2020年11月9日月曜日

複合ナノ粒子輸送によるCas9遺伝子編集治療

いつも記事を読んでくださり、ありがとうございます。

遺伝子とその表現型
つまり、遺伝子が体の機能において
どのような役割をしているかのつながりを
理解するのは難しいと理解しています。
装飾因子や空間的な配置などの構造的な問題や
遺伝子同士の相互作用があるということが
理由の一部として挙げられると考えています。
しかし、
疾患によっては、
特定の遺伝子と強い相関関係のあるものがあります。
そうした場合、その特定の遺伝子の異常が
疾患の頻度を極めて高くしているのであれば、
その遺伝子を正常に戻すことによる
治療効果は期待できると思います。
特定の組織、細胞の特定の遺伝子異常が
わかっていれば、その細胞内に有効に
遺伝子異常を治す物質を運ぶことが指針になります。
その時には
特定の組織や細胞まで特異的に輸送して
その細胞内に効率的に入って、
細胞内で放出されて、核の遺伝子に働きかける
というプロセスが想定されます。

Kunwoo Lee氏らはCrisper Cas9という
遺伝子編集技術を持つ物質群をナノ粒子の中に封入して
特定の細胞内において遺伝子編集を実現しました。
その報告について情報共有したいと思います(1)。

DNAの配列であるCrisperに関連する
Cas9というたんぱく質は遺伝子的疾患の治療に対して
多大な潜在性を有していると考えられています(2-5)。
その治療方法には2つ提案されています(1)。
----
①Non-homologous end joining
変異を挿入することによって病因となる遺伝子を
永久にオフ(不活性)にする方法
--
②Homology-directed repair(HDR)
病院となる遺伝子変異を修正して
正常で自然な遺伝子配列に正す方法
----
これらのうち②HDR療法は多数派の方法であり、
多くの遺伝子性の疾患に対して治療のための
潜在性を多く持っています(1)。
しかし、
この②HDR療法は課題があります
----
・Cas9, guide RNA (gRNA), donor DNAが必要
--
・これらを同時に運ぶ必要がある
----
これらです。
従って、何か胞子に包んで同時に細胞内まで
運ぶ必要があります。
そこで従来の方法の一つとして
アデノウィルスが使われました(6,7)。
しかしながら
-----
・人の免疫によって輸送が阻害される
--
・小さいので輸送のため複数必要
-----
これらの課題があり(1)、
実際に想定していない細胞以外での
遺伝子のダメージがあったとされています(8,9)。
従って、
免疫系統を刺激しない、
標的細胞への特異性の高い(オンターゲット効率が高い)、
輸送方法の開発、実用化が待たれています。

Kunwoo Lee氏らは、
金のナノ粒子を核とし、それらの周りにDNAを固着させ
それらにまとわりつくように
Cas9タンパク質、RNAを結合させ
周りにPASp(DET)という正電荷をもつ高分子で囲みました。
そのナノ粒子の上に(?)負の電荷をもつシリカ層を積層しています。
これによってナノ粒子の周りのゼータ電位を遮蔽して、
物質の付着を防いでいると考えられます。
(参考文献(1) Fig.1(a)ナノ粒子の模式図)
PASp(DET)膜の内側の複合体は負電荷を帯びているので
(おそらく)それによって構造として安定な
PASp(DET)膜を周りに形成する事に貢献していると思います。
構造全体としてゼータ電位による静電引力によって
構造的な安定性と粒子への物質の付着防止を両立させている
と考えています。
(参考文献(1) Fig.2(c)ゼータ電位のバランス)
上述したような構造は
・gRNAに結合するCas9の能力
・金ナノ粒子周囲のdonorDNA、たんぱく質の親和性
これらを利用して実現しています(10-13)。
それによって
この複合体のナノ粒子は61.5%の封止効率を実現しています(1)。
このナノ粒子は細胞の表面に到達すると
細胞膜は形を変えて、細胞内に侵入して、
その後、その膜、高分子膜が破壊され、
中にある目的のCas9, guide RNA (gRNA), donor DNA
が放出されます。そして核のDNAに作用します。
(参考文献(1) Fig.1(b)より)

