2020年11月21日土曜日

赤血球、ナノ粒子ケモカイン向性輸送による癌免疫療法

いつも記事を読んでくださり、ありがとうございます。

細胞特異的輸送系統で重要になるのは
人の体は、実験で使われるマウスよりも
はるかに大きいですから、
輸送体を保護しながら、患部「だけ」に有効に運ぶことです。
それを実現するためには、
身体のどこから注入するかというのは重要ですが、
その自由度を与えるためには、
極めて高い正の走化性を実現する必要があります。
そのためには血液、リンパ液、間質液の循環を考えたり
その液体中にどのような物質があって、
その物質の勾配があって、
目標とする患部までどのように有効に誘導されるか
解剖学的な視点も踏まえて
様々なスケールで考えていく必要があります。
最も大きなスケールという点に関しては特に
まだ不可視な部分が多く残っていますが、
病因となっている組織から出ている受容体だけではなく
DNA、たんぱく質単体なども含めて
どのような物質が分泌されているか?
その特異性を評価することも少し大きなスケールでの
走化性、向性を考える上で重要になります。

Zongmin Zhao氏らは、
赤血球が肺の中の転移性癌細胞に局在化することに着目して、
赤血球を「輸送体」として使うことを提案しています(1)。
赤血球の表面に非共有結合的に
・静電気力・疎水性相互作用・水素結合で
ケモカインが封入されたナノ粒子が付着しています。
(参考文献(1) Fig.2(g)SEMイメージ参考)
ナノ粒子の材料は
poly(lactic-co-glycolic acid) (PLGA)です。
その他仕様は、
ナノ粒子径:192.3nm ゼータ電位:-27.5mVです。
このナノ粒子は
臓器を標的とする上で適してると考えられています(1)。
ナノ粒子は、疎水性を高め結合力を得るために
高いL:G比で作製されたとされています(1)。
このL/G比、保護、離着性のため
PLGA-dタイプが使われたとされています(1)。
シェアストレスによって離着率が変わる(1)ので
肺(臓器)の患部近くで
シェアストレスが強くなることで
ナノ粒子の放出割合の選択性を与えることができます。
お血管を通して肺に到達して
血管の内皮、周皮、間質、肺の内皮?、上皮という層構造において
癌組織がどこにあるかによりますが、
間質には細胞外マトリックスがあり、
そこにはコラーゲンなどたんぱく質が
蜘蛛の巣のように張り巡らされていると考えられます。
あるいは細胞などの組織が密にあります。
そうした物質との衝突確率が増えることで
機械的なストレスを受けるということを
一つとして考えました。
赤血球が血管の外に患部近くで選択性を持って浸潤するか?
どこで放出されるかは考慮の余地があります。
実際には冒頭で述べた
赤血球は癌組織に局在化する性質があるという事、
シャアストレスが具体的に何を起因にして変わるかという事、
これらをもう少しミクロ解剖的視点で考えるということになります。
一方、
Zongmin Zhao氏らは、
肺の内皮からICAM-1という受容体が多く発現されており
その受容体に結合する(Anti-ICAM-1抗体)を
装飾することで肺の内皮細胞と相互作用を強める
(つまり引き付けられて結合する)ことを示しました(1)。
実際にこの装飾によりマウスの肺の組織で
それがない時よりも27倍高い蓄積量を示しました(1)。
従って、
癌組織に選択性を持って
最終的にケモカインを放出するためには
・輸送体(この場合赤血球)の正の走化性
・輸送体からナノ粒子の患部近くでの離着選択性
・ナノ粒子の患部への正の走化性
・ナノ粒子から患部近くでのケモカインの放出効率
・ケモカインの患部への正の走化性
これらのことをスケールを変えて
一つ一つ階層的に考えることが大切になります。

肝臓、肺、脾臓、腎臓、脳、心臓の臓器別で
この輸送系統の特異性の評価では、
赤血球、ICAM抗体装飾により
他の臓器と比べて高い輸送特異性を示しています。
(参考文献(1) fig.3より)
またケモカインの血中、肺での持続性、肺/血中の比率
注入から72時間の範囲でいずれも高くなっています。
(参考文献(1) fig.4(d)-(f)より)

