エクソソーム製剤というのは
日本では2016年くらいに一時脚光を浴びています。
元々、エクソソームは長距離輸送に適しており、
生体内互換性が高いので、
そのナノ粒子を薬剤輸送キャリアとして利用しようというのは
発想としては自然な流れだと考えられます。
しかし、
細胞生物学の理解がしっかり進んでいないと
製造の上で制御して、その効果がポジティブとなるような
結果にはならないのかもしれません。
人工的なナノ粒子製造にはない複雑性などの
難しさがあるのかもしれません。
今後、調査して明らかにしていきます。
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Xin Luan, Kanokwan Sansanaphongpricha, Ila Myers, Hongwei Chen, Hebao Yuan & Duxin Sun
(敬称略)らはエクソソームが癌治療に生かされた例を
簡潔に総括されています。
本日は主に癌細胞由来のエクソソームの研究成果について
自身の追記、調査を加えながら一部内容を紹介します(1)。
多種多様な細胞から放出されたエクソソームが
臨床応用の中での使用のために調べられてきました(2-4)。
治療の為のナノ粒子キャリアとしてのエクソソームを
どの細胞から抽出するかというのは興味深い命題です。
なぜなら、エクソソームの胞の膜と表面タンパク質を含む
リガンドの構成はその機能を決める上で重要だからです。
これらの特性を保持、掌握することは
エクソソームを使った治療を有効にするうえで
非常に重要な要因となります(5)。
このような表面タンパク質は走化性、向性、特異性、
取り込み効率を上げる上で重要ですが、
逆にこれらの表面タンパク質がある事で
治療を受けた患者さんの体内で毒性を示すという
副作用が生じることも考えられます。
従って、各細胞から放出されたエクソソームが
どの様な特性を持つか?
供給元となる細胞の情報をどのように引き継いでいるか?
これを明らかにして、
臨床応用する上での利点のリスクの切り分けをする
ことが求められます。
例えば、
いくつかのグループは癌細胞から放出されたエクソソームを
抗がん剤の輸送キャリアとして使用しました(2,6)。
例えば、
癌細胞と癌細胞エクソソームは悪性浸出液の中から
多くの数が見つかっています。
その中で、癌細胞エクソソームは
癌関連抗原とMHC-Ⅰ分子を癌組織に輸送する事が
示されています。
従って、樹状細胞など自然免疫系を一部経て、
T細胞による癌細胞への細胞傷害性に寄与します(7)。
実際に臨床試験フェーズⅠでは
この癌細胞由来のエクソソームによって
免疫的な癌細胞傷害性を生み出し
神経膠腫の患者さんに対して
外科的な切除の後の播種していると考えられる
小さな癌組織の一掃に貢献したと報告されています(8)。
--
エクソソームにはテトラスパニンと呼ばれる
膜貫通タンパク質があります。
Xin LUAN氏らによれば、
このテトラスパニンと呼ばれる膜タンパク質が
癌細胞由来のエクソソームの
癌組織への特異的輸送を可能にしていると言われています(1)。
このテトラスパニンはインテグリンと複合体を作る
といわれています。
このテトラスパニンとインテグリンの構造上の差異が
エクソソームがどの細胞に取り込まれやすいかに
強く関係すると言われています(9)。
従って、癌由来のエクソソームが癌細胞に届きやすいのであれば
テトラスパニンとインテグリンの複合体が
癌細胞に結合しやすい状態になっていると
想定する事ができます。
インテグリンはα鎖とβ鎖があって、
その型によって分布が異なります。
例えば、αvβ1では神経系の腫瘍に主に分布している
と言われています。
従って、複合体のエクソソームがαvβ1であれば、
そのエクソソームは神経系腫瘍に届きやすい事を示します。
一方で、
癌細胞由来のエクソソームは転移性の低い癌細胞であっても
転移の振る舞いが活性になる可能性が示されています(11)。
--
癌細胞由来のエクソソームには
〇urokinase plasminogen activator
<癌との関連>
タンパク質分解により細胞外マトリックスを劣化させることで
癌組織の成長、転移を促す物質であるとされています(17)。
〇cathepsin D
細胞内のプロテインの代謝的分解
ポリペプチドホルモンの活性化
成長因子
酵素の活性化
細胞死の制御
<癌との関連>
乳癌でcathepsin Dが増えていることが示されています。
これによりホルモン、成長因子の活性化が認められます(13)
これらが挙げられています。
一般的に癌に含まれているかどうかはさらなる調査が
必要ですが、異常に成長する事、細胞死しにくいことなどの
特性の一部はこのcathepsin Dが関わっている可能性があります。
〇vimentin
タンパク質の仲介フィラメントで間葉系細胞に分布しています。
細胞の完全性を維持したり、ストレスに対する耐性を得たりしています。
<癌との関連>
これは様々な上皮癌において分泌が亢進されていることが
確認されています(14)。
〇galectin 3-binding protein
免疫系との関連性が指摘されていますが、
まだはっきりとした機能はわかっていません(15)。
<癌との関連>
乳癌や肺がんなどこのLGALS3BPが高いレベルにある事で
予後が悪くなることが示されています(15)。
〇annexin A1
<癌との関連>
p-53陽性の胃癌でannexin A1が亢進していることが
報告されています(16)。
これらの物質が含まれていたとされています(12)。
それぞれの癌との関連で示されたように
全ての物質で癌細胞で多く発現されているタンパク質です。
エクソソームの形成過程から考えると当然である
といえますが、改めて示されました。
従って、それらを運ぶ癌由来のエクソソームは
癌細胞を成長、転移させる内容物を多く含んでいる
可能性があるということです。
下の考察でも述べますが、
この癌細胞由来のエクソソームを使う場合には
少なくとも内容物を何らかの方法で除去して、
表面タンパク質だけを利用することができないか?
