系幹細胞による積極的治療について総括されています(1)。
特に肺の組織においては分泌物による調整が必要になる
と考えられているので、分泌物の輸送媒体である
エクソソームを含む細胞外小胞による治療が有望である
とされています(1)。
肺損傷を受けた新生児がどのように間葉系幹細胞の
機能が不全になっているか?
また移植による外因的な治療がどのような効果があるか?
これらについて総括されている部分の一部を
参照させていただき、自身の考察を加えました。
その情報について読者の方と共有したいと思います。

早産の子供は多数の臓器でその組織が損傷を受ける
リスクがいくつかあることが広く知られています。
しかし、その機序の理解は完全ではありません。
知られている共通の機序は
〇炎症
〇感染症
〇虚血再灌流傷害
(血液供給が遮断された後に、再度血液が流れた際に
起こる様々な細胞、組織傷害)
〇活性窒素-酸化ストレス
〇遺伝子的な感受性(2,3)
〇栄養失調(2,3)
これらが挙げられています。
これらのリスクは混在する事があります。
それによって正常な臓器の成長が止まってしまいます。
通常の細胞の分化、組織の修復に必要な
内因性の幹細胞、前駆細胞の欠乏は
臓器、組織の損傷の病理に関わる可能性があります(2,4,5)。
--
肺は上記内因性の幹細胞、前駆細胞の貯蔵庫としての
役割を担っています。
細胞、組織の傷害が起こったら、
ここを起点にこれらの細胞が組織の修復、再生のために
病変部位まで循環します(3,6,7)。
例えば、肺の酸素量が過剰になり、
その酸素濃度が80%程度になると
内皮に存在する前駆細胞。
(Cd45-/Sca-1+/Cd133+/Vegfr-2+)
これが不足します。
その不足部位は血液中、骨髄、肺であることが
マウスのケースで確認されています(8)。
--
人の臨床のケースでは
呼吸困難を持つ早産の新生児の気管吸引物から
分離した肺の組織常在型間葉系幹細胞は
炎症性サイトカインの放出が増加していました(9)。
在胎期間33週以下の早産の子供の
気管吸引物の中の間葉系幹細胞の存在は
気管支肺異形成症のその後の進行に
顕著に関連していることがわかっています(10)。
その一つの理由として
気管支肺異形成症の患者さんでは
筋線維芽細胞が増える傾向にあり、
その細胞に間葉系幹細胞が分化するからである
と考えられています(10)。
しかし、肺の恒常性と修復における
気管吸引物によって得られた間葉系幹細胞の
生物学的役割はまだ完全には理解されていません。
しかし、お子さんが内因的に持つ
前駆細胞、幹細胞が欠乏及び
それらに機能不全が生じることで
気管支肺異形成症のリスクが向上している可能性があります。
それは、上述したように
間葉系幹細胞が分化も含めて
どういう運命をたどるかという事も含まれます。
--
肺に常在する間葉系幹細胞は複数の力を持った幹細胞です。
組織常在型の幹細胞は
〇肺の免疫制御
〇血管生成
〇線維化
これらの過程において重要な役割を持ちます(3,6,7)。
従って、肺の機能、組織の恒常性において
重要な制御因子です。
癌治療で用いられる
ブレオマイシンで治療した大人のマウスでは
内因性の間葉系幹細胞が顕著に減少し、
線維化、炎症、肺動脈高血圧症が生じたことが示されています。
これに対して、肺の間葉系幹細胞を移植することで
ブレオマイシン関連病理が弱まりました。
エフェクターT細胞反応の回復を通して
肺動脈高血圧症の進行を緩和することができました(12)。
--
しかしながら、いかなる治療も両面性があります。
つまり作用と副作用があります。
特定の条件下で肺の間葉系幹細胞は
肺内で病理の変化の原因となりました。
それは即時的に形成される微小環境によって決まる
プロセスとなります。
例えば、
細胞外スーパーオキシド不均化酵素の標的化除去を通して
誘発された酸化ストレスの上昇は
常在型肺間葉系幹細胞の生理プログラムを改変しました(13)。
それによって肺の微小血管の再形成を引き起こしました。
また未成熟の幼児の肺の中の
形質転換成長因子βの発現は
間葉系幹細胞が筋線維芽細胞に分化することを促しました。
これらの報告は間葉系幹細胞の機能を制御する
微小環境の重要性を示しています(14)。
--
マウスのケースに比べて、人の肺の
内因性の前駆細胞と幹細胞の構成、分布についての
情報は不足しています。
臨床前試験、小規模の臨床試験では
組織の成長や修復する内因性の前駆細胞と幹細胞
の欠乏、機能不全は気管支異形成症のような
新生児の疾患の病理と関連します。
このような内因性の肺の前駆細胞、幹細胞が
顕著に影響を与えているということから
お子さんの肺の損傷を防ぐための
幹細胞治療の方略を立てる事ができます。
この分野のさらなる研究と継続的な前進が
胎児/新生児の肺のストレスに感受性を持つ
分子メカニズムの理解のために求められます。

