//背景//-----
癌組織の景観の中で異種性があり、
それぞれの種類によって色分けした時の色のパターンは
パッチワークと呼ばれますが、
そのような単一癌組織の中で異種性があることは
"Intra-tumour heterogeneity”と呼ばれます。
また、そのような変異は
しばしば細胞内の染色体のDNAのコピー数が異倍数性を示す
"Somatic copy-number alteration"を伴います。
それぞれの亜型、亜集団をサブクローンと呼びます。
その変異の際にドライバー変異が入れば、
それは環境への適合性がより高まった状態となり
癌細胞、組織の成長につながります。
癌細胞が成長するか、退行するかは
ドライバー変異のような成長を推し進める要因と
免疫機能や治療によって退行させる因子とのせめぎあいによって決まる
と考えられます。
その時に生き残った癌細胞は
自然選択によるか、中立進化説によるかは議論が分かれています(2)。
ー
現在の所、臨床(人の治療)の中での進化の軌跡を正確に捉えること
は難しいとされています(1)。
その理由は、患者さんから度々、癌細胞を
「位置が保たれた状態で」「何度も」
採取する事が倫理的にも、方法論的にも難しいからです(3)。
何度も採取できるという点では尿、血液、唾液などの
液体生検から体内を循環している癌関連遺伝子を分析する事に寄って
可能になりますが、その情報は癌の成長の進化を捉える上で
1つの大切な情報となる位置情報がわかりません。
実際に癌の進化を正確に捉えるためには
患者さんの癌組織全体の異種性だけではなく、
局所的な小さな腫瘍の異種性(Microdiversity)を捉える必要があります(1,4)。
実際に子供44人の腎臓癌ににおいて
ミリメートルサイズの小さな癌組織での異種性を調べたところ
異種性の小さな患者さんの生存率が高かったことが示されています(5)。
このような事から
局所癌腫瘍内の異種性と臨床結果の関係性を得たい場合には
癌細胞が散在、播種、転移していない初期のステージの
患者さんの液体生検から循環している癌関連遺伝子を調べる事が
有効であるかもしれないということがわかります。
ー
Xiao Fu, Yue Zhao(敬称略)ら医療研究グループは
数学的な計算によって癌の成長について評価しています(1)。
その成長モードは
①大きさが均一に増える様式(Volume growth model)
②表面での増殖が主要となる様式(Surface growth model)
これらに分けて評価しています(1)。
TRACERx clinical studyと呼ばれる
非小細胞性肺癌と腎臓癌の癌の進化の軌跡を解読する事を
目的とした臨床研究をしています。
その中で腎臓癌の756の患者さんの腫瘍部位のデータを抽出し
計算モデルの中で関連付けています(1)。
本日はその内容の一部を引用させていただき、
読者の方と情報共有したいと思います。
//腎臓細胞癌//-----
今回対象としたRenal cell carcinomaでは
②のSurface growth modeのように
表面で活発に増殖する事がわかっています(6)。
//計算モデル(抜粋)(1)//-----
癌の大きさの最小単位として1mm^3ボクセルを想定。
そこから成長していくモデルは
初期の大きさからドライバー変異の下記条件によって
決定されます。
そのドライバー変異のモデルは
〇Satureted driver advantage model
〇Additive driver advantage model
これらが指定されています。
ドライバー変異の成長力や確率が定義されます。
//結果(1)//-----
①Volume growth modelのほうが
形状が円形に近く、形状が単純であり
②のSurface growth modelのほうが
形状が複雑で、凹凸が大きくなっています。
(Fig.1e)
おそらくこれは
表面での癌細胞のマイグレーションの中で
成長の核形成が起こりやすいポイントに異種性があり
3次元の島状成長しているからであると考えられます。
この核形成がBudding structure(萌芽した構造)を
生んでいると考えました。
ー
計算モデルでも②のSurface growth modelのほうが
ドライバー変異確率に対して
①Volume growth modelよりも
より腫瘍内サブクローンが生成しやすくなっています。
つまり、異種性が高くなっています。
(Fig.2c)
ー
②のSurface growth modelでは
腫瘍をスライスした時の断面積に対する
サブクローンの数が多く、ばらつきも大きい
一方で
①のVolume growth modelでは
腫瘍をスライスした時の断面積に対する
サブクローンの数が少なく、ばらつきも少ない
ことがわかっています。
(Fig.5b)
従って、①では主要となるサブクローンが
癌の成長の主因となっています。
//考察//ーー
①のVolume growth modelと②のSurface growth modelは
結晶成長でいうと球状基板上の
①2次元成長モデルと②3次元成長モデルであると考えられます。
つまり
①は最初に核形成した癌細胞が横方向に均一に成長し
拡がっていくモードで
②は癌細胞の表面マイグレーションの結果
様々な部分で核形成し島状に3次元に成長していくモデルです。
ー
結晶成長における表面物理の観点からは
1つとして基板表面の表面エネルギーが低い方が安定であるため
3次元成長しやすくなります。
なぜなら基板がむき出しになったほうが
系のエネルギーとして低くなるからです。
従って、それを覆う表面層はまだらになり、
ところどころ基板がむき出しになったような状態になります。
そのまま時間を重ねると核形成した層は会合し、
境界を多く含む、複雑な表面形状となります。
それを反映しているのが参考文献Fig.1e(ii)です。
これは基板となる初期の癌細胞表面のモフォロジー(表面形状)や