といった視点も生まれます。
つまり、内容物を抗がん剤などの薬物と
入れ替えるということです。
あるいは、除去するのは「抜く」のではなく
分解酵素を「入れて」分解して、
無害化させることも選択肢の一つです。
--
またタンパク質だけではありません。
エクソソームに含まれるmiRNAも
悪性腫瘍に影響を与えると言われています(18)。
さらに、
癌細胞由来エクソソームの表面タンパク質である
FasL
TRAIL
PDL-2
これらもT細胞の活性を弱めるとされています(20,21)。
これらは共に癌細胞表面に含まれているタンパク質です。
エクソソームが癌細胞の細胞膜情報を引き継ぐという
仮説においてこの事実は重要です。
一方で、考察に示したように
癌細胞由来のエクソソームは内容物だけではなく
表面タンパク質によっても免疫系を弱めたりする
効果があるので、輸送キャリアとして使う場合の
制限要因となります。
免疫抑制の効果として
〇活性T細胞死亢進
〇単球の分化の抑制
〇骨髄系抑制細胞の導入
〇リンパ系細胞信号の抑制
〇炎症性微小環境の導入
これらが挙げられています(19)。
//考察//ーー
上述したように
Urokinase plasminogen activator
ウロキナーゼ・プラスミノゲン活性因子は
癌細胞由来のエクソソームに含まれ、
癌細胞侵入を促します。
癌細胞が成長するようにプログラムされているなら
その中に含まれるたんぱく質や核酸は
同様に成長を促すような物質である可能性が高いです。
上述した活性因子もその一つです。
それがエクソソームの膜内、膜上に存在しているとすれば、
複数の経路で
癌細胞由来のエクソソームが主要組織に取り込まれやすい
可能性があります。
そうすると逆にそれを利用して、
癌細胞由来のエクソソームを薬剤輸送キャリアとして
利用する事も出来ます。
但し、癌成長を促す物質が入っているため
循環器に大量に入れると、
転移などのリスクが伴うことがすでに示されています。
では、一方で
免疫細胞のエクソソームを入れるとどうでしょうか?
おそらく癌細胞は異物なので免疫細胞が集まる傾向にある
と思います。
例えば、拒絶反応が起こりにくいとされ
免疫機能の初動を担う
NK細胞などの自然免疫系の細胞由来のエクソソーム(22)を
薬剤輸送キャリアとして使うということです。
すでに免疫細胞由来のエクソソームの存在は示され
癌細胞への効果が総括されています(10)。
しかし、それを薬剤輸送キャリアとして使う
報告はまだ調べる限りありません。
免疫細胞由来で有れば、癌細胞向性がありながら
癌細胞由来のエクソソームよりも
転移などのリスクは少ないと推測されます。
ーー
癌細胞由来のエクソソームを使う場合には
少なくとも膜内の内腔に含まれている
タンパク質や核酸は癌細胞内から生じたものが多いと
考えられるので、
それらは転移、成長などのリスク因子となります。
従って、方法などの精査は必要ですが、
もし、内容物の大部分を抜くことができたら
リスクの「一部」は回避できる可能性があります。
(参考文献)
(1)
Xin Luan, Kanokwan Sansanaphongpricha, Ila Myers, Hongwei Chen, Hebao Yuan & Duxin Sun
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