//背景//-----
一般的な生き物と同様に私たち人間も
日々、水分、食べ物を摂って、
汗、唾液、尿、便、熱などで排出しています。
そのような栄養物の循環があります。
それは細胞レベルでも起こっています。
そうした恒常性の中で、特定の遺伝子的なものも含めて
異常が生じると特定のタンパク質などが過剰になったり
不足したりすることがあります。
例えば、アルツハイマー病、パーキンソン病などは
アミロイドβと呼ばれるたんぱく質が堆積します。
過剰になっているか、排出能力が落ちているかという問題はありますが、
循環の中で過剰になっていると考えられます。
一方、本日、引用させていただく筋ジストロフィーでは
ジストロフィンと呼ばれるたんぱく質が遺伝子異常によって
形成されないために筋組織に異常が出るという疾患です。
ー
このような特定の遺伝子によって起こる疾患は
その遺伝子情報を改変する事で
タンパク質レベルを正常に近づけることが可能です。
ー
しかしながら、それを実現するためにはいくつかの壁があります。
-
①効率的な輸送
その遺伝子を書き換えるための物質(RNA)を
ナノ粒子などで保護しながら、特定の組織(ここでは骨格筋)
まで輸送する必要があります。
ナノ粒子は材料によって輸送向性が異なります。
肝臓や腎臓で蓄積することもあるので、
それ以外の組織に効率輸送するためには
ナノ粒子材料、構成比などの最適化が必要です。
-
②細胞核まで輸送
細胞核の遺伝子情報の改変を行うためには
細胞膜⇒細胞質⇒(いくつかの膜?)⇒細胞核膜⇒細胞核
という経路をたどる必要があります。
その膜、細胞内小器官などによって反応や蓄積
分解などが生じる可能性が考えられます。
-
③免疫原性などの拒絶反応
ナノ粒子の種類、例えばウィルスベクターなどでは
免疫原性が生じ、免疫機能が乱される可能性があります。
それによって炎症が生じ、副作用が生まれます。
また免疫原性によってナノ粒子が分解されることもあります。
従って、免疫原性の生じにくいナノ粒子材料を選ぶ必要があります。
-
④オフターゲット
ナノ粒子の中に遺伝子するガイドRNAなどを入れた時
それが目的の遺伝子座に結合するか?
もし違う遺伝子に結合し、改変してしまった時には
異なる作用が生じてしまいます。
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⑤遺伝子改変の持続性
遺伝子改変によって生じた目的のタンパク質の分泌が
どれくらい持続するかというのも重要な問題です。
もし、短ければ、度々、ナノ粒子の導入を行う必要があります。
//主内容抜粋(1)//-----
Eriya Kenjo, Hiroyuki Hozumi, Yukimasa Makita, Kumiko A. Iwabuchi, Naoko Fujimoto
(敬称略)ら医療研究グループは
上述した①~⑤の課題をマウスのケースで高いレベルで解決しました(1)。
効率的な輸送のためには
・カチオン化脂質ナノ粒子
これを使いました。
遺伝子書き換えの為に
・Crispr-Cas9システム
これを使いました。
筋肉注射や灌流(液体を組織に流し込む)によって
マウスの骨格筋に広く行きわたらせることを実現しています。
また、このナノ粒子ではウィルスを使ったナノ粒子では見られない
繰り返しの同じ遺伝子編集が可能でした。
従って、効果が低下したとしても、
またジストロフィンタンパク質を向上させることができます。
一方、一回投与の結果、
マウスのケースで12カ月タンパク質レベルが上昇する事が
知られています。しかしデータからは
タンパク質レベルが安定的に十分に上がる迄には
6か月程度経過する必要があります。
(参考文献(1) Fig.4)
//考察//-----
これは京都大学iPS細胞研究所から上梓されている報告なので
脂質ナノ粒子の代わりにiPS細胞を使った
同じような研究も考えられます。
マウスは人の身体よりも有意に小さいので
ナノ粒子を腎臓や肝臓に堆積させずに如何に
有効に全身のジストロフィンが不足している骨格筋に運び
そこで遺伝子改変をしてジストロフィンが継続的に分泌させるようにするか
というのは人の場合は難しいかもしれません。
灌流投与の条件とそのリスクがどのように変わるか?
