//背景//
80年以上前に抗生物質が発見されて以来
人や動物の健康の顕著な改善が実現されました。
一方で、抗生物質に耐性を持つ細菌が発生することが
1つの世界的な脅威となっています。
Jesper Larsen, Claire L. Raisen(敬称略)ら
国際的な医療研究グループは、
メチシリンに対して抵抗性を持つ
黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)は
実際に抗生物質が臨床的に使われた前から
主にヨーロッパのハリネズミに存在していたことを示しています(1)。
-
(黄色ブドウ球菌について)
・症状
表皮感染症や食中毒、また肺炎、髄膜炎、敗血症等
*但し、人の皮膚表面、毛孔、鼻腔に存在し
創傷部などから体内に侵入した場合に発病する事が多いが
その菌の数が多くならないと毒性は弱いとされています。
-
上述したメチシリンに抵抗性を持つ黄色ブドウ球菌は
抗生物質に抵抗性を持つ細菌の一つです。
ヨーロッパだけで年間17万1000人の非侵襲の感染がある
とされています(2)。
世界でも抵抗性黄色ブドウ球菌は見つかっており、
家畜である豚や牛でも同様です(3,4)。
-
上述したように
感染して食中毒、肺炎、髄膜炎、敗血症などの症状が出ることがあり、
その治療として使われる抗生物質に対して抵抗性を持つことから
世界保健機関(WHO)は抵抗性黄色ブドウ球菌は
人の健康を脅かす重要な懸念事項として挙げています(5)。
-
この抵抗性は
・mecA、mecC
これらの遺伝子によって生じます。
これは抗生物質であるペニシリン結合タンパク質2a、2c
・PBP2a, PBP2c
これらの酵素をコード化しています。
この酵素はβラクタム抗生物質のアミド結合をへき開するため
その作用における親和性が下がるとされています(1)。
それによりβラクタム抗生物質である
・ペニシリンG
・メチシリン
・セフォキシチン
これらに対して抵抗性を与えます。
-
上述したハリネズミのようにデンマークやスウェーデンの調査では
mecC遺伝子を持つ抵抗性黄色ブドウ球菌は
野生の中の自然選択進化によって生じた可能性が高い
とされています。
従って、抗生物質の臨床的使用によって生じた抵抗性ではなく
元々、自然の中で生じた抵抗性であると示唆されています(6,7)。
-
なぜ、自然選択の中で生じたのでしょうか?
1つの有力な説は
ハリネズミは皮膚糸状菌として
・Trichophyton erinacei(毛瘡白癬菌)
これが存在します。
この皮膚糸状菌がβラクタム系の構成物質
・ペニシリンG
これを産生すると言われているからです(8-15)。
従って、皮膚に感染すると考えらえる黄色ブドウ球菌は
同時に存在する毛瘡白癬菌のペニシリンのストレスにさらされ続け、
その中で抵抗性を持つ系統、株が自然選択の中で生じた
と推測する事ができます。
-
Jesper Larsen, Claire L. Raisen(敬称略)ら
ヨーロッパを中心とする医療研究グループは
①抵抗性黄色ブドウ球菌の分布
②毛瘡白癬菌によるβラクタム系抗生物質の産生
③②の中での黄色ブドウ球菌の進化
④抵抗性黄色ブドウ球菌の進化の歴史
⑤抵抗性黄色ブドウ球菌の経時変化
⑥議論
これらについて報告されています(1)。
この記事では①と⑥について焦点を絞り、
その内容の一部について読者の方と情報共有したいと思います。
さらに総合的な視点としての付加的な考察を提供します。
//①抵抗性黄色ブドウ球菌の分布//
mecC-MRSA
mec遺伝子メチシリン抵抗性黄色ブドウ球菌
ハリネズミ(hedgehogs)
(イングランド)
101/172 : 59%
(ウェールズ)
81/172 : 66%
(チェコ)
6/12 : 50%
(デンマーク)
11/22: 50%
(ポルトガル)
2/7: 29%
(ニュージーランド)
1/17: 6%
※比較的数が多くて上記抵抗性細菌が見つからない国
〇イタリア / 〇スペイン
(Extended Data Fig. 1 )
※mecC-MRSAの人への感染例はハリネズミより顕著に少ない
年間で3-36ケース(16)。
//⑥議論//
新型コロナウィルスでも初めの宿主は何か?
