妊娠時に高血圧を発症した場合、
妊娠高血圧症候群と呼ばれます。
高血圧の基準は
収縮期血圧が140mmHg以上
拡張期血圧が90mmHg以上
と定められており、
それぞれ160mmHg以上、110mmHg以上になった場合は
重症とされています(2)。
ーー
この妊娠高血圧症候群は珍しい疾患ではありません。
程度の差はあると思われますが、
おおよそ20人に1人の割合で起こります(2)。
アメリカの調査では
おおよそ2%以上とされています(3,4)。
この高血圧が妊娠期間のいつ発症するかというのが重要です。
早発型と呼ばれる妊娠34週未満で発症した場合
上述した血圧が160/110mmHg以上となるような
重症になる確率があがるので注意が必要です(2)。
このように重症になると
〇けいれん発作(子癇)
〇脳出血
〇肝臓、腎臓の機能障害
〇肝機能障害
〇血小板減少
これらのように母体に影響がでるだけではなく
〇常位胎盤早期剥離
胎盤が子宮壁から離れ赤ちゃんに送る血流が滞る
〇早産
〇妊娠期間相応に比べ発育が悪くなる
Small-for- gestational-age birth weight
〇赤ちゃんが亡くなる
など胎児、お子さんにも影響が出るといわれています(2,3,5,6)。
ーー
しかしながら、
収縮期血圧が140mmHg以上、拡張期血圧が90mmHg以上という基準で、
特に症状が重くない場合において
降圧剤を使う抗高血圧治療を
「妊娠女性」に行うのが良いかどうか?
この事に対しては
議論の余地があるとされています(5-8)。
これに対する推奨は国によって異なります(9,10)。
例えば、
日本の日本産科婦人科学会の妊娠高血圧症候群に対する
治療の説明では
「治療は、安静と入院が中心であり、
けいれん予防のために「重症の」高血圧に対して
お薬を用いる事があります。」
とされています(2)。
その理由としては、急激に血圧を下げると
赤ちゃんの状態が悪くなることがあり
降圧剤の使用は医師が慎重に行うとされています(2)。
今のところ、
根本的にこの病気を治す方法は知られておらず、
また予防に関しても確立されたものはありません。
例えば、過度の塩分制限は近年では
エビデンスがなく否定的であるとされています(2)。
ーー
このように妊娠高血圧症候群において、
積極的に抗高血圧治療を行う事においては
少なくとも日本においては慎重さが必要であるとされています。
しかしながら、
妊娠時血圧140/90mmHg以上になると
血圧依存的に段階的に妊娠時のリスクが高くなる
というデータもあります(11)。
そこで、
A.T. Tita, J.M. Szychowski(敬称略)ら
医療研究グループは
軽症かつ慢性的な高血圧(Mild chronic hypertension)。
この妊娠女性に対して、
妊娠時血圧140/90mmHgを上回らないように
積極的に抗高血圧療法を行うほうが
重症の基準である160/105mmHgを上回るまで
高血圧の治療を行わない標準療法よりも
妊娠時の母体や胎児の健康リスクが少なくなるのではないか?
と仮説を立てて、治験を行われています(1)。
本日は、その結果の一部について
読者の方と情報共有したいと思います。
//条件//ーー
(場所)
アメリカ合衆国の70の医療機関
--
(参加人数)
2408人
--
(Mild chronic hypertensionの基準)
160/105mmHg以下、
妊娠23週までに140/90mmHgを
4時間以上離れて2回計測された人。
--
(使用された薬)
labetalol、nifedipine
amlodipine、 methyldopa
--
(参加者における特記)
BMIが30以上が全体の74%となっています。
*日本ではBMI30以上を占める割合が3.1%なので
今回の結果をそのまま日本の女性にあてはめることができるか?
