例えば、細胞核内の特定の遺伝子を改変し、
遺伝子治療を行うためには
オフターゲットが無いように
特定の細胞に輸送し、細胞質を通って
核内の特定の遺伝子に作用させる必要があります。
標的となる重要な遺伝子が明らかになり、
その遺伝子を編集したり、
活性を変える事ができれば、
1つ、根本的な治療になりますが、
それを阻んでいるのが細胞特異的な標的性が
困難であるからであると理解しています。
例えば、癌など様々な疾患で
全ゲノム関連遺伝子評価が行われています。
それによって、場合によれば、数百個以上の
遺伝子異常が確認されることがありますが、
病気において重要な複数の遺伝子を見つける事も出来ます。
このような解析を有効にするためには
1つの大きな柱となるのが遺伝子治療です。
重要な遺伝子異常を標的として、
その遺伝子を改変する事ができれば、
病状が改善する可能性があります。
しかし、上述したように
その組織に有効に、特異的に核酸を輸送し、
さらには無数の膜を超えて細胞核まで届けるには
いくつかの大きなハードルがあります。
また、全ゲノム関連遺伝子評価から
標的とする遺伝子(群)を絞り込むところにも
まだ課題がある可能性があります。
個人差が大きければ、それも阻害要因となります。
そのような標的性以外にも
導入するナノ粒子が
例えば免疫的な拒絶反応が起こらないような
生体内で安全なものが強く求められています。
上述した免疫系は異物に対する高い除去能力を持っています。
通常、静脈注射などによる循環器を通した輸送では
血中に多種多様な免疫細胞が存在しているので
その複雑な監視を逃れる必要があります。
そのため特にナノ粒子の生体に対する互換性や
ナノ粒子表面の特性が重要になります。
RNAやDNAなどの核酸の輸送における
ナノ材料、ナノ粒子は上述した課題がありますが、
それらを満たす潜在性を有しています。
また、ナノ粒子を使う事によって
特定の遺伝子をオフ/オンにする遺伝子治療だけではなく
〇生物的な分析
〇タンパク質の補充、生成
〇ワクチン
これらにも応用することができます。
例えば、生物学的分析では
マーカー遺伝子、遺伝子のバーコード化によって、
ナノ粒子が標的細胞に届いたかどうか?
といった検査にも使うことができます。
また、遺伝子はタンパク質を生み出す元となる物質なので
タンパク質の分析、補充、生成を
人為的に行うことができます。
ワクチンにおいて
実際に新型コロナウィルスで使われた
mRNAワクチンは上述したナノ粒子によって
自然免疫系細胞まで輸送されていると考えられています。
このワクチンは樹状細胞などで
大量の新型コロナウィルスのSタンパク質を生み出し、そ
れを抗原とした免疫反応を
利用していると考えられています。
従って、ナノ粒子、mRNA(核酸)の技術は
現在ワクチンでは広く普及しています。
ーー
Bárbara B. Mendes, João Conniot, Aviram Avital, Dongbao Yao, Xingya Jiang, Xiang Zhou, Noga Sharf-Pauker, Yuling Xiao, Omer Adir.
