2020年11月23日月曜日

試験管で薬効を示した薬がなぜ臨床結果を生まないのか?

いつも記事を読んでくださり、ありがとうございます。

今、医療現場の方々が問題視している一つの事は、
インフルエンザのように特効薬がないことです。
レムデシビルも世界保健機関(WHO)から薬効について
疑問視される声明が出されました。
あるいは、
欧米で流行初期に使われていた
マラリアの治療薬であるヒドロクロロキン
も思うような臨床実績が得られていません(1-6)。
しかし、
使われた背景にあるのは
試験管においては抗ウィルス効果があったからです。
一方で
ワクチンに関しては95%の予防効果があったという中間報告が
ファイザー社(さん)、モデルナ社(さん)
から出されています。
このような結果の違いは何によって生まれるのか?
ということを考えることは、
今後、罹患後の効果的な薬を開発する上で重要になります。
一つは、
レムデシビル、ヒドロクロロキンも
新型コロナウィルスに特化して開発されたものではありません。
従来薬の使用を認めた「リパーポス」によるものです。
それが一つとしてあるのだろうと思います。
もう一つは、
ワクチンは「細胞の外」で主に作用するものです。
細胞の外に存在するウィルス株に直接働きかけるものです。
しかし、
レムデシビルもヒドロクロロキンも
細胞の中での薬効が期待されるものであります。
この薬効を示す場所、ポイントが
「細胞の外か?内か?」という境界条件は
思いのほか大きいかもしれません。
細胞には脂質2重膜があります。
外から内に入るためには、
少なくともその膜を超えないといけません。
その経路としては細胞膜貫通受容体の変形を通じて
扉のように中に入ることもありますし、
受容体に結合して、そこからいくつかの信号を経て
細胞内で狙いの薬効を目指すということもあります。
しかし、
そのような段階を経ないといけないことは
いろんな難しさがあります。
---
一つは、「アクセス性」です。
感染細胞に特異的に薬剤が働く必要があります。
言い換えれば、通常細胞では働かず、
感染細胞だけで薬効を示す必要があります。
それを持続的に、安定的にする必要があります。
本当に体の大きな人において
薬剤が血液の循環に乗り、感染細胞まで有効に届くか?
そこに難しさがあります。
一方、
ワクチンの場合は、細胞の外に多くいるウィルスに
働きかければいいので、場所特異性が
感染細胞よりも小さくなるという事が考えられます。
それでも一定の走化性は求められますが、
組織に固定的に存在する細胞よりも
アクセス性においては有利だと考えられます。
---
もう一つは「臨床結果の解析の難しさ」です。
ワクチンの場合は、新型コロナウィルスに
抗体がしっかりついているかどうか?
というのは細胞の外のウィルスを選びだして
ウィルス膜の外にあるたんぱく質を
低温電子顕微鏡でみることができるので、
感染細胞の中にある複雑な生理機序を
構造として可視化するよりも容易であると考えられます。
人の感染細胞内にある特定のRNA、DNA、たんぱく質を取り出して、
構造を分析することは極めて難しいです。
もちろん、
ウィルスの場合も生体内から生体外
あるいは解析のために冷やすことを考えると
保存性の難しさはありますが、
細胞内で作用する薬の解析は
それをはるかに超える難しさがあります。
結果としてウィルス増殖を抑えられたというのは
試験管や生体内であると思いますが、
上述したように
試験管では抗ウィルス性があったのに
臨床では結果が得られなかった理由を考えるときには
試験管で起こっていることと
臨床で人の体内で起こっていることを
「構造的に」調べる必要性があります。
あるいは、感染細胞を類別して取り出して
同じような信号を出しているか?
ということも調べる必要があります。
それはおそらくワクチンの薬効の解析よりも
難しいと考えられます。

11月18日に大阪大学の研究情報から
「京都府立医科大学循環器内科学星野温助教、
大阪大学蛋白質研究所高木淳一教授、
微生物病研究所岡本徹教授らの研究グループは
新型コロナウイルスの受容体であるACE2タンパク
のウイルス結合力を100倍以上高めることに成功しました。」
(新型コロナウィルス中和タンパク製剤の開発について/より)
とあります(7)。
これはACE2受容体を模した100倍以上の結合性を持つ
タンパク質を細胞外でウィルスに結合させて
細胞感染を細胞外で防ごうというものと理解しています。
これを薬剤として使うことが想定されています。
ワクチンの抗体に近い発想ですが、
細胞外で働く薬剤というのは
上述したアクセス性や臨床結果も含めた詳細な解析の
ことも考えると適した治療法の一つと考えられます。
同じように
回復者血漿療法や
ワクチンを治療に使うという事も考えられます。
これらも細胞外で抗体を付けて
ウィルスの細胞内感染を防いでウィルスの増殖を防ぐというものです。
これらはFc受容体を刺激して免疫細胞に働きかける可能性もあるので
そういった解析をするにあたっても
薬として使うたんぱく質や抗体
あるいは免疫細胞のFc受容体は細胞の外にあるので
細胞内にある場合に比べて
解析の難易度は下がると考えています。

以上です。

(参考文献)
(1)
Geleris J, Sun Y, Platt J, et al. 
Observational study of hydroxychloroquine in hospitalized patients with Covid-19. 
N Engl J Med 2020; 382: 2411-8.
(2)
Tang W, Cao Z, Han M, et al. 
Hydroxychloroquine in patients with mainly mild to moderate coronavirus disease 2019: open label, randomised controlled trial. 
BMJ 2020; 369: m1849.
(3)
Huang M, Tang T, Pang P, et al. 
Treating  COVID-19  with  chloroquine.  
J  Mol Cell Biol 2020; 12: 322-5.
(4)
Chen J, Liu D, Liu L, et al. 
A pilot study of hydroxychloroquine in treatment of patients with moderate COVID-19. 
Zhejiang Da Xue Xue Bao Yi Xue Ban 2020; 49: 215-9. (In Chinese.)
(5)
Chen Z, Hu J, Zhang Z, et al. 
Efficacy of hydroxychloroquine in patients with COVID-19: results of a randomized clinical trial. April 10, 2020 
(https://www.medrxiv.org/content/10.1101/2020.03.22.20040758v3).preprint.
(6)
Cavalcanti AB, Zampieri FG, Rosa RG, et al. 
Hydroxychloroquine with or without azithromycin in mild-to-moderate Covid-19. 
N Engl J Med 2020; 383:2041-52.
(7)
Yusuke Higuchi, Tatsuya Suzuki, Takao Arimori, Nariko Ikemura, Yuhei Kirita, Eriko Ohgitani, Osam Mazda, Daisuke Motooka, Shota Nakamura,  View ORCID ProfileYoshiharu Matsuura, Satoaki Matoba, Toru Okamoto, Junichi Takagi, Atsushi Hoshino
High affinity modified ACE2 receptors prevent SARS-CoV-2 infection
bioRxiv https://doi.org/10.1101/2020.09.16.299891

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