2020年11月18日水曜日

ナノワクチンの技術、現状、応用について

いつも記事を読んでくださり、ありがとうございます。

2009年にA型のインフルエンザ(H1N1)が
爆発的な流行をして
世界でその年、約20万人の方が命を落としました(2)。
インフルエンザのワクチンは広く普及していますが、
A型に関しては特にウィルスの変異が大きく
改善の余地があるとされています。

一つ、次世代のワクチンとして期待されているのが
ナノ粒子を使ったワクチンです。
ウィルスの抗原をナノ粒子の中に封入して、
ナイーブな免疫細胞まで運び
そこで抗原認識をさせて抗体を発現させるように
することを目的としていますが、
下記、いくつか課題があるとされています。
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中和効率の低い抗体の産生(3)
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抗体産生B細胞の特異的変異、分化の失敗
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不十分なT細胞反応
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抗体依存性感染増強
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持続しない抗体産生(4,5)
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ウィルスの変異
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抗原がリンパ節まで届かない(6)
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感染時リンパ節反応の監視不能(7)
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腸内細菌の影響(8,9)
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免疫的な刷り込み(immunological imprinting)の依存性(10)
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製造装置、設備の不備
--
安全性の指標評価、確保
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ナノワクチン特有ではなく、ワクチン全体に対する
課題が多いですが、改善の余地は多く残されています。

それに対して、ナノワクチンの発展として
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①Structurally engineered immunogens(11,12)
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②Germline-targeting immunogens(6,13,14)
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③Novel synthetic adjuvants(15,16)
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④Material-based vaccines(6,16-18)
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これらはナノワクチンが胚中心の中にある
未発達なT細胞、B細胞、マクロファージなどを介して
抗原に特異的なB細胞を生み出し、
そのB細胞から抗原に適合した抗体を産生すために
ナノワクチンの中にある抗原を
どうやって胚中心まで効率的に輸送し
これら免疫細胞に働きかけることができるか?
あるいは
胚中心の働きそのものの活性化を図るためのものです。
胚中心はリンパ節にあるため
リンパ管のリンパ液からアクセスする必要があります。
リンパ管は血管よりも細いので
そこに効果的に浸入するためには
径としては小さいナノ粒子が適しています(1)。
その径によって
小さい時(20-200nm)には
マクロファージがナノ粒子を認識して
胚中心の免疫細胞まで輸送してくれると
考えられています。
一方、
大きい時(500nm以上)には
樹状細胞がナノ粒子の胚中心への
輸送を担うと考えられています。
(参考文献(1) Fig.1(a)より)
従って、
ナノ粒子を胚中心まで有効に運ぶためには
①Structurally engineered immunogensのように
ナノ粒子の構造を適切に設計して
マクロファージや樹状細胞に認識、
結合しやすいようにすることが有効です。
(参考文献(1) Fig.2(a)より)
その時にはナノ粒子の表面を
糖を使った物質で表面装飾する技術が
提案されています(6,16,19)。

大きさや表面装飾以外にも
形、装飾因子、結合部位の密度などの
最適化が因子として考えられます(1)

上述したように腸内細菌は
免疫応答に影響を与えますが、
腸に依存して免疫応答が弱いことに対して
④Material-based vaccinesが考えられており
例えば、
pyridine-poly(hydroxyethyl methacrylate) 
(Pyr-pHEMA) のナノジェルワクチンが提案されています(20)。

またインフルエンザワクチンは
改善の余地が残されていますが、
フェリチンを使った自己形成のナノ粒子を使った
インフルエンザワクチンでは
現状の不活性型ワクチンに比べて
動物のケースでは34倍の中和活性が認められ(21)
現在治験段階にあります(NCT03186781)。

ただ上述したように
ワクチン開発で注意する必要がある事は
ワクチンによって逆に感染力を高めてしまったり
(抗体依存性感染増強)
あるいは、サイトカインストームを誘発する
可能性がある事です(5)。
例えば、
SARS-CoV-1ではSタンパク質のエピトープの場所が
異なることで「人ではなく動物のケース」ですが
抗体依存性感染増強のような症状が現れた
とされています(1)。
従って、
中和能の高い整合性のある抗体を生み出す
適正なワクチンの開発が不可欠となります。

上述したようにナノワクチンは製造や安全性の監視
において課題がありますが、
製造に関して、高い技術が求められます。
ナノワクチンは中の抗原、輸送システム、
補強材などそれぞれ独立して製造し
それを組み合わせる必要があります(1)。
その中で安定的に、安価に、大量生産できるかどうか?
という課題が考えられます。

このようなナノワクチンの積み上げてきた
研究開発的な資源は、
細胞特異的輸送系統において
ナノ粒子の材料選択、装飾因子の設計
あるいは輸送システムを考える際に役にたちます。

