衛生、環境、医療が改善したことによって
先進国を始めとして平均寿命が延びています。
一方で、社会経済、生き方の多様化などの影響によって
晩婚化、独身増加などもあり、
一人当たりの出生率も先進国を始め減っています。
この事は特に日本や韓国で顕著です。
このような事から世界の高齢化率は高まり、
今後30年間で30%を超える国も先進国を中心に増えてきます。
そうすると老化に伴う疾患の社会的負担も高まります。
またその疾患に対する効果的な治療のニーズも同様に高まります。
ーー
老化に伴う疾患の中で、神経変性疾患である
アルツハイマー病があります。
一度、発症したら現時点の研究では回復、完治が難しいことから
まずはどうしたら症状を遅らせるか?
ということが鋭意考えられています。
そういった状況の中で特に考えられているのが
有症状前の段階、あるいは前駆状態から
患者さんを絞り込んで治療を行う事です。
それによって発症、重症化を防ごうという方法です。
ーー
しかしながら、
そのように発症前段階で参加者を絞り込んで
臨床試験を行うためには長い年月と資金が必要になります(1)。
例えば、
アルツハイマー病の臨床段階にある人のフェーズⅢの治験
プログラムである
The Anti-Amyloid Treatment in Asymptomatic Alzheimer’s Disease Trial
では、1169人のランダマイズ治験において
3.5年と5900回以上のスクリーニングが必要でした(1)。
従って、
参加者集めの効率化や治療改善の加速を行うためには
新しい臨床試験インフラが必要であります。
現在、このような課題を解決しようと
北アメリカ、ヨーロッパ、アジアの国が連携しています。
対象となるのは前述したように
臨床症状を有する前のアルツハイマー病の患者さんです。
Paul S. Aisen, Gustavo A. Jimenez-Maggiora, Michael S. Rafii, Sarah Walter & Rema Raman
(敬称略)ら医療研究グループは
今までの経験を踏まえながら、効果的かつコスト効率のよい
治験の実現に向けた現在の取り組みと将来に対する課題について
総括されています(1)。
本日はその内容の一部について読者の方と情報共有したい
と思います。
アルツハイマー病は
脳のアミロイドタンパク質の蓄積、
神経細胞内の神経原線維のもつれ、
によって起こる進行性、命のかかわる
神経変性の疾患です。
これは冒頭でも述べた様に少子高齢化社会の中にあって
世界で最も重要とされるヘルスケア関連の課題の一つです。
現在、
抗アミロイド薬の一つが加速的に承認されましたが、
効果的かつ広範に利用できる治療が必要とされ続けています。
アミロイドタンパク質を含む中心的な病理を
標的とした治療は治験では良好な臨床効果は得られていません(1)。
その一つの理由としては
治療介入した段階が遅く、進行した状態の患者さんに向けて
行われたことが挙げられています(2)。
実際にアルツハイマー病の病理となる
アミロイド線維タンパク質の蓄積は
認知機能の異常が出る数年前から起こるとされています(3)。
長期間の縦断調査によれば、
アルツハイマー病が有症状に発展するまで
10年から15年の期間を有すると言われています(4)。
従って、症状前に医療介入する余地、期間は十分に存在する
ということが言えます。
また、抗アミロイド治療は
〇不可逆的な神経劣化
〇レビー小体
〇TDP43タンパク質
〇血管系の疾患
これら併存する疾患が存在する前では
高い効果を発揮するかもしれないと考えられています(5)。
従って、繰り返し述べるように初期の発見が重要です。
アルツハイマー病はアミロイドタンパク質が初期、蓄積されてから
命にかかわるほど重症になるまでに25年かかると言われています(6)。
冒頭で述べた様に
臨床症状前とはアルツハイマー病の病理に関わる
バイオマーカーが検出され、
かつ認知機能が健康状態にある場合です。
また前駆状態とは認知機能の低下が軽症である場合です。
これらのような
症状がない患者さんに対する抗アミロイドの治療において
現在、
Eli Lilly,
The National Institute on Aging (NIA),
The Alzheimer’s Association and other organizations
これらの私立、公立の団体が連携して
治験を進めています。
治療に使われている薬剤は
モノクローナル抗体 Solanezumabであり、
最終的な結果は2023年の初旬に公表されるとされています(7)。
この治験では対象は65歳以上、
アミロイドβの分析としてPETを用いています。
しかしながら、
無症状、前駆状態のアルツハイマー病の患者さんを
スクリーニングして見つけるには多くの障害があるとされています。
該当する人の割合が低いという事です。
このような障壁を小さくするためには
オンラインの活用や、血液検査によるバイオマーカーの
判別過程を合理化するなどが挙げられます。
そのオンライン研究では
Alzheimer Prevention Trials Webstudy (APT Webstudy)
というのがあります。
それぞれの参加者の人種、性別、年齢、就業状況などの
デモグラフィックデータ、認知、臨床データを
集めて、脳のアミロイドタンパク質の上昇のリスクを
統計的に見積もるということをします(8)。
これを始めのスクリーニングとして適用します。
年間8000-18000人の新しい参加者が同意し、
トータルで45000人の参加者が2022年2月7日に集まっています。
日本でも同様のプログラムがあり
2万人規模のオンラインコホートが構築されています。
The Japanese Trial-Ready Cohort (J-TRC)で
東京大学が中心に行っています(1)。
情報系と生物学系両方から統計的にデータ処理を行い
治験に進む患者さんの参加を加速させる取り組みが
行われています(1)。
//考察//ーー
臨床前段階、前駆状態の明白な発症のない
アルツハイマー病予備群の人を多く集めて
有効な臨床試験を行うためには
どうやって、自覚症状のない状態で
それに当てはまる人を効率的に同定するか?
