いつも記事を読んでくださり、ありがとうございます。
新型コロナウィルスの特徴的な症状として
倦怠感、頭痛、身体の脱力感、吐き気、発熱などがありますが、
そのような症状というのは後遺症として続くこともあります。
本日はアメリカのマサチューセッツ総合病院で行われた
新型コロナウィルス陽性の
一人の若年男性の診断の過程について
詳しく記述されています(1)ので、
医療従事者の方と情報共有したいと思います。
その患者の経歴、環境、様々な検査結果から
様々な可能性を除外して、
最終的な診断につなげるという過程が踏まれています。
内容の一部を紹介しますので
後遺症を含めた今後の治療の一つの情報として頂ければ
と思います。
(※)
=====の⇒は私の追記、考察部分です。
//ケースの提示//
24歳男性
2020年4月に入院
新型コロナウィルス陽性
入院「3週間前から」健康上の異常を自覚
--
(入院前5日診療所で)
体温36.8℃、酸素飽和度98%、自然に呼吸
身体的な検査では普通
血液検査、尿検査⇒目立った異常はない
(参考文献(1) Table 1)
筋肉中にケトロラク投与、
Quarantineを推奨され帰宅
(※)新型コロナウィルスの伝染を防ぐかもしれない
と考えられている薬
--
(入院前4日)
鼻腔スワブで新型コロナウィルス陽性が見つかる
診療所に対して遠隔治療を受ける
頭痛、吐き気、食欲不振、脱力感あり
--
(入院時)
倦怠感、脱力感、頭痛がひどくなる、失神寸前の状態
筋肉痛、吐き気、嘔吐、食欲不振
息切れ、胸膜痛の症状がある
熱、咳、下痢はない
イブプロフェン、アスピリンで症状の改善はなし
--
(入院後2週間)
頭痛、脱力感は続く
息切れ、胸膜痛、食欲不振が進行
--
(患者さんの身体的な条件)
目の後ろに痛みがあり
子供のころ虫垂切除術を受けている
内科的な疾患、既往歴はない
アレルギーはない
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(患者さんの環境条件)
中米生まれ
入院3か月前にアメリカ移住した
彼は造園師として働いていた
異性との接触はあったが避妊具を装着
非喫煙者
アルコールも飲まない
不正薬物の使用もない
家族と一緒にくらす
家族の既往歴については知らなかった
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(検査結果)
体温36.1℃
血圧134/90mmHg
心拍62 beats/min
呼吸数 16回/min
酸素飽和度 99%
自然に呼吸ができる
BMI 21.3
肺は透明
血液、尿検査は正常
(参考文献(1) Table 1)
--
(診察時の症状)
発汗、
時折動揺する
会話中に眠る(昏睡状態)
目をぎゅっと閉じる
自分の頭をたたく
瞳孔は偏らない
光に反応する
頂部硬直はない
頭を回す、足を上げる時、頭、目、首に痛み
--
(治療)
アセトアミノフェン、静脈内輸液、投与
失禁をしたので
応急的な処方として
Intravenous vancomycin
Ceftriaxone
Acyclovir
これらを処方
--
(CT検査、診断)
造影剤を使わない
頭蓋内出血はない
塊、梗塞はない
脳幹神経節の密度がわずかに粗である
Globeとトルコ鞍の後部が平坦化
--
(MRI検査、診断)
造影剤前後で行う
Globeと横静脈胴の後部が平坦化
尾状核と果核に複数の小さな白色部あり
いくつかの部位に嚢胞性のパターンがあり
散発性の白色部が
放線冠、前頭葉の皮質下、室周囲の白質にある
所々ブドウのような斑点が見える
(参考文献(1) Figure 1)
--
(脳脊髄液の検査 by 腰椎穿刺)
着色はない
タンパク質 47mg/dL (通常 5~55)
グルコースレベル 42mg/dL (通常 50~75)
白血球 108 cells/μL (通常 0~5)
