2020年11月17日火曜日

運動による脳機能の長期維持の可能性

いつも記事を読んでくださり、ありがとうございます。

薬剤の事について日々考えていると
そのメリットについてもちろんわかりますが、
不利な点も見えることがあります。
この細胞特異的輸送系統でも言えることですが、
極めてピンポイントに病変部位を狙って
治療することを目的としているので
仮に薬剤で治療する場合には
その効果は「特異性が強い」です。
でも実際は
体はいろんな臓器、組織が連携しているので
特異的治療を施した時に
そのバランスはどうなるか?
という懸念もあります。
また因果関係の多様性の中で
本当にピンポイントの治療だけでいいのか?
という疑問もあります。
そうしたデメリットに対して利点を持つのは
日常生活の中にあると考えています。
例えば、
「運動」「日光浴」「温熱」などです。
その中の運動による体への効果は
特定の薬剤を使う効果よりも
ピンポイントではなく、顕著ではないですが、
広範であると言えると思います。
歩行や走行をすれば、
体全身を使うことになります。
筋肉や骨だけではなく、
臓器、血管、血液にも影響があります。
そうした時に
「寿命を延ばす」
「中高齢になっても生活の質を上げる」
ということを考えるときには、
そういった生活習慣は無視できないと考えられます。
分野で言うと「予防医学」ということになります。

特に今述べた「運動」に関しては
自分の実感も加えて考えると
「脳」への作用が比較的大きいと考えています。

将来的に
・臓器移植しても拒絶反応が起こらない
・臓器を自己回復できる
・自分の体細胞で臓器が作れる
・体になじむ保護、補助装置ができる
、、、、
このような事が可能になった場合には
仮に心臓の機能が他の組織に比べて著しく悪く、
バランスが崩れている事が分かった時には
上のような技術、臨床実績があれば、
今よりも安価で、安全で、良い形で
修復や移植ができるかもしれません。
しかし、
中には難しい臓器があって
例えば、
脳の移植に関してはどうでしょうか?
それに対するリスクは考えられる事は多くあります。
機能としてどうか?
という問題だけではないのは自明です。
そうしたことを考えると
寿命を延ばすためには、
脳は少なくともきっちりメンテナンス、
機能の維持をしておきたいというのがあります。
老年医学を専門とされる先生は
後期高齢の時期になると
脳に何らかの解剖的にもわかる異常がみられる
ことが多いといわれていました。

先ほど述べた運動もリスクがないわけではありません。
活性酸素が増えるという話もありますし、
怪我のリスクもありますし、
程度を間違えると臓器不全の可能性もあります。
しかし、
人の進化の歴史を見ると
狩猟採取の時代が一番長く
その間に遺伝が多く行われて子孫が選択されてきた
と考えることができます。
そうした中で
その生活に適応した遺伝子が残っているとすると
その生活を分析することは大事です。
人は多くの距離移動してきた歴史があります。
従って、
よく走り、歩きました。
そうすると
歩行や走行への身体の適合性は高いのではないか?
と推測することもできます。
あるいは
女性は家庭を守っていたとすれば、
女性の方が動かない時のリスクが小さいかもしれない
と考えることもできます。
実際に女性は肥満になっても男性と比べて
・内臓脂肪がつきにくい
・インスリン感受性が高い
・炎症が起こりにくい
・レプチン、アディポネクチンレベルが高い
・HDLコレステロールが高い
・LDLコレステロールが低い
といわれており(1)、
肥満になった時のリスクが小さいと考えられています。
いろんな要素があると思いますが、
狩猟採取の時代の男女の生活様式の違いが
要因の一つかもしれないと
仮説の域を出ませんが考えることもできます。
・肥満になった時のリスク
・狩りに出ていた生活
・筋肉の運動性の高さ
これらを考えると
男性は運動のメリットは高いかもしれない
と考える事もできます。

そこで運動と脳の疾患(Neurology)の
関連について調べてみました。
本日は、運動による予防医学、
寿命の延長の観点も踏まえながら、
読者の方と情報共有したいと思います。

運動は神経生成や脳由来栄養因子を高めることで
アルツハイマー病を予防するかもしれません(2)。
マウスのモデルで運動により
・アミロイドβレベルの減少
・脳由来神経栄養因子の向上
・記憶能力の向上
が診られました。
一方、遺伝子的、薬学的治療で神経生成を
運動の介入なしで行った結果、
記憶能力に関する向上はみられませんでした(3)。

子どもの脳腫瘍の放射性治療の後、
12週間のプログラムで運動の効果を見た結果
・脳神経の接続性
・海馬の大きさ
・脳の反応性
これらの向上が見られました(4,5)。

6月に渡る週3回の有酸素運動のプログラムを
脳の血管障害のある高齢の方70名に行った結果
・認知機能
・最低血圧
これらの数値が向上しました。
しかしながら、介入を中止し6か月後には
また運動の有無における差はみられませんでした(6,7)。
従って、生涯にわたる持続的な運動が必要である
可能性を示唆しています。

2年にわたるレジスタンストレーニングを終えた
20名のパーキンソン病で認知機能が低下している
患者さんにおいて
・ワーキングメモリ
・反応時間
・(心理)選択的注意(selective attention)
これらの向上が見られました(8,9)。

