2022年4月26日火曜日

ナノ粒子による核酸の輸送(11)-応用-

例えば、細胞核内の特定の遺伝子を改変し、
遺伝子治療を行うためには
オフターゲットが無いように
特定の細胞に輸送し、細胞質を通って
核内の特定の遺伝子に作用させる必要があります。
標的となる重要な遺伝子が明らかになり、
その遺伝子を編集したり、
活性を変える事ができれば、
1つ、根本的な治療になりますが、
それを阻んでいるのが細胞特異的な標的性が
困難であるからであると理解しています。

例えば、癌など様々な疾患で
全ゲノム関連遺伝子評価が行われています。
それによって、場合によれば、数百個以上の
遺伝子異常が確認されることがありますが、
病気において重要な複数の遺伝子を見つける事も出来ます。
このような解析を有効にするためには
1つの大きな柱となるのが遺伝子治療です。
重要な遺伝子異常を標的として、
その遺伝子を改変する事ができれば、
病状が改善する可能性があります。
しかし、上述したように
その組織に有効に、特異的に核酸を輸送し、
さらには無数の膜を超えて細胞核まで届けるには
いくつかの大きなハードルがあります。
また、全ゲノム関連遺伝子評価から
標的とする遺伝子(群)を絞り込むところにも
まだ課題がある可能性があります。
個人差が大きければ、それも阻害要因となります。

そのような標的性以外にも
導入するナノ粒子が
例えば免疫的な拒絶反応が起こらないような
生体内で安全なものが強く求められています。
上述した免疫系は異物に対する高い除去能力を持っています。
通常、静脈注射などによる循環器を通した輸送では
血中に多種多様な免疫細胞が存在しているので
その複雑な監視を逃れる必要があります。
そのため特にナノ粒子の生体に対する互換性や
ナノ粒子表面の特性が重要になります。

RNAやDNAなどの核酸の輸送における
ナノ材料、ナノ粒子は上述した課題がありますが、
それらを満たす潜在性を有しています。
また、ナノ粒子を使う事によって
特定の遺伝子をオフ/オンにする遺伝子治療だけではなく
〇生物的な分析
〇タンパク質の補充、生成
〇ワクチン
これらにも応用することができます。
例えば、生物学的分析では
マーカー遺伝子、遺伝子のバーコード化によって、
ナノ粒子が標的細胞に届いたかどうか?
といった検査にも使うことができます。
また、遺伝子はタンパク質を生み出す元となる物質なので
タンパク質の分析、補充、生成を
人為的に行うことができます。
ワクチンにおいて
実際に新型コロナウィルスで使われた
mRNAワクチンは上述したナノ粒子によって
自然免疫系細胞まで輸送されていると考えられています。
このワクチンは樹状細胞などで
大量の新型コロナウィルスのSタンパク質を生み出し、そ
れを抗原とした免疫反応を
利用していると考えられています。
従って、ナノ粒子、mRNA(核酸)の技術は
現在ワクチンでは広く普及しています。
ーー
Bárbara B. Mendes, João Conniot, Aviram Avital, Dongbao Yao, Xingya Jiang, Xiang Zhou, Noga Sharf-Pauker, Yuling Xiao, Omer Adir. 
(敬称略)ら医療研究グループは
効果的な核酸の輸送デザインの方法と
それによる診断や治療の効果について総括されています(1)。
その内容のうち応用の内容の一部を
読者の方と情報共有したいと思います。

核酸ベースの治療は薬剤による治療の景観を変えるものです。
なぜなら、下流の生理経路であるタンパク質に作用するのではなく、
大元の遺伝子を標的にするからです。
従って、難治性の疾患に対しても長く続く、
もしくは完治するような結果が期待されます。
以下にナノ粒子ベースの核酸輸送の応用について記述します。

