国境なき医師団の方が
今、新型コロナウィルスの感染で世界が大変な事になっていますが、
世界には常時、感染症の脅威にさらされている国、地域がある
ということを認識してほしいと言われていました。
地球の環境が変われば、
今まで日本を含め先進国で問題とならなかった
マラリア、デング熱などの感染症が問題になるかもしれません。
今回、新型コロナウィルスのワクチン開発が
日本を含め世界で行われていますが、
多くの資源を集中投資しているわけですから、
その過程で得られる様々な知見を
今後の感染症対策に生かしたいと思うところです。
日本を含め世界の科学者の方も同じ思いだと拝察します。
オックスフォード大学、大学病院の
Andrew J. Pollard氏、Else M. Bijker氏は
Vaccinologyという言葉を
参考文献(1)のタイトルとして選択されてます。
「-nology」というのは「~学」ということですから
「ワクチン学」ということになります。
アドジュバントなど今まで日の目を見なかった
研究分野もありますが、
今回のパンデミックによって
一つの大きな学問として発展していく可能性を感じます。
本日はワクチン学の包括論文(1)から
いくつかの内容を抽出して
その一部を読者の方と情報共有したいと思います。
(※)
=====の⇒は私の考察、追記です。
//ワクチンの子供への貢献//------------
日本を含め高いレベルでのワクチンプログラムが
組まれている国では多くの子供の救命(重い病気の回避を含む)が
実現されています(2)。
WHO(世界保健機関)の見積もりでは
ワクチンのプログラムによって
おおおそ200~300万人の子供の命が毎年救われている
と試算しています。
平成の初期である30年前の1990年では
「世界平均で」1000人当たり93人の子供が命を落とす
2018年では
「世界平均で」1000人当たり39人の子供が命を落とす
となっています(3)。
-----
⇒
つまり子供で感染症で命を落とす人は
半数以下に減っているとされています。
これはワクチンの貢献が大きいだろうということです。
-----
------------
//ワクチン接種から収束するまでの期間(特定の地域、過去の例)//-------------
ジフテリア
1940年(開始):1950年ごろに撲滅
----
髄膜炎菌
1999年(開始):2005年ごろに撲滅
----
ポリオ
1956年(開始):1962年ごろに撲滅
----
B型インフルエンザ(Haemophilus)
1992年(開始):1994年に1/10程度の頻度
----
はしか
1968年(開始):1992年ごろに撲滅
----
百日咳
1950年代(開始):1992年ごろに撲滅(波がある)
----
(参考文献(1) Fig.1より)
------
⇒
同じ呼吸器系の感染症であるB型インフルエンザも
1年で半数くらい、2年で10%程度となっています。
新型コロナウィルスは世界同時流行しているのと
ワクチンの生産、配布、接種手続きなどの問題もあるので
最低でも1年、2年くらいは状況が落ち着くまで
かかる可能性があります。
ただ、A型も含め毎年流行するインフルエンザと
同じになるかどうかは、
その宿主が人以外で何になるか?
これに依存する部分があると思います。
従って、人以外の野生動物の
新型コロナウィルス感染の調査も
今後、世界で必要になります。
なぜなら、野生の動物は予防接種できないからです。
コモンコールドな風邪ウィルスのように
常に人の社会の中で生き続ける可能性もあります。
------
//現在でも対策が難しい感染症//-------------
人型結核菌(4)
HIV(5)
新型コロナ、エボラ出血熱(6,7)
--
特にこれらにおいて高齢化している社会において
老化している免疫機能を
ワクチンによってどう蘇らせるか?高められるか?
このような事を考えていく必要があります(1)。
-----
⇒
日本でも80歳以上の新型コロナウィルス感染の
亡くなられる方の割合は10%を超えます。
もちろん患者さんの命を守る事が最優先ですが
その医療を支える方々の負担、
あるいはその医療を負担する行政、国民の負担
それも無視する事はできません。
従って、安全なワクチンを
ワクチン学を発展させることによって
これから未来に向けてしっかり構築していく事が
感染症に強い医療、経済、環境を維持する上で
非常に大切になります。
-----
-------------
//接種から抗体を発現するまでの機序(概要)//-------------
-----
⇒
新型コロナウィルスのワクチンは
mRNAワクチ、不活性化ウィルスワクチンなどが挙げられ
おそらく免疫補強剤(アドジュバント)が必要です。
このアドジュバントは自然免疫系を刺激して
その後の抗体発現に寄与します。
元々、自分の体にはない外敵が入ってくると
その分子パターンを認識して
自然免疫系が初動として働きます。
mRNAワクチンはそのような危険な分子パターンがおそらくないので
自然免疫系を独自にアドジュバントによって
刺激する必要があります。
------
有名なアドジュバントとして
アルミニウム塩があり
個別にはMF59、AS01、AS04があります
MF59はインフルエンザワクチンに使われています(8)。
---
新型コロナウィルスは利き手ではない肩に筋肉注射されますが、
その時に
アドジュバントが自然免疫系の樹状細胞を引き寄せ、
パターン認識受容体に結合します。
それによって活性化、
そして2次リンパ組織(リンパ節)に運ばれ
その胚中心でCD4+ヘルパーT細胞を活性化します。
