2022年1月27日木曜日

標的性タンパク質分解薬理を持つPROTACの現状と考察

//背景//---
特定のタンパク質を標的として分解させる薬剤は
癌などの疾患を含め、1つの大きな治療戦略ですが、
従来の低分子量の薬剤では標的化して
設計することは困難でした。
その理由は以下です。
①活性部位が多様である事
②構造上のポケットが狭い、小さい事
③表面が平坦で結合しにくい事
これらが挙げられています(1)。
このような従来の薬剤ではアクセスできなかった
タンパク質に対して、分解できるような物質が開発されました。
その一つが本日紹介する
「Proteolysis-targeting chimera(以下PROTAC)」
これです。
2001年に初めてMETAP2と呼ばれる
標的タンパク質分解物質が開発されて以来、
20年間、開発が進められ、
現在ではいくつかの臨床試験が行われています。
このPROTACの幕開けについて
Miklós Békés, David R. Langley & Craig M. Crews
(敬称略)からなる医療研究グループが総括されています(1)。
自身の調査、考察を加筆の上
その内容の概要、一部について引用させていただき、
読者の方と情報共有したいと思います。

//薬剤PROTACの治験//---
PROTACは近年(2019年~)臨床応用が進んでいます。
例えば、性ホルモン受容体の癌標的として
臨床試験されています(1)。
現在、最も進んでいる治験がフェーズ2で
対象の疾患が性ホルモン受容体が標的となるので
前立腺癌、乳癌が主です。
その他、血液性の癌、自己免疫疾患などがあります。
(参考文献(1) Table 1参照)

//薬剤PROTACの薬理//---
このPROTACは二つのリガンドからなります。
それらがリンカーによって結合されています。
それぞれのリガンド役割は
①対象のタンパク質(POI)を引き寄せ、結合
②E3ユビキチン合成酵素を引き寄せ、結合
これらとなっています。
(参考文献(1).Fig.2a)
これにより対象タンパク質POIはユビキチン化され、
その後、分解されます。
(Ubiquitin-proteasome system(UPS))
参考文献(1)Fig.1に示しているように
PROTACはユビキチン分解酵素とタンパク質を
引き寄せて、酵素による分解を促進させるため
互いの物質を引き付ける
「仲介物質」
「触媒」
「Intermolecular glues(分子間の接着剤)」
これらのような働きをします。
タンパク質をユビキチン化を利用して分解した後
PROTACはリサイクルされ、
再び、標的のタンパク質に結合することができます。
このPROTACはユビキチン合成酵素を
標的とするタンパク質に引き付ける役割があるので
最初に標的タンパク質と結合する際には
必ずしも分子生物学的に機能性を持つ部位に結合する
必要がないとされています(1)。
従って、①の標的タンパク質の結合部位の選択性は
従来の薬剤よりも有意に高いと考えられます。
このことから「Undrugable」とされる
結合部位、それを持つ標的タンパク質であっても
タンパク質分解という薬理機能を発揮することができます。

//標的性について//---
標的性を上げるためにはタンパク質分解酵素である
E3ユビキチン分解酵素を引き付ける必要があります。
そのためのリガンドの発見、設計が不可欠です。
このリガンドの分解酵素に対する親和性が薬理を決める
と考える事ができます。
この分解酵素は組織、細胞種特異的であるため
「ニッチ(niche)」な働きを併せ持つ
タンパク質分解機能を与える事が原理的には可能になります。
組織や細胞種以外にも癌の状態によっても
分解酵素の特異性が生まれます。
従って、癌治療において特定タンパク質除去による
任意性の高い治療を進める事が可能です。
(参考文献(1) Fig.6より)

//癌免疫治療について//---
癌細胞が免疫逃避する機序として
PD1/PDL1があります。
免疫チェックポイント阻害薬として
こえらの働きを抑える場合とは別の方式として
これらの受容体タンパク質を
タンパク質分解酵素で分解して、
細胞上に発現している免疫チェックポイントの量を
減らすという治療戦略も考えられます(2-4)。

//PROTAC薬剤の機能、利点//---
①標的タンパク質に固定される(Target scaffolding functions)
②高い標的性、広範な結合性
③繰り返し機能する
④高い組織浸潤、浸透性
⑤経口投与可能
⑥易製造性
⑦臨床前実用性確認済み
⑧臨床試験中(フェーズ2)
(参考文献(1) Table 3)

//Cell-type-specific delivery system//---
PROTACをナノ粒子、ウィルスベクトルに封入、複合体化
させて輸送するタイプをBioPROTACと呼びます。
PROTACの分子設計で不可能な結合部位をアンカーとして
利用する場合には細胞種特異的輸送系統が利用できます。
また、細胞内にエンドサイトーシスさせて
細胞内のタンパク質を除去する場合には
ナノ粒子、ウィルスベクトルを含めた
この薬剤輸送システムを利用することができます。

