いつも記事を読んでくださり、ありがとうございます。
北祐会神経内科病院 野中道夫先生は
筋萎縮性側索硬化症(ALS)の対症療法の重要性を謳われています。
症状として現れる事がある体重の減少や呼吸苦に対する
栄養や呼吸療法はALSの患者さんの今後の病状改善につながる
といわれています。
結果として出来なかったことができるようになるといった
機能の回復が見られることもあることから
対症療法はALSの積極的治療の要といえると言われています。
私は「ALSの患者さんは代謝が上がる」
この共通して現れる生理に着目しています。
人の代謝には様々なルートがあると理解しています。
その中には代謝効率が良いもの。
つまり少ない栄養で体重を維持できるもの。
もしくは代謝効率がよくないものがあります。
そのような代謝ルートの選択は
栄養、酸素、熱、水分の体内の状態、外気温などの環境、
あるいは脳の視床下部などから指令で決まっている部分がある
と考えています。
ALSでは体重減少で代謝が上がるという事ですから
代謝効率の良くない経路が選択されていると考えることもできます。
野中先生も栄養療法や呼吸療法の重要性を挙げられています。
・組織やその内の筋肉の維持に必要な栄養を送る
・代謝効率を上げるために全身に酸素を送り届ける
・環境を適温にする(あまり低温にしない)
など
人の通常の生活の中で常時
身体の恒常性に必要な環境を整えます。
そのうえで
薬剤などを通した代謝的なアプローチも考えられます。
実際にそのような研究も報告されています(2)。
一般的にALSの患者さんでは
脳神経の活動を支えているミトコンドリアの
酸素を使った呼吸のサイクルに異変がある可能性がある
とも言われています(3-7)。
いずれにしても、
これから研究開発、治験、臨床が進み
ALSに対して良い治療法が見つかったとしても
今まで培われてきた対症療法は同様に必要なものだと考えられます。
それが継続的な治療の中のベースとして存在すると思います。
また、損傷を受けた身体の組織を回復させて、
機能を取り戻すには必ずリハビリが必要だと考えられます。
本日は///ALS治療の発展///について
Matthew C. Kiernan氏, Steve Vucic氏, Kevin Talbot氏,
Christopher J. McDermot氏, Orla Hardiman氏 Jeremy M. Shefner氏
Ammar Al-Chalabi氏 William Huynh氏 Merit Cudkowicz氏
Paul Talman氏 Leonard H氏 Van den Berg氏
Thanuja Dharmadasa氏 Paul Wicks氏 Claire Reilly氏
Martin R. Turner氏からなる
国際の医療、研究チームが包括しています(1)。
その内容の一部について、追記を加えながら
読者の方と情報共有したいと思います。
(※)
=====の⇒は私の追記、考察です。
//精密医療のアプローチ、バイオマーカー//--------
ALSの患者さんはそれぞれ臨床症状が異なります。
・上部、下部運動神経システムの関与
・病状を示す分子生物学的な複雑性
これらの事から
患者さん一人一人に合った精密医療のアプローチが
今、ALS治療の一つの潮流として生まれつつあります。
参考文献(1) Fig.2で示されるように
・患者さんを分類
・症状、遺伝子的な特徴を掴む
・バイオマーカーの確認
・個別の診察、診断
・個人に合わせた治療、薬の処方
これらを系統的に行うことによって
その治療に合わない副反応、副作用が強く出てしまう
患者さんが出ないようにすることです。
これが精密医療のコンセプトです。
ALSの治療として挙げられるリチウムは神経保護の効果があります(9)。
このリチウムによって治療を行った3例における事後の分析において
その治療に対する違った効果が
UNC13Aという特定の遺伝子変異がある患者さんで生じた
と報告されています(10)。
このリチウムを使った治療は前述したように動物では
神経保護の効果があると期待されていましたが、
全体としては奏功を示さない、あるいは悪影響がある
といったネガティブな臨床結果となりました。
しかし、UNC13A変異がある患者さんでは
1年の生存率が28%向上するという一定の奏功を示しました。
-
そのような病気の特徴が異なる時の
臨床試験の結果の違いを分析するときには
進行の度合いに応じた連続的な検査、分析の中で
信頼できるバイオマーカーを見つける必要があります。
バイオマーカーとして
・血液、リンパ液、脳脊髄液などのBiofuidの検査
・神経生理学的検査
・神経状態を視覚化する検査
これらが挙げられています(9-13)。
これらを通して
①ネットワークを通した機能不全
②構造的な問題
③細胞レベルでの問題
これらの状況を分析します。
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⇒
①ネットワークというのはALSの症状に関わる
あらゆる筋肉を使った運動は
脳神経、脊髄、末梢神経に至るまでの神経系による
信号伝達が必要です。
その伝達経路が②構造的③細胞的な不全があり
遮断されると運動に障害がでます。
従って、マクロスコピック(巨視的)な視点で
症状を改善していくためには
そのようなネットワークベースの分析が大切になります。
-
②構造的とは、微視的、巨視的な視野を含めた
解剖学的な要素も含まれると思います。
脳に糖や酸素などの栄養がくまなく運ばれているか?