//タンパク質補充//ーー
タンパク質補充療法は特定のタンパク質コードのmRNAを
輸送する事を通して、病気によって生み出された
不全を正すものです。
治療の選択肢のうち有望な方法の一つであると言われています(2)。
脂質ナノ粒子を利用したmRNAの全身への輸送は
〇血友病
〇肝臓線維化
〇肺線維化
〇代謝性疾患
これらに対して前臨床試験で行われ、
タンパク質補充療法として評価されています(2)。
動物での試験における
人の赤血球生成因子であるエリスロポエチンの生成の成功は
脂質ナノ粒子にmRNAを積載し、全身に投与することで
達成されました(3)。
いくつかのmRNAを積載したナノ粒子は
マウスの肝臓でHIV-1に対する抗体のような
治療効果のある抗体の生成のための使用を前提として
開発されています。
モデルナ社による臨床試験(NCT03829384)では
チクングンヤ熱ウィルスに対する抗体を分泌するように
コード化されたmRNA積載ナノ粒子の全身への投与における
効果が調べられています。
また、mRNA積載ナノ粒子は以下の癌抑制物質の
生成の為に使われます。
〇PTEN(phosphatase and tensin homologue deleted on chromosome 10)
〇p53
それによって癌の成長を抑えるだけではなく、
化学療法や免疫チェックポイント療法など
他の治療への感度を向上させます(4-6)。
このようなたんぱく質の生成は
新型コロナウィルスワクチンにおける
Sタンパク質の生成でも利用され、広く普及しています。

//ワクチンと免疫療法//ーー
核酸ベースのワクチンは
新型コロナウィルス感染症のパンデミックに立ち向かうため
迅速なプロセスを経て、開発、普及しています。
代表的なものは
〇BNT162b2(Pfizer/BioNTech)
〇mRNA-1273(Moderna)
これらです。
これらによる成功は他のmRNAワクチンで使われた
輸送方法に倣って、脂質ナノ粒子によって実現されました(7,8)。
例えば、
脂質ナノ粒子にSARS-CoV-2スパイクタンパク質を
エンコードしたsaRNAは用量依存的に
マウスの血清中で高い抗体量を分泌しています。
この抗体はSARS-CoV-2特異的な抗体です。
それによってウィルスを中和することができます。
ワクチンの持続性、反応性は
免疫刺激性を持つアドジュバントを
同時輸送する事によって高まります(9)。
近年、
脂質アドジュバントmRNAワクチンは
陽イオン性脂質の高いスループット仕分けによって
発達しています。
それによってmRNAの輸送だけではなく、
STING経路やToll様受容体4経路による
免疫性刺激(アドジュバント効果)も発揮します(10)。
その他の
ポリマーナノ粒子、無機のナノ粒子は
ワクチンに対する核酸の輸送のために採用されます。
--
核酸積載のナノ粒子は癌免疫療法においても利用されます。
このナノ粒子により癌抑制性を持つPTENを生み出し
オートファージーによる食作用や
免疫活性により細胞死を促します(6)。
これを免疫チェックポイント阻害薬(anti-PD1 antibody)
と併用して治療することで高い抗がん作用が
確認されています(6)。
また
〇Plasmids encoding a 194-1BBz CAR
〇A piggyBac transposase to T cells
これらを生体内ナノ粒子輸送し、CAR-T細胞を発現
またその数を増やすことに成功しています。
それによる癌治療の治験が現在行われています(11)。
免疫チェックポイント阻害薬による
癌免疫療法において抵抗性が現れることがありますが、
核酸積載ナノ粒子によって
〇B7 immunoglobulin
〇Tumour necrosis factor
これらを亢進し、T細胞を活性化させる事によって
免疫治療の効果が高められています(12)。
IL-23, IL-36γ and OX40L
これらを刺激するトリプレットmRNA脂質ナノ粒子と
免疫チェックポイント阻害薬の併用によって
そうでなければ、全身で抵抗性が現れるケースで
持続性のある抗がん作用が得られたとされています(13)。
また、核酸ベースの免疫刺激アドジュバントであるasCpG。
これをナノ粒子と共に輸送する事で
獲得免疫系統を刺激する事ができるかが
現在一つの有望な手法として検討されています(14)。

//核酸ナノバーコード//ーー
ナノ粒子の生体内分布を分析するために、
任意の細胞種にあるDNAにタグをつけることができます。
このようなDNAバーコード技術において
任意の細胞に対するナノ粒子の高いスループットの
生体内スクリーニングが
GuideTx (now part of Beam Therapeutics, Inc.)
によって商用化されています。
mRNAバーコードは
特にmRNAナノ粒子に対して、
生体内スクリーニングを加速する事ができます(15)。
強くて、特異的なワトソン-クリック塩基対によって
DNAによって機能化されたナノ粒子は
ナノ粒子が特異的な物理、化学、生物学的な特性を持つように
任意に設計されることが可能になります(16)。
これはナノ粒子の周りに核酸を装飾する技術です。
DNAはデータ搭載媒体として有望であり、
それをナノ粒子の中に長く、ナノ粒子の構造完全性を
保った状態で積載されるために研究が続けられています。

