2022年1月6日木曜日

妊娠合併症(子癇)予測の為の血液採取によるcfRNA分析

//Views for Ref.(1)//ーー
妊娠中の母親と胎児の健康状態は
主には超音波検査で調べられます(3)。
より詳しい検査となると侵襲のプロセスにおける
DNAやRNAの採取ということになりますが、
それには「倫理的かつ手続き的」な問題があります。
従って、尿、唾液、便、血液などの
定期的に排出される(液体)生検から
母親と胎児の健康状態を管理する事が有効だと考えられます。
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Lydia L. Shook & Andrea G. Edlow(敬称略)
マサチューセッツ総合病院、
ハーバードメディカルスクールの医療研究グループは
Morten Rasmussen, Mitsu Reddy, Rory Nolan(敬称略)ら
アメリカのサンフランシスコのMirvie, Incが
代表となった国際的な医療研究グループの研究(1)を総括して
従来から知られている情報、保有されている経験、知識など
を加えながら記事を上梓されています(2)。
研究の内容は
妊娠時期の母親から採取した(cell-free)RNAによって
健康状態と疾患(主に子癇)が生じる前段階の信号を
明らかにしようというものです。
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初めにLydia L. Shook氏、 Andrea G. Edlow氏らの
記載の中で筆者が感じる大切な事を述べておきます。
胎児や母体の異常な信号を早く見つける事は
メリットだけが浮かび上がる感じはありますが、
必ずしもそうとは限りません。
後にも述べますが異常な高血圧などが生じる子癇は
おそらく根本的な生理としても
癌と同じように初期でその信号が本当に生じていたとしても
問題となるような症状に必ずしも至るかどうかわからない
ということです。
従って、仮に子癇の前段階の信号を100%の感度で
早い段階で見つけられたとしても、
必ずしも子癇に発展しないと考えられるということです。
従って、もし、本日紹介する
(cell-free)RNA、つまり細胞外に循環しているRNAの
採取、分析によって
「あなたは子癇になる可能性が高い。」
このように診断されると
確かに一定割合(Ref.(1)では32%)は子癇に発展するのですが
それ以外の人は診断された事による
過度な不安が生じうるということです。
母親の心の状態が胎児や母体に影響を与えるということは
十分に考えられることですし、
適度な運動、バランスの取れた食事、睡眠など
基本的な生活も重要です。
これらの活動は心の状態によって乱されやすいですから、
多面的に考えれば、非常に複雑な問題であると
少なくとも私見として考えます。
一方で、
液体生検などの遺伝子、バイオマーカー分析が進み
その正確性が上がって、妊娠から14週間までの
妊娠初期(第一期)に子癇に発展することが予測できれば、
アスピリンなどの投与量は少なくて済み
予防的な治療の効率が上がることが指摘されています(2)。
最終的に分析技術や医療への適用可能性が成熟してきた時には
私見では少なくともリスクとベネフィットを示したうえで
医療スタッフと母親と父親の間での
分析可否に関する同意が必要だと思います。
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Morten Rasmussen氏らは世界の様々な地域から
8の独立したグループの中で1840人の妊娠女性から
2539の血漿サンプルによって
cfRNAの分析を行っています(1)。
それにより
①妊娠期間の特定(within 14.7 day accuracy)
(参考文献(1) Fig.1b)

これにより血漿サンプルからそれぞれの妊娠女性と紐づけなくても
妊娠期間の情報が得られるということです。
また分娩予定日の決定も超音波が使えない場合において
実施できる可能性があります。
-
②胎児の臓器の発育の状態を追跡できる可能性がある

