2022年4月20日水曜日

細胞種特異的輸送系統におけるエクソソームの可能性

ナノ粒子を使った薬剤輸送システムは
現在の薬剤治療のフェーズを一段上げる
あるいは相転換する潜在性を有しています。
例えば、オンターゲット効率を劇的に上げられる
可能性があります。
そうすれば、劇的に少ない用量で同じ効果が期待できるため
副作用を減らすことができる可能性があります。
そうすると患者さんの予後、健康、生活の質
持続的幸福(well-being)に貢献します。
しかし、
その臨床への道筋は険しいものです。
主に三つの阻害要因があるとされています。
〇ナノ材料の細胞傷害性
〇網内系細胞(*)による除去
(*)食作用をもつ間葉系細胞
〇単球などの単核による食作用による除去
これらが挙げられています(2)。
ーー
それを回避するためにPEGを装飾する手法があります。
それによりナノ粒子の生体内の循環寿命を延長させる
ことができました。
しかし、標的細胞との相互作用が小さく
うまく細胞内に取り込まれないという欠点があります(3-5)。
従って、葉酸やトランスフェリンなど、
標的細胞の受容体に特異的に結合する装飾因子を
PEGに結合させることで
この標的細胞に対する不活性性を補う事が可能です。
ーー
一方、体内から自然に放出される内生の
薬剤輸送システムは
自然な形の生体内互換性の高さから
ナノ粒子を使った薬剤輸送システムにおいて
有望であるという見方があります。
その内生のものは
細胞、細胞外小胞(エクソソームなど)
あるいはホルモンなどもあるかもしれません。
但し、ホルモンなどは胞ではなく
分子としてのベクトルとして使うことができるか?
という視点です。
ーー
Xin Luan, Kanokwan Sansanaphongpricha, Ila Myers, Hongwei Chen, Hebao Yuan & Duxin Sun
(敬称略)からなる医療研究グループは
その内生のナノ粒子のうち、
エクソソームに焦点を当て、
そのエクソソームを使って
どのように薬剤輸送基盤を作るか?
について総括されています(1)。
本日はその内容の一部について
考察、追記の上、読者の方と情報共有したいと思います。

//序論//ーー
エクソソームは30-120nm程度の大きさの
被膜を持つ胞です。
人の細胞の大きさは6000nm~25000nmと言われているので
おおよそ1/200程度の大きさです。
細胞内で生まれ、エンドソームの中に存在します。
このエクソソームは様々な種類の細胞から
エンドソームによるエクソサイトーシスを通じて
細胞外へ放出されます(6)。
エクソソームは細胞間の信号伝達としての機能を持ちます。
具体的にはエクソソームの中に含まれる
核酸やタンパク質などが元の細胞から
受け側の細胞へ輸送されます(7)。
従って、細胞同士が接触することなしに
内包したタンパク質や核酸を運ぶことで連携をとる事ができます。
これは身体のネットワークを神経系などと同様に
支える一つのシステムであると考えられます。
言い換えれば、
脳、皮膚、肝臓、心臓、胃、腸、腎臓、骨、
血液、脾臓、膵臓、、、
様々な器官がありますが、
それを構成する細胞が、神経系、ホルモンなどに加えて、
エクソソームを通じて連携する事によって
互いに影響しあって、身体の恒常性を築いている
ということが想定されます。
ーー
このエクソソームは
エンドソーム内側へと貫入、出芽して
内腔小胞として分離されます(8)。
つまり、エンドソーム膜に向かって
タンパク質や核酸が力を加え、
それによって出芽して、胞として
エンドソーム内に放出されると理解しています。
これをmulti-vesicular bodies(MVBs:多胞体)と呼びます。
それが細胞外に放出されるときには
細胞膜とエンドソームが膜融合して、細胞膜に貫入し、
出口からエンドソーム内腔に多数存在する
エクソソームが細胞外に放出されると考えられます(8)15。
エクソソームは
〇タンパク質
〇mRNA
〇制御型microRNAs
〇脂質
これらを内包していると言われています(9,10)。
ーー
エクソソームは粒子として小さいサイズなので
組織深層まで浸入する事ができます(10)。
またわずかに負のゼータ電位を持ち
長寿命の循環を可能とします(11,12)。
中性であれば、細胞の食作用が一番小さいとされていますが、
一方で、細胞に対するエンドサイトーシスのための
相互作用を小さくしてしまうという欠点もあります。
従って、わずかに負のゼータ電位があり
イオン性を持つことが意味を持ちます。
また変形できる細胞骨格であることから
力が加わったらエクソソームは胞として
形を任意に変える事ができます。
こういった特徴は細胞の被膜と類似しています(13)。
この理由は下記//考察//に示す通り
エクソソームの膜は2段階の内胞形成を通じて
細胞膜の材料を引き継ぐと考えられるからです。
またいくつかのエクソソームは
免疫系による除去から逃れる能力が高いと
言われています(9)。
例えば、食作用が強い単球などの免疫細胞から
生まれたエクソソームはその単球の膜の構造などが
受け継がれていると考えられるので
食作用から逃れやすいと仮説を立てることもできます。
ーー
エクソソームはエンジニアリングできるとあります。
しかし、より自由度、任意性を上げるためには
さらに研究を推し進める必要があります(14)。
ーー
エクソソームを生体外で生成する方法は
大量生産において適していると考えられます。
しかし、分離を成功するためには
細胞生物学の理解や構造的な分析の精度をかなり
上げていく必要があります。
またドナー細胞によって、
つまりどの細胞からエクソソームを取り出すかによって
エクソソームの収量や生理化学特性は
異なる可能性があります(15)。