//考察//---
PROTACによる適用範囲化どうかという枠組みを超えて
タンパク質を取り除くという観点を中心に考察を提供します。
-
老化研究でも老化細胞を取り除くことが重要である
とされています(6,7)。
この老化も含めて、癌、神経変性、代謝系などの疾患では
タンパク質の消化や分解機序の異常によって
不要なたんぱく質が蓄積する事が考えられます。
実際にPROTACで利用された
ユビキチン依存性タンパク質分解。
Ubiquitin-dependent proteolysis。
これの異常と上述した疾患の関連性が報告されています(8)。
例えば、
p53タンパク質の蓄積が卵巣癌で確認されています(9)。
タウタンパク質の蓄積が神経変性で起こります。
老化によっても毒性のあるタンパク質の蓄積が起こります(10)。
タウタンパク質に対するPROTACによる分解について
報告されています(11)。
このタウタンパク質ついてはMiklós Békés氏らが
参考文献(1)で現状について詳しく述べられています(1)。
PROTAC薬剤によるユビキチン依存性タンパク質分解が
タウタンパク質分解、神経変性の疾患に対して
どのような臨床効果をもたらすかという事に対しては
現在、研究開発が進められているところです(5)。
-
PROTACのように標的となるたんぱく質を分解させるという
コンセプトは身体の循環の健全性を高める事を
手助けできる可能性を示しています。
身体に普遍的に存在する不要なたんぱく質を取り除くことが
原理的にできる可能性が示唆されているからです。
元々、若くて健康な時にはタンパク質の取り込みと排出の
バランスが健全であると考えられます。
PROTACは分解酵素とタンパク質を仲介して
触媒のように反応性を高める働きがあるので、
特定のタンパク質に対して分解、排出能力が衰えた人に対して
補助的に排出能力を高める役割を
少なくとも発揮できると想定されます。
-
但し、こうしたタンパク質を取り除くという操作は
免疫機能と同じようにバランスがあると思います。
その様な事からPROTACのような標的性が重要になる
と考えれます。

(参考文献)
(1)
Miklós Békés, David R. Langley & Craig M. Crews 
PROTAC targeted protein degraders: the past is prologue
Nature Reviews Drug Discovery (2022)
(2)
Wang, Y. et al. 
In vitro and in vivo degradation  of programmed cell death ligand 1 (PD- L1) by  a proteolysis targeting chimera (PROTAC). 
Bioorg. Chem. 111, 104833 (2021).
(3)
Wang, Y., Deng, S. & Xu, J. 
Proteasomal and lysosomal degradation for specific and durable suppression of immunotherapeutic targets.  
Cancer Biol. Med. 17, 583–598 (2020).
(4)
Shifrut, E. et al. 
Genome- wide CRISPR screens  in primary human T cells reveal key regulators  of immune function. 
Cell 175, 1958–1971 e1915 (2018).
(5)
Chang, C. W., Shao, E. & Mucke, L. 
Tau: enabler of diverse brain disorders and target of rapidly evolving therapeutic strategies. 
Science 371, eabb8255 (2021)
(6)
Shunya Tsuji, Shohei Minami, Rina Hashimoto, Yusuke Konishi, Tatsuya Suzuki, Tamae Kondo, Miwa Sasai, Shiho Torii, Chikako Ono, Shintaro Shichinohe, Shintaro Sato, Masahiro Wakita, Shintaro Okumura, Sosuke Nakano, Tatsuyuki Matsudaira, Tomonori Matsumoto, Shimpei Kawamoto, Masahiro Yamamoto, Tokiko Watanabe, Yoshiharu Matsuura, Kazuo Takayama, Takeshi Kobayashi, Toru Okamoto & Eiji Hara 
SARS-CoV-2 infection triggers paracrine senescence and leads to a sustained senescence-associated inflammatory response
Nature Aging (2022)
(7)
Yoshikazu Johmura, Takehiro Yamanaka$, Satotaka Omori, Teh-Wei Wang$, Yuki Sugiura, Masaki Matsumoto, Narumi Suzuki, Soichiro Kumamoto, Kiyoshi Yamaguchi, Seira Hatakeyama, Tomoyo Takami, Rui Yamaguchi, Eigo Shimizu, Kazutaka Ikeda, Nobuyuki Okahashi, Ryuta Mikawa, Makoto Suematsu, Makoto Arita, Masataka Sugimoto, Keiichi I. Nakayama, Yoichi Furukawa, Seiya Imoto, and Makoto Nakanishi
Senolysis by glutaminolysis inhibition ameliorates various age-associated disorders
SCIENCE • 15 Jan 2021 • Vol 371, Issue 6526 • pp. 265-270
(8)
Kathleen M Sakamoto
Ubiquitin-dependent proteolysis: its role in human diseases and the design of therapeutic strategies
Mol Genet Metab. Sep-Oct 2002;77(1-2):44-56.
(9)
J Kupryjańczyk, A D Thor, R Beauchamp, V Merritt, S M Edgerton, D A Bell, and D W Yandell
p53 gene mutations and protein accumulation in human ovarian cancer.
(10)
Anita Krisko1 and Miroslav Radman
Protein damage, ageing and age-related diseases
Open Biol. 2019 Mar 29;9(3):180249
(11)
Robert B. Kargbo*
Treatment of Alzheimer’s by PROTAC-Tau Protein Degradation
ACS Med. Chem. Lett. 2019, 10, 5, 699–700

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