ということが中心的かつ本質的な問題であると理解しています。
アルツハイマー病は遺伝性が高い疾患である
と言われています(9)。
従って、参加者の家族の既往歴の中で
アルツハイマー病やそれに関連する疾患があるかどうか?
によって初期に見られる症状がある確率が変わる可能性があります。
つまり、
例えば、両親が共にアルツハイマー病であれば
その子供もそうである可能性が高いということです。
しかし、この考え方には大きな欠陥があります。
仮に対象となる参加者が60歳であるとすると
その親は80歳から90歳になります。
その年齢層の人において十分なデータがあるかどうか?
という点が考えられます。
前述したように数万人の人に対して
一人一人PETを実施していくわけにはいかないので
地域、年齢、性別、学歴、職歴など基本的な情報から
特別用意された質問、調査、オンラインテストなど
様々な軸で統計的に評価する事で
対象となる臨床前段階、前駆状態の人を
効果的に洗い出すことができるか?ということです。
一方で、
脳に関わる評価は
「根本的に再現、比較が難しい」と考えています。
なぜなら神経組織は可塑的で再現しないと言われているからです。
言い方を変えれば、
仮に同じシチュエーション、環境を整えたとしても
脳の神経の状態は2度と同じ状態にはならない
ということです。
神経系は神経組織以外の体細胞組織よりも
可変性が高いかもしれません。
そのような曖昧性の中で効果的に治験を行っていく
必要があります。
時間もかかる中で、治験インフラ、プログラムの構築は
様々な難しさがあると推測します。
(参考文献)
(1)
Paul S. Aisen, Gustavo A. Jimenez-Maggiora, Michael S. Rafii, Sarah Walter & Rema Raman
Early-stage Alzheimer disease: getting trial-ready
Nature Reviews Neurology (2022)
(2)
Sperling, R. A., Jack, C. R. Jr & Aisen, P. S.
Testing the right target and right drug at the right stage.
Sci. Transl. Med. 3, 111cm133 (2011).
(3)
Rowe, C. C. et al.
Amyloid imaging results from the Australian Imaging, Biomarkers and Lifestyle (AIBL) study of aging.
Neurobiol. Aging 31, 1275–1283 (2010).
(4)
Donohue, M. C. et al.
Association between elevated brain amyloid and subsequent cognitive decline among cognitively normal persons.
JAMA 317, 2305–2316 (2017).
(5)
DeTure, M. A. & Dickson, D. W.
The neuropathological diagnosis of Alzheimer’s disease.
Mol. Neurodegener. 14, 32 (2019).
(6)
Aisen, P. S. et al.
On the path to 2025: understanding the Alzheimer’s disease continuum.
Alzheimers Res. Ther. 9, 60 (2017).
(7)
Sperling, R. A. et al.
The A4 study: stopping AD before symptoms begin?
Sci. Transl. Med. 6, 228fs213 (2014).
(8)
Walter, S. et al.
Recruitment into the Alzheimer Prevention Trials (APT) webstudy for a Trial- Ready Cohort for Preclinical and Prodromal Alzheimer’s Disease (TRC- PAD).
J. Prev. Alzheimers Dis. 7, 219–225 (2020).
(9)
Gatz, M. et al.
Role of genes and environments for explaining Alzheimer disease.
Arch. Gen. Psychiatry 63, 168–174 (2006).
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