//背景//-----
癌の放射線治療は日進月歩で改善しています。
現在では、放射線の照射角度を線源を回転させる事によって
自在に変えることで、標的性を上げる事に成功しています。
従って、線源が固定されている状態よりも
オフターゲットが少ない形で
癌細胞特異的に放射線を当てることができるようになっています。
この放射線治療のうち重粒子線を使うことは
さらに癌細胞への相対線量を高める事が出来
標的性を高める事が期待されます(1,2)。
しかしながら、重粒子線の治療の一番のネックはコストであり、
装置も大きく、フットプリントが問題になっています。
従って、日本においては6台しかないといわれています。
この重粒子線の一つの大切な技術要素は
高い効率の磁力発生器を生み出すことです。
その磁力を発生させるために超伝導体を使うと
電気抵抗がゼロであるため永久電流が流れ、
強力な磁力を発生させる事ができます。
実用化されている超電導電磁石はニオブチタン(NbTi)で
超電導転移温度は10Kであるとされています。
従って、極低温にする必要があります。
もし、この転移温度を室温近くまで高める事が出来たら
重粒子線のコスト削減、フットプリントを小さくする事ができ
これを使った放射線治療がより普及することが期待されます。
癌治療においては「選択肢」が大切だと考えています。
外科、化学療法、免疫療法、代謝療法、温熱療法などに加えて
放射線療法も大切な選択肢のうちの一つです。
インクルーシブ(包摂的な)治療戦略を想定することで
身体のあらゆるところに普遍的に生じうる癌に対して、
特徴、表現型に合わせた治療の可能性を高める事ができます。
細胞種特異的輸送系統(Cell-type-specific delivery system)。
これも将来の大切な選択肢の一つにしたいと考えています。
重粒子線治療をより普遍的な治療にするために
現在の私の限定的な超伝導の知識を世の中に問いたいと考えます。
//二次元電子ガスの可能性//-----
電子が引き合い、クーパー対をつくり
磁性が局所的にゼロとなるマイスナー効果を満たし
超電導相が生じるためには、
電子密度が高まることが重要であると考えました。
しかしながら、現在、実現可能な電子ガスの濃度において
原子の格子定数オーダー(数Å)以下となるような
2次元電子濃度を実現することが難しく、
十分な電子密度を実現できるかどうかは懐疑的です。
2次元電子ガスでの電子分布においては
電子が六角形状にならぶウィグナー結晶を作ることが知られています(3,4)。
しかし、2次元電子ガスによる超電導相が確認された
という証拠はまだ十分ではありません。
ただ、欠陥を含むウィグナー結晶(Disordered Wigner crystal)よりも
電子密度が高まったところに超電導相が見られたという
報告もあります(5, Figure 2)。
但し、報告数が限られているため、確からしさ、再現性について
再評価する必要はあるかもしれません。
一方でウィグナー結晶転移温度よりも高い温度では
少なくとも超電導相は確認されておらず、
数十ケルビン(3,4)以上の相転移は難しいかもしれません。
//電荷密度波、スピン密度波//-----
鉄、銅系超伝導体が高温で超電導相を示すのは
電子のネマティック特性が関係しているという指摘があります(6)。
このようなネマティシティーは
電荷、もしくはスピン密度波が関係していると考えています。
電荷やスピン密度波が線状、ドット上に生じることによって
エネルギーポテンシャルの揺らぎが生じ、
その揺らぎによるエネルギー障壁によって
井戸、穴に収まった電子が
温度上昇によって振動が生じたとしても
その位置に安定的に存在できる事があると考えています。
その時に、超電導の条件である
クーパー対が井戸の領域において形成されれば、
より高い温度で超電導相を保つことができる。
このように仮説を立てています。
半導体レーザー、発光ダイオードは室温で安定動作が可能です。
その一つの理由は室温でもリークする事のない
十分にエネルギー的に深い量子井戸を作ることが
一つの要件であると考えています。
従って、電荷密度波、スピン密度波において
線状、もしくはドット上に密度パターンを作ります。
そのエネルギーの差が
温度に対しての安定性に関わると考えています。
例えば、スピン密度波であれば、
スピンの回転数の最大値と最小値の差が大きければ、
エネルギーポテンシャルの波は大きくなると考えられます。
しかしながら、
スピン密度波相と超電導相は必ずしも一致せず
温度に対しては超電導が低温でしか現れないケースもあります(7)。
従って、スピン密度波が生じたとしても
クーパー対を満たす条件が付加的に存在する
ということが考えられます。
他方で、
2005年にScience誌で発表された125の未解決問題として
室温動作できるスピントロにクスが挙げられていました。
そんな中、スピンが渦上に生じるスキルミオンが室温で生じた
という報告があります(8)。
これは「非自明なトポロジー」として定義され、
