いつも記事を読んでくださり、ありがとうございます。
細胞特異的輸送系統で頭の中に継続的にある課題は
薬剤をどこから注入して、
どうやって患部に有効に運ぶか?ということです。
その時に血液、リンパ管、臓器、間質などの輸送経路に対して、
どうやって患部に「誘導されるように」運ぶことができるか?
その可能性をずっと探っていました。
もちろん、
輸送キャリアには患部に特異的に発現されている
表面受容体に親和性を持つような装飾因子を
表面に遺伝子などによって作製することを
想定しています。
その中で「患部の近くにいけば」
特異性を持って働くことができますが、
人の体は大きいですから患部から比較的距離がある時に
そこに選択的に誘導されるように運ばれるためには
どうしたらいいか?
そのことについて考えていました。
生物には「走化性(chemotaxis)」と呼ばれる現象があります。
特定の化学物質の濃度勾配に対して方向性を持った行動を
起こす現象であります。
例えば、
細菌はブドウ糖のような栄養分子の濃度勾配の
もっとも大きな方向に向かって移動します。
(正の走行性)
あるいは毒性物質の場合はその逆に濃度勾配によって
逃げるような動きをします。
(負の走行性)
つまり、
「ランダムに動くのではなく」
自分にとって機会、脅威となるような信号の
勾配を検知して、正しく成長できるように
その方向にある程度の規則性を持って動くということです。
これは、細胞でもそうです。
例えば、
受精の際の精子の運動や
神経細胞やリンパ球の遊走などでもあります。
つまり、
新型コロナウィルスのような脅威となるウィルスを
免疫細胞が信号の勾配によって検知して
そこにリンパ節、脾臓、胸腺、腸などから
患部に近づいて攻撃するような働きを持ちます。
ひょっとするともっと小さな胞である
サイトカイン、ケモカインでも走行性を持つかもしれません。
このような細菌や細胞などを引き寄せる
信号のことを「Chemoattractant」と呼びます。
このような「走化性」「向性(tropism)」を
発揮する輸送媒体、キャリアを選択して
患部まである程度の距離があっても
引き寄せられるようにすれば
その輸送媒体に積載された薬剤や機能性物質は
患部まで有効に運ぶことができます。
人の体細胞、造血系細胞、間葉系細胞などから
作られる幹細胞(iPS細胞も含む)は
癌細胞に対して「正の走化性」「向性(tropism)」
を持つことが知られています(1)。
従って、
他の細胞をできるだけ傷つけずに
癌細胞だけ特異的に治療し、
薬効を上げ、副作用をできるだけ抑える治療を目指す
この薬剤特異的輸送系統において
その輸送媒体として幹細胞を選択することは
非常に有効かもしれないということです。
実際に幹細胞は有効に輸送できるので
癌細胞に対して薬効を持たせて治療する
研究は過去から鋭意行われてきました。
本日はその一部を読者の方と共有したいと思います。
今述べた様に幹細胞は癌に対して正の走化性、向性を
持つので転移したがん細胞も含めて
その輸送効率は高く、系統的な毒性も抑えられている
といわれています(2,3)。
特に神経幹細胞(NSCs)、間葉系幹細胞(MSCs)は
癌治療のキャリアとして共通的に使われます(1)。
理由としては、
・向性が高いことと
・免疫的な刺激、誘発が比較的少ないこと
が挙げられます。
癌組織に引き付けられる、正の走化性を持つ理由は
・化学物質(4)・血管生成因子・炎症信号(5)
これらによるとされています。
従って、
炎症信号を含むということは癌だけではなく、
組織の線維化、炎症、硬化
これらの場合においても向性を示す可能性があります。
今までに幹細胞を薬剤の輸送キャリアとして
使った癌治療については少なくとも4種類あります。
(参考文献(1) Table 1参照)
---------
①抗がん剤など化学療法のキャリア
Enhanced delivery of chemotherapy
---
搭載した機能①
Cytosine deaminase enzyme to convert 5-FC to 5-FU
癌サイトで抗がん性を持つ5-FUに変わる
-
幹細胞種類:神経幹細胞(HB1,F3-CD)
対象の癌:高悪性度の神経膠腫
治験ナンバー:NCT01172964
参考文献:(6)(7)
---
搭載した機能②
Carboxylesterase to convert irinotecan to potent SN-38
癌サイトで抗がん性を持つSN-38に変わる
-
幹細胞種類:神経幹細胞(HB1,F3-CD)
対象の癌:高悪性度の神経膠腫
治験ナンバー:NCT02192359
参考文献:(8)(9)
---
/追記/
多形性神経膠腫は浸潤性が高い脳腫瘍で
極めて高い予後不良の癌種で治療の選択も
限られているという問題があります(10)。
治療効率が上がらない一つの理由としては
脳血管関門があるためです(1)。
従って、
薬剤の輸送効率に問題がありました。
---------
②癌細胞死の誘発剤のキャリア
Targeted induction of apoptosis
---
搭載した機能①
HSV-tk suicide gene
HSV-tk:アポトーシス遺伝子を癌細胞に入れる
-
幹細胞種類:骨髄間葉系幹細胞
対象の癌:進行性の胃腸腺腫瘍
治験ナンバー:NCT02008539
参考文献:(11)
---
搭載した機能②
Expression of TRAIL
RAIL:ネクローシス(細胞死)遺伝子を癌細胞に入れる
-
幹細胞種類:臍帯間葉系幹細胞
対象の癌:転移性の肺腺腫瘍
治験ナンバー:NCT03298763
参考文献:(12)
