//背景//ーー
ヒト免疫不全ウィルス(HIV)感染症とは、主に白血球のひとつである
CD4+T細胞に感染して、症状が悪化した場合には
免疫細胞が破壊され、後天性免疫不全症候群(エイズ)を
引き起こすことがある感染症です。
子供においてもHIV感染症は低中所得国を中心に広がりを見せており、
年間で180万人の子供、若い人の感染が確認されています(2)。
また、子供や若い人の対する治療の選択肢は
大人に比べて限られており、治療の結果は劣るとされています(2)。
ー
HIVの治療は抗レトロウィルス療法という抗ウィルス剤を
併用する療法です。細胞の中でウィルスが増える過程で働く
インテグラーゼと呼ばれる逆転写酵素の働きを抑制します。
これはウィルス遺伝子が宿主細胞の核内染色体に組み込む酵素なので
CD4+ T細胞の染色体の遺伝子がHIVウィルスによって
病原性を示すように書き換えられないようにする薬剤です。
本日、主に報告を引用させていただいた
ドルテグラビルは第二世代の抗レトロウィルス薬で
同様にインテグラーゼを抑制する薬剤です(3)。
//ワクチンについて//ーー
一方、インフルエンザや新型コロナウィルスのように
HIV感染症を事前にある程度防ぐ
承認されているワクチンは存在しません。
その理由であるといわれています。
ー
〇HIV-1の感染メカニズムが詳細は不明
例えば、HIV-1がCD4+ T細胞にどのように入るか?
HIVの表面構造:gp41, gp120, Variable loop3
宿主細胞:CD4受容体, Coreceptor, 融合ペプチド
これらが関わっていることが示唆されています。
(参考文献(4) Figure 1)
⇒
CD4は免疫機能の基本的な受容体なので
ナノボディーなどで蓋をすることは難しいかもしれません。
従って、HIVの細胞エントリーに関わる
表面タンパク質の構造とエピトープが分かれば、
そこに結合して細胞エントリーを抑える薬となりますが、
常に飲み続ける必要があるかもしれません。
-
〇防御免疫誘導メカニズムが不明
CD4+T細胞に感染した後、免疫不全に発展するまでの
生理経路が明らかではないということです。
従って、現状ではウィルスの量を制御する
抗レトロウィルス療法しか選択肢がありません。
ー
新型コロナウィルスワクチンで初めてmRNAワクチンが
開発され、実用化されました。
HIV感染症に対してもmRNAワクチンの研究が進んでいます。
Peng Zhang, Elisabeth Narayanan(敬称略)ら
アメリカ国立衛生研究所、モデルナ社などの団体によって
2021年12月に発表された報告(5)によれば
〇ウィルスのエンベロープ膜上のタンパク質(HIV-1 Env)、
〇粒子内にあるタンパク質(SIV Gag)
これらのタンパク質をナノ粒子の中にいれ、
(参考文献(5) Fig.2b)
マウス、アカゲザルでウィルス中和抗体ができるかどうか
試験されました。
マウスでは接種後40日後から60日後に
中和抗体の高いレベルが維持されています。
(参考文献(5) Fig.2c,d)
アカゲザルにおいて中和能力を58週間、
合計で9回、4種類のmRNAワクチンを接種することで
高いレベルを維持する事に成功しています。
また、ブースター接種することで
中和抗体のレベル、持続性が高まっています。
(参考文献(5) Fig.4a)
これらによりウィルス(SHIV AD8)暴露リスクは
約79%低下したことが示されています(5)。
但し、これは人に対する結果ではありません。
生成された抗体がどのようにウィルス量の低減に貢献したのか?
