いつも記事を読んでくださり、ありがとうございます。
先日の記事「(1)(2)回目」ではナノ粒子薬剤輸送の全般的な事
あるいはどんな種類があって、
その特徴などを細かく情報共有してきました。
本日「(3)回目」では、ナノ粒子薬剤の「輸送効率」について考えます。
輸送効率ですから、薬が投与されて患部まで届くのに
どんな障害があるか?ということを細かく考えることです。
これを考えることは単にナノ粒子の輸送を特異的に考えるのではなく
現在使用されている薬の輸送についても同時に考えることになります。
ナノ粒子も通常の薬も拡大してみれば、
巨大分子であることにはかわりません。
輸送されるまでにはいろんな細胞と相互作用したり、
あるいは血液中の物質と結合したりしていると考えられます。
そうした要因というのは過去考えられてきたと思いますが、
まだ考えが及んでいない部分も多いと思っています。
従って、
ナノ粒子において輸送経路における
様々な外的要素との相互作用を詳細に考えることは、
同時に現在使われている薬のそれを考えることになり
今後の薬剤開発を考えるにあたり、
広く枠組みとしては応用できるものだと考えております。
Michael J. Mitchell氏らグループは
ナノ粒子が従来から抱える、あるいは想定される
輸送時の問題において非常に詳細に考えている(1)ので
それについて私の考察、視点を加えながら
読者の方と情報共有したいと考えています。
ナノ粒子を薬剤輸送に使う際には、
大枠として考えないといけないことは
他の細胞、物質、組織など外的な要因との
衝突、反応などによって変形したり(せん断応力)、
タンパク質、脂質、DNAなど遊離している物質が
付着したり、あるいはそれと結合したり、
免疫細胞などによって分解される
といったことがあります(1)。
これらが標的とする患部まで届くまでの
輸送ロスの原因となります(2)。
これらは病気の状態よる違いや個人差があるので
統一的に、同じ方法、戦略で
全て解決することは難しいとされています(3-5)。
また今述べたような
個人差は細胞、局所的な組織レベルで差が生じる(1)ので
それらの特徴を個別に掌握して
それに合うように一つ一つ設計行くことは
物理的にも、実務的にも極めて困難です。
従って、
ある程度の輸送ロスを許容しながら
よりベターな到達点、最大公約数を探していくような
作業になると考えられます。
それらは臨床実績によって改善、積みあがっていく部分もある
と想定しています。
実際には輸送ロスを減らすには
最も巨視的に考えれば、ナノ粒子薬剤を投与するところから
目的とする患部まで最小の距離であることが好ましいです。
極めて近い距離に接種できれば、
考える要因をかなり減らすことができます。
しかし、例えば肝臓に届けるならば、
上体の中心部分から深く注射して届けると
距離は下げられるかもしれないですが、
そういったいわば「外科的な」要素が入ると
出血、感染症の問題、組織の傷、
侵襲する事によって接触した部分の炎症など
様々な問題が生じます。
従って、アクセスできるところは
ある程度限定的になります。
例えば、静脈注射で上体幹部の任意の場所に
薬剤を届けるならば、
肘の関節内側の部分よりも
肩に注射したほうが良いでしょうし、
静脈の全身の分布、流れを分析して
注射可能な位置で最短の位置を選ぶことも考えられます。
そのような可能な限りできるだけ
輸送距離を小さくするという事は肝要です。
薬剤は血管やリンパ管の血液、リンパ液、
あるいは肝臓や脾臓などの臓器を通って
患部に運ばれますが、
血液は多くは水分、血小板、赤血球、白血球などがあります。
またもっと微視的にみれば、
循環しているDNA、RNA、たんぱく質、脂質などがあります。
そういった色んな物質の中を
ナノ粒子が一緒に進んでいく事になります。
そうした場合、ナノ粒子の薬剤というのは
最終的には患部で結合して薬を放出する
あるいはそのものが薬効を示すという事を狙っていますから
ある程度の結合性を持たせています。
そうした場合に標的以外の物質とも引力が働いたりします。
今述べたような核酸やアミノ酸などの
細かい物質をナノ粒子の周りに付着させることも考えられます。
あるいは、
身体には異物に反応してそれを除去するシステムがあります。
ナノ粒子の大きさによって白血球などが作用します。
例えば、10nm以下と微小な粒子であれば、
腎臓によって分解される場合があります。
一方、200nm以上の大きさになれば、
炎症などアレルギー反応が起こったり、
抗体を誘発したり、
自然免役系のマクロファージなどによる食作用によって
分解されたりすることが想定されます(6)。
そういった反応を緩和させる方法として
粒子の周りをPEGylationさせコーティングすることが
挙げられています。それによって循環可能時間を
長くすることができると言われています(1)。
他には、血液の血小板膜で覆うことで
周りとの反応性を避ける(platelet membrane cloaking)
事が細胞との反応、副反応を緩和できる場合があります(7)。
また、血小板自体の機能として