---------
③癌細胞に浸潤、攻撃するウィルスのキャリア
Delivery of oncolytic virus
---
搭載した機能①
CRAd-Survivin-pk7 oncolytic adenovirus
-
幹細胞種類:神経幹細胞(HB1,F3-CD)
対象の癌:高悪性度の神経膠腫
治験ナンバー:NCT03072134
参考文献:(13)
---
搭載した機能②
Thyroidal sodium iodide symporter-expressing
oncolytic measles virus
-
幹細胞種類:脂肪組織の間葉系幹細胞
対象の癌:再発卵巣がん
治験ナンバー:NCT02068794
参考文献:(14)
-
/追記/
これら癌組織浸潤ウィルスは
NK細胞、樹状細胞、細胞傷害性T細胞を活性化させます(15)。
従って、
免疫機能を誘発しますが、
ウィルスに対するB細胞による獲得免疫によって
中和抗体が発現され、それによって
繰り返し処方された場合には薬効が減少していく
可能性も示唆されています(15)。
ゆえに、
幹細胞で組織近くまで
ウィルスを保護して近接した位置で
ウィルスを放出できるような輸送形態にすることが肝要(15)。
(参考文献(1) Fig.2 イメージ図)
------
④免疫チェックポイント阻害のキャリア
Delivery of checkpoint inhibitor
---
搭載した機能
Conjugated platelets with attached PD-1 antibodies
-
幹細胞種類:造血系幹細胞
対象の癌:白血病
治験ナンバー:preclinical stage
参考文献:(16)
-
/追記/
免疫チェックポイント阻害薬を使った治療は
鋭意行われてきましたが、
骨髄腫、リンパ腫、胃、腎臓、腸の癌において
は課題が残っています
それは鍵となる免疫細胞であるT細胞が
癌組織、土台にうまく浸潤しないために
有効に癌組織を退行させることができませんでした(1)。
そこで造血系幹細胞の表面に
Azide, DBCOの複合体を結合させて
その表面に免疫チェックポイント阻害である
Anti-PD-L1抗体を結合させています(16)。
(参考文献(1) Fig.1(f)より)
これによってインターフェロンやT細胞を刺激し
癌細胞への浸潤性を高めようと試みられています。
ーーーーー
幹細胞を使った薬剤の輸送についても
その選択性を上げるために
標的とする細胞、組織の表面に発現している
受容体を複合体(タンパク質など装飾、複数の受容体)
の要因も考慮に入れながら、
詳しく調べる余地があります。
またその受容体に結合させたときの
生理機序がどうであるか?
過去の膨大な報告を参照しながら、
結合することによる薬効、副作用を評価する事が大事になります。
また、幹細胞そのものである輸送側も
表面に装飾できる糖たんぱく質などの
結合部位を含む突起を遺伝子などの導入によって
精度よく作製できる技術が発展すると
このコンセプトも含めた
細胞特異的輸送系統の適用範囲は広がるものと
考えています。
自分の体細胞を使った幹細胞を薬剤のキャリアにできると、
採取する組織によっては
免疫機能を大きく刺激することなく(1)運ぶことができ
元々体にあるものなので、
生体内での適応度(fitness)も高く
他の人工的に作られた脂質膜、ナノ金属、
あるいはウィスル膜などと比べて
良い結果をもたらす可能性も考えられます。
以上です。
(参考文献)
(1)
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(2)
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(3)
Spaeth, E., Klopp, A., Dembinski, J., Andreeff, M. & Marini, F.
Inflammation and tumor microenvironments: defining the migratory itinerary of mesenchymal stem cells.
Gene Ther. 15, 730–738 (2008)
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The timing of neural stem cell-based virotherapy is critical for optimal therapeutic efficacy when applied with radiation and chemotherapy for the treatment of glioblastoma.
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SnapShot: cancer immunotherapy with oncolytic viruses.
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Conjugation of haematopoietic stem cells and platelets decorated with anti- PD-1 antibodies augments anti- leukaemia efficacy.
Nat. Biomed. Eng. 2, 831–840 (2018).
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