2020年11月26日木曜日

筋組織の幹細胞機能に関わる因子と老化

いつも記事を読んでくださり、ありがとうございます。

組織が損傷を受けた時にそれを治癒、回復するためには
幹細胞が一つとして必要であると考えています。
肝臓のように損傷を受けた時に大きく回復する臓器もあれば
そうではない臓器もあります。
あるいは
皮膚や筋肉など度々損傷を繰り返す部位もあります。
通常は細胞の分化回数に制限をかけるために
テロメアを短くし、それを伸張させるテロメアーゼという
酵素の活性を抑えた状態になっていますが、
幹細胞に関してはテロメアーゼ活性がある状態になっています。
従って、
幹細胞が多くあれば、組織の老化は
抑えられると考えることもできますが、
通常、幹細胞の体の中にある数はかなり少ない
といわれています。
おそらく回復の必要性によって臓器別、部位別で
細胞数に対する幹細胞の割合は異なると推測します。
このような事を考えると一つとして
歳を重ねた時に幹細胞の働きがどう変わるか?
というのを知ることは重要になります。

Laura García-Prat氏ら研究グループは筋肉の幹細胞が
幹細胞の正常な機能と不全がどのような因子によるか
ということと、
それに対する年齢の影響について調べています(1)。

身体の中にある幹細胞は通常は細胞としての機能は
休止しているといわれています(1)。
組織に損傷が生じるとそれを修復しようと
休止していた幹細胞の活動が活発化して
上述した筋組織であれば、
新しい筋組織を分化することによって形成して
また幹細胞自身の数を保つように自己更新して
組織としての修復を含めた恒常性を保ちます(2,3)。
しかしながら
幹細胞にも年齢があって老化が確認されています。
その中で組織の再生機能が弱体化し、
とりわけ度々再生を繰り返す筋組織においては
顕著な例として挙げられています(4,5)。
そのように幹細胞の再生の機能の程度は
様々な因子が関わっていますが、
筋組織の幹細胞の表面に現れている受容体としては
CD34が強い関連性を持っています(1,6-10)。
CD34が多い時には幹細胞として
通常の状態(genuine state)
それが少ない時には
不全の状態(primed state)となっています(1)。

CD34が多く、正常な時には
Dcn, Igfbp6, Notch3, Ryr3, Cd34 
CD34が少なく、不全の時には
Myog (Myogenin), Tmem8c(Mymk;Myomaker), Actc1
これらの遺伝子が代表的に
それぞれ亢進していることがわかっています(1)。
また、
FOXタンパク質が老化と関わっている事は
以前から知られていますが(11-13)、
筋組織の幹細胞の機能に関わるFOXO1,3,4は
クロマチンのCD34を強めることがわかっています。
またこれらのタンパク質を欠落させると
Myogの遺伝子を亢進させることがわかっています(1)。
従って、
FOXタンパク質は少なくとも筋組織の
幹細胞の機能に関わっていて、
それが欠損すると幹細胞は機能不全になるということです。
また、幹細胞に関しては
細胞の成長や生死のサイクルに関わるAkt信号は
筋組織の幹細胞の機能を弱める可能性が示唆されています。
また
この信号はFOXOタンパク質と関係があります(1)。
従って、
幹細胞のAkt信号を抑える事と
FOXOタンパク質の機能を維持することは
幹細胞の機能を保ち、筋組織の再生能力を保持する上での
一つの治療戦略となります(1)。

マウスの実験において
年齢別に筋組織の幹細胞から発現する遺伝子の特徴を
分析して、その類似性を評価したところ、
高齢になっても一定の年齢までは
若い頃と類似性の高い遺伝子の発現が見られましたが、
後期高齢、老年になると
一気にその遺伝子の特徴が変わることがわかりました。
(参考文献(1) Fig.3(c)(d)より)
このことから
老年になると一気に幹細胞の機能低下が起こる事が
マウスの筋組織のケースで示唆されています(1)。