//考察//ーー
エクソソームの出現は
外側からの力によって発芽して、
内側にシャボン玉、泡のように胞形成されると理解しています。
そうすると、エクソソームの外側の
表面タンパク質、それを含むリガンドは
エンドソームの内側の
表面タンパク質、それを含むリガンドを
受け継ぐと考えるのが自然です。
エンドソームも同様に細胞膜から萌芽して
内側に細胞表面のタンパク質を有したリガンドを持つと
考えられるので、
細胞膜⇒エンドソーム⇒エクソソーム
といった2段階にわたる内腔の形成過程は
外⇒内⇒外
という側にリガンドが形成され
結果的にエクソソームの表面に発現されたリガンドは
その細胞の表面に発現されたリガンドを
受け継ぐと考えることができます。
もちろん、これは上述したように
ある程度の論理根拠はありますが、
仮説の域をでないので
構造を調べて、証拠を掴む必要があります。
しかし、これがある程度真であれば、
重要な発見になります。
細胞種特異的輸送系統をエクソソームによって
推し進める事ができる可能性があります。

//細胞種特異的輸送系統(*1)の観点//ーー
(*1)Cell-type-specific delivery system
ナノ粒子を使った薬剤は
それ自身の細胞傷害性や細胞食作用による除去、
あるいは肝臓や脾臓などによる代謝などが考えられますが、
それらを避けるためには
ナノ粒子最外周、外側の物性は
少なくとも生体に対して不活性となるような
構造とすることが好ましいかもしれません。
〇電荷でいえば中性に近い。
〇アスペクト比の高い分子の先端のみを露出させ
それを高密度で放射状に配置させる(ミセル構造)。
これらです。
そのように基本的に不活性にした状態で
かつ部分的に標的細胞「だけ」結合親和性の高い
装飾因子を結合させるということです。
しかし、それそのものが
またナノ粒子が持つ潜在的な課題を復活させる
可能性はもちろんあります。
ーー
エクソソームが細胞種特異的輸送系統で魅力的な点は
細胞種ごと異なる特性を持つ可能性がある
ということです。
それは同時に、異種性が強く
制御して同じ品質のものを作る難しさがある事を意味します。
しかし、iPS細胞技術などの幹細胞技術を使って
細胞種と提供された方の特性を揃えた状態で
エクソソームを生み出すと
一部のそうした異種性の課題を乗り越えられる可能性があります。
そうした場合、今度は任意の細胞を選び出し
その特性に応じた治療を行うことができます。
例えば、
免疫的な特性を重視したいのであれば、
免疫細胞から放出されるエクソソームを
ナノ粒子媒体として使うという視点です。
あるいは、動脈硬化、癌、肝硬変、組織線維化、
脳神経疾患など様々な疾患において
その病変部位の細胞特異的な要素があります。
それが細胞膜に出ているならば、
そこから発出されるエクソソームは
その細胞膜の情報を引き継いでいる可能性があることから
それをナノ粒子として使うこともできます。
それにより副作用はあるかもしれないですが、
特異的輸送が可能になる事も推定されます。
ーー
また今のテクノロジーで
細胞を取り出して、CAR免疫療法のように
ウィルスベクトルなどを使って
任意に表面タンパク質を発現させることもできます。
その表面タンパク質はエクソソームの表面に出るのであれば、
エクソソームの表面タンパク質も
自在に変える事ができるという事を意味します。
そうすると原理的には
エクソソームを使った細胞種特異的輸送系統の
ナノキャリアとしての大きな評価基準を一つ
クリアできる事を意味します。
なぜなら、
エクソソームに任意の表面タンパク質を
作れるということになるからです。
これは、上述した「膜情報が引き継がれる」
という事を前提にしているので、
ここを注意深く調べる事に大きな意味があります。

