2022年1月4日火曜日

腫瘍組織の構造と進化のモードの関係

//背景//ーー
癌細胞の表現型、特質の一つは
細胞内に含まれる遺伝子情報によると考えられます。
癌細胞の進化を考えるときには
系統樹(phylogenetic tree)というのがあります。
ネットワーク構造の中のグラフ理論のような
癌細胞系統ごとに発生元から枝分かれした図です。
参考文献(1)ではFig.2d,h,l,pにあたります。
主要組織の中に複数の系統を持つ癌細胞が共存している時には
参考文献(2)Fig.4のような組織になっており、
それぞれ系統ごと色分けして区別されています。
このようなそれぞれの色の小領域を継ぎ合わせたものを
パッチワーク(Patch-work)と呼んでいると理解しています。
つまり、特定の主要組織の系統の空間的配置のパターンと
いえると考えられます。
このような癌細胞のパッチワークは
〇遺伝子変異
〇遺伝子選択性
〇遺伝子浮動(genetic drift)
(小集団になったときに偶発的に特定遺伝子が主要となる現象。
つまり、大きな細胞集団では起こりにくいけど
それが小さくなった時に起きやすい遺伝子的な進化
と言えると考えられます。)
〇細胞の播種、散在
これらのによって生じ、
それが癌治療の感受性に関わるとされています(3)1。

例えば、新型コロナウィルスにも系統樹があり、
様々な変異を繰り返してきました。
アルファ株、デルタ株、オミクロン株が順に主要になっています。
それぞれに対して、伝染性やワクチンの効き目は変わっています。
もし、系統樹が止まり進化が起きなければ、
今の世界の疫学的状況とは異なる可能性があります。
つまり、
治療の効果が変わっている可能性があるという事です。
癌細胞の場合は、主には非伝染性の疾患で
個人の身体の中で閉じてネットワークが築かれます。
その中で、場合によれば何十年も長い間身体の中にとどまって
その長い期間で進化していくと考えられます。
ウィルスを例にとってもわかるように
身体の中で進化し続けている癌細胞の治療の効果は
同じ人でも経時的に変わっていくと考えられます。
癌治療が終わってしばらくして再発する事がありますが、
それも癌細胞の遺伝子的な変化、進化が関わっている可能性があります。
従って、
本日内容を引用し、追記しながら
丁寧に記述させていただくRobert Noble氏らが報告しているように
癌の進化のモード(種類)について考える必要があります(1)。
しかしながら、実際に人の身体の様々な部位で
起こっている癌細胞がどのように遺伝的に変わって
進化しているかということの詳細は未知であるとされています(1)。
その疑問は
〇なぜ違う種類の癌は違う進化のモードですか?(4-10)
〇頻繁に遺伝的に進化するための条件は何ですか?(4,11-13)
〇なぜ腫瘍組織全分析は中立進化(14)と自然選択進化(15)を示しますか?
(中立進化説)
自然淘汰に対して有利不利もなく、進化を決める条件は
突然変異と遺伝的浮動が進化の主因であるという説。
(自然選択説)
より環境に適合した遺伝子が主要となる説。
これらであるとされています(1)。

従来から考えられてい進化に関わる要因として
〇癌微小環境の異種性
〇癌細胞の局所条件
〇癌細胞クローン間の相互作用
これらが挙げられています(3,16-19)。
しかしながら、
〇癌細胞癌の種類ごとの違い
〇癌細胞の進化のモードの違い
これらについては今まで詳しく調べられてきませんでした(1)。
癌細胞は種類によって集団的組織の構造は異なります。
①細胞が独立している(Non-spatial):血液性癌
②,③腺(粘膜)で複数の癌細胞が覆われている
(②Gland fission, ③Invasive glandular)
大腸癌、乳癌、肺癌など
④接合して塊として成長している(Boundary growth)
肝臓癌など
これらの4つのモードが進化を考える上で
重要な種類として考えられています(20,21)。
(参考文献(1) Fig.1より)

Robert Noble, Dominik Burri, Cécile Le Sueur, Jeanne Lemant, Yannick Viossat, Jakob Nikolas Kather & Niko Beerenwinkel
(敬称略)ら医療研究グループは
基礎的な進化理論に基づいて以下のようにモデルを立て
数学的に上の4つのモード(①~④)の進化について計算しています。
同時にすでに明示されている人の癌のデータとの整合性を評価しています(1)。
(モデルのルール)
〇Simulated tumours arise from a single cell that has acquired a fitness-enhancing mutation
〇Each time a tumour cell divides, its daughter cells can acquire passenger mutations, which have no fitness effect more rarely driver mutations, which confer a fitness advantage
つまり、細胞の進化(適合度の強化)、細胞分裂の条件について示されています。

//結果(1)//ーーー
①細胞が独立している(Non-spatial)
血液性の癌(白血病)は、空間的な制限がない状態で癌細胞が増えていきます。
その条件で計算した時には、同じ癌ドライバー遺伝子変異を持った細胞が
主要となり成長していくことが示されています(Fig,2 a-d)
従って、ドライバー変異に対してクローナル多様性が小さく
"Selective sweep"という領域となります(Fig.3b,c)
この癌においては実際に人から採取した急性骨髄性白血病の
癌細胞の遺伝子的な特徴と領域として一致しています。
自然選択の役割は高く、
今回の計算との一致度は83%となっています(Table 1)。

