2020年11月12日木曜日

腎臓線維化の機序とその回復を目指す

いつも記事を読んでくださり、ありがとうございます。

新型コロナウィルスは様々な臓器へ傷害を与える
といわれています。
その中で頻度が高いと言われれている臓器の
一つが腎臓です。
実際に入院された患者さんのうち
・タンパク尿43.9%
・血尿26.7%
・急性腎傷害5.1%
出会ったという報告があります(1,2)。
また他の調査では
・急性腎傷害8-17%
・急性腎傷害14-35%(重症の方のうち)
・急性腎傷害5-23%(重症の方のうち)
というデータもあります(1,3-5)。
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急性腎傷害の定義は
① 48時間以内に血清クレアチニンが 0.3mg/dl以上上昇すること
② 元々の血清クレアチニン値から1.5倍以上上昇すること
③ 体重60㎏の人が1時間あたりの尿量30ml 以下が6時間以上続くこと
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といわれています(5)。
急性腎傷害は後に詳しく情報共有する慢性腎疾患に移行する
ことも知られており、腎臓の組織に線維化がみられます(6)。
従って、
どのように腎臓組織が線維化するか?
また線維化から回復させることはできるのか?
このような問いに対して考察する事の重要性は
以前よりも高まっていると考えられます。

また、末期の腎不全に至ると
腎移植・血液透析・腹膜透析という3種類の「腎代替療法」
から選ぶことになりますが、
その中で腎臓の移植は
腎臓の機能や日常生活を最もよく改善すると言われています。
しかし、提供された腎臓を長持ちさせるためには
生涯にわたる免疫抑制剤の服用が必要です(7)。
また、癌化のリスクもある(7)ために
日常的な制御が必要になります。
免疫抑制剤に関しては心臓の移植などにおいても同じです。
自分以外の人の臓器を入れることになりますから
そこには何らかの拒絶反応があり、
免疫系の乱れを誘発すると考えられます。
中には先天的な異常によって
腎不全になる子供さんもいますから、
その後の長い生活のことを考えると、
一つの道として腎臓移植をしないで
自分が持っている組織を活用して
正常な腎臓に回復できるようにすることが
免疫異常、その他疾患の事を考えると好ましいです。
またドナー数にも限界があります。
費用の問題もあります。
その点においてiPS細胞などの再生医療への
期待は大きいと考えられます。
また、細胞特異的輸送系統においても
より正確に、効率的に遺伝子、転写因子などの
制御の際に貢献できる事はあると思っています。

前述した慢性腎疾患は世界の人口の一割に
影響を与えているという見積もりもあります(8)。
しかしながら
腎組織の線維化を伴う慢性腎疾患に関しては
・どの細胞が起源か?
・細胞の機能の異質性
・損傷した細胞の制御の問題
これらから今のところ認可された治療はありません(9-12)。