//考察//ーー
核酸のバーコード化によってナノ粒子の生体内分布を調べる事は
細胞種特異的輸送系統(*)で機能化されたナノ粒子が
本当に狙いの細胞種まで輸送されているか確かめる
1つの重要は方法です。
(*)Cell-type specific delivery system
人の場合は、臓器、組織を大量に切り取ることはできませんから
液体生検や便の中にある情報で読み取る必要があります。
従って、DNAによってつけられたタグ付けされた核酸が
細胞種特異的に血液や便に流出することがないか?
それを確かめることが重要になります。

(参考文献)
(1)
Bárbara B. Mendes, João Conniot, Aviram Avital, Dongbao Yao, Xingya Jiang, Xiang Zhou, Noga Sharf-Pauker, Yuling Xiao, Omer Adir, Haojun Liang, Jinjun Shi, Avi Schroeder & João Conde 
Nanodelivery of nucleic acids
Nature Reviews Methods Primers volume 2, Article number: 24 (2022)
(2)
Wolff, A. J. et al. Direct gene transfer into mouse 
muscle in vivo. Science 247, 1465–1468 (1990).
(3)
Sabnis, S. et al. A novel amino lipid series for mRNA 
delivery: improved endosomal escape and sustained 
pharmacology and safety in non-human primates. 
Mol. Ther. 26, 1509–1519 (2018).
(4)
Islam, M. A. et al. Restoration of tumour-growth 
suppression in vivo via systemic nanoparticle-mediated 
delivery of PTEN mRNA. Nat. Biomed. Eng. 2,  
850–864 (2018).
(5)
Kong, N. et al. Synthetic mRNA nanoparticle-mediated 
restoration of p53 tumor suppressor sensitizes p53-
deficient cancers to mTOR inhibition. Sci. Transl. Med. 
11, eaaw1565 (2019).
(6)
Yao-Xin, L. et al. Reactivation of the tumor suppressor 
PTEN by mRNA nanoparticles enhances antitumor 
immunity in preclinical models. Sci. Transl. Med. 13, 
eaba9772 (2021).
(7)
Chaudhary, N., Weissman, D. & Whitehead, K. A. 
mRNA vaccines for infectious diseases: principles, 
delivery and clinical translation. Nat. Rev. Drug Discov. 
20, 817–838 (2021).
(8)
Pardi, N., Hogan, M. J., Porter, F. W. & Weissman, D. 
mRNA vaccines — a new era in vaccinology. Nat. Rev. 
Drug Discov. 17, 261–279 (2018).
(9)
Islam, M. A. et al. Adjuvant-pulsed mRNA vaccine 
nanoparticle for immunoprophylactic and therapeutic 
tumor suppression in mice. Biomaterials 266, 
120431 (2021).
(10)
Zhang, H. et al. Delivery of mRNA vaccine with  
a lipid-like material potentiates antitumor efficacy 
through Toll-like receptor 4 signaling. Proc. Natl  
Acad. Sci. USA 118, e2005191118 (2021).
(11)
Smith, T. T. et al. In situ programming of leukaemia- 
specific T cells using synthetic DNA nanocarriers.  
Nat. Nanotechnol. 12, 813–820 (2017).
(12)
Capece, D., Verzella, D., Fischietti, M., Zazzeroni, F.  
& Alesse, E. Targeting costimulatory molecules to 
improve antitumor immunity. J. Biomed. Biotechnol. 
2012, 926321 (2012).
(13)
Hewitt, L. S. et al. Durable anticancer immunity from 
intratumoral administration of IL-23, IL-36γ, and 
OX40L mRNAs. Sci. Transl. Med. 11, eaat9143 (2019).
(14)
Conniot, J. et al. Immunization with mannosylated 
nanovaccines and inhibition of the immune-suppressing 
microenvironment sensitizes melanoma to immune 
checkpoint modulators. Nat. Nanotechnol. 14,  
891–901 (2019).
(15)
Guimaraes, P. P. G. et al. Ionizable lipid nanoparticles 
encapsulating barcoded mRNA for accelerated in vivo 
delivery screening. J. Control. Rel. 316, 404–417 
(2019).
(16)
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dynamic colloidal nanoparticle systems for mediating 
cellular interaction. Science 351, 841–845 (2016).

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