いつも記事を読んでくださり、ありがとうございます。
今、西日本でH5型の強毒性の鳥インフルエンザの例が
複数の地点で見つかっています。
昨日は広島県三原市の養鶏場で見られました。
香川県から始まって、宮崎県、福岡県などでも見つかっています。
シベリアからの渡り鳥によって運ばれるとされていますが、
専門家の方は、渡り鳥の移動時期はまだ続くので、
今以上の警戒を継続的にしていく必要があると言われています。
鳥インフルエンザも、もし豚に感染すると
そこから人に感染する可能性も考えられるので、
注意が必要な事から、
自治体の方が先導して初期消火に当たっているところです。
感染症の社会的脅威については
医療分野だけではなく、産業などにも及ぶので
今、強く実感していることですが、
新型コロナウィルスだけではなく
インフルエンザについて考えることも大切になります。
ただ、ワクチンや治療薬の考え方として
共通な部分もあるはずなので
今、全世界で行われている
研究開発、生産技術、連携、協力関係が
役に立つことはあると思っています。
新型コロナウィルスの流行に合わせて
いつもよりもインフルエンザに対して意識が高まっている方も多いと思います。
今年は幸いにも感染が広がっている状況ではないので
人の感染防止の社会的活動がその中の一定割合機能している
と考えられます。
しかしながら、毎年流行する季節性のインフルエンザでは
世界では毎年29万人~65万人の方が亡くなると
WHO(世界保健機関)は報告しています(1)。
インフルエンザは、日本では、
ワクチンも治療薬もあるので
毎年、大きくニュースに取り上げられることはないですが、
厚生労働省による情報では
毎年1000万人くらいの人がかかり
亡くなられる方は214~1818人程度と言われています。
世界の人口が77億人、日本が1億2600万人
だとすると世界の水準で見れば
4745人~10636人くらい亡くなる計算になりますが、
その水準よりも顕著に低いです。
またインフルエンザは寒い地域に流行する事を考えると
熱帯の人のリスクは小さいですから
実質的にはもっとインフルエンザに対する
医療状況は良いということになります。
しかしながら、
厚生労働省のデータによる
日本のインフルエンザの予防接種率は47.9%となっています。
世界で見ると65歳以上でみれば
韓国が一番高く80%、イギリスが70%、アメリカが65%程度です。
フランス、スウェーデンは同程度で50%
ドイツが35%と低くなっています。
おそらく文化的な問題もありますが、
世界的にみてワクチン接種率は決して高いわけではありません。
そうなると
亡くなられる方が平均して少ないのは、
・日本の方の健康状態が良いためか
・罹患した時の治療が良いか
・遺伝子も含めて罹患歴によって免疫機能が良いか
もしくはそれら複数によるか
ということが考えられます。
毎年11月くらいからインフルエンザ予防接種が始まります。
聞かれたこともあると思いますが、
毎年ワクチンの種類が変わっているといわれます。
現在、季節性のインフルエンザワクチンには
ヒト型として広がっている数種類のワクチン株を
含むように設計されているといわれています(1)。
インフルエンザにはA型とB型があり
それぞれの亜型がそれぞれ2種類ずつあります(1)。
しかしながら、それぞれの型において
(例えば)抗体を分泌させるB細胞が
ウィルスを認識するための抗原部位の構造が変わるために
ワクチンにおいてミスマッチ、不整合が起こる
と考えられています(2-5)。
従って、
年によっては、効きにくい年があったりするため
インフルエンザワクチンを接種しても罹患する場合があります。
しかし、
そういう場合においても症状が軽かったりするので
効果がないわけではありません。
冒頭で述べた様に
鳥インフルエンザのケースですがH5型という
強毒性のインフルエンザが今年西日本で流行しているので
新型インフルエンザのリスクが小さいわけでは決してありません。
そうした中で
ユニバーサル、統一的なインフルエンザワクチンが
世界的の望まれています。
新型コロナウィルスのコロナの部分、突起の部分がありますが
インフルエンザにも存在し
その部分は「hemagglutinin(HA)」と呼ばれます。
このHAの構造は大きく分けて
「茎」の部分と「頭」の部分があります。
(参考文献(1) Fig.1(a)より)
先ほど、ワクチンの不整合が起こって