といった一定のフィルターは必要です。
--
積極的に降圧剤使用を行った群では
全体の平均として血圧が
コントロール群に比べて、
2-4mmHg程度低い値となっています。
(参考文献(1) Figure.1)
コントロール群は上述したように
重症の基準である160/105mmHgを上回るまで
高血圧の治療を行わない標準療法です。
//結果//ーー
(母体の結果)
/心臓血管合併症/
積極的に降圧剤使用を行った群:2.1%
コントロール群:2.8%
リスク比(治療/標準):0.75
--
/重症の高血圧/
積極的に降圧剤使用を行った群:36.1%
コントロール群:44.3%
リスク比(治療/標準):0.82
--
/妊娠高血圧腎症/
積極的に降圧剤使用を行った群:24.4%
コントロール群:31.1%
リスク比(治療/標準):0.79
--
/高血圧症の悪化/
積極的に降圧剤使用を行った群:10.9%
コントロール群:13.0%
リスク比(治療/標準):0.84
--
/帝王切開/
積極的に降圧剤使用を行った群:49.0%
コントロール群:48.5%
リスク比(治療/標準):1.01
-----
(新生児の結果)
/重篤な新生児合併症/
積極的に降圧剤使用を行った群:2.0%
コントロール群:2.6%
リスク比(治療/標準):0.77
--
/早産(37週以下)/
積極的に降圧剤使用を行った群:27.5%
コントロール群:31.4%
リスク比(治療/標準):0.87
--
/出生時体重2500g未満/
積極的に降圧剤使用を行った群:19.2%
コントロール群:23.1%
リスク比(治療/標準):0.83
--
/NICU入院/
積極的に降圧剤使用を行った群:30.5%
コントロール群:33.5%
リスク比(治療/標準):0.91
--
/低血糖/
積極的に降圧剤使用を行った群:15.8%
コントロール群:16.3%
リスク比(治療/標準):0.97
--
/呼吸サポート/
積極的に降圧剤使用を行った群:18.1%
コントロール群:20.3%
リスク比(治療/標準):0.90
--
/高ビルビン血症/
積極的に降圧剤使用を行った群:22.0%
コントロール群:23.6%
リスク比(治療/標準):0.93
--
/敗血症/
積極的に降圧剤使用を行った群:11.4%
コントロール群:13.8%
リスク比(治療/標準):0.84
//結果サマリー、結論//ーー
積極的に降圧剤を使った治療群において
懸念された胎児の生育不良などの明確な結果は見当たりません。
むしろ全体としては新生児の出生時健康状態は
積極的に治療を行った群のほうが
全体的にコントロール群よりも良い結果となっています。
また、母体の健康も同様です。
//考察//ーー
特に妊娠時においては重症の高血圧にならないようにする
事が重要です。
積極的に治療を行った群においても
重症の高血圧に(一時的に?)なった人は
全体の36.1%となっています。
従って、治療を行ったとしてもある程度高い割合で
重症の高血圧を妊娠期間に経験するということです。
しかし、コントロール群と比較すると
その割合は統計的に有意に減少しています。
重症の高血圧になると
冒頭で述べた様に母子ともに
様々なリスクがあるので、
高血圧の症状がある人の管理において、
妊娠期間に重症にならないように管理する事が
大切ではないかと考えます。
ーー
妊娠時に高血圧になる原因ははっきりしませんが、
Alison H. Affinati、 Richard J. Auchus(敬称略)
からなる医療研究グループによれば、
妊娠時には胎盤からエストロゲンやレニンといった
内分泌系ホルモンが余分に発出されるとされています。
そうすると血圧を上昇させる
アンジオテンシノーゲンなどが活発になり
血圧を上昇させます
(参考文献(12) Figure.1)。
従って、ホルモンバランスの変化によって
血圧が上昇しやすい体内環境にあるということが
妊娠女性に当てはまる可能性があります。
但し、胎盤から発出されるホルモンや
それによって高まる昇圧ホルモンなどを
抑制する事が果たしてよいかどうかは議論の余地があります。
例えば、エストロゲンは
胎盤の血管新生や胎児の卵胞の成熟などに
関わっているとされています(13)。
従って、重要な役割を担っています。
ホルモンは免疫機能のように不可欠なもので
バランスが大切な可能性があります。
(参考文献)
(1)
Alan T. Tita, M.D., Ph.D., Jeff M. Szychowski, Ph.D., Kim Boggess, M.D., Lorraine Dugoff, M.D., Baha Sibai, M.D., Kirsten Lawrence, M.D., Brenna L. Hughes, M.D., Joseph Bell, M.D., Kjersti Aagaard, M.D., Ph.D., Rodney K. Edwards, M.D., Kelly Gibson, M.D., David M. Haas, M.D., Lauren Plante, M.D., Torri Metz, M.D., Brian Casey, M.D., Sean Esplin, M.D., Sherri Longo, M.D., Matthew Hoffman, M.D., George R. Saade, M.D., Kara K. Hoppe, D.O., Janelle Foroutan, M.D., Methodius Tuuli, M.D., Michelle Y. Owens, M.D., Hyagriv N. Simhan, M.D., Heather Frey, M.D., Todd Rosen, M.D., Anna Palatnik, M.D., Susan Baker, M.D., Phyllis August, M.D., M.P.H., Uma M. Reddy, M.D., Wendy Kinzler, M.D., Emily Su, M.D., Iris Krishna, M.D., Nicki Nguyen, M.D., Mary E. Norton, M.D., Daniel Skupski, M.D., Yasser Y. El-Sayed, M.D., Dotum Ogunyemi, M.D., Zorina S. Galis, Ph.D., Lorie Harper, M.D., Namasivayam Ambalavanan, M.D., Nancy L. Geller, Ph.D., Suzanne Oparil, M.D., Gary R. Cutter, Ph.D., and William W. Andrews, M.D., Ph.D. for the Chronic Hypertension and Pregnancy (CHAP) Trial Consortium*