Christoph Kupp氏らのグループは
こういった他因子によると考えられる
線維化を伴う腎疾患の治療につなげるために
腎組織を作り出す転写因子を各細胞ごとに
遺伝子レベルで調べました(8)。
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結論から言うと
Nkd2という遺伝子が筋繊維芽細胞という
線維化の元となる細胞の標的となることを示しました(8)。
従って、この遺伝子に作用するベクターを
目的とする腎組織特異的に輸送出来れば
線維化を抑制することができる可能性があります。
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腎臓の線維化のプロセスを臓器レベルで考えるためには
腎臓の解剖的構造から考える必要があります。
従って、列挙します。
/腎臓の解剖的構造/
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腎臓の最も内側は尿管が繋がっています。
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尿管の周りに皮質(cortex)があります。
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腎動脈、腎静脈がほぼ並行して腎臓組織に
張り巡らされています。
主となる血管から分岐されて
「扇の形のように」ループしています。
それぞれの血管からは毛細血管が伸びています。
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毛細血管は「糸球体」「近位尿細管」の
近くに流れています。
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/皮質の構造/
PT:tubule epithelial cells
vSMC:vascular smooth muscle cells
VR Vasa recta
DTL:descending thin limb?
TAL:ascending limb of loop 
DCT:distal convoluted tubule
CT:convoluted tubule?
IC ?/PC ?:cllecting duct?
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/糸球体の構造/
Mdc ?
Mesa:Mesangial cell
Pec:Parietal epithelial cell
Pod:Podocyte
GC:Glomerular capillary
--
/間質の構造/
PT:tubule epithelial cells
T:T cell
B:B cell
DC:dendritic cell
MC:muscle cell
TAL:ascending limb of loop 
MF:Myofibroblast
Pe:Pericyte
VR Vasa recta
Fi:fibroblast
iPT:?
(参考文献(8) Fig.1(a)構造図参照)
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腎臓の皮質細胞の80%以上が
尿細管に近接した上皮細胞(PT)(13)
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/慢性腎疾患の特徴/
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細胞のサイクルが速くなる
(参考文献(8) Extended Data Fig. 2k-l).
---
・脂肪酸代謝上昇
・代謝の制御不全
※脂肪酸の代謝異常が起こると尿細管の
分化不全や線維化が起こる事は既知です(14)。
(参考文献(8) Fig.1f, Extended Data Fig.2m-n). 
---
・コラーゲン
・糖たんぱく質
・プロテオグリカン
これらが上昇(15,16)。
(参考文献(8) Extended Data Fig. 2o-u)
---
上述したコラーゲンなどの細胞外マトリックスは
主に「間質の細胞」で示される
(参考文献(8) Fig.1h,i,Extended Data Fig.2q-u).
---
・繊維芽細胞(MF) 
・筋線維芽細胞(Fi)
両方が過剰に発現される
(参考文献(8) Fig.1j).
---

/線維化の機序/
筋線維芽細胞(Fi)(Postn発現細胞)
これは周辺細胞、繊維芽細胞から生じる
(参考文献(8) Fig.1k,Extended Data Fig.3d).
-
上皮細胞からの亢進の程度は小さい。
(参考文献(8) Fig.1h)
-
・Notch3周辺細胞
・Meg3繊維芽細胞
・Postn筋線維芽細胞
これらの共発現が線維化の中間段階で観察。
-
繊維芽細胞から筋繊維芽細胞に分化して
その後、増殖。炎症。
(参考文献(8) Extended Data Fig.6b-c).
-
炎症後、インテグリン、細胞外マトリックス相互作用。
(参考文献(8) Extended Data Fig. 6d-g).
-
線維化の制御因子としては
インテグリン(17)、AP1信号(18)が知られています。
--
尿細管と間質の信号が線維化の特徴(19)。
この相互作用は
-
①Notch
神経、造血、血管、体節などの様々な分化過程に関係。
-
②TGFb
細胞の成長、分化、死亡、恒常性、相互作用などを
含めて胚細胞の成長など細胞のプロセスに関係。
-
③Wnt
細胞の運命、増殖、分布など身体の組織の形を制御。
-
④PDGF
間葉系細胞(線維芽細胞、平滑筋細胞、グリア細胞等)
の遊走および増殖などの調節。
-
これらの経路が関係していると考えられています。
(参考文献(8) Extended Data Fig. 6r).
---
Nkd2は筋線維芽細胞で高い発現が見られる。
(参考文献(8) Fig.4c,Extended Data Fig.10a-b).
-
Nkd2は③Wnt経路と②TGFb経路の調整因子です(20,21)。
-
この遺伝子をノックアウト(欠乏)させた
マウスではECMの蓄積が縮小されました。
(参考文献(8) Fig.4h)

/追記/
筋繊維芽細胞は線維化の原因となる
細胞外マトリックス蓄積の主な供給源ですが
その元なる細胞が何由来かというのは
議論の余地があるとされています(22)。
しかし、参考文献(8)によれば
その前段階では周囲細胞、繊維芽細胞が関わっており、
その場所は間質であるとされています。
また、腎臓における
細胞外マトリックスのスコアは
免疫細胞系は一番低くなっています。
(参考文献(8) Fig.1h)
腎臓においては免疫細胞が
線維化のプロセスにどう関わっているか?
実際には筋線維芽細胞に関わる遺伝子が活性化
される段階で免疫系統も活性化されている
という指摘もあります(23)。
実際に新型コロナウィルスでは
免疫系統の乱れから血栓ができて
そこから炎症反応が起こると指摘されています(5)。
従って、間質以外に
腎臓に分布する血管との相互作用を考えた時には
全身の血液中に存在する免疫細胞の応答が
線維化に間接的に(?)関係する可能性が考えられます。