異なる幹細胞タイプ
〇内皮コロニー形成細胞
〇人羊膜上皮細胞
これらを含む移植は
〇気管支肺異形成症の予防と治療
〇未成熟状態での主要な後遺症の予防と治療
これらの臨床前モデルとして
有望であることが示されてきました。
これらの研究では
〇抗炎症
〇神経保護性
〇機能的利点
これらの好ましい効果が新生児の
〇低酸素虚血
〇脳性まひ
〇脳卒中
これらに対して、臨床前モデルで示されました(3,15-21)。
--
間葉系幹細胞は非血液性の成体幹細胞で
試験管内で増殖することができます。
間葉系幹細胞を分離することは
骨髄を含むいくつかの人の組織から
取得することによって可能です。
〇ホウォートンゼリー
〇臍帯血
〇脂肪組織
これらは多く報告されています(22,23)。
間葉系幹細胞特異的なマーカーは知られていないので
〇プラスチック吸着
〇中胚葉性血統への試験管内での分化能
〇特徴づけられた表面マーカーの一致
これらです(24)35。
--
間葉系幹細胞による治療は肺疾患を持つ多くの
動物モデルで効果があることが示されています(19)。
気管支肺異形成症の実験モデルを使って
間葉系幹細胞治療は酸素過剰誘発の肺の炎症を
弱める事が出来ました。さらに
〇肺の構造の改善
〇血管再形成の改善
〇運動能力の改善
〇生存率の改善
これらが示されています(24,25)。
--
気管支異形成症のリスクの高い人に対して
同種異系の人臍帯血の間葉系幹細胞を
気管内投与を生後約10日の新生児に行った結果
治療耐性がありました。
短期の安全性が確認されたので
現在はフェーズⅡの治験に進んでいます。
間葉系幹細胞の投与は
〇炎症性マーカーの減少
〇低気管支肺異形成症の軽度化
これらに結びついたとされています(26)。
--
治験は順調に進んでいますが、
間葉系幹細胞治療の治療特性の基礎にある
生理メカニズムの理解には課題があります。
その中でも、
間葉系幹細胞は肺の損傷部に高い効率で生着する
ことによって肺の損傷を修復すると当初想定されていました。
その後、肺細胞へ分化形質転換します。
しかし、
間葉系幹細胞の移植に続いて受け側の肺の
生理学的機能の改善はドナー細胞の顕著な生着
なしで起こることがわかっています。
この事は、肺においては
間葉系幹細胞は傍分泌様の機序で
治癒効果がある事を示しています(24,27,28)。
実際に重篤な酸素過剰の気管支肺異形成症の
実験モデルでは骨髄系幹細胞の分泌物による治療が
間葉系幹細胞よりも優れた治療効果を示しました。
それにより
〇肺胞構造の単純化防止
〇肺構造の保持
これらを示しました(24)。
--
酸素過剰による誘発された重篤な気管支肺異形成症のモデルにおいて
間葉系幹細胞の静脈を通じた急速注入を
酸素過剰暴露(酸素75%)の14日後に行った結果
〇肺の炎症を抑える
〇肺高血圧症を抑える
〇血管の切り込みを抑える
〇肺の線維化を改善
〇肺構造の改善
これらが確認されています(29)。
骨髄由来間葉系幹細胞は創傷治癒を加速させ
内皮コード形成を促進することが試験管で確認されています。
人の臍帯血の間葉系細胞では短期、長期的な治療効果がありました。
その際の肺の副作用がなかったことが
酸素過剰誘発性気管支肺異形成症のラットのモデルで示されています(30,31)。
--
間葉系幹細胞の傍分泌様のモデルは一般的に受け入れられています。
しかし、治療効果がある生物活性のある物質の正確な
特定には至っていません。
間葉系幹細胞から放出される物質(secretome)は
〇核酸
〇モフォゲン
〇遊離脂肪酸
〇核酸(ex. small noncoding RNA)
〇被膜構成物質
これらが多彩に含まれています(32)。
実際に治療効果のある物質は単一ではなく
複雑であると考えられています。
またこれらのベクトルはエクソソームを含む細胞外小胞によって
も多く輸送されます。
いくつかの臨床前研究では
間葉系幹細胞から放出される物質群の輸送媒体である
エクソソームは新生児の肺疾患を治療する上で
有望なアプローチであることが示されています。