(敬称略)ら医療研究グループは
効果的な核酸の輸送デザインの方法と
それによる診断や治療の効果について総括されています(1)。
ナノ粒子を使った医療は
研究、開発における標準化、言語化から
臨床デザインまですべての相で新たな変化が必要です。
従って、仮に動物実験で良い結果が出たとしても
実用化するまでに多くのハードルがあります。
Bárbara B. Mendes氏らは次の10年で
研究団体が直面する主要な挑戦についての展望を示しています。
その内容の一部と追記を読者の方と
情報共有したいと思います。
//肝臓以外の標的化//ーー
核酸のナノ粒子による輸送の困難性は
臓器や、細胞特異的な輸送を行うことです。
それを行うためにはナノ粒子の生体内分布を
制御する必要があります(2)。
核酸によるナノ医療の臨床的な成功は
肝臓を標的化するか、患部局所的な投与に限定されています。
核酸の輸送を含めたナノ医療の可能性を考えると
肝臓以外の臓器、組織、細胞への輸送は高く求められます。
このような臓器、組織、細胞向性を持つ輸送技術は
現在、学術界、産業界で積極的に開発されています。
脂質ナノ粒子の材料構成を調整することによって
肺へ選択的遺伝子編集のための
Cas9mRNA/sgRNAの全身への輸送が実現しています(3,4)。
生体内のスクリーニングによって
脂質の材料構成(例えば、コレステロール構造変異)は
肝臓の内皮細胞へのRNA輸送を制御する上で
非常に重要な要素であることが示されています(5)。
ポリマーの場合はより効率的に材料構成を
調整することができます。
それにより核酸輸送システムにおいて
循環器などの経路で、
意図しないタンパク質のナノ粒子への付着(コロナ、デブリ)
を防ぐことができます。
新しい生物物質やナノ粒子設計、製法の開発は
急速に進んでいます。
一方で、
ナノ粒子を介した臓器、組織、細胞への
走化性、向性の理解は進んでいません。
従って、ナノ医療における基礎的な生物物理の理解が
様々なナノ粒子条件での試行に比べて遅れているということです。
臨床的に承認されたsiRNAの脂質ナノ粒子(Onpattro)が
肝臓細胞に有効に輸送される理由は
静脈注射の後、血中でナノ粒子表面に付着した
アポリポタンパク質(ApoE)によると考えられています(6)。
この事は、ナノ粒子表面のタンパク質が
特定の臓器、組織、細胞に結合親和性を持つように
特異的に設計され、それが体内で維持されると
それぞれに走化性、向性を持つことができるかもしれない
ことを示しています。
前述したように血中のタンパク質やその他の物質が
ナノ粒子に引き寄せられて吸着し、
その機能を変えることが考えられるので、
その相互作用について理解する事が重要です。
特にナノ粒子の
ゼータ電位、表面電荷などに関わる物理化学特性が
どのように生体内の生物学、生理に影響を与えるか
を理解する事に寄って
細胞種特異的な(Cell-type-specific)輸送が可能になります。
遺伝子編集の為の核酸の輸送では
オフターゲットを防ぐ必要があるため、
肝臓を超えた他の臓器への適用において、
このような走化性、向性を得る事が求められます。
//実験データの標準化、再現性の課題//ーー
学術界だけに限らず、産業界においても
実験や製品に関わるデータの評価基準が定められていて
それに則した表記でそのデータを示す必要があります
つまり、データの透明性を示すということです。
あるいは、優れた研究結果であっても
その科学論文を見た後、他の研究者が
それと同様の結果を再現できる必要があります。
特定の優れた機能を持つナノ粒子も
示された同じ方法で作製すれば、
その結果において再現性が得られる必要があります。
しかしながら、
ナノ粒子は非常に細かに機能化されています。
全く同じ脂質ナノ粒子を
製造方法がわかっている同じ団体が作り直したとしても
その結果にバラツキ、偏差が生じていしまう可能性があります。
特に細胞種特異的なナノ粒子であれば、
それは感受性の高さを意味しますから、
再現性を得る事が難しいと考えられます。
その様な問題は、細胞外小胞であるエクソソームを
ナノ粒子として採用する場合はより顕著です。
生体内の細胞外小胞の材料構成、表面リガンド群は
より複雑だからです。
--
その製造方法においてポリマーは
核酸を封入したり、胞の外側のリガンドに結合させたりします。
しかし、このような方法は、
自己組織化ができる脂質ナノ粒子よりも
製造バラツキが大きいことが知られています(7)。
一方で、自己組織化の手法でも
製造スケールを大きくすることで
同様の特性偏差が生じてしまいます。
それを解決するために一つ一つのナノ粒子の
製造制御性を高めるためにマイクロ流体合成を使ったり、
あるいは成形押出技術(Extrusion technique)を使います。
最終的には特性が揃っているかどうか確認する
評価手法が必要です。それを元に
スクリーニング、精製する必要があります。