以上です。

(参考文献)
(1)
Luca Perico, Ariela Benigni, Federica Casiraghi, Lisa F. P. Ng, Laurent Renia & Giuseppe Remuzzi 
Immunity, endothelial injury and complement-induced coagulopathy in COVID-19
Nature Reviews Nephrology (2020)
(2)
Cheng, Y. et al. 
Kidney disease is associated with in-hospital death of patients with COVID-19. 
Kidney Int. 97, 829–838 (2020).
(3)
Gabarre, P. et al. 
Acute kidney injury in critically ill patients with COVID-19. 
Intensive Care Med. 46, 1339–1348 (2020).
(4)
Chan, L. et al. 
AKI in hospitalized patients with COVID-19. 
J. Am. Soc. Nephrol.https://doi.org/10.1681/ASN.2020050615 (2020).
(5)
植村 健
新型コロナウイルスによる急性腎障害について
医療法人 康成会 植村病院
(6)
Li Yang 
How Acute Kidney Injury Contributes to Renal Fibrosis
Adv Exp Med Biol. 2019;1165:117-142.
(7)
東京女子医科大学 腎臓外科
1.腎臓移植について
(8)
Christoph Kuppe, Mahmoud M. Ibrahim, Jennifer Kranz, Xiaoting Zhang, Susanne Ziegler, Javier Perales-Patón, Jitske Jansen, Katharina C. Reimer, James R. Smith, Ross Dobie, John R. Wilson-Kanamari, Maurice Halder, Yaoxian Xu, Nazanin Kabgani, Nadine Kaesler, Martin Klaus, Lukas Gernhold, Victor G. Puelles, Tobias B. Huber, Peter Boor, Sylvia Menzel, Remco M. Hoogenboezem, Eric M. J. Bindels, Joachim Steffens, Jürgen Floege, Rebekka K. Schneider, Julio Saez-Rodriguez, Neil C. Henderson & Rafael Kramann 
Decoding myofibroblast origins in human kidney fibrosis
Nature (2020)
(9)
Duffield, J. S
Cellular and molecular mechanisms in kidney fibrosis. 
J. Clin. Invest. 124, 2299–2306 (2014).
(10)
Kramann, R. & DiRocco, D. P. 
Understanding the origin, activation and regulation of matrix-producing myofibroblasts for treatment of fibrotic disease. 
J. Pathol. (2013).
(11)
Friedman, S. L., Sheppard, D., Duffield, J. S. & Violette, S. 
Therapy for fibrotic diseases: nearing the starting line. 
Sci. Transl. Med. 5, 167sr1 (2013).
(12)
Falke, L. L., Gholizadeh, S., Goldschmeding, R., Kok, R. J. & Nguyen, T. Q. 
Diverse origins of the myofibroblast—implications for kidney fibrosis. 
Nat. Rev. Nephrol. 11, 233–244 (2015).
(13)
Young, M. D. et al. 
Single-cell transcriptomes from human kidneys reveal the cellular identity of renal tumors. 
Science 361, 594–599 (2018).
(14)
Kang, H. M. et al. 
Defective fatty acid oxidation in renal tubular epithelial cells has a key role in kidney fibrosis development. 
Nat. Med. 21, 37–46 (2015).
(15)
Naba, A. et al. 
The extracellular matrix: Tools and insights for the ‘omics’ era. 
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(16)
Fan, Y. et al. 
Comparison of Kidney Transcriptomic Profiles of Early and Advanced Diabetic Nephropathy Reveals Potential New Mechanisms for Disease Progression. 
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(17)
Henderson, N. C. 
Targeting of αv integrin identifies a core molecular pathway that regulates fibrosis in several organs. 
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(18)
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Venkatachalam, M. A., Weinberg, J. M., Kriz, W. & Bidani, A. K. 
Failed Tubule Recovery, AKI-CKD Transition, and Kidney Disease Progression. 
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(23)
Gabriela Campanholle, Giovanni Ligresti, Sina A. Gharib, and Jeremy S. Duffield
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