//背景//--
人の脳は他の類人猿と比べても大きく、
その発達はゆっくりであるとされています。
人の赤ちゃん、乳児が自立して生活できるようになるまで
他の動物と比べて顕著に長い時間がかかります。
それは一つとして脳の発達がゆっくりであるから
であると考えられます。
心臓、肺、骨、筋肉に比べると早いものの
大人の90%の容量に脳が達するまでは5年かかり、
最終的に20歳まで漸近する形で脳が発達していきます。
これは脳神経の学習による可塑性を除いた
組織としての発達を主に指します。
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このように脳は大きく、複雑であり、
生まれてから時間に対してLog曲線で成長する事から
最初の1年、数年間の脳の発達幅は非常に大きくなります。
このように組織が不可逆に発達して
非常に短い期間で大きくなる時に
何らかの遺伝子変異が入ると
組織としての異常をきたしやすくなります。
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脳は湾曲した外側(皮質)を持ち、その表面積は大きいです。
その皮質に形成異常が出ると、
様々な神経発達疾患を発症すると言われています。
難治性の子供の発作などの突然の脳症状の約40%は
成長時の皮質の形成異常であるとされています(3)。
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そのうちの一つとして結節性硬化症があります。
結節性硬化症は,複数の臓器
・脳
・心臓
・眼
・腎臓
・肺
・皮膚
に腫瘍(通常は過誤腫)が発生する
TSC1 or TSC2遺伝子の優性遺伝性疾患です。
6000人に1人の小児で発生するといわれています。
中枢神経系の結節が神経回路を遮断し、以下の症状を引き起こします。
・発達遅滞
・点頭てんかん
・自閉症
・知的障害
結節(しこり)が悪化すると神経膠腫となることもあります(2,4)。
結節は多くは良性の腫瘍であるといわれています。
脳に結節ができる場合は
脳のしわ上に湾曲した外側の組織である皮質に
形成されることが多いとされています(5,6)。
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この塊上の結節は細胞の塊ですが、
その細胞がどの脳の細胞から由来しているか?
この事については今までよくわかっていませんでした。
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Oliver L. Eichmüller(敬称略)ら医療研究グループは
ヒト細胞由来の脳の人工組織と
胎児の脳のscRNAシーケンスを比較する事によって
結節の原因となる細胞の種類を明らかにされています(1)。
細胞が明らかになったので、
その細胞の発達を防ぐ機序が分かれば、
結節の形成を防ぐことが可能です。
それについても記述されています。
本日はこれら重要な2つの結果の要約と
上述したことも含め、自身の調査を加筆して
読者の方と情報共有したいと思います。
//結果//--
(発生の起源)
妊娠中期に大脳基底核原基の尾側に
結節の原因となる細胞種が現れたとされています(1)。
この尾側基底核原基(caudal ganglionic eminence)は
大脳皮質および扁桃体に移動する抑制性神経細胞を
産生することが知られている部位です。
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(結節を形成する細胞種)
Caudal late interneuron progenitor(CLIP)細胞です。
TSC2遺伝子が正常でmTORが抑制されている状態では
上述した尾側基底核原基に領域間をつなぐ
神経細胞の前駆細胞として形成されます。
TSC2遺伝子の対立遺伝子の1つが異常になると
優性遺伝の様式で結節の原因となる細胞種が生じます。
TSC1の染色体遺伝子異常が1つであれば
良性の結節ができます。
それが2つ両方になると悪性腫瘍となります(1)。
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(治療)
上皮成長因子受容体信号(EGPR)を抑制すると
TSC遺伝子の異常が正常に戻り、結節が退行します。
EGFR受容体チロシンキナーゼ抑制剤である
Afatinib, Everolimus,
これらを脳のオルガノイドに投与すると
共に腫瘍の大きさは小さくなり、
Everolimusの方がより顕著でした。
(参考文献(1) Fig.6B)
//考察//--
結節性硬化症は脳以外の場所にも結節を形成する
と言われています。
組織が大きくなる前のできるだけ早い段階で、
TSC遺伝子異常を正常に戻す遺伝子治療が
より好ましいと考えられます。
Pike-See Cheah, Shilpa Prabhakar(敬称略)ら
医療研究グループは
TSC2を200kDaから85kDaまで濃縮した遺伝子を
発現させるための相補物を
アデノウィルスによって輸送しました(7)。
それによって「脳」において結節の減少がみられ、
「マウスのケース」で延命を実現しています(7)。
--
現状では対症療法が主体です(8)。
つまりお薬をやめれば、また状態が悪化します。
完治を目指すためには
原因となる遺伝子(TSC1, TSC2)の改変と
それをどの細胞種に運ぶかを明らかにする必要があります。
今回の脳のように
どの細胞種に運ぶかが明らかになれば、
その細胞種特異的に発現される表面受容体を見つけ
その受容体に結合親和性の高い表面タンパク質を装飾した
ナノ粒子をPike-See Cheah氏らが提案しているような
遺伝子改変相補物を封入し、遺伝子改変させます。
そのような展望が考えられます。
(参考文献)
(1)
Oliver L. Eichmüller, Nina S. Corsini, Ábel Vértesy, Ilaria Morassut, Theresa Scholl,Victoria-Elisabeth Gruber, Angela M. Peer, Julia Chu, Maria Novatchkova, Johannes A. Hainfellner,Mercedes F. Paredes, Martha Feucht, Jürgen A. Knoblich
Amplification of human interneuron progenitors promotes brain tumors and neurological defects
Science 375 , 401 (2022)
(2)
Margaret C. McBride , MD
結節性硬化症(tuberous sclerosis complex:TSC)
MSDマニュアル
(3)
R. I. Kuzniecky, MRI in cerebral developmental malformations
and epilepsy. Magn. Reson. Imaging 13, 1137 – 1145 (1995).
doi: 10.1016/0730-725X(95)02024-N; pmid: 8750328
(4)
E. A. Thiele, Managing and understanding epilepsy in tuberous
sclerosis complex. Epilepsia 51 (Suppl 1), 90 – 91 (2010).
doi: 10.1111/j.1528-1167.2009.02458.x; pmid: 20331728
(5)
V. Ruppe et al ., Developmental brain abnormalities in tuberous
sclerosis complex: A comparative tissue analysis of cortical
tubers and perituberal cortex. Epilepsia 55, 539 – 550 (2014).
doi: 10.1111/epi.12545; pmid: 24512506
(6)
A. B. Gelot, A. Represa, Progression of fetal brain lesions in
tuberous sclerosis complex. Front. Neurosci. 14, 899 (2020).
doi: 10.3389/fnins.2020.00899; pmid: 32973442
(7)
Pike-See Cheah, Shilpa Prabhakar, David Yellen, Roberta L Beauchamp, Xuan Zhang, Shingo Kasamatsu, Roderick T Bronson , Elizabeth A Thiele, David J Kwiatkowski, Anat Stemmer-Rachamimov, Bence György, King-Hwa Ling, Masao Kaneki, Bakhos A Tannous, Vijaya Ramesh, Casey A Maguire, Xandra O Breakefield
Gene therapy for tuberous sclerosis complex type 2 in a mouse model by delivery of AAV9 encoding a condensed form of tuberin
Sci Adv. 2021 Jan 8;7(2):eabb1703.
(8)
結節性硬化症(指定難病158)
難病情報センター
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