Treatment for Mild Chronic Hypertension during Pregnancy
The New England Journal of Medicine April 2, 2022
(2)
妊娠高血圧症候群
https://www.jsog.or.jp/modules/diseases/index.php?content_id=6
(3)
Bateman BT, Bansil P, Hernandez-Diaz S, Mhyre JM, Callaghan WM, Kuklina EV.
Prevalence, trends, and outcomes of chronic hypertension: a nationwide sample of delivery admissions.
Am J Obstet Gynecol 2012; 206(2): 134.e1-8.
(4)
Ananth CV, Duzyj CM, Yadava S, Schwebel M, Tita ATN, Joseph KS. ]
Changes in the prevalence of chronic hypertension in pregnancy, United States, 1970 to 2010.
Hypertension 2019; 74: 1089-95.
(5)
American College of Obstetricians and Gynecologists.
Hypertension in pregnancy: report of the American College of Obstetricians and Gynecologists’ Task Force on Hypertension in Pregnancy.
Obstet Gynecol 2013; 122: 1122-31.
(6)
American College of Obstetricians and Gynecologists’ Committee on Practice Bulletins — Obstetrics.
ACOG practice bulletin no. 203: chronic hypertension in pregnancy.
Obstet Gynecol 2019; 133(1): e26-e50.
(7)
James PA, Oparil S, Carter BL, et al.
2014 evidence-based guideline for the management of high blood pressure in adults: report from the panel members appointed to the Eighth Joint National Committee (JNC 8).
JAMA 2014; 311: 507-20.
(8)
Whelton PK, Carey RM, Aronow WS, et al.
2017 ACC/AHA/AAPA/ABC/ACPM/AGS/APhA/ASH/ASPC/NMA/PCNA guideline for the prevention, detection, evaluation, and management of high blood pressure in adults: a report of the American College of Cardiology/American Heart Association Task Force on Clinical Practice Guidelines.
J Am Coll Cardiol 2018; 71(19): e127-e248.
(9)
Sinkey RG, Battarbee AN, Bello NA, Ives CW, Oparil S, Tita ATN.
Prevention, diagnosis, and management of hypertensive disorders of pregnancy: a comparison of international guidelines.
Curr Hypertens Rep 2020; 22: 66.
(10)
Garovic VD, Dechend R, Easterling T, et al.
Hypertension in pregnancy: diagnosis, blood pressure goals, and pharmaco-therapy: a scientific statement from the American Heart Association.
Hypertension 2022; 79(2): e21-e41.
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Ankumah NA, Cantu J, Jauk V, et al.
Risk of adverse pregnancy outcomes in women with mild chronic hypertension before 20 weeks of gestation.
Obstet Gynecol 2014; 123: 966-72.
(12)
Alison H. Affinati and Richard J. Auchus
Endocrine causes of hypertension in pregnancy
Gland Surg. 2020 Feb; 9(1): 69–79.
(13)
Eugene D. Albrecht, and Gerald J. Pepe
Estrogen regulation of placental angiogenesis and fetal ovarian development during primate pregnancy
Int J Dev Biol. Author manuscript; available in PMC 2010 Jan 10.
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