スピンパターンが集団的であるため安定であるかもしれません。
一方、超電導は「究極のスピントロニクス」であるとも言えます。
このような繊細な条件をノイズの大きな常圧、室温で
実現する事ができるか?ということです。
現時点で電子系を2次元にすることが
高温超電導において利点があるかどうかについては懐疑的です。
(参考文献)
(1)
(Reference)
(1)
Marco Durante, Jürgen Debus & Jay S. Loeffler
Physics and biomedical challenges of cancer therapy with accelerated heavy ions
Nature Reviews Physics (2021)
(2)
九州国際重粒子線がん治療センターサガハイマット)
重粒子線がん治療とは
(3)
Tomasz Smoleński, Pavel E. Dolgirev, Clemens Kuhlenkamp, Alexander Popert, Yuya Shimazaki, Patrick Back, Xiaobo Lu, Martin Kroner, Kenji Watanabe, Takashi Taniguchi, Ilya Esterlis, Eugene Demler & Ataç Imamoğlu
Signatures of Wigner crystal of electrons in a monolayer semiconductor
Nature volume 595, pages53–57 (2021)
(4)
Hongyuan Li, Shaowei Li, Emma C. Regan, Danqing Wang, Wenyu Zhao, Salman Kahn, Kentaro Yumigeta, Mark Blei, Takashi Taniguchi, Kenji Watanabe, Sefaattin Tongay, Alex Zettl, Michael F. Crommie & Feng Wang
Imaging two-dimensional generalized Wigner crystals
Nature volume 597, pages650–654 (2021)
(5)
Philip Phillips, Yi Wan, Ivar Martin, Sergey Knysh & Denis Dalidovich
Superconductivity in a two-dimensional electron gas
Nature volume 395, pages253–257 (1998)
(6)
S. Nakata, M. Horio, K. Koshiishi, K. Hagiwara, C. Lin, M. Suzuki, S. Ideta, K. Tanaka, D. Song, Y. Yoshida, H. Eisaki & A. Fujimori
Nematicity in a cuprate superconductor revealed by angle-resolved photoemission spectroscopy under uniaxial strain
npj Quantum Materials volume 6, Article number: 86 (2021)
(7)
ChouChung-Pin et al.
The nematicity induced d-symmetry charge density wave in electron-doped iron-pnictide superconductors
Physica C: Superconductivity and its Applications Volume 546, 15 March 2018, Pages 61-67
(8)
S. Das, Y. L. Tang, Z. Hong, M. A. P. Gonçalves, M. R. McCarter, C. Klewe, K. X. Nguyen, F. Gómez-Ortiz, P. Shafer, E. Arenholz, V. A. Stoica, S.-L. Hsu, B. Wang, C. Ophus, J. F. Liu, C. T. Nelson, S. Saremi, B. Prasad, A. B. Mei, D. G. Schlom, J. Íñiguez, P. García-Fernández, D. A. Muller, L. Q. Chen, J. Junquera, L. W. Martin & R. Ramesh
Observation of room-temperature polar skyrmions
Nature volume 568, pages368–372 (2019)
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