//考察1//ーー
すでに肺に傷害があるお子さんから取り出した
間葉系幹細胞は表現型改変が起こり、
炎症性信号を多く出す状態になっていることが
示されています(9)。
従って、これを幹細胞治療で正常に戻すためには
肺成長が正常なドナーによる
間葉系幹細胞治療、
あるいはそこから分泌されるエクソソーム治療が
必要である可能性があります。
その際、CAR-T免疫療法と同様に
自分以外の細胞や細胞外小胞が入ることによる
身体の中の拒絶反応を含む免疫惹起に注意する
必要があるかもしれません。

//考察2//ーー
気管支異形成症を持つお子さんが
複数能力を持つ肺の間葉系幹細胞が
筋線維芽細胞に多く分化する傾向があるのは(10)
それだけ肺の組織の修復にストレスがかかっているからである
と考える事も出来ます。
例えば、皮膚に傷を負った時、
傷の部分には線維上の組織が形成します。
時間が経てば治るものもありますが、
傷が大きければ、治らずそのまま残ります。
肺組織の修復のストレスが多ければ、
内因性の修復システムだけではなく、
治療によって外因的に修復システムを補助する必要がある
のではないかと考えました。
実際に筋線維芽細胞は創傷治癒の際の
組織回復の為、細胞外マトリックスを生産して
組織化する機能を持つとされています(11)。
また傷跡が元の柔軟な組織に戻るような治療を
その後、一定期間行う事も考えられます。