そのCD4+ヘルパーT細胞がB細胞に働きかけ
B細胞はそこで初めて抗原認識します。
そして増殖、記憶化され
大量に新型コロナウィルスに中和能力を示す
IgGを含む抗体を発現します。
他にも樹状細胞は
CD8+細胞傷害性T細胞も活性化します。
(参考文献(1) Fig.3より)
-----
⇒
CD8+細胞傷害性T細胞は新型コロナウィルスのウィルス抑制に
一定の効果を示していることが
「アカゲザルの研究で」明らかにされています(9)。
今まで細胞傷害性T細胞のワクチンによる活性化が
感染症にどのように影響を与えているかというのは
未知の部分がありました(1)。
-----
//免疫記憶について//-------------
-----
⇒
1回ワクチンを接種すると
抗体量が向上してやがて閾値を下回りますが、
その後、仮にその感染症に感染すると
1回目よりも短い期間で
高い抗体量が発現することが期待されます。
(参考文献(1) Fig.4より)
これはB細胞のメモリ化によるものです。
また同様に初期で自然免疫系で抗体発現に関わる
樹状細胞も同様に記憶化されることが
可能性として示唆されています(10)。
B細胞、T細胞、樹状細胞が記憶することで
「迅速で」「効率的な」抗体発現に繋がります。
-----
しかしながら
デングウィルスやインフルエンザで確認されているように
過去抗原認識したウィルス株に非常に近い場合に
すでに体内に存在するものと身体が勘違いして
自然免疫系がパターン認識せずに見逃すために
免疫反応の生成に失敗するケースがあります(11,12)。
従って、
単一で純度の高いワクチン接種よりも
混合的なワクチン接種が求められます(1)。
-----
⇒
新型コロナウィルスのワクチン接種でも
同じ製造メーカーのワクチンだけではなく
違うタイプのワクチンを接種する事
あるいは
インフルエンザのように毎年変化させる事
これらがより交差性の高い免疫機能構築に
貢献する可能性があります。
ただ、抗体依存性感染増強など
一義的に定める事ができないリスク要因もあります。
-----
//新型コロナウィルスの機会と脅威//-------------
-----
⇒
(機会)
新型コロナウィルスは発症まで時間がかかる
といわれています。
これはワクチン接種におけて一つ有利かもしれない点です。
ワクチンを接種すると
基本的には免疫応答は速くなりますが、
インフルエンザのように潜伏期が短いウィルスの場合は
抗体量が落ちている場合は
感染時に免疫機能が間に合わないことがあります。
(参考文献(1) Fig.4(b)より)
しかし、新型コロナウィルスにおいて
もし潜伏期が長いことが共通しているなら
発症までの間に過去のワクチンのメモリ化によって
抗体価が十分にあがり、
ウィルス量が症状を示すまで十分に上昇しない
可能性があります。
従って、新型コロナウィルスにおける
ワクチン接種はインフルエンザよりも効果的である
可能性があります。
-
(脅威)
一方、潜伏期間が長いことは
感染初期での医療の介入を難しくするため
抗ウィルス薬の投与のタイミングが
非常に難しくなる事が考えられます。
実際に入院した後に
ウィルスを減らすと考えられる抗体を入れても
病状は改善しなかったという報告があります(13)。
-----
-------------
//新型コロナウィルスはなぜ2回接種するのか?//----------
破傷風、ジフテリアのケースでは
子供に5回、6回接種を繰り返すことがあります(14,15)。
これは「ブースタードース」と呼ばれ
連続で接種することで効果を一気に上げられる
というものです。
実際に新型コロナウィルスでも
ファイザー社(さん)とビオンテック社(さん)のワクチンでは
21日間空けて2回接種することで
一気に抗体量が向上しています。
これも「booster dose」によるものです。
//妊娠女性に対しての情報//--------------
胎盤を通しての母体の抗体の胎児への通過の場合があるため、
妊娠時のワクチン接種が推奨される場合があります。
例えば、
百日咳(16)、破傷風(17)、インフルエンザ(18)
これらの予防接種することで
出産後すぐの乳児へのこれらの感染のリスクが下がる
という報告もあります。
-----
⇒(※)
但し、妊娠時これらの予防接種を受けても
出産後子供のこれらへの指定予防接種は
同様にガイドラインに従って行われるべきです。
-----
しかしながら、
group B streptococci(19)、
呼吸器合胞体ウイルス、RSウイルス(20)
これらなど妊娠時の予防接種が
胎児や出産後の乳児に影響があるかどうか
まだわかっていない感染症もあります。
-----
⇒
新型コロナウィルスに対するワクチンの接種では
妊娠女性に対して特別な副反応があるという情報は
私の知る限りではありませんが、
妊娠女性に対する大規模な治験データも同様です。
特に妊娠後期では
T細胞の反応がやや抑制されるという情報もあります(1)。
従って、ワクチン接種は推奨されるものですが、
過去にワクチンで強いアレルギー反応が出た人は
接種に対して慎重になる必要があります。
医療チームや運営サイドも
妊婦の接種に対しては母子の健康がありますので
有事の場合には迅速な対応が必要になります(21)。
-----
--------------
以上です。
(参考文献)
(1)
Andrew J. Pollard & Else M. Bijker
A guide to vaccinology: from basic principles to new developments