過去の報告で胎児の組織特異的なcfRNAの検出の可能性が
示唆されています(4)。
Morten Rasmussen氏らは
・母体の組織
・胎児の臓器
・胎盤
これら特異的なcfRNA転写産物を得ています。
(参考文献(1) Fig.2)
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③子癇の前兆を知ることができる
子癇(しかん)とは、周産期に妊婦が
・異常な高血圧
・けいれん
・意識喪失
・視野障害
これらのいずれか/共に起こす状態です。
分娩前にも分娩中にも産褥期(出産後6~8週)にも起こりうる
とされています。
おおよそ2-8%の妊娠女性に生じ、
多臓器システムに対する損傷の原因になり
妊婦、胎児いずれか/共に
重篤な疾患(慢性的な心臓血管疾患)、死亡などを
引き起こし得るとされています(5,12)。
この子癇の前兆に関しては明確にはわかっていない一方で
まだ胎盤が十分に形成されていない妊娠初期からの
状態が関与していることが示唆されています(2)。
Morten Rasmussen氏らは、
子癇ではないコントロール群とは異なる7つの
前兆を示すと考えられる遺伝子をcfRNAから特定しました(1)。
<7つの遺伝子>
CLDN7, PAPPA2, SNORD14A, 
PLEKHH1, MAGEA10, TLE6, FABP1 
(Ref.(1) Fig. 3b)
このうち4つは以前から子癇の前兆もしくは胎盤発育
に関連する遺伝子であると指摘されていました(6-9)。
その基準に基づき、数学的なモデルを使って
子癇の前兆の可能性を見積もった結果
おおよそ75%の感度に達しました。
実際に14%の妊娠女性が子癇の前兆を示す結果となり
このうち32%(PPV)が実際に子癇に罹患しました(1)。
このPPV:32%は従来示されたPPVに対して
おおよそ7倍の数字(従来PPV:4.4%)に当たるとされています(10)。
一方、子癇の前兆を示すとされた14%は
実際の疫学調査の2-8%よりも高く、
一部の妊娠女性に対して偽陽性が生じている可能性も
示唆されています(2)。
従って、もし偽陽性が生じているならば、
遺伝子、バイオマーカーなどの基準、
計算モデルなどを精製し、精度が上がれば、
前兆から子癇に発展するPPVは
もう少し高くなる可能性が考えられます。
-
(追記)
液体生検の信号がどの組織、細胞にあったのか?
このような生体内位置情報を得る事が
私は難しいと認識していましたが、
実際にはRNAなどの転写生成物の細胞種特異的なデータベース
は世界に存在します
the Connectivity Map(11)。
従って、周産期に特異的に生じる疾患に対して
母親の血液などを採取して分析する事で
母親、胎児両方の組織、細胞種特異的な信号が得られ
そのデータをもとに治療できる可能性も期待されます(2)。

(参考文献)
(1)
Morten Rasmussen, Mitsu Reddy, Rory Nolan, Joan Camunas-Soler, Arkady Khodursky, Nikolai M. Scheller, David E. Cantonwine, Line Engelbrechtsen, Jia Dai Mi, Arup Dutta, Tiffany Brundage, Farooq Siddiqui, Mainou Thao, Elaine P. S. Gee, Johnny La, Courtney Baruch-Gravett, Mark K. Santillan, Saikat Deb, Shaali M. Ame, Said M. Ali, Melanie Adkins, Mark A. DePristo, Manfred Lee, Eugeni Namsaraev, Dorte Jensen Gybel-Brask, Lillian Skibsted, James A. Litch, Donna A. Santillan, Sunil Sazawal, Rachel M. Tribe, James M. Roberts, Maneesh Jain, Estrid Høgdall, Claudia Holzman, Stephen R. Quake, Michal A. Elovitz & Thomas F. McElrath
RNA profiles reveal signatures of future health and disease in pregnancy
Nature (2022)
(2)
Lydia L. Shook & Andrea G. Edlow
A blood test to predict complications of pregnancy
Nature (2022)
(3)
丸の内の森レディースクリニック
胎児超音波検査
(4)
Koh, W. et al. Proc. Natl Acad. Sci. USA 111, 7361–7366 (2014).
(5)
ACOG. Obstet. Gynecol. 135, e237–e260 (2020).
(6)
Kramer, A. W., Lamale-Smith, L. M. & Winn, V. D. Placenta 37, 19–25 (2016).
(7)
Schumann, S., Buck, V. U., Classen-Linke, I., Wennemuth, G. & Grümmer, R. Histochem. Cell Biol. 144, 571–585 (2015).
(8)
Alazami, A. M. et al. Genome Biol. 16, 240 (2015).
(9)
Cunningham, P. & McDermott, L. J. Nutr. 139, 636–639 (2009).
(10)
Tan, M. Y. et al. Ultrasound Obstet. Gynecol. 52, 186–195 (2018).
(11)
Lamb, J. Nature Rev. Cancer 7, 54–60 (2007).
(12)
Rich-Edwards, J. W., Fraser, A., Lawlor, D. A. & Catov, J. M. 
Pregnancy characteristics and women’s future cardiovascular health: an underused opportunity to improve women’s health? 
Epidemiol. Rev. 36, 57–70 (2014).


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