新型コロナウィルスと同じように
構造的な観点も含めて分析する事で
よりワクチン技術を改善する事に成功する可能性があります。
//臨床報告(1)//ーー
ドルテグラビルは
2013年に米国で医療用医薬品として承認されました。
2019年時点で、世界保健機関(WHO)は、
すべてのHIV感染者の第一選択薬および第二選択薬として
推奨している薬です。
日本では2014年3月に承認されました。
2020年6月に子供に対しても承認されました。
すでに大人に対する臨床報告では
他の抗ウィルス治療に対して優れた結果が得られています(6,7)。
その子供に対するドルテグラビルの臨床報告が
A. Turkova, E. White(敬称略)ら医療研究グループによって
報告されています(1)。
その内容の一部を引用させていただき、
読者の方と情報共有したいと思います。
トライアル名: ODYSSEY trial
//結論(1)//ーー
ドルテグラビルをベースとする治療は
他の治療(*:Standard care)に比べて、
下記基準(**:Treatment failure)において
優れていることが示されました。
(*:Standard care)
〇A nonnucleoside reverse-transcriptase inhibitor (NNRTI),
〇Boosted protease inhibitor, or non-dolutegravir integrase inhibitor plus two NRTIs.
(**:Treatment failure)
〇A decrease of less than 1log10 in the viral load at week 24
(or a viral load of ≥50 copies per milliliter at week 24 if the viral load had been <500 copies per milliliter at baseline)
〇A switch to second- or third-line ART for treatment failure; virologic failure
(defined as two consecutive viral-load results of ≥400 copies per milliliter, the first occurring at or after week 36);
〇A new or recurrent acquired immunodeficiency syndrome (AIDS)–defining event (WHO stage 4)
〇Severe WHO stage 3 event; or death from any cause.
//条件(1)//ーー
(国)
ウガンダ:331人/ジンバブエ:146人/南アフリカ:144人
タイ:61人/ヨーロッパ: 25人
(性別)
女性比率:49%
(年齢)
中央値:12.2歳(2.9-18歳)
(ウィルス量)
中央値: 4.4 log10 copies/ml
(WHO ステージ)
1 or 2: 73%
3: 18%
4: 8%
//結果(1)//ーー
ドルテグラビル/標準治療(//結論//**:Standard care参照)
治療失敗の人数と確率(//結論//**:Treatment failure参照
(48週)
ドルテグラビル:20人/350人(6%)
標準治療:42人/357人(12%)
(96週)
ドルテグラビル:47人/350人(14%)
標準治療:75人/357人(22%)
(48週)
ドルテグラビル:56人/350人(17%)
標準治療:87人/357人(27%)
-
(その他)
ドルテグラビル治療による
抗ウィルス抵抗性は2年以内で確認されていない。
//副作用//ーー
(重篤な副作用)
ドルテグラビル:65人/350人(35%)
標準治療:44人/357人(40%)
(グレード3以上)
ドルテグラビル:113人/350人(73%)
標準治療:132人/357人(86s%)
//考察//ーー
重篤な副作用は感染症、血液系のものが多いです。
(Table S10.2)
主に作用させる細胞が免疫細胞なので
それによって血液や免疫機能に異常が出やすいという事だともいます。
HIVはCD4+T細胞に感染するので
一般的な感染症よりも体への影響なしに
制御するのが難しいのではないかと考えられます。
前述したようにmRNAワクチンや
ナノボディーなどによって
細胞外でウィルスの侵入を防ぐ働きのある薬を同時に
投与する事も考えられます。
HIVは新型コロナウィルスと異なり
潜伏期間が長いのでmRNAワクチンの用途は
予防的なものに限られない可能性があります。
今後の有望な研究開発、臨床試験を期待します。
(参考文献)
(1)
Anna Turkova, M.R.C.P.C.H., Ellen White, Ph.D., Hilda A. Mujuru, M.Med., Adeodata R. Kekitiinwa, M.Med., Cissy M. Kityo, Ph.D., Avy Violari, F.C.Paed., Abbas Lugemwa, M.D., Tim R. Cressey, Ph.D., Philippa Musoke, Ph.D., Ebrahim Variava, F.C.P.(S.A.), Mark F. Cotton, Ph.D., Moherndran Archary, Ph.D., Thanyawee Puthanakit, M.D., Osee Behuhuma, M.B., Ch.B., Robin Kobbe, M.D., Steven B. Welch, F.R.C.P.C.H., Mutsa Bwakura-Dangarembizi, M.Med., Pauline Amuge, M.Med., Elizabeth Kaudha, M.Med., Linda Barlow-Mosha, Ph.D., Shafic Makumbi, B.Sc., Nastassja Ramsagar, B.Med.Sc., Chaiwat Ngampiyaskul, M.D., Godfrey Musoro, M.Sc., Lorna Atwine, B.Sc., Afaaf