スクリーニングや精製を画像を元に行う際には
人工知能、機械学習を利用できる可能性もあります。
--
上述したように実験結果に大きく影響を与える
ナノ粒子の製造段階でのばらつきは
アカデミックバリューチェーンの上流側にある
研究段階から検討する必要があります。
早い段階で、お互いの価値観やポートフォリオの
一致性を確かめ、連携が得られれば、
製造技術などにおいて高い技術を保有している
産業界と学術界が連携することです。
つまり、産業界からナノ粒子のサンプルの提供を受け
それを元に再現性ある研究データの取得
その後の開示を行う事です。
あるいは、生産技術を研究している分野と
分野横断的にナノ粒子医療について研究する事も
1つの手法であると考えられます。
それだけ、ナノ粒子を使った研究は
その製造が大切であるという事が示されます。
//個別化医療のための人工知能//ーー
ナノ粒子の特性を一つ一つ従来の方式でチェックしていく事は
非常に骨の折れる作業です。時間、コストがかかります。
従って、ナノ粒子や核酸配列のデザインから評価まで
計算モデルや人工知能を組み込んでいくことが
考えられています(12-14)。
例えば、mRNAであれば転写されない領域の
構造はその安定性や転写効率に影響を与えます。
それを計算モデル、人工知能によって
最適化する事などが考えられます(15)。
タンパク質の構造予測の報告が増えているように、
ナノ粒子、内容物の設計、評価などにおいて
仮想的に評価できる空間が生まれると
実験データの信頼性、スループット効率などにも
影響を与える可能性があります。
個別化医療は
基礎から応用に至るトランスレーショナル医療において
あらゆるステップの変更が必要なので、
タンパク質構造予測、画像診断などで
普及しつつある人工知能をどのように利用するかは
1つの焦点です。
//mRNAワクチンとナノ医療について//ーー
上述したようにナノ粒子の制御性の問題はありますが、
すでに大量生産を可能にしたナノ粒子医療が
新型コロナウィルスワクチンによって実現されました。
このワクチンでは脂質ナノ粒子でmRNAワクチンの輸送が
可能になっています。
この脂質ナノ粒子がナノ粒子として
循環器内でどのように特異的に輸送されているか?
その生体内分布については
まだ理解が進んでいない可能性がありますが、
安全、量産性、急速な発展、高い効果、安価。
これらを持って普及させる事が可能になっています。
このいわば「成功」によって
ナノ粒子を使った核酸輸送の次の発展につながる
と考える事ができます。
特にハードルが高いと考えられる
健康な人に接種することができたという事は
大きなマイルストーンになると考えられます。
--
新型コロナウィルスが流行する前は
それを想定していたわけではないので、
〇癌
〇HIV
〇マラリア
〇エボラ出血熱
〇狂犬病
〇ジカウィルス
これらについてmRNAワクチンが検討されています(8-10)。
これらのワクチンにおいては課題もあります。
発展途上国までに十分行き届かなかったことが挙げられます。
製造が間に合わなかったことと、
購入するための資金を先進国に依存する必要があったことなど
が挙げられています(11)。
mRNAワクチンによって感染症を抑圧するためには
発展途上国から広がる事もあるので、
技術供与なども考える必要があります。
ナノ粒子医療においては、
まずは臨床承認をどのように得るか言う前段階にありますが、
mRNAワクチンに関しては、その次の段階に進んでいます。
つまり、世界的にどう普及させるかというステージです。
前段階にある現状で、現時点から考えられることは
研究、開発、製造の段階での国際的な協力において
その集団を先進国だけにするのではなく、
将来的な事も含めて発展途上国の研究者の方、団体を
加える事も検討する余地があります。
mRNAワクチンでもわかったように
有事の際に現地で製造できる環境にあれば、
普及不均等の課題のいくつかは超えられた可能性があるからです。
(参考文献)
(1)
Bárbara B. Mendes, João Conniot, Aviram Avital, Dongbao Yao, Xingya Jiang, Xiang Zhou, Noga Sharf-Pauker, Yuling Xiao, Omer Adir, Haojun Liang, Jinjun Shi, Avi Schroeder & João Conde
Nanodelivery of nucleic acids
Nature Reviews Methods Primers volume 2, Article number: 24 (2022)
(2)
Han, X., Mitchell, M. J. & Nie, G. Nanomaterials for
therapeutic RNA delivery. Matter 3, 1948–1975
(2020).
