2022年4月27日水曜日

ナノ粒子による核酸の輸送(12)-制限要因-

例えば、細胞核内の特定の遺伝子を改変し、
遺伝子治療を行うためには
オフターゲットが無いように
特定の細胞に輸送し、細胞質を通って
核内の特定の遺伝子に作用させる必要があります。
標的となる重要な遺伝子が明らかになり、
その遺伝子を編集したり、
活性を変える事ができれば、
1つ、根本的な治療になりますが、
それを阻んでいるのが細胞特異的な標的性が
困難であるからであると理解しています。

例えば、癌など様々な疾患で
全ゲノム関連遺伝子評価が行われています。
それによって、場合によれば、数百個以上の
遺伝子異常が確認されることがありますが、
病気において重要な複数の遺伝子を見つける事も出来ます。
このような解析を有効にするためには
1つの大きな柱となるのが遺伝子治療です。
重要な遺伝子異常を標的として、
その遺伝子を改変する事ができれば、
病状が改善する可能性があります。
しかし、上述したように
その組織に有効に、特異的に核酸を輸送し、
さらには無数の膜を超えて細胞核まで届けるには
いくつかの大きなハードルがあります。
また、全ゲノム関連遺伝子評価から
標的とする遺伝子(群)を絞り込むところにも
まだ課題がある可能性があります。
個人差が大きければ、それも阻害要因となります。

そのような標的性以外にも
導入するナノ粒子が
例えば免疫的な拒絶反応が起こらないような
生体内で安全なものが強く求められています。
上述した免疫系は異物に対する高い除去能力を持っています。
通常、静脈注射などによる循環器を通した輸送では
血中に多種多様な免疫細胞が存在しているので
その複雑な監視を逃れる必要があります。
そのため特にナノ粒子の生体に対する互換性や
ナノ粒子表面の特性が重要になります。

RNAやDNAなどの核酸の輸送における
ナノ材料、ナノ粒子は上述した課題がありますが、
それらを満たす潜在性を有しています。
また、ナノ粒子を使う事によって
特定の遺伝子をオフ/オンにする遺伝子治療だけではなく
〇生物的な分析
〇タンパク質の補充、生成
〇ワクチン
これらにも応用することができます。
例えば、生物学的分析では
マーカー遺伝子、遺伝子のバーコード化によって、
ナノ粒子が標的細胞に届いたかどうか?
といった検査にも使うことができます。
また、遺伝子はタンパク質を生み出す元となる物質なので
タンパク質の分析、補充、生成を
人為的に行うことができます。
ワクチンにおいて
実際に新型コロナウィルスで使われた
mRNAワクチンは上述したナノ粒子によって
自然免疫系細胞まで輸送されていると考えられています。
このワクチンは樹状細胞などで
大量の新型コロナウィルスのSタンパク質を生み出し、そ
れを抗原とした免疫反応を
利用していると考えられています。
従って、ナノ粒子、mRNA(核酸)の技術は
現在ワクチンでは広く普及しています。
ーー
Bárbara B. Mendes, João Conniot, Aviram Avital, Dongbao Yao, Xingya Jiang, Xiang Zhou, Noga Sharf-Pauker, Yuling Xiao, Omer Adir. 
(敬称略)ら医療研究グループは
効果的な核酸の輸送デザインの方法と
それによる診断や治療の効果について総括されています(1)。
その内容の一部と追記を
読者の方と情報共有したいと思います。