エンベロープ膜の状態、表面受容体によって変わる可能性があります。
他の考えられる要因は
(微視的には)結合活性の高いダングリングボンド(残基)の存在です。
表面に特異的に活性な結合の手が多数あれば、
固定されやすくなるため、そこから核形成しやすくなります。
従って、この場合も3次元成長しやすくなります。
細胞の場合はカドヘリンやインテグリンのような
細胞接着に関わる受容体が表面にどのように分布しているかによって
表面の成長モードが変わる可能性があります。
ー
またこの計算結果から
サブクローンとなる起点は核形成の時にあると考えられます。
②のSurface growth modelでは
様々な場所で核形成しBudding構造が形成されるため
クローナル多様性が高まると考えられます。
おそらくこれは計算の中の
〇Satureted driver advantage model
これが関与している可能性があります。
核形成するためにはある閾値を超える必要があります。
そのためにはある一定以上の強いドライバー変異が必要なため
核形成してBudding構造を新たに作ることは
すなわち閾値を超えたドライバー変異が入っている
ということであると言えるのではないかと考えました。
(参考文献)
(1)
Xiao Fu, Yue Zhao, Jose I. Lopez, Andrew Rowan, Lewis Au, Annika Fendler, Steve Hazell, Hang Xu, Stuart Horswell, Scott T. C. Shepherd, Charlotte E. Spencer, Lavinia Spain, Fiona Byrne, Gordon Stamp, Tim O’Brien, David Nicol, Marcellus Augustine, Ashish Chandra, Sarah Rudman, Antonia Toncheva, Andrew J. S. Furness, Lisa Pickering, Santosh Kumar, Dow-Mu Koh, Christina Messiou, Derfel ap Dafydd, Matthew R. Orton, Simon J. Doran, James Larkin, Charles Swanton, Erik Sahai, Kevin Litchfield & Samra Turajlic, on behalf of the TRACERx Renal Consortium & Paul A. Bates
Spatial patterns of tumour growth impact clonal diversification in a computational model and the TRACERx Renal study
Nature Ecology & Evolution (2021)
(2)
Robert Noble, Dominik Burri, Cécile Le Sueur, Jeanne Lemant, Yannick Viossat, Jakob Nikolas Kather & Niko Beerenwinkel
Spatial structure governs the mode of tumour evolution
Nature Ecology & Evolution (2021)
(3)
Bassez, A. et al.
A single-cell map of intratumoral changes during anti-PD1 treatment of patients with breast cancer.
Nat. Med. 27, 820–832 (2021).
(4)
Lopez, J. I. & Cortes, J. M.
A divide-and-conquer strategy in tumor sampling enhances detection of intratumor heterogeneity in routine pathology: a modeling approach in clear cell renal cell carcinoma.
F1000Research 5, 1–14 (2016).
(5)
Linda Holmquist Mengelbier, Jenny Karlsson, David Lindgren, Anders Valind, Henrik Lilljebjörn, Caroline Jansson, Daniel Bexell, Noémie Braekeveldt, Adam Ameur, Tord Jonson, Hanna Göransson Kultima, Anders Isaksson, Jurate Asmundsson, Rogier Versteeg, Marianne Rissler, Thoas Fioretos, Bengt Sandstedt, Anna Börjesson, Torbjörn Backman, Niklas Pal, Ingrid Øra, Markus Mayrhofer & David Gisselsson
Intratumoral genome diversity parallels progression and predicts outcome in pediatric cancer
Nature Communications volume 6, Article number: 6125 (2015)
(6)
Hoefflin, R. et al.
Spatial niche formation but not malignant progression is a driving force for intratumoural heterogeneity.
Nat. Commun. 7, 11845 (2016).
登録:
コメントの投稿 (Atom)

0 コメント:
コメントを投稿