81%:リンパ球 18%:単球
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⇒白血球が明らかに多いので
MRIと合わせると脳の炎症により
脳内の免疫機能が活性化されている可能性がある
リンパ球性髄膜炎の可能性
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//鑑別診断//--------------
(新型コロナウィルスと関連性評価)
胸部X腺から不透明部は所見されない
酸素飽和度は通常
Dダイマーレベルは通常
重度の肺炎に関連する脳炎はない
静脈血栓はない
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(リンパ球性髄膜炎に関連する他の疾患の評価)
造園での仕事との関連も考えられるが
新型コロナウィルスの都市封鎖の中で
仕事ができない状態だった
-
脳血管炎、ロッキー山発疹熱は
発熱、発疹を伴う事から除外
-
アナプラズマ病は
白血球減少、血小板減少症
アミノトランスフィラーゼ上昇を伴う事から除外
-
ピロプラスマ症は
貧血の度合い、アミノトランスフィラーゼ
乳酸脱水素酵素の水準から除外
-
Powassanウィルスは
側頭葉に兆候が表れることから除外
このウィルスの蔓延は
周辺地域で確認されなかった
-
ライムポレリア症は
大人よりも子供に泡われる事(2)
あるいはMRIのパターン(3,4)により除外
-
スポロトリクム症(造園から)
皮膚の状態から除外
-
HIV、ヘルペス、梅毒
これらの可能性は口腔、性器の
関連する症状、紅斑性発疹がないので除外
-
結核は脳脊髄液のタンパク質が上がる事
胸部X線、MRI、CTの脳幹神経節の状態から除外
-
パラコクシジオイデス症(中米風土病)は
神経性症状があまりで出ない
リング状増強病変が通常所見されることから除外
-
クリプトコッカス症、ヒストプラスマ症
これらによるリンパ球性髄膜炎は除外できない(5)。
-
発熱や血液の炎症マーカーが正常なので
中枢神経系のリンパ腫を疑う必要がある。
-
(発症が疑われるクリプトコッカス症)
脳幹神経節に嚢胞、ブドウのような白色部が存在
原因としては頭蓋内の圧力が高まっている事(6)。
一見健康な人に起こる疾患で
24歳よりも高齢の方が発症する傾向
HIVなど免疫抑制が生じている患者に多い
⇒今のところそれらしき症状はない
(高ガンマグロブリン血、リンパ腫など)
//臨床的な印象//------------
患者の経歴、脳の画像、脳脊髄液の結果から
ウィルスや真菌性の髄膜脳炎と判断。
脳の検査結果から頭蓋内の圧力が上がっているので
その様に判断。
新型コロナウィルスが大脳内の部位に
影響を与えるケースはほとんど報告されていません。
新型コロナウィルスと
傍感染性の脳炎は区別できる診断であると考える。
//病理の議論//---------------
遠心分離機で脳脊髄液の細菌の分析
円形のグラム陽性の細菌が観測
(参考文献(1) Figure 2(a)より)
クリプトコッカス抗原テスト陽性
HIV-1テスト陽性。
CD4+ T細胞 16 cells/μL
(Acquired immunodeficiency syn-drome (AIDS))
HIVの患者は
クリプトコッカス症の髄膜炎
脳トキソプラズマ症、
結核性髄膜炎に対するリスクが高いと言われています(7)。
---------------
//管理の議論//---------------
髄膜脳炎の原因となる頭蓋内の圧力が上がることは
脳脊髄液のくも膜顆粒内での吸収が不足している
ことに起因しています。
-----
⇒
吸収が下がるということは
脳脊髄液の液圧が上がるので
それによって頭蓋内の圧力があがるということでしょうか。
これはMRIで見える脳の外側の白色部(組織の硬化)
と関連があるでしょうか?