年によってはかかりやすい場合もあると述べましたが
その一つの理由は、上述した「頭」の部分の
構造が変わりやすいからというのが挙げられます(6,7)。
一方、「茎」の土台の部分は
構造の安定性が「頭」の先端部よりも高いため(8)、
この部分に抗体が作用するように働かせることができれば
毎年のように起こる微妙な構造変化に対して強い、
共通性を持つワクチンを作ることができます。
しかしながら、
通常はインフルエンザのワクチンを接種した時には
「頭」の部分に働くような抗体が多く出るために
(参考文献(1) Fig.1(a)一番左の図より)
「茎」で特異的に働くような抗体を多く生み出すためには工夫が必要です。
そこでRaffael Nachbagauer氏ら研究グループは
48人の健康な人に対して
H1という「茎」に対して
H8という「頭」の部分を持つ(cH8/1 HA)
構造に対して抗体を発現するようなワクチンを接種し
85日後に
H1という「茎」に対して
H5という「頭」の部分を持つ(cH5/1 HA)
構造に対して抗体を発現するようなワクチンを追加で摂取しました。
(免疫補助剤の違いなど細かいグループ分けについては割愛)
(参考文献(1) Fig.1より)
こうすることによって頭の部分だけが変わるわけですが、
身体は「茎」の部分の共通性に反応するようになり
その「茎」の部分に特異的な抗体が多く分泌されるようになります。
(参考文献(1) Fig.1(a)より)
このような事は以前から動物で確認されていました(12-16)。
それに対して、
血液を採取して多様な型の抗体量を評価する中で、
H1という「茎」を同じにして
H6、H2,H9、H18、H3
これらに置いて特異的なIgG抗体量を評価したところ
ワクチン非接種群に対して高い抗体量があり
共通に作用している液性免疫の交差性が認められました。
(参考文献(1) Fig.3,4より)
おそらくプラゼボでも一定の値が出ているのは
既に流行しているH1/1などのインフルエンザに対して
事前免疫を持っているからであると考えられます。
またその抗体の持続期間は
少なくとも420日持続しています。
(長いものでは少なくとも568日)
また、H1の「茎」の部分に特異的に働いているかどうかを
・H1茎だけとの結合性
・H1茎に対する抗体(CR9114)(9)
これらで調べた結果、特異性が認められました。
(参考文献(1) Supplementary Fig. 2,3より)
また、新型コロナウィルスのIgG抗体でも同じですが、
Y字型の基部のFcドメインが免疫細胞のFc受容体と
結合することで自然免役系を含む様々な免疫細胞に働きかけます。
その一つの機能である
antibody-dependent cellular cytotoxicity(ADCC)
抗体依存性細胞傷害性が確認されています。
(参考文献(1) Fig.5(a)より)
これらは健康な人において
ワクチン接種をしてその血液の抗体分析の結果ですが、
それが実際に感染防止に効くかどうか調べるときに
人に対してインフルエンザを意図的に感染させることは
一定のリスクを伴うので、
その抗体をマウスに入れて、
インフルエンザ感染させたときの状態を評価しています。
その中で2回目の摂取の後の抗体(113日後)を
マウスに入れた時には
肺のウィルス量は顕著な減少が見られています。
(参考文献(1) Supplementary Fig.9 より)
/追記、考察/
こういった考え方は毎年のワクチン接種
あるいは新型コロナウィルスにも当てはめることができます。
新型コロナウィルスでは
Sタンパク質のS1ドメインという部分の
特定の結合面がACE2受容体に結合することによって
細胞内に侵入し感染すると言われていますが、
実際にはコレステロールの受容体
あるいはNeuropilin-1受容体などが
並列して関わっていると考えられています(10,11)。
それぞれ作用するときには
新型コロナウィルスのSタンパク質の
違った結合面が関わっていますが、
他にも様々な結合面が関わっている可能性も否定できません。
そうした時に、
より変異が起きやすい部分と
インフルエンザのHAの「茎」のように
構造的に安定な部分があると考えられます。
・作用している多様な結合面の分析
・その結合面の構造安定性
これらを調べるとともに、
その安定な部分の抗体が多く分泌するようにするためには
どうしたらいいか?
