//背景//
新型コロナウィルスに感染して、ウィルス量が
検査キットによって検出できないレベルまで下がるのは
潜伏期も含めると1週間半、2週間くらいであると考えられます。
しかしながら、特に急性期に肺炎を起こし、
重症まで症状が進行すると、
退院まで1か月以上かかることもあります(8)。
また退院しても呼吸器機能低下や神経症状が後遺症として
生じる事があります。
そのような急性期から慢性期にかけたPost-acuteの
新型コロナウィルスの症状の生理については
今まで詳細については明らかになっていませんでした。
ー
Shunya Tsuji(敬称略)ら医療研究グループは
ウィルスがすでに体内から十分になくなった後の
Post-Acute期にあたる新型コロナウィルスの
炎症反応について分子レベルで詳しく評価されています(1)。
本日はその内容の一部を引用させていただき、
読者の方と情報共有したいと思います。
//結果//
・老化細胞様の細胞周期停止が生じる(2,3)。
これは、ウィルス感染に誘発されたサイトカインの産生によって
その近隣の細胞に対して傍分泌様の機序で生じます。
これが
・人の細胞
・気管支の人工組織
これらで確認されています。
老化を示す細胞の老化マーカー表現型(SASPs)は
CDKN2A、p16^INK4a, IL-1β
IL-32、CXCL14、MMP10
これらが確認されています(4-6,14-16)。
(Fig.2d)(Fig.3d)
(Extended Data Fig. 2a,b)
マウスの実験では細胞の老化を示すサインSASPsが
ウィルスが検出されない感染から14日後に
肺組織で確認されています。
治療として、老化細胞除去薬(Senolytic drugs)(7)。
この薬(ABT263)を使用するとその表現型分泌レベルが
顕著に低下しています。
マウスの体重の増加も未感染のマウスと同等の
レベルまで回復しています。
(Fig.4f,4g,4h)
//考察//
通常細胞死した細胞は分解され、組織に蓄積する事がありませんが、
老化細胞はすぐには死滅せず、その場に蓄積する傾向があります(2,9)。
その細胞が
・炎症性サイトカイン
・炎症性成長因子
・細胞外マトリックス劣化酵素
これらを放出する事が知られています(10-12)。
それらの一部が上述したSASPsです。
今回、傍分泌の様式で周辺の組織を劣化させる事が分かったため
老化細胞除去薬を使って、ウィルス感染によって蓄積した老化細胞を
組織から除去することは周辺組織を健全に守るために必要です。
その様な理由から治療として老化細胞除去薬が選択された
と考える事ができます(13)。
-
これを人の治療に適用する前には
まず上述した老化マーカーが
人の中等症や重症で組織の損傷を受けた患者さんで
本当に上昇しているかを調べる必要があります。
この治療はダメージを受けた組織を回復させるものなので
中等症、重症で特に呼吸器系に後遺症がある人に対する
1つの根本治療になる可能性があります。
これは今のところ実現できていないことです。
今は抗ウィルスと免疫調整しか治療の手段がありません。
従って、
さらなる研究の進展、臨床応用が待たれます。
加えて、
世界(日本では特に)高齢化社会の中で
如何に心身ともに長く健康を保つか?
これについては個人の問題を超えた社会問題となっています。
国、自治体の医療負担などの問題もあるからです。
新型コロナウィルスの老化細胞の除去が
もし、上述した結果と一致して
人の場合でも
・組織の修復のため
・後遺症治療のため
これらの一つの根本治療になるのであれば、
その延長線上に高齢化社会の医療問題の解決も
「同時に」含まれることから、
研究の価値が高まることが考えられます。
-
一方、老化細胞を除去した後に
どのように組織が回復するのか?
その分子、細胞レベルの動的機序がわかれば、
さらに臨床応用の実現に近づくと考えられます。
すでにマウスの体重が戻っている事から、
組織の状態が改善している可能性もあります。
このような事は
人の幹細胞(iPS, ES, ミューズ、臍帯血など)を使った
今回のような人工臓器などで可視化された
分析が実現される可能性もあります。
-
日本の死因の第一位である癌においても
老化⇔癌化
これらの双方向の関係が考えられます(19)。
抗がん剤の治療によっても細胞が老化する事も
考えられます(19)。
そうした損傷を負った組織の修復においても
上述した「老化細胞を取り除く」というコンセプトが
生かされる可能性があります。
//細胞種特異的輸送系統//
老化細胞を除去するための物質は複数ありますが、
老化細胞の分布が体内でどのようになっているか?