-----
腰椎穿刺を複数回行い脳脊髄液の液圧を
低下させる処置が考えられます(8)。
この患者(さん)に対して
2日連続でこの処置を行いました。
この脳脊髄液転換は
クロプトコッカス髄膜脳炎において
救命介入にあたります(9,10)。
------
⇒
逆に脳脊髄液が減少しすぎても頭痛の原因となるので
適性な液圧をモニターしながらの
処置が必要になると考えられます。
------
従って、側臥位で患者の
Opening圧力、Closing圧力を測り
腰椎穿刺を行う頻度を決定します。
薬剤による液圧の低下も併用します。
HIV患者にはグルココルチコイドは禁忌なので
処方、投薬できません。
--
(新型コロナウィルス感染と傍感染髄膜炎の関連)
新型コロナウィルスに関連の深い
息切れは回復したが、
髄膜脳炎に関連がある頭痛、倦怠感、嘔吐は
数週間続いた。
新型コロナウィルス感染が
クリプトコッカス髄膜炎を増強したか?
CD4+T細胞の減少が
CD8+T細胞の減少に比べて
顕著に下がっていいて、HIV感染の症状と
大きく重なるので可能性としては低いと判断。
//その後の経過、治療//-----
クリプトコッカスを殺菌した後
抗レトロウィルス療法によってHIVを治療。
その後、症状は回復し、仕事を再開。
長引く神経学的欠損は存在しません。
-----
⇒
//追記//
後遺症として
頭痛、吐き気、発熱、倦怠感が続く場合は
胸部、脳の画像検査、
血液、尿、脳脊髄液などの検査
これらを総合して
他の疾患との関連の可能性を疑いながら
診断していく事になると考えます。
それによって異常がわかれば、
それを取り除く治療ができるならば
それを実施して回復に向かわせることができるか?
という事だと思います。
-----
以上です。
(参考文献)
(1)
Howard M. Heller, M.D., M.P.H., R. Gilberto Gonzalez, M.D., Brian L. Edlow, M.D., Kevin L. Ard, M.D., M.P.H.,and Tasos Gogakos, M.D., Ph.D.
Case 40-2020: A 24-Year-Old Man with Headache and Covid-19
The New England Journal of Medicine 2020;383:2572-80.
DOI: 10.1056/NEJMcpc2027083
(2)
Nord JA, Karter D.
Lyme disease complicated with pseudotumor cerebri.
Clin Infect Dis 2003; 37(2): e25-e26.
(3)
Hildenbrand P, Craven DE, Jones R,
Nemeskal P. Lyme neuroborreliosis: manifestations of a rapidly emerging zoonosis.
AJNR Am J Neuroradiol 2009; 30: 1079-87.
(4)
Lindland ES, Solheim AM, Andreassen S, et al. I
maging in Lyme neuroborreliosis.
Insights Imaging 2018; 9: 833-44.
(5)
Medina N, Samayoa B, Lau-Bonilla D, et al.
Burden of serious fungal infections in Guatemala.
Eur J Clin Microbiol Infect Dis 2017; 36: 965-9.
(6)
Xia S, Li X, Li H.
Imaging characterization of cryptococcal meningoencephalitis.
Radiol Infect Dis 2016; 3: 187-91.
(7)
Bowen LN, Smith B, Reich D, Quezado M, Nath A.
HIV-associated opportunistic CNS infections: pathophysiology, diagnosis and treatment.
Nat Rev Neurol 2016; 12: 662-74.
(8)
Saag MS, Graybill RJ, Larsen RA, et al.
Practice guidelines for the management of cryptococcal disease.
Clin Infect Dis 2000; 30: 710-8.
(9)
Graybill JR, Sobel J, Saag M, et al.
Diagnosis and management of increased intracranial pressure in patients with AIDS and cryptococcal meningitis.
Clin Infect Dis 2000; 30: 47-54.
(10)
van der Horst CM, Saag MS, Cloud GA, et al.
Treatment of cryptococcal meningitis associated with the acquired immunodeficiency syndrome.
N Engl J Med 1997; 337: 15-21.
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