というのを考える余地を与えます。
また、日本には
・ファイザー社(さん)、ビオンテック社(さん)
・アストラゼネカ社(さん)
・モデルナ社(さん)
これらの3種類のワクチンが提供予定です。
また日本のワクチンも今後生産されることが考えられます。
これらのワクチンは細かいところをみれば
Sタンパク質に働く結合部位、エピトープは微妙に異なります。
そのような違いのあるワクチンを毎年接種することで
上述したような交差性を高められる可能性も考えられます。
また戦略的にそのようになるように
接種の順番を考えることも大事です。
新型コロナウィルスはおそらく
ワクチンが開発されても
ある程度の波を繰り返すと考えられます。
インフルエンザのような毎年になるかもしれません。
そうした場合に
インフルエンザと同様に定期的な接種の機会が与えられますが、
毎年接種することで
それぞれの感染症に特異性を持つ免疫機能が定期的に刺激されたり
交差性の高い免疫を構築する可能性もあると考えらえます。
例えば、
日本でも毎年インフルエンザ接種している人から参加者を募って、
血液採取してその免疫細胞を調べることは有効かもしれません。
その中で、どのような免疫系が築かれているか
人のデータですので疫学的にも医薬学的にも
有用な情報が得られる可能性があります。
また
読者の方の中でワクチンに対して
安全性には配慮しながらも
価値観としては寛容的であり
インフルエンザのワクチンを毎年接種している人は
過去の自分の風邪やインフルエンザの罹患状況を分析しながら
そのメリットについて
上述したことも踏まえて考えることが
今後、自分の身を守るうえでも
周りの大切な人の健康を守るうえでも
大事だと考えられます。
それはもちろん今後の新型コロナウィルスに対する
ワクチン接種の行動でも当てはまります。
ただ、一定のリスクは伴うので
「ワクチンのリスク」と「罹患した時のリスク」
「自分をとりまく家族、社会的なリスク」
そういったことを天秤にかけていくことになります。
以上です。
(参考文献)
(1)
Raffael Nachbagauer, Jodi Feser, Abdollah Naficy, David I. Bernstein, Jeffrey Guptill, Emmanuel B. Walter, Franceso Berlanda-Scorza, Daniel Stadlbauer, Patrick C. Wilson, Teresa Aydillo, Mohammad Amin Behzadi, Disha Bhavsar, Carly Bliss, Christina Capuano, Juan Manuel Carreño, Veronika Chromikova, Carine Claeys, Lynda Coughlan, Alec W. Freyn, Christopher Gast, Andres Javier, Kaijun Jiang, Chiara Mariottini, Meagan McMahon, Monica McNeal, Alicia Solórzano, Shirin Strohmeier, Weina Sun, Marie Van der Wielen, Bruce L. Innis, Adolfo García-Sastre, Peter Palese & Florian Krammer
A chimeric hemagglutinin-based universal influenza virus vaccine approach induces broad and long-lasting immunity in a randomized, placebo-controlled phase I trial
Nature Medicine (2020)
(2)
Flannery, B. et al.
Spread of antigenically drifted influenza A(H3N2) viruses and vaccine effectiveness in the United States during the 2018–2019 season.
J. Infect. Dis. 221, 8–15 (2020).
(3)
Skowronski, D. M. et al.
Paradoxical clade- and age-specific vaccine effectiveness during the 2018/19 influenza A(H3N2) epidemic in Canada: potential imprint-regulated effect of vaccine (I-REV).
Euro Surveill. 24, 1900585 (2019).
(4)
Owusu, D. et al.
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Divergent evolutionary trajectories of influenza B viruses underlie their contemporaneous epidemic activity.
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Heaton, N. S., Sachs, D., Chen, C. J., Hai, R. & Palese, P.
Genome-wide mutagenesis of influenza virus reveals unique plasticity of the hemagglutinin and NS1 proteins.
Proc. Natl Acad. Sci. USA 110, 20248–20253 (2013).
(7)
Doud, M. B. & Bloom, J. D.
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The influenza virus hemagglutinin head evolves faster than the stalk domain.
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HDL-scavenger receptor B type 1 facilitates SARS-CoV-2 entry
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Science 13 Nov 2020: Vol. 370, Issue 6518, pp. 856-860
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Krammer, F., Pica, N., Hai, R., Margine, I. & Palese, P.
Chimeric hemagglutinin influenza virus vaccine constructs elicit broadly protective stalk-specific antibodies.
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Chimeric hemagglutinin-based influenza virus vaccines induce protective stalk-specific humoral immunity and cellular responses in mice.
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A chimeric haemagglutinin-based influenza split virion vaccine adjuvanted with AS03 induces protective stalk-reactive antibodies in mice.
NPJ Vaccines 1, 16015 (2016).
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