その障害となるたんぱく質などの蓄積はないか?
あるいは血栓はないか?
逆に不要なものをブロックする血管脳関門がしっかり
構造として守られているか?
このような事を解析する必要があります。
-
③細胞レベルでは神経細胞のミトコンドリアや
細胞核、リソソームなどの小器官が問題なく機能しているか?
その機能の中で細胞が正常に生命活動を続けるための
エネルギー循環は維持されているか?
また非神経細胞である脳の免疫機能を担う
マイクログリアの機能バランスは問題ないか?
星状膠細胞など他の細胞についてはどうか?
あるいは信号伝達のための軸索はどうか?
このような細胞を中心とした分析は
症状に関わる基礎的な部分なので
それをしっかりバイオマーカーによって診断する必要があります。
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しかし、これらのバイオマーカーは
上部運動神経系と下部運動神経系で異なり、
共通して存在するものは限られるとされています。
-
(共通するバイオマーカー、検査手法)
・Transcranial magnetic stimulation(経頭蓋磁気刺激法)(15)
急激な磁場の変化によって弱い電流を組織内に誘起させ
脳内の神経伝達を興奮させる、つまり活発にさせる
非侵襲的な方法です。
この方法により、最小限の不快感で脳活動を引き起こすことで
脳の回路接続の機能を調べることができます。
つまり、神経系の接続状況が確認できるので
そのネットワークの中で神経細胞や軸索に障害が出ているところを
視覚的に分析することができると考えられます。
ー
この経頭蓋磁気刺激法という側頭部から磁場を当てて
脳内のネットワークの状況を調べる事は
必ずしも患者さんの予後や病気の進行度合いを
正確に予測する事にはつながらないと言われています。
しかし、リルゾールという
筋萎縮性側索硬化症の治療に使用される薬があります。
それを使用した時の脳内の変化について
この経頭蓋磁気刺激法が使わています(16,17)。
-----
⇒
つまり薬剤などの化学療法に限らず
リハビリなどの運動療法、栄養療法、呼吸療法
様々な介入を行って症状に変化が現れた時に
実際に脳内のネットワークがどのように変わっているか?
そのような検査に使うことができるかもしれません。
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・MRI(磁気共鳴映像法)
白質や灰白質などの脳の構造的な変化を検査することができます。
しかしながら、時間経過とともに
その傾向をグループレベルで
連続的な検査によって比較評価していくときに
この検査方法の精度、感度は一定ではないと言われています。
従って、身体の機能的な変化を
この解析方法に依拠して定量化するのは難しいという見解もあります(18)。
-
このような神経の画像と神経系の機能を
うまく組み合わせて評価していく手段は求められています。
・脳波記録法(electroencephalography)
これはALSの信頼できる信号を拾うことができるかもしれない
と期待されています(19)。
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⇒
これは脳の部位によっての脳波の信号を読むことができるため
ある程度脳のどの部位がどのような運動に関わっている
というのがわかっているならば、
その点にフォーカスして運動時の脳波を調べることで
その波形から脳の機能の評価を定量的に評価できる可能性があります。
シミュレーションや人工知能などによる
波形の細かい分析により
より詳細に脳の状態を分析できる可能性があります。
-----
・脳脊髄液、血液などによる分析
この分析で病気の進行度合いとの関連を調べることができます。
とりわけ頭脳の部分にあたる上部運動神経系の症状に
関連性の高い要因を分析することができます(20,21)。
例えば、
神経フィラメントの軽鎖のレベル
これを調べることができます(21)。
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⇒
この神経フィラメントの軽鎖は神経細胞の細胞質(細胞内空間)の
タンパク質を示しており神経細胞を繋ぐ軸索にも
多く存在していることが分かります。
この軸索がダメージを受けていると
(その室内にあるたんぱく質が外部に流れ出すためか?)