(追記)
人の寿命は今のところ最高で120歳くらいです。
100歳を超える人が多くなりましたが、
ある人が特異的に150歳や200歳まで生きることがないのは
ひょっとすると
超高齢になると上述したように
「一つとして」幹細胞の機能が
一気に変わるからかもしれません。
例えば、
皮膚の組織、細胞の状態の変化も
超高齢の方の外見から推測することもできます。
従って、
今回のマウスの筋細胞の結果が
他の臓器、組織の細胞
あるいは人でも同じように当てはまるか?
という研究は意味を持つと考えます。

(参考文献)
(1)
Laura García-Prat, Eusebio Perdiguero, Sonia Alonso-Martín, Stefania Dell’Orso, Srikanth Ravichandran, Stephen R. Brooks, Aster H. Juan, Silvia Campanario, Kan Jiang, Xiaotong Hong, Laura Ortet, Vanessa Ruiz-Bonilla, Marta Flández, Victoria Moiseeva, Elena Rebollo, Mercè Jardí, Hong-Wei Sun, Antonio Musarò, Marco Sandri, Antonio del Sol, Vittorio Sartorelli & Pura Muñoz-Cánoves 
FoxO maintains a genuine muscle stem-cell quiescent state until geriatric age
Nature Cell Biology volume 22, pages1307–1318(2020)
(2)
Brack, A. S. & Rando, T. A. 
Tissue-specific stem cells: lessons from the skeletal muscle satellite cell. 
Cell Stem Cell 10, 504–514 (2012).
(3)
Feige, P., Brun, C. E., Ritso, M. & Rudnicki, M. A. 
Orienting muscle stem cells for regeneration in homeostasis, aging, and disease. 
Cell Stem Cell 23, 653–664 (2018).
(4)
Hwang, A. B. & Brack, A. S. 
Muscle stem cells and aging. 
Curr. Top. Dev. Biol. 126, 299–322 (2018).
(5)
Sousa-Victor, P., Garcia-Prat, L., Serrano, A. L., Perdiguero, E. & Munoz-Canoves, P. 
Muscle stem cell aging: regulation and rejuvenation. 
Trends Endocrinol. Metab. 26, 287–296 (2015).
(6)
Sidney, L. E., Branch, M. J., Dunphy, S. E., Dua, H. S. & Hopkinson, A. 
Concise review: evidence for CD34 as a common marker for diverse progenitors. 
Stem Cells 32, 1380–1389 (2014).
(7)
Beauchamp, J. R. et al. 
Expression of CD34 and Myf5 defines the majority of quiescent adult skeletal muscle satellite cells. 
J. Cell Biol. 151, 1221–1234 (2000).
(8)
van Velthoven, C. T. J., de Morree, A., Egner, I. M., Brett, J. O. & Rando, T. A. 
Transcriptional profiling of quiescent muscle stem cells in vivo. 
Cell Rep. 21, 1994–2004 (2017).
(9)
Alfaro, L. A. et al. 
CD34 promotes satellite cell motility and entry into proliferation to facilitate efficient skeletal muscle regeneration. 
Stem Cells 29, 2030–2041 (2011).
(10)
Lee, J. Y. et al. 
Clonal isolation of muscle-derived cells capable of enhancing muscle regeneration and bone healing. 
J. Cell Biol. 150, 1085–1100 (2000).
(11)
Giampaolo Calissi, Eric W.-F. Lam & Wolfgang Link 
Therapeutic strategies targeting FOXO transcription factors
Nature Reviews Drug Discovery (2020)
(12)
Morris, B. J., Willcox, D. C., Donlon, T. A. & Willcox, B. J. 
FOXO3: a major gene for human longevity - a mini-review.
Gerontology 61, 515–525 (2015).
(13)
Singh, P. P., Demmitt, B. A., Nath, R. D. & Brunet, A. 
The genetics of aging: a vertebrate perspective. 
Cell 177, 200–220 (2019).


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