Liberty, M.B., Ch.B., Victor Musiime, Ph.D., Dickson Bbuye, M.B., Ch.B., Grace M. Ahimbisibwe, M.Sc., Suwalai Chalermpantmetagul, M.Sc., Shabinah Ali, M.Sc., Tatiana Sarfati, M.Sc., Ben Wynne, M.Sc., Clare Shakeshaft, M.Sc., Angela Colbers, Ph.D., Nigel Klein, Ph.D., Sarah Bernays, Ph.D., Yacine Saïdi, Ph.D., Alexandra Coelho, Ph.D., Tiziana Grossele, B.Sc., Alexandra Compagnucci, M.D., Carlo Giaquinto, M.D., Pablo Rojo, Ph.D., Deborah Ford, Ph.D., and Diana M. Gibb, M.D. for the ODYSSEY Trial Team*
Dolutegravir as First- or Second-Line Treatment for HIV-1 Infection in Children
The New England Journal of Medicine 2021; 385:2531-2543
(2)
Joint United Nations Programme on HIV/AIDS (UNAIDS).
Progress towards the Start Free, Stay Free, AIDS Free targets: 2020 report. 2020
(https://www . unaids . org/ sites/ default/ files/ media_asset/ start - free - stay - free - aids - free - 2020 - progress - report _en . pdf).
(3)
Namrata M. Nilavar, Amita M. Paranjape & Sathees C. Raghavan
Biochemical activity of RAGs is impeded by Dolutegravir, an HIV integrase inhibitor
Cell Death Discovery volume 6, Article number: 50 (2020)
(4)
Craig B. Wilen, John C. Tilton, and Robert W. Doms
HIV: Cell Binding and Entry
Cold Spring Harb Perspect Med. 2012 Aug; 2(8): a006866.
(5)
Peng Zhang, Elisabeth Narayanan, Qingbo Liu, Yaroslav Tsybovsky, Kristin Boswell, Shilei Ding, Zonghui Hu, Dean Follmann, Yin Lin, Huiyi Miao, Hana Schmeisser, Denise Rogers, Samantha Falcone, Sayda M. Elbashir, Vladimir Presnyak, Kapil Bahl, Madhu Prabhakaran, Xuejun Chen, Edward K. Sarfo, David R. Ambrozak, Rajeev Gautam, Malcom A. Martin, Joanna Swerczek, Richard Herbert, Deborah Weiss, Johnathan Misamore, Giuseppe Ciaramella, Sunny Himansu, Guillaume Stewart-Jones, Adrian McDermott, Richard A. Koup, John R. Mascola, Andrés Finzi, Andrea Carfi, Anthony S. Fauci & Paolo Lusso
A multiclade env–gag VLP mRNA vaccine elicits tier-2 HIV-1-neutralizing antibodies and reduces the risk of heterologous SHIV infection in macaques
Nature Medicine volume 27, pages2234–2245 (2021)
(6)
Kanters S, Vitoria M, Zoratti M, et al.
Comparative efficacy, tolerability and safety of dolutegravir and efavirenz 400mg among antiretroviral therapies for firstline HIV treatment: a systematic literature review and network meta-analysis.
EClinicalMedicine 2020; 28: 100573.
(7)
Nickel K, Halfpenny NJA, Snedecor SJ, Punekar YS.
Comparative efficacy, safety and durability of dolutegravir relative to common core agents in treatment-naïve patients infected with HIV-1: an update on a systematic review and network meta-analysis.
BMC Infect Dis 2021; 21: 222.
2022年1月3日月曜日
ウィルス学,
ワクチン学,
周産期/新生児/小児医療,
青年期医療,
低中所得国医療,
免疫学,
臨床医学
HIV感染症に対するドルテグラビルの子供における臨床結果とmRNAワクチン
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