//ナノ粒子医療の制限と機会//ーー
ナノ材料のデザインのスタンダード、ガイドライン
実験レポートの正確性、データ蓄積を改善するために
今まで関係団体によって大きな労力が割かれてきました。
しかし、これらの実施は現状では困難なままです(2,3)。
これらを実現するためにいくつか重要な要素を
議論する必要があります。
--
ナノ工学材料は細胞の微小環境は非常に複雑であるため
多くの生物物理学的、かつ生理学的な難しさを克服するように
デザインされています(4,5)。
しかし、加えて、
患者さんごとに遺伝子的、表現的な異種性があります。
それがナノ材料輸送媒体のデザインにおいて
付加的な難しさを与えます(6,7)。
〇血液中や組織との衝突によって生じるせん断応力
〇核酸の劣化
〇タンパク質の付着
これらはナノ粒子の生体内の分布、機能、
薬剤輸送プロファイルに影響を与えます。
その特徴を一義的に評価することは難しいです。
ナノ粒子のそのような振る舞いは
従来の薬に比べて複雑であるので、
再現性を得る事、臨床応用に成功する事は
より難しいと考えられます。
上述したような異種性をしっかり調べ、
「one-size-fits-all」の
理想的なモデルだけに焦点を当てるのではなく、
患者さん特異的なデータ、
そこで示される生理学的な特徴を反映した
精密医療のデザインをよく考える必要があります。
--
物理化学特性のデータ
〇表面電荷
〇コーティング材料
〇積載材料
〇封入効率
臨床前データ
〇生体内分布
〇オフターゲット組織
〇病変部位の変化(例えば、腫瘍組織の低下量
これらデータの欠乏は
ナノ材料の研究と生体とナノ材料界面の基礎的な理解
の比較を危うくさせます。
また不均一性の問題があります。
〇体重当たりのナノ材料の重さの大きな差
〇薬剤/ナノ粒子/材料の量、濃度
これらのパラメータは
付加的な実験の不一致を招き、
再現性を得る事が難しくなります。
最近、MIRIBEL評価指標として
生体とナノ材料の一般的な情報と
重要な特性パラメータの情報を
開示する事を求める動きがあります(2)。
さらに、このナノ粒子材料を使った薬物治療の
より広範な理解について幅広く議論されています(8)。
研究機関の主な心配事は
本当に実現できるか?コストはどうか?
このような事が含まれます。
少なくとも発展途上国や歴史の浅い小さな研究所で
学際的な協力が必要なナノ粒子医療を
MIRIBEL criteriaを満たしながら実現する事は
極めて難しいと考えられています。
データの再現性報告は
学術界と産業界では大きく異なります(8-11)。
従って、産学連携の取り組みが必要になります。
産業界が積み上げた製造管理の技術、知見は
ナノ粒子医療の臨床応用のステップのいくつかに
貢献すると考えられるからです。
--
前述したようにナノ粒子を使った医療は
工学、化学、生物学、薬学、医学といった
学際的な協力がその発展のために必要になります。
そういった異分野連携が必要な事が
スケールを大きくする事、
知識、データ(マルチオミックスなど)を
蓄えることを難しくします。
例えば、
ナノ粒子医療に関わる
全ゲノムデータを貯蔵するインターネットアドレスが
様々な場所に散在してしまう事も考えられます。
そのような学術界だけの学際的な連携だけではなく
ガイドラインの制定や臨床応用の為には
産官学の連携も必要になります。
そういった中において組織間の摩擦やズレを
少なくする、修正するためには
統一的なビジョンを共有することが大事になると考えられます。
また、プロトコル、今述べたガイドラインの制定に
当たっては、手順だけではなく、
略語や頭字語の決定なども行う必要があります。
上述したようなマルチオミックスデータなどの
インターネット上のデータ貯蔵庫において
任意のデータを閲覧できるように
検索システムなどを整える必要があります。
また、近年様々な分野で取り入れられている
人工知能、機械学習を使って
ナノ材料医療に伴う複雑性を紐解く観点もあります。
それに付随するソフトウェアが
フリーで使える環境を整える事も
ナノ粒子を使った医療の発展に貢献します。
--
治療目的で遺伝子の輸送を効率的に行う事は
難しさがあります。
オリゴヌクレオチドは大きいので
ナノ粒子の膜に対して貫入することができない
とされています。
また
〇分解酵素による劣化
〇細網内皮系による食作用
〇腎臓による除去
これらを輸送のために避ける必要があります。
ウィルス、非ウィルスナノキャリアは
これらの制限を克服したと言われています。
例えば
Gendicineは初めて承認された遺伝子用製剤で
アデノウィルスキャリアによって
癌抑制p53を発現させます(12)。
多くの臨床試験が行われています(13)。
その中で今のところはウィルスキャリアの方が
結果が上回るものとなっています。
これは、細胞質や細胞膜まで到達するまでの
いくつかのバリアを乗り越える必要があるからです(14)。
また、オリゴヌクレオチドベース治療は
血液脳関門を超えないと言われています。
従って、脳神経疾患の治療において難しさがあります。
物理、化学特性である
〇次元性
〇形
〇表面電荷
〇表面リガンド密度
〇構成物質比
これらは、非ウィルス輸送システムにおいて
安定性、生体内分布、薬物動態。
これらに影響を与え、治療効率や生体反応に関わります(15-17)。
凍結乾燥法は貯蔵や輸送において
脂質、ポリマーナノ粒子の
安定性を高める事が知られています。
これらは凝集したり、溶液中で不安定であるので有効です(18,19)。
承認された遺伝子治療は
脊髄、目、肝臓がメインです
リーキーな類洞内皮を持つので
取り込み効率が高いからです(20)。
上述したナノ粒子の物理化学特性は極めて重要です。
しかし、その特性に基づいた薬物動態は
非常に複雑です。
それらの特性評価は難しいです。
不均一なので値の決定が困難です。
ナノ医療の研究における標準化、ガイドラインがないので
生物工学よってエンジニアリングしたナノ粒子の評価、
他のナノ粒子との比較を難しくします。
また、臨床試験へのトランスレーションに必要な
ナノ-生物の界面、関連の中で生じている
基本的な特性の理解がしにくい状態にあります(21)。
例えば、
癌に対する遺伝子治療をナノ粒子媒体で行う際
組織への滲出の向上や保持効果によって
ナノ粒子が集まりやすい状態にありますが、
この現象は癌種によって異なり、
その評価が難しい状態にあります。
その中で、より特異的で活性な輸送戦略が必要であると
されています(22,23)。
--
複雑なナノ医療においてデータ開示における透明性や
再現性を得る事は非常に重要です。
そのために協力的な努力が必要になります。
現状で有効な治療法のない希少疾患において
ナノ粒子輸送による遺伝子治療が有効な場合があります。
その改善は関係される方から強く求められています。
それを実現するためにも
国際的、産官学、学際的な連携によって
複雑に絡んだ糸を一つ一つほどいていき、
ナノ材料医療の標準化を含めた
共通の資産を築いていく事が求められます。

(参考文献)
(1)
Bárbara B. Mendes, João Conniot, Aviram Avital, Dongbao Yao, Xingya Jiang, Xiang Zhou, Noga Sharf-Pauker, Yuling Xiao, Omer Adir, Haojun Liang, Jinjun Shi, Avi Schroeder & João Conde 
Nanodelivery of nucleic acids
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(2)
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627–628 (2019).
(11)
[No authors listed] Voices from the community.  
Nat. Nanotechnol. 14, 625 (2019).
(12)
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