最終的に輸送する物質にケモカインは
免疫細胞に対して「Chemoattractant」であると考えられ(2)
免疫細胞に正の走化性、それを引き付けるものです。
従って、
抗原認識することなく後述する免疫機能を発揮したのは
免疫細胞とケモカインの親和性が高いことに
一つは起因していると考えられます。
参考文献(2)Table 2によれば、
様々な種類の免疫細胞が認識する特異的なケモカインが
明らかにされています。
従って、
赤血球を輸送体として、ナノ粒子の中に封入する
ケモカインの種類を検討することによって
作用させる免疫細胞をある程度選択できます。
これは癌の免疫療法において
大きな可能性を生むと考えられます。
実際には、
免疫反応に対して抵抗性を持った癌組織は
存在するケモカインの種類において内因的に変化が起こる
とされています(6-8)。
それは、ケモカインによって引き付けられた免疫細胞が
癌組織の退行を阻害するような種類になっている
ということを同時に意味する事が示唆されます。
Zongmin Zhao氏らによって選択されたCXCL10は
一つはNK細胞、インターフェロンに反応性を与える
とされています(2)。
NK細胞は抗原認識の必要がないので
参考文献(1)で述べられているように
外因性の抗原認識なしでの免疫機能発揮の一部には
NK細胞が働き、マウスでの転移性肺癌細胞の退行に
貢献した可能性を考えました。
Zongmin Zhao氏らの調査によれば
CXCL10は
・T helper type 1(Th1)CD4 T細胞
・Effector CD8 T細胞
・NK細胞
これらの「chemoattractant」として働き
癌の退行に貢献するとされています(1,9-12)。
Zongmin Zhao氏らの実験によれば
・IFNγ+TH1 CD4 T細胞が2.2倍
・IFNγ+TH1 CD8 T細胞が1.8-2.0倍
・granzyme B+ CD8 T細胞 1.6-2.2倍
・NK細胞 1.4-1.8倍
・CD45+CD11c+CD86+樹状細胞 2.6倍
増えているとあります(1)。
従って、
上述したインターフェロンにも作用していると考えられます。
そこに整合性が見られます。
マウスによる転移性肺腫瘍の退行も
最大で6倍程度高まったとされています(1)。
また、肺から横腹と
距離を持たせた腫瘍組織においても
系統的な免疫の作用によって退行が見られたと
考えられています(1)。

免疫療法の一つの利点は、
免疫機能の記憶化(メモリ)によります(4,5)。
通常、その記憶化は抗原認識を経て
リンパ節の胚中心で行われるものであると認識しています。
しかし、
resident memory免疫細胞のように
現場、患部でより強固な記憶化が行われるケースもあります(3)。
従って、
ケモカインを患部に直接運んだ時の免疫細胞が
その後、どのような発展を遂げるのか?
というのは研究の余地があると考えられます。
また、
この免疫療法はケモカインで
免疫細胞を引き寄せるものなので、
同時に免疫細胞の最適化を両立させることが可能になります。
例えば、
CAR-T細胞、CAR-NK細胞
あるいは他の種類の免疫細胞に
特定の癌種類に効果を発揮するキメラ抗原受容体を付けて
このケモカインの技術と合わせて、
より階層的に免疫療法を強化する事も考えられます。

以上です。

(参考文献)
(1)
Zongmin Zhao, Anvay Ukidve, Vinu Krishnan, Alexandra Fehnel, Daniel C. Pan, Yongsheng Gao, Jayoung Kim, Michael A. Evans, Abhirup Mandal, Junling Guo, Vladimir R. Muzykantov & Samir Mitragotri 
Systemic tumour suppression via the preferential accumulation of erythrocyte-anchored chemokine-encapsulating nanoparticles in lung metastases
Nature Biomedical Engineering (2020)
(2)
Ronen Alon, Mike Sportiello, Stav Kozlovski, Ashwin Kumar, Emma C. Reilly, Alexander Zarbock, Natalio Garbi & David J. Topham 
Leukocyte trafficking to the lungs and beyond: lessons from influenza for COVID-19
Nature Reviews Immunology (2020)
(3)
Ray, S. J. et al. 
The collagen binding alpha1beta1 integrin VLA-1 regulates CD8 T cell-mediated immune protection against heterologous influenza infection. 
Immunity 20, 167–179 (2004).
(4)
Sharma, P., Hu-Lieskovan, S., Wargo, J. A. & Ribas, A. 
Primary, adaptive, and acquired resistance to cancer immunotherapy. 
Cell 168, 707–723 (2017).
(5)
Mellman, I., Coukos, G. & Dranoff, G. 
Cancer immunotherapy comes of age. 
Nature 480, 480–489 (2011).
(6)
Shah, N. J. et al. 
A biomaterial-based vaccine eliciting durable tumour-specific responses against acute myeloid leukaemia. 
Nat. Biomed. Eng. 4,  40–51 (2020).
(7)
Neelapu, S. S. et al. 
Axicabtagene ciloleucel CAR T-cell therapy in refractory large B-cell lymphoma. 
N. Engl. J. Med. 377, 2531–2544 (2017).
(8)
Fesnak, A. D., June, C. H. & Levine, B. L.
Engineered T cells: the promise and challenges of cancer immunotherapy. 
Nat. Rev. Cancer 16, 566–581 (2016).
(9)
 Nagarsheth, N., Wicha, M. S. & Zou, W. P. Chemokines in the cancer 
microenvironment and their relevance in cancer immunotherapy.  
Nat. Rev. Immunol. 17, 559–572 (2017).
(10)
Tokunaga, R. et al. 
CXCL9, CXCL10, CXCL11/CXCR3 axis for immune activation—a target for novel cancer therapy. 
Cancer Treat. Rev. 63,  40–47 (2018).
(11)
Hu, J. M. et al. 
CXCL9, CXCL10 and IFNγ favor the accumulation of infused T cells in tumours following IL-12 plus doxorubicin treatment. 
J. Immunol. 196, 212.1 (2016).
(12)
Pfirschke, C., Siwicki, M., Liao, H. W. & Pittet, M. J. 
Tumour microenvironment: no effector T cells without dendritic cells. 
Cancer Cell 31, 614–615 (2017).


0 コメント:

コメントを投稿

 
;