ALS(amyotrophic lateral sclerosis)
筋萎縮性側索硬化症に対して
----
動物のモデルでは
高い強度のレジスタンストレーニングでは
逆効果であったとされていますが、
低い強度のレジスタントレーニングでは
良い効果があるかもしれないと考えられています(10)。
----
人に対して
10人:四股のストレッチ
8人:四股のストレッチ+レジスタンストレーニング
期間:6か月間
副作用により中止された患者さんはいない
the ALS Functional Rating Scale (ALSFRS) score
と呼ばれる指標において
ストレッチ+レジスタンスのグループは
ストレッチだけよりも顕著に改善が見られました。
しかしながら、
心理的に負担になるようなトレーニングは
避ける必要があるとされており、
患者さんの負担、サポートを考えることが大事であり、
まだ最適なプログラムは定義されていない
とされています(10,11)。

いくつかの研究では
運動により人の気持ちが心地よくなる効果が
報告されています。
しかしながら、分子生物学的な機序は
よくわかっていませんでした(12)。
Hunsberger JG氏らの研究によれば、
マウスのモデルですが、
運動によって海馬から辺縁系の構造において
抗鬱の反応を示す連続した信号がみられたとされています(12,13)。
その中で神経栄養因子信号の一つである
VGF神経成長因子をコード化した遺伝子の発現の
上昇が見られたとされています(13)。
従って、
鬱の治療においても
もちろん無理のない範囲ではありますが、
運動の効果も有効である可能性があります。

ベッカー型筋ジストロフィーにおいて
11人の男性
最高酸素摂取量の65%の心拍でサイクリング30分
12週間のトレーニング
すべての患者さんで筋力の向上が見られる
筋力のダメージを示すクレアチンキナーゼ上昇なし
筋肉の形態の顕著な変化はなし
歩ける距離も長くなる(14,15)
従って、
運動強度を中程度の制限した状態で
持続的な運動を管理下で行うことによって
病状の改善が見らえる可能性があります。

女性の若い人で悩む人が多い片頭痛ですが、
薬剤によるアプローチではなく
運動による治療も効果的である可能性があります。
40分週三回の運動を3か月間
①運動、
②リラックス療法(呼吸、ストレス管理)
③topiramateによる薬剤療法
片頭痛頻度の改善率
①7% ②17% ③3%でした。
少なくとも運動は薬剤と同程度がそれ以上の
効果がある可能性が示唆されています。
ただし、その効果は「この調査、条件の場合は」
顕著ではありません(16,17)。

脳の疾患に対して運動は
比較的広範に効果が確認されています。
もちろん、その程度をどうするか?
という非常に難しい問題はありますが、
大切な事は「無理のない範囲、頻度で」
一生続ける事だと思います。
それによって脳の疾患のリスクを
予防的に下げることが期待できます。

以上です。

(参考文献)
(1)
Gijs H. Goossens, Johan W. E. Jocken & Ellen E. Blaak 
Sexual dimorphism in cardiometabolic health: the role of adipose tissue, muscle and liver
Nature Reviews Endocrinology (2020)
(2)
Charlotte Ridler 
Exercise wards off Alzheimer disease by boosting neurogenesis and neuroprotective factors
Nature Reviews Neurology volume 14, page632(2018)
(3)
Choi, S. H. et al. 
Combined adult neurogenesis and BDNF mimic exercise effects on cognition in an Alzheimer’s mouse model. 
Science 361, eaan8821 (2018)
(4)
Hemi Malkki 
Exercise could help to counteract radiation damage in children with brain tumours
Nature Reviews Neurology volume 12, page555(2016)
(5)
Riggs, L. et al. 
Exercise training for neural recovery in a restricted sample of pediatric brain tumor survivors: a controlled clinical trial with crossover of training versus no training. 
Neuro Oncol. http://dx.doi.org/10.1093/neuonc/now177 (2016)
(6)
Hemi Malkki 
Exercise alleviates vascular cognitive impairment
Nature Reviews Neurology volume 12, page679(2016)
(7)
Liu-Ambrose, T. et al. 
Aerobic exercise and vascular cognitive impairment. 
Neurology http://dx.doi.org/10.1212/WNL.0000000000003332 (2016)
(8)
Exercise could improve cognition in Parkinson disease
Nature Reviews Neurology volume 11, page427(2015)
(9)
David, F. J. et al. 
Exercise improves cognition in Parkinson's disease: the PRET-PD randomized, clinical trial. 
Mov. Disord. 10.1002/mds.26291
(10)
Resistance exercise slows functional decline in amyotrophic lateral sclerosis
Nature Clinical Practice Neurology volume 3, page480(2007)
(11)
Dal Bello-Haas V et al.
A randomized controlled trial of resistance exercise in individuals with ALS. 
Neurology 68: 2003–2007 (2007) 
(12)
Exercise-regulated neurotrophic signaling cascade: a potential target for antidepressants
Nature Clinical Practice Neurology volume 4, pages123–124(2008)
(13)
Hunsberger JG et al.
Antidepressant actions of the exercise-regulated gene VGF. 
Nat Med 13: 1476–1482 (2007) 
(14)
Moderate exercise is safe and improves fitness in patients with Becker muscular dystrophy
Nature Clinical Practice Neurology volume 4, page638(2008)
(15)
Sveen ML et al. 
Endurance training improves fitness and strength in patients with Becker muscular dystrophy. 
Brain [doi:10.1093/brain/awn189](2008) 
(16)
Katy Malpass 
Exercise is effective as a nonpharmacological approach to reduce the frequency of migraines
Nature Reviews Neurology volume 7, page596(2011)
(17)
Varkey, E. et al. 
Exercise as migraine prophylaxis: a randomized study using relaxation and topiramate as controls. 
Cephalalgia doi: 10.1177/0333102411419681


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