このことが考えられます。
しかし、iPS細胞と細胞種特異的輸送系統などを組みあわせて
厳しい灌流条件でなくても身体の大きな人に対して
よりターゲット性の高い輸送システムを組むことができる可能性があります。
ただし、"Cell-type-specific delivery system"の
1つの根本的な問題は
「細胞内にそのままRNAが存在できるか」
「それをどうやって特異的に放出させるか?」
といった問題があります。
細胞内では分解、消化の作用があり、
環境が動的なので、細胞内に保護して入れる形式においては
脂質ナノ粒子と比べて、困難であると想定しています。
一方、細胞の外側に結合させて、
複合体として輸送させることも考えられます。
その場合、どうやって保護するか?という問題が生じます。
ただし、iPS細胞は様々な細胞種を選ぶことができます。
その純化の製造プロセスも向上しています(2)。
それによって、免疫原性や輸送向性などにおいて
より高度な調整を行うことができる可能性があります。
(参考文献)
(1)
Eriya Kenjo, Hiroyuki Hozumi, Yukimasa Makita, Kumiko A. Iwabuchi, Naoko Fujimoto, Satoru Matsumoto, Maya Kimura, Yuichiro Amano, Masataka Ifuku, Youichi Naoe, Naoto Inukai & Akitsu Hotta
Low immunogenicity of LNP allows repeated administrations of CRISPR-Cas9 mRNA into skeletal muscle in mice
Nature Communications volume 12, Article number: 7101 (2021)
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Author information
Affiliations
T-CiRA Discovery, Takeda Pharmaceutical Company Limited, 26-1, Muraoka-Higashi 2-chome, Fujisawa, Kanagawa, 251-8555, Japan
Eriya Kenjo, Hiroyuki Hozumi, Yukimasa Makita & Naoto Inukai
Takeda-CiRA Joint Program, Fujisawa, Kanagawa, Japan
Eriya Kenjo, Hiroyuki Hozumi, Yukimasa Makita, Kumiko A. Iwabuchi, Naoko Fujimoto, Satoru Matsumoto, Masataka Ifuku, Youichi Naoe, Naoto Inukai & Akitsu Hotta
Center for iPS Cell Research and Application (CiRA), Kyoto University, 53 Kawahara-cho, Shogoin, Sakyo-ku, Kyoto, 606-8507, Japan
Kumiko A. Iwabuchi, Naoko Fujimoto, Masataka Ifuku, Youichi Naoe & Akitsu Hotta
Drug Product Development, Pharmaceutical Sciences, Takeda Pharmaceutical Company Limited, 26-1, Muraoka-Higashi 2-chome, Fujisawa, Kanagawa, 251-8555, Japan
Satoru Matsumoto
Drug Safety Research and Evaluation, Takeda Pharmaceutical Company Limited, 26-1, Muraoka-Higashi 2-chome, Fujisawa, Kanagawa, 251-8555, Japan
Maya Kimura & Yuichiro Amano
(2)
Yoshihiko Fujita 1 *, Moe Hirosawa 1 , Karin Hayashi 1 , Takeshi Hatani 2 , Yoshinori Yoshida 2 , Takuya Yamamoto 1,3,4 Hirohide Saito 1 *
A versatile and robust cell purification system with an RNA-only circuit composed of microRNA-responsive ON and OFF switches ,
Science Advance. 8, eabj1793 (2022)
2022年1月7日金曜日
Cell-type-specific delivery system,
iPS細胞,
遺伝学/遺伝子治療,
筋肉学
カチオン化脂質ナノ粒子による筋ジストロフィーCrispr-Cas9遺伝子編集
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