(参考文献)
(1)
Xin Luan, Kanokwan Sansanaphongpricha, Ila Myers, Hongwei Chen, Hebao Yuan & Duxin Sun 
Engineering exosomes as refined biological nanoplatforms for drug delivery
Acta Pharmacologica Sinica volume 38, pages754–763 (2017)
(2)
Haque S, Whittaker MR, McIntosh MP, Pouton CW, Kaminskas LM.  
Disposi tion and safety of inhaled biodegradable nanomedicines: 
Opportunities and challenges.  Nanomedicine 2016; 12: 1703–24.
(3)
Suk JS, Xu QG, Kim N, Hanes J, Ensign LM.  PEGylation as a strategy 
for improving nanoparticle-based drug and gene delivery.  Adv Drug 
Deliver Rev 2016; 99: 28–51.
(4)
Sun L, Wu QJ, Peng F, Liu L, Gong CY.  Strategies of polymeric 
nanoparticles for enhanced internalization in cancer therapy.  Colloid 
Surface B 2015; 135: 56–72.  
(5)
Chow TH, Lin YY, Hwang JJ, Wang HE, Tseng YL, Wang SJ, et al.  
Improve ment of biodistribution and therapeutic index via increase 
of polyethylene glycol on drug-carrying liposomes in an HT-29/luc 
xenografted mouse model.  Anticancer Res 2009; 29: 2111–20.
(6)
Batrakova EV, Kim MS.  Using exosomes, naturally-equipped nano-
carriers, for drug delivery.  J Control Release 2015; 219: 396–405.
(7)
Milane L, Singh A, Mattheolabakis G, Suresh M, Amiji MM.  Exosome 
mediated communication within the tumor microenvironment.  J 
Control Release 2015; 219: 278–94.
(8)
森田 英嗣 
Multivesicular Bodyの形成とESCRT複合体の役割
https://webview.isho.jp/journal/detail/abs/10.11477/mf.2425101380
(9)
Hood JL.  Post isolation modification of exosomes for nanomedicine 
applications.  Nanomedicine (Lond) 2016; 11: 1745–56.
(10)
Vader P, Mol EA, Pasterkamp G, Schiffelers RM.  Extracellular vesicles 
for drug delivery.  Adv Drug Deliv Rev 2016; 106: 148–56.
(11)
Malhotra H, Sheokand N, Kumar S, Chauhan AS, Kumar M, Jakhar P, 
et al.  Exosomes: tunable nano vehicles for macromolecular delivery 
of transferrin and lactoferrin to specific intracellular compartment.  J 
Biomed Nanotechnol 2016; 12: 1101–14.
(12)
Rupert DL, Claudio V, Lasser C, Bally M.  Methods for the physical 
characterization and quantification of extracellular vesicles in bio-
logical samples.  Biochim Biophys Acta 2017; 1861: 3164–79.
(13)
Hood JL, Wickline SA.  A systematic approach to exosome-based 
translational nanomedicine.  Wiley Interdiscip Rev Nanomed Nano bio-
technol 2012; 4: 458–67.
(14)
Morishita M, Takahashi Y, Matsumoto A, Nishikawa M, Takakura 
Y.  Exosome-based tumor antigens-adjuvant co-delivery utilizing 
genetically engineered tumor cell-derived exosomes with immuno-
stimulatory CpG DNA.  Biomaterials 2016; 111: 55–65.
(15)
Whiteside TL.  Tumor-derived exosomes and their role in cancer 
progression.  Adv Clin Chem 2016; 74: 103–41.

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