/結果/
----
HEK293(人の腎臓胚細胞)でナノ粒子を蛍光発光させ
エンドサイトーシスしている事を確認。
PASp(DET)が細胞内浸入のための鍵となる物質である
と考えられています(1)。
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Duchenne muscular dystrophy 
ディセンニュ型筋ジストロフィー(※)を発症させた
マウスによってCas9による遺伝子編集によって
遺伝子を正常化させることによって
遺伝子が編集され、筋組織が回復するか確認されました。
それによると
遺伝子編集によって正常化されることが確認。
(参考文献(1) Fig.4(b)
線維状の筋組織が確認。正常(wild-type)に近い
(参考文献(1) Fig.6(c)(d))
輸送方式は患部に注射することで実施。
(※)
筋ジストロフィーは罹患された方の30%が
単一の遺伝子変異が原因となっており
HDRベースの遺伝子編集両方の治療における
潜在能力は高いと期待されています(14)。
----
副作用について
-
オフターゲット効果は低い。
つまり患部近くに注射した時に
狙い以外の体の組織に作用し、
そこで意図しない遺伝子編集はほとんど
確認されませんでした(0.005~0.2%)。
(参考文献(1) Fig.7(b))
-
細胞内に入ることによって懸念される
免疫系の誘発効果も様々なサイトカインの
レベルを評価した結果確認されませんでした。
(参考文献(1) Fig.7(c-f))
----

これらに対して細胞特異的輸送系統が
貢献できるところは、
ナノ粒子の表面に筋組織に親和性を持つように
糖たんぱく質などの突起を特異的に装飾することで
より広い範囲の筋組織に対して
この遺伝子編集技術を作用させることができないか?
ということです。
その時に体の外から注入させる場所も
患部に極めて近いところではなくても
それが可能になるように輸送系統を最適化することです。
その場合、体の中の循環や
経路でのデブリの付着の影響、
ナノ粒子の損傷など考える要因はより多くなります。

以上です。

(参考文献)
(1)
Kunwoo Lee, Michael Conboy, Hyo Min Park, Fuguo Jiang, Hyun Jin Kim, Mark A. Dewitt, Vanessa A. Mackley, Kevin Chang, Anirudh Rao, Colin Skinner, Tamanna Shobha, Melod Mehdipour, Hui Liu, Wen-chin Huang, Freeman Lan, Nicolas L. Bray, Song Li, Jacob E. Corn, Kazunori Kataoka, Jennifer A. Doudna, Irina Conboy & Niren Murthy 
Nanoparticle delivery of Cas9 ribonucleoprotein and donor DNA in vivo induces homology-directed DNA repair
Nature Biomedical Engineering volume 1, pages889–901(2017)
(2)
Jinek, M. et al. 
A programmable dual-RNA-guided DNA endonuclease in adaptive bacterial immunity. 
Science 337, 816–822 (2012).
(3)
Cong, L. et al. 
Multiplex genome engineering using CRISPR/Cas system. 
Science 339, 819–823 (2013).
(4)
Mali, P. et al. 
RNA-guided human genome engineering via Cas9. 
Science 339, 823–826 (2013).
(5)
Cho, S. W., Kim, S., Kim, J. M. & Kim, J.-S. 
Targeted genome engineering in human cells with the Cas9 RNA-guided endonuclease. 
Nat. Biotechnol. 31, 230–232 (2013).
(6)
Ran, F. A. et al. 
In vivo genome editing using Staphylococcus aureus Cas9. 
Nature 520, 186–190 (2015).
(7)
Yin, H. et al. 
Therapeutic genome editing by combined viral and non-viral delivery of CRISPR system components in vivo. 
Nat. Biotechnol. 34,  328–333 (2016).
(8)
Schumann, K. et al. 
Generation of knock-in primary human T cells using Cas9 ribonucleoproteins. 
Proc. Natl Acad. Sci. USA 112, 201512503 (2015).
(9)
Lin, S., Staahl, B., Alla, R. K. & Doudna, J. A. 
Enhanced homology-directed human genome engineering by controlled timing of CRISPR/Cas9 delivery. 
Elife 3, 1–13 (2014).
(10)
Singh, D., Sternberg, S. H., Fei, J., Ha, T. & Doudna, J. A. 
Real-time observation of DNA recognition and rejection by the RNA-guided endonuclease Cas9. 
Nat. Commun. 7, 1–8 (2016).
(11)
Sternberg, S. H., Redding, S., Jinek, M., Greene, E. C. & Doudna, J. A.  
DNA interrogation by the CRISPR RNA-guided endonuclease Cas9. 
Nature 507, 62–67 (2014).
(12)
Walkey, C. D. et al. 
Protein corona fingerprinting predicts the cellular interaction of gold and silver nanoparticles. 
ACS Nano 8, 2439–2455 (2014).
(13)
Liu, J. & Peng, Q. 
Protein-gold nanoparticle interactions and their possible impact on biomedical applications. 
Acta Biomater. 55, 13–27 (2017).
(14)
Hegde, M. R. et al. 
Microarray-based mutation detection in the dystrophin gene. 
Hum. Mutat. 29, 1091–1099 (2008).


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