その周辺に流れている脳脊髄液や
そこから流入される脳の血液に
この細胞質のタンパク質(神経フィラメントの軽鎖)が
多く混じることになります(22)。
従って、このレベルを評価することで
神経細胞や軸索がどれくらい損傷を受けているか測ることができます。
このような神経フィラメントに限らず
脳の神経細胞の中の代謝生成物質の中で特異的に表れるもので
それがミトコンドリアやオートファジーの改変と関係があるのであれば、
その物質を液体生体検査で特異的に調べることで
代謝機能の評価もできる可能性があります。
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従って、治療を行っていく際に
この神経フィラメントの量が減っていくようであれば
神経細胞や軸索のダメージが減っていることであり
治療の効果が出ている事が示されます。
-----
⇒
もし、神経フィラメント軽鎖が減っているにもかかわらず
運動機能が改善していない場合には、
細胞などのベースとしての機能は改善されているけど
そのネットワークを機能させる
リハビリなどの運動介入が不足している
という風に捉えることもできるかもしれません。
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しかしながら、バイオマーカーを使った
ALSの評価は複雑性も孕んでいます。
その理由はALSは複数の経路の関係性、流れの中で
決まっている可能性があるからです。
-
ALSには「Airlie House guidelines」という
治療のガイドラインがあります。
それによると個別治療、精密治療を可能にする
特異的なバイオマーカー、検査方法の必要性が謳われています(23)。
-
このようなバイオマーカーが定まると
ALSのリスクが高い予備群に当たる人の
予防的な治療が可能になる可能性もあります。
-
現状では脳脊髄液、末梢の血液検査によって
・intronic GGGGCC expansion in C9orf72
これを調べることで
症状が生じる数十年前にリスクについて評価できる
可能性が示されています(24)。
その他に
糖、脂質、アポリポタンパク質
これらの代謝的なバイオマーカーによって
ALSのリスクを評価できる可能性が示されています(25)。
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⇒
神経細胞内や軸索などの代謝機能が変わるというのは
ALS患者さんでは広く症状として現れていますので
細胞内の代謝プロセスを詳しく研究して
その中で現れる特異的な代謝生成物を探索できれば
その代謝生成物が液体生体検査における
バイオマーカーになる可能性があります。
なぜなら、細胞内の物質は
神経細胞や軸索の膜が破壊されると外に出るからです。
-----
⇒
//追記//
画像や磁気波形を使った構造的、機能的な解析
あるいは脳脊髄液、血液などの分泌物の解析
これらによって
・ネットワーク
・構造
・細胞
これらについて多面的に分析できる可能性があります。
また、人工知能などを解析評価手段として両立させることもできます。
さらに患者さんのデータがもし国際的に共有されれば、
統計的な分析から様々な事が導き出せるかもしれません。
それによって
ある程度の治療のガイドラインの設定に役に立つ可能性があります。
また、脳の血管や間質のタンパク質の状態
あるいは脳血管関門の状態など
脳の疾患に共通して関係のあるようなバイオマーカーの検出
分析もALSの症状の状態を診断する上での一つの情報になる
と考えることもできます。
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以上です。
(参考文献)
(1)
Matthew C. Kiernan, Steve Vucic, Kevin Talbot, Christopher J. McDermott, Orla Hardiman, Jeremy M. Shefner, Ammar Al-Chalabi, William Huynh, Merit Cudkowicz, Paul Talman, Leonard H. Van den Berg, Thanuja Dharmadasa, Paul Wicks, Claire Reilly & Martin R. Turner
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Nature Reviews Neurology (2020)
(2)
Tesfaye W. Tefera and Karin Borges
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(3)
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Metabolic Reprogramming in Amyotrophic Lateral Sclerosis
Scientific Reports volume 8, Article number: 3953 (2018)
(4)
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