(参考文献)
(1)
Gareth R Willis, S Alex Mitsialis & Stella Kourembanas 
“Good things come in small packages”: application of exosome-based therapeutics in neonatal lung injury
Pediatric Research volume 83, pages298–307 (2018)
(2)
Borghesi A, Cova C, Gazzolo D, Stronati M. Stem cell therapy for neonatal
diseases associated with preterm birth. J Clin Neonatol 2013;2:1–7.
(3)
Mitsialis SA, Kourembanas S. Stem cell-based therapies for the newborn
lung and brain: possibilities and challenges. Semin Perinatol 2016;40:
138–51.
(4)
Borghesi A, Massa M, Campanelli R, et al. Circulating endothelial
progenitor cells in preterm infants with bronchopulmonary dysplasia.
Am J Respir Crit Care Med 2009;180:540–6.
(5)
Baker CD, Balasubramaniam V, Mourani PM, et al. Cord blood
angiogenic progenitor cells are decreased in bronchopulmonary
dysplasia. Eur Respir J 2012;40:1516–22.
(6)
Foronjy RF, Majka SM. The potential for resident lung mesenchymal
stem cells to promote functional tissue regeneration: understanding
microenvironmental cues. Cells 2012;1:874.
(7)
Wansleeben C, Barkauskas CE, Rock JR, et al. Stem cells of the adult
lung: their development and role in homeostasis, regeneration, and
disease. Wiley Interdiscip Rev Dev Biol 2013;2:131–48.
(8)
Balasubramaniam V, Mervis CF, Maxey AM, et al. Hyperoxia reduces
bone marrow, circulating, and lung endothelial progenitor cells in the
developing lung: implications for the pathogenesis of
bronchopulmonary dysplasia. Am J Physiol Lung Cell Mol Physiol
2007;292:L1073–84.
(9)
Bozyk PD, Popova AP, Bentley JK, et al. Mesenchymal stromal cells
from neonatal tracheal aspirates demonstrate a pattern of lung-specific
gene expression. Stem Cells Dev 2011;20:1995–2007.
(10)
Popova AP, Bozyk PD, Bentley JK, et al. Isolation of tracheal aspirate
mesenchymal stromal cells predicts bronchopulmonary dysplasia.
Pediatrics 2010;126:e1127–33.
(11)
B Hinz
The role of myofibroblasts in wound healing
Curr Res Transl Med. Oct-Dec 2016;64(4):171-177.
(12) 
Jun D, Garat C, West J, et al. The pathology of bleomycin-induced
fibrosis is associated with loss of resident lung mesenchymal stem cells
that regulate effector T-cell proliferation. Stem Cells 2011;29:725–35.
(13)
Chow K, Fessel JP, Kaoriihida S, et al. Dysfunctional resident lung
mesenchymal stem cells contribute to pulmonary microvascular
remodeling. Pulm Circ 2013;3:31–49.
(14)
Popova AP, Bozyk PD, Goldsmith AM, et al. Autocrine production of
TGF-β1 promotes myofibroblastic differentiation of neonatal lung
mesenchymal stem cells. Am J Physiol Lung Cell Mol Physiol 2010;298:
L735–43.
(15)
Nagaishi K, Mizue Y, Chikenji T, et al. Mesenchymal stem cell therapy
ameliorates diabetic nephropathy via the paracrine effect of renal trophic
factors including exosomes. Sci Rep 2016;6:34842.
(16)
Lunn JS, Sakowski SA, Hur J, Feldman EL. Stem cell technology for
neurodegenerative diseases. Ann Neurol 2011;70:353–61.
(17)
Einstein O, Ben-Hur T. The changing face of neural stem cell therapy in
neurologic diseases. Arch Neurol 2008;65:452–6.
(18)
Duelen R, Sampaolesi M. Stem cell technology in cardiac regeneration: a
pluripotent stem cell promise. EBioMedicine 2017;16:30–40.
(19)
Kourembanas S. Expanding the pool of stem cell therapy for lung
growth and repair. Circulation 2014;129:2091–3.
(20)
Kourembanas S. Stem cell-based therapy for newborn lung and brain
injury: feasible, safe, and the next therapeutic breakthrough? J Pediatr
2014;164:954–6.
(21)
Weiss DJ. Concise Review: current status of stem cells and regenerative
medicine in lung biology and diseases. Stem Cells 2014;32:16–25.
(22)
Romanov YA, Darevskaya AN, Merzlikina NV, et al. Mesenchymal stem
cells from human bone marrow and adipose tissue: isolation,
characterization, and differentiation potentialities. Bull Exp Biol Med
2005;140:138–43.
(23)
Pirjali T, Azarpira N, Ayatollahi M, et al. Isolation and characterization
of human mesenchymal stem cells derived from human umbilical cord
Wharton’s jelly and amniotic membrane. Int J Organ Transplant Med
2013;4:111–6.
(24)
Aslam M, Baveja R, Liang OD, et al. Bone marrow stromal cells
attenuate lung injury in a murine model of neonatal chronic lung
disease. Am J Respir Crit Care Med 2009;180:1122–30.
(25)
van Haaften T, Byrne R, Bonnet S, et al. Airway delivery of
mesenchymal stem cells prevents arrested alveolar growth in neonatal
lung injury in rats. Am J Respir Crit Care Med 2009;180:1131–42.
(26)
Chang YS, Ahn SY, Yoo HS, et al. Mesenchymal stem cells for
bronchopulmonary dysplasia: phase 1 dose-escalation clinical trial. J
Pediatr 2014;164:966–972.e966.
(27)
Jackson MV, Morrison TJ, Doherty DF, et al. Mitochondrial transfer via
tunneling nanotubes is an important mechanism by which mesenchymal
stem cells enhance macrophage phagocytosis in the in vitro and in vivo
models of ARDS. Stem Cells 2016;34:2210–23.
(28)
Liang X, Ding Y, Zhang Y, et al. Paracrine mechanisms of mesenchymal
stem cell-based therapy: current status and perspectives. Cell Transplant
2014;23:1045–59.
(29)
Hansmann G, Fernandez-Gonzalez A, Aslam M, et al. Mesenchymal
stem cell-mediated reversal of bronchopulmonary dysplasia and
associated pulmonary hypertension. Pulm Circ 2012;2:170–81.
(30)
 Waszak P, Alphonse R, Vadivel A, et al. Preconditioning enhances the
paracrine effect of mesenchymal stem cells in preventing oxygen-
induced neonatal lung injury in rats. Stem Cells Dev 2012;21:2789–97.
(31)
Pierro M, Ionescu L, Montemurro T, et al. Short-term, long-term and
paracrine effect of human umbilical cord-derived stem cells in lung
injury prevention and repair in experimental bronchopulmonary
dysplasia. Thorax 2013;68:475–84.
(32)
Kourembanas S. Exosomes: vehicles of intercellular signaling, biomarkers,
and vectors of cell therapy. Annu Rev Physiol 2015;77:13–27.


0 コメント:

コメントを投稿

 
;