②腺(粘膜)で複数の癌細胞が覆われている(Gland fission)
これは腺ごと、つまり複数の細胞が覆われた状況で
分裂しながら数が増えていくモードです(Fig.1b)。
大腸がんで多いモードであるとされています(22,23)。
系統樹は「イチョウの葉のように」広がっていく
"Highly branched mode"です(Fig.2h)。
従って、多種多様な色のパッチワークとなる
系統として多様で、異種性の高い腫瘍組織となるモードです。
(Fig.2e-h)
大腸がんのデータがFig.3bに示されていませんので
実際にその一致度を評価する事は難しいですが、
そのクローナル多様性が他の癌に比べて高いかどうか
については実際に遺伝子分析による再評価が必要です。
ただ、普通に考えると
複数の癌細胞の塊として分裂していくので
その中に含まれる遺伝子数が大きいことから
単一腺腫ごとの異種性は生まれすいと考える事ができます。
今回の計算との一致度は39%となっています(Table 1)。

③腺(粘膜)で複数の癌細胞が覆われている(Invasive glandular)
腺(粘膜)に覆われた癌細胞が塊から飛び出して
癌細胞が進化、成長していくモードです(Fig.2 3行目)。
この癌は、大腸癌、乳癌、肺癌に見られるとされています(21,24)。
肺癌と乳癌に関しては、このモードの成長で定義される
領域"Branching"に入っているとされています。
(Fig.3b,c, Fig.3bのC:肺癌, TN:乳癌)
②のモードよりも系統樹の広がりが抑えられたモードです。
大腸がんの場合はこちらのモードでも進化、成長が考えられる
とされています。
今回の計算との一致度は62%となっています(Table 1)。

④接合して塊として成長している(Boundary growth)
これは癌細胞がむき出しのまま境界を作って
積み上げられて腫瘍組織を形成するモデルです。
一部の肝臓癌に当てはまるとされています(9,25)。
このモデルでは遺伝的浮動が自然選択よりも主要である
という事が示されています(1)。
系統樹は線形であり、遺伝子変異の数と異種性は低いは
共に考えられています(Fig.2m-p)(Fig.3c左下赤+の印)。
今回の計算との一致度は85%となっています(Table 1)。

//考察//ーー
微生物のHorizontal gene transfer(HGT)と呼ばれる
複数の細胞の遺伝子物質の移動があります。
これが菌膜(Biofirm)でホットスポットであるとされています(26)。
腺に当たる粘膜も菌膜と同じように癌細胞間での遺伝子物質の効率的な
移動に関与している可能性があります(27)。
つまり腺腫のそれぞれの癌細胞の遺伝的な相互作用が
独立して存在する癌細胞よりも大きい可能性です。
それによって複雑な進化を遂げる可能性があるということです。
②の分裂まで膜に覆われた状態だと
その複雑性がより顕著になると推測します。
腺腫の癌の方がより治療が難しいかどうか?
適切な遺伝子分析を行えば、クローナル多様性の低いと考えられる
血液性の癌、癌細胞膜がむき出しになった腫瘍の方が
治療効果は高いのか?
そのような臨床を含む検証の価値が
この報告によって見直されると考えます。

(参考文献)
(1)
Robert Noble, Dominik Burri, Cécile Le Sueur, Jeanne Lemant, Yannick Viossat, Jakob Nikolas Kather & Niko Beerenwinkel 
Spatial structure governs the mode of tumour evolution
Nature Ecology & Evolution (2021)
(2)
James R. M. Black & Nicholas McGranahan 
Genetic and non-genetic clonal diversity in cancer evolution
Nature Reviews Cancer volume 21, pages379–392 (2021)
(3)
Greaves, M. & Maley, C. C. 
Clonal evolution in cancer. 
Nature 481,  306–313 (2012).
(4)
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Tumor evolution: linear, branching,  neutral or punctuated? 
Biochim. Biophys. Acta Rev. Cancer 1867,  151–161 (2017).
(5)
Turajlic, S., Sottoriva, A., Graham, T. & Swanton, C. Resolving genetic 
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Nat. Genet. 47, 209–216 (2015).
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(26)
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Biofilms: hot spots of horizontal gene transfer (HGT) in aquatic environments, with a focus on a new HGT mechanism
FEMS Microbiology Ecology, Volume 96, Issue 5, May 2020, fiaa031,
(27)
Catalina Trejo-Becerril 1, Enrique Pérez-Cárdenas, Lucía Taja-Chayeb, Philippe Anker, Roberto Herrera-Goepfert, Luis A Medina-Velázquez, Alfredo Hidalgo-Miranda, Delia Pérez-Montiel, Alma Chávez-Blanco, Judith Cruz-Velázquez, José Díaz-Chávez, Miguel Gaxiola, Alfonso Dueñas-González
Cancer progression mediated by horizontal gene transfer in an in vivo model
PLoS One. 2012;7(12):e52754. 


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