また、伝染病だけではなく
心臓、肝臓、腸、膵臓、腎臓、肺
あるいは血液、骨、筋肉、皮膚などの組織
それらが炎症、線維化、癌化した時には
そこには必ず免疫的な応答があります。
その免疫的な応答を制御する一つの方法は
上述したワクチンにあります。
それぞれの疾患で特異的に働く免疫機能
例えば
その疾患特有に免疫細胞が抗原認識するならば、
その抗原をあらかじめ体外で設計して
それをナノ粒子に詰め込み
同じように胚中心などの免疫細胞に働きかけ
そこで抗体を誘発させること
あるいは、特異的な免疫細胞を産生させることで
ワクチンを通した免疫的なアプローチで
上述した様々な疾患の治療として使える可能性があります。
そうしたことも考慮に入れると
今流行している新型コロナウィルスを始め
インフルエンザウィルス、HIV、マラリアなど
様々な改善の余地がある伝染病に対しての
ワクチンの技術を高めることは
医療応用的な価値は大きいと考えられます。

以上です。

(参考文献)
(1)
Ankur Singh 
Eliciting B cell immunity against infectious diseases using nanovaccines
Nature Nanotechnology (2020)
(2)
Dawood, F. S. et al. 
Estimated global mortality associated with the first 12 months of 2009 pandemic influenza A H1N1 virus circulation: a modelling study. 
Lancet Infect. Dis. 12, 687–695 (2012).
(3)
Xu, K. et al. 
Epitope-based vaccine design yields fusion peptide-directed antibodies that neutralize diverse strains of HIV-1. 
Nat. Med. 24,  857–867 (2018).
(4)
Liu, W. et al. 
Two-year prospective study of the humoral immune response of patients with severe acute respiratory syndrome. 
J. Infect. Dis. 193, 792–795 (2006).
(5)
Iwasaki, A. & Yang, Y. 
The potential danger of suboptimal antibody responses in COVID-19. 
Nat. Rev. Immunol. 20, 339–341 (2020).
(6)
Tokatlian, T. et al. 
Innate immune recognition of glycans targets HIV nanoparticle immunogens to germinal centers. 
Science 363, 649–654 (2019).  
(7)
Havenar-Daughton, C. et al. 
Direct probing of germinal center responses reveals immunological features and bottlenecks for neutralizing antibody responses to HIV Env trimer. 
Cell Rep. 17, 2195–2209 (2016).
(8)
Hagan, T. et al. 
Antibiotics-driven gut microbiome perturbation alters immunity to vaccines in humans. 
Cell 178, 1313–1328 e1313 (2019).  
(9) 
Oh, J. Z. et al. 
TLR5-mediated sensing of gut microbiota is necessary for antibody responses to seasonal influenza vaccination. 
Immunity 41, 478–492 (2014).
(10)
Correia, B. E. et al. 
Proof of principle for epitope-focused vaccine design. 
Nature 507, 201–206 (2014).
(11)
Correia, B. E. et al. Proof of principle for epitope-focused vaccine design. 
Nature 507, 201–206 (2014).
(12) 
Xu, K. et al. 
Epitope-based vaccine design yields fusion peptide-directed antibodies that neutralize diverse strains of HIV-1. 
Nat. Med. 24,  857–867 (2018).
(13)
Jardine, J. G. et al. 
HIV-1 broadly neutralizing antibody precursor B cells revealed by germline-targeting immunogen. 
Science 351, 1458–1463 (2016).  
(14)
Steichen, J. M. et al. 
HIV vaccine design to target germline precursors of glycan-dependent broadly neutralizing antibodies. 
Immunity 45, 483–496 (2016).
(15)
Kasturi, S. P. et al. 
3M-052, a synthetic TLR-7/8 agonist, induces durable HIV-1 envelope-specific plasma cells and humoral immunity in nonhuman primates. 
Sci. Immunol. 5, eabb1025 (2020).
(16)
Wilson, D. S. et al. 
Antigens reversibly conjugated to a polymeric glyco-adjuvant induce protective humoral and cellular immunity. 
Nat. Mater. 18, 175–185 (2019).  
(17) Purwada, A., Roy, K. & Singh, A. 
Engineering vaccines and niches for immune modulation.
Acta Biomater. 10, 1728–1740 (2014).
(18)
Singh, A. & Peppas, N. A. 
Hydrogels and scaffolds for immunomodulation. 
Adv. Mater. 26, 6530–6541 (2014).
(19)
Kasturi, S. P. et al. 
Programming the magnitude and persistence of antibody responses with innate immunity. 
Nature 470, 543–547 (2011).  
(20)
Mosquera, M. J. et al. 
Immunomodulatory nanogels overcome restricted immunity in a murine model of gut microbiome-mediated metabolic syndrome. 
Sci. Adv. 5, eaav9788 (2019).  
(21)
Kanekiyo, M. et al. 
Self-assembling influenza nanoparticle vaccines elicit broadly neutralizing H1N1 antibodies. 
Nature 499, 102–106 (2013)


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