(3)
Liu, S. et al. Membrane-destabilizing ionizable
phospholipids for organ-selective mRNA delivery and
CRISPR–Cas gene editing. Nat. Mater. 20, 701–710
(2021).
(4)
Cheng, Q. et al. Selective organ targeting (SORT)
nanoparticles for tissue-specific mRNA delivery and
CRISPR–Cas gene editing. Nat. Nanotechnol. 15,
313–320 (2020)
(5)
Paunovska, K. et al. Analyzing 2000 in vivo drug
delivery data points reveals cholesterol structure
impacts nanoparticle delivery. ACS Nano 12,
8341–8349 (2018).
(6)
M Van Eck et al.
Essential role for the (hepatic) LDL receptor in macrophage apolipoprotein E-induced reduction in serum cholesterol levels and atherosclerosis
Atherosclerosis. 2001 Jan;154(1):103-12.
(7)
Vaughan, H. J., Green, J. J. & Tzeng, S. Y.
Cancer-targeting nanoparticles for combinatorial
nucleic acid delivery. Adv. Mater. 32, 1901081 (2020).
(8)
Chakraborty, C., Sharma, A. R., Bhattacharya, M. &
Lee, S.-S. From COVID-19 to cancer mRNA vaccines:
moving from bench to clinic in the vaccine landscape.
Front. Immunol. 12, 2648 (2021).
(9)
Tombácz, I., Weissman, D. & Pardi, N. in Vaccination
with Messenger RNA: A Promising Alternative to
DNA Vaccination BT - DNA Vaccines: Methods
and Protocols (ed. Sousa, Â.) 13–31 (Springer US,
2021).
(10)
Maruggi, G., Zhang, C., Li, J., Ulmer, J. B. & Yu, D.
mRNA as a transformative technology for vaccine
development to control infectious diseases. Mol. Ther.
27, 757–772 (2019).
(11)
Fundytus, A. et al. Access to cancer medicines
deemed essential by oncologists in 82 countries:
an international, cross-sectional survey. Lancet Oncol.
22, 1367–1377 (2021).
(12)
Yamankurt, G. et al. Exploration of the
nanomedicine-design space with high-throughput
screening and machine learning. Nat. Biomed. Eng. 3,
318–327 (2019).
(13)
Shamay, Y. et al. Quantitative self-assembly prediction
yields targeted nanomedicines. Nat. Mater. 17,
361–368 (2018).
(14)
Yesselman, J. D. et al. Computational design of
three-dimensional RNA structure and function.
Nat. Nanotechnol. 14, 866–873 (2019).
(15)
Leppek, K. et al. Combinatorial optimization of mRNA
structure, stability, and translation for RNA-based
therapeutics. Preprint at bioRxiv https://doi.org/
10.1101/2021.03.29.437587 (2021).
(16)
Melanie S. Brucks & Jonathan Levav
Virtual communication curbs creative idea generation
Nature (2022)
2022年4月30日土曜日
Cell-type-specific delivery system,
遺伝学/遺伝子治療,
医療工学
Author correction: ナノ粒子による核酸の輸送(13)-将来の展望-
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