また新型コロナウィルスなどを始め、感染症などの疾患によって
どのように分布し、増加するかはわかっていません。
そういった中で、
「老化細胞だけを検出して薬剤を届ける。」
という需要が老化治療全般に存在すると考えられます。
例えば、
DPP4(dipeptidyl peptidase 4)
これは老化細胞の表面に選択的に発現しているといわれています(17)。
これと特異的に結合する物質、胞、粒子と
老化細胞除去の薬剤を複合体化させることで
より標的化された治療が実現するかもしれません。
最終的な老化治療は、「全身性」である可能性もあるので
標的性が上がると副作用が少ない形で
体中の老化細胞だけを取り除いて、
若くて、健康な細胞だけを残すことができるかもしれません。
Cell-type-specific delivery systemは
癌治療だけではなく、老化治療においても
何らかの価値を提供できる可能性があります。
すでに老化細胞を選択的に除去するGLP-1が
糖尿病や老化に関わる疾患の症状を緩和する事が知られています(18)。
老化治療の一つのコンセプト
「蓄積する老化細胞を取り除く」
これをどうやって効率的、効果的に行うか?
SASPsを通じた傍分泌がある特徴(1)を考えて、
周辺組織も含めてよりよい治療を実現する事が
医療の問題だけではなく、社会的な問題に対しても
大きな価値として関係します。
(参考文献)
(1)
Shunya Tsuji, Shohei Minami, Rina Hashimoto, Yusuke Konishi, Tatsuya Suzuki, Tamae Kondo, Miwa Sasai, Shiho Torii, Chikako Ono, Shintaro Shichinohe, Shintaro Sato, Masahiro Wakita, Shintaro Okumura, Sosuke Nakano, Tatsuyuki Matsudaira, Tomonori Matsumoto, Shimpei Kawamoto, Masahiro Yamamoto, Tokiko Watanabe, Yoshiharu Matsuura, Kazuo Takayama, Takeshi Kobayashi, Toru Okamoto & Eiji Hara
SARS-CoV-2 infection triggers paracrine senescence and leads to a sustained senescence-associated inflammatory response
Nature Aging (2022)
(2)
He, S. & Sharpless, N. E.
Senescence in health and disease.
Cell 169, 1000–1011 (2017).
(3)
Gorgoulis, V. et al.
Cellular senescence: defining a path forward.
Cell 179, 813–827 (2019).
(4)
Coppé, J.-P., Desprez, P.-Y., Krtolica, A. & Campisi, J. The senescence-
associated secretory phenotype: the dark side of tumor suppression. Annu.
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(5)
Serrano, M., Hannon, G. J. & Beach, D. A new regulatory motif in
cell-cycle control causing specific inhibition of cyclin D/CDK4. Nature 366,
704–707 (1993).
(6)
Hara, E. et al. Regulation of p16 CDKN2 expression and its implications for cell
immortalization and senescence. Mol. Cell. Biol. 16, 859–867 (1996).
(7)
Di Micco, R., Krizhanovsky, V., Baker, D. & d’Adda di Fagagna, F. Cellular
senescence in ageing: from mechanisms to therapeutic opportunities. Nat.
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(8)
Nalbandian, A. et al. Post-acute COVID-19 syndrome. Nat. Med. 27,
601–615 (2021).
(9)
Chan, A. S. L. & Narita, M. Short-term gain, long-term pain: the senescence
life cycle and cancer. Genes Dev. 33, 127–143 (2019).
(10)
Coppé, J.-P. et al. Senescence-associated secretory phenotypes reveal
cell-nonautonomous functions of oncogenic RAS and the p53 tumor
suppressor. PLoS Biol. 6, e301 (2008).
(11)
Acosta, J. C. et al. Chemokine signaling via the CXCR2 receptor reinforces
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(12)
Kuilman, T. et al. Oncogene-induced senescence relayed by an interleukin-
dependent inflammatory network. Cell 133, 1019–1031 (2008).
(13)
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(14)
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microenvironment that drives tumorigenesis. Nat. Commun. 7, 11762 (2016).
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Schafer, M. J. et al. Cellular senescence mediates fibrotic pulmonary disease.
Nat. Commun. 8, 14532 (2017).
(16)
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(17)
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Genes Dev. 2017 Aug 1; 31(15): 1529–1534.
(18)
Yoshikazu Johmura, Takehiro Yamanaka$, Satotaka Omori, Teh-Wei Wang$, Yuki Sugiura, Masaki Matsumoto, Narumi Suzuki, Soichiro Kumamoto, Kiyoshi Yamaguchi, Seira Hatakeyama, Tomoyo Takami, Rui Yamaguchi, Eigo Shimizu, Kazutaka Ikeda, Nobuyuki Okahashi, Ryuta Mikawa, Makoto Suematsu, Makoto Arita, Masataka Sugimoto, Keiichi I. Nakayama, Yoichi Furukawa, Seiya Imoto, and Makoto Nakanishi
Senolysis by glutaminolysis inhibition ameliorates various age-associated disorders
SCIENCE • 15 Jan 2021 • Vol 371, Issue 6526 • pp. 265-270
(19)
Soyoung Lee & Clemens A. Schmitt
The dynamic nature of senescence in cancer
Nature Cell Biology volume 21, pages94–101 (2019)
2022年1月26日水曜日
Cell-type-specific delivery system,
iPS細胞,
SARS-CoV-2,
抗加齢医学,
老年医学
COVID-19:感染で生じた組織損傷の機序、治療、付加的価値と考察
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