これが議論になります。
mecC-MRSAは抗生物質が普及する前から
ハリネズミで感染が見られており、
皮膚に感染している細菌がβラクタム系の抗生物質を
自然に分泌している事がわかったことから
この抗生物質に耐性を持つmecC-MRSAの
最初の宿主はハリネズミである可能性が高いとされています。
そこから家畜を含む動物に感染し、
最終的に人に感染していると推定されています(17)。
しかしながら、現時点では
mecC遺伝子を持つ抵抗性黄色ブドウ球菌
に感染しているハリネズミは局在化しています。
例えば、イタリアやスペインなどでは見られないとされています。
//考察//
人、家畜などの動物、昆虫、細菌、ウィルスなど
様々な階層の生物、ウィルスなどが世界に存在します。
例えば、森林の減少によって昆虫、細菌
それに伴うウィルスの生息域が変われば、
今までの生態系のバランスが崩れる事が考えられます。
また、国際化、発展途上国の都市化による要因によって
人とそれ以外の生物、ウィルスの接触機会が変化する
ということが考えられます。
ハリネズミのように複数の細菌の相互作用によって
人にとって脅威となる細菌やウィルスが
自然発生的に進化し、生まれる事も考えられます。
一方、
永久凍土の融解、
南極、グリーンランド、ヒマラヤの氷床融解などの
気候変動などの影響による生態系のバランスの変化もあります。
このような大きなバランスの変化は
必ずしも脅威となる細菌、ウィルスが生じるかどうかはわかりませんが、
それらの階層構造、分布が大きく変わる可能性は極めて高いです。
特に一気に社会に広がる可能性のある細菌やウィルスにおいて、
世界の劇的な変化の中で新たに生じるかもしれない
VOC(Variant of concern)に対して、
今までと同様に世界的な監視体制は重要になると考えられます。
(参考文献)
(1)
Jesper Larsen, Claire L. Raisen, Xiaoliang Ba, Nicholas J. Sadgrove, Guillermo F. Padilla-González, Monique S. J. Simmonds, Igor Loncaric, Heidrun Kerschner, Petra Apfalter, Rainer Hartl, Ariane Deplano, Stien Vandendriessche, Barbora Černá Bolfíková, Pavel Hulva, Maiken C. Arendrup, Rasmus K. Hare, Céline Barnadas, Marc Stegger, Raphael N. Sieber, Robert L. Skov, Andreas Petersen, Øystein Angen, Sophie L. Rasmussen, Carmen Espinosa-Gongora, Frank M. Aarestrup, Laura J. Lindholm, Suvi M. Nykäsenoja, Frederic Laurent, Karsten Becker, Birgit Walther, Corinna Kehrenberg, Christiane Cuny, Franziska Layer, Guido Werner, Wolfgang Witte, Ivonne Stamm, Paolo Moroni, Hannah J. Jørgensen, Hermínia de Lencastre, Emilia Cercenado, Fernando García-Garrote, Stefan Börjesson, Sara Hæggman, Vincent Perreten, Christopher J. Teale, Andrew S. Waller, Bruno Pichon, Martin D. Curran, Matthew J. Ellington, John J. Welch, Sharon J. Peacock, David J. Seilly, Fiona J. E. Morgan, Julian Parkhill, Nazreen F. Hadjirin, Jodi A. Lindsay, Matthew T. G. Holden, Giles F. Edwards, Geoffrey Foster, Gavin K. Paterson, Xavier Didelot, Mark A. Holmes, Ewan M. Harrison & Anders R. Larsen
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Challenge_Time_to_React.pdf (2009).
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(6)
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