炎症部位や損傷部位に走化性、正の向性があるので
それを利用して患部近くまで運んでもらうという
輸送戦略も考えられます(8)。
先日述べたナノ粒子としての候補として
最も使われる脂質ベース、ポリマーベースのナノ粒子は
体内を輸送する場合も、外で貯蔵する場合も
不安定で、凝集したりする傾向があります(1)。
例えば、ファイザー社(さん)の
新型コロナワクチンは脂質ベースのナノ粒子を
使っていますが、-70℃まで低温にする必要があります。
もちろん中のmRNAの安定性の問題もあると思いますが、
脂質ナノ粒子の安定貯蔵のために
低温にしているという目的もあると考えられます。
その安定性を高めるためには
PEGylationによるコーティングや
材質をコレステロール(脂質タンパク質)
に変えるなどが挙げられています(9,10)。
またこういった生化学の問題だけではなく
冒頭で述べた様に機械的な問題があります。
血液は血圧によって血流があります。
流体工学からは基本的には血管内皮近くでの
流速が落ちるので、血管内縁部分での
機械的なストレスは中央部よりも小さいと考えられますが、
そうであっても、
標的の血管内皮にたどり着いても
血流によってそれを引きはがそうという力が働きます。
あるいは血管の隙間から流出して
間質で薬を作用させようとするときにも
そういった血流による機械的なストレスが
障害となることがあります(11-15)。
そういった機械的ストレスは形によって大きく変わります。
球状ではなく、楕円形やロッド型など
アスペクト比が大きなものは
細胞内皮に張り付くような構造となるので
そういった機械的ストレスの影響が相対的に小さくなり
局在化させるうえでは有利になります(16,17)。
しかし、自然免役系のパターン認識による
反応は常に視野に入れておく必要があります。
細胞特異的輸送系統で基軸となる
ナノ粒子の周りに特定の受容体を装飾する場合
そこには一定の機能がありますから
そういったことで
周りの物質との相互作用を高めて
付着などの問題が強まる可能性がります(18)。
そういった付着が標的性を改変して
意図しないところへの輸送を促してしまう事があります(19-21)。
例えば、LDLコレステロール受容体に結合するリガンドが
ナノ粒子の周りに付着して幹細胞まで運ばれたり
血管脳関門を超えて脳に運ばれたりするケースが報告されています(19,22-24)。
また、自然免役系にはパターン認識受容体があり
こういった付着物がその受容体との親和性を上げて
それら免疫細胞によって分解されることがあります(25)。
このような自然免役系の分解の一つとして
ファーゴサイトという食作用がありますが、
このような分解によって
それが脾臓や肝臓に蓄積されることになります(25)。
このような除去、分解はナノ粒子の延性が低い、硬いと
速く起こりやすいと言われています(26,27)。
またナノ粒子の周りにはゼータ電位と呼ばれる
どれくらいイオン化物質を引き付けるか?
という一つの指標があります。
従って、イオン性が強ければ、
物質の引き付けも強くなると考えられますが、
こういったチャージは細胞の食作用による分解にも
影響を与えると言われています。
陽イオン>陰イオン>中性
という関係性になっています。
つまり中性であればナノ粒子の半減期、輸送可能時間、
寿命は長くなる傾向にあります(28,29)。
またこういった免疫細胞を引き付けることは
細胞、組織の炎症、損傷を導くことがあります(30)。
いわゆる拒絶反応、アレルギーといったものです。
また、上述したPEGylationコーティングは
ある条件では循環時間を長くしますが、
副作用としてアレルギー反応や
アナフィラキシーショックなどのリスクが
臨床試験の少数の患者さんで指摘されています(31,32)。
このように輸送する際には
付着物、機械的なストレス、輸送箇所の改変など
様々な障害があります。
その中には免疫機能を惹起するものもあり
決して副作用がないわけではありません。
免疫機能における副作用は優先的に避けたい事ですから
そういった機能を引き出さないためには
例えば、自分の体細胞からできた
iPS細胞などの幹細胞をナノ粒子として使う
という選択肢はあるかもしれません。
iPS細胞は幹細胞ですから
その発達段階、種類を任意に選ぶことができるので
その選択性の中で
免疫寛容的で、かつ輸送効率の高い条件を探す
といったことも考えられます。
また、細胞特異的輸送系統で想定している
受容体を設計する際には
周りとの相互作用をできるだけなくすためには
糖などの親水性が強く、不活性な物質で
できるだけ多くの部分を形成し
そこからわずかに顔を出すように設計した
タンパク質を結合部位とするようなことが考えられます。
実際に体内で作用するウィルスの突起は
その様な構造になっています。
そのようなウィルスが持っている機序を
最大限利用して輸送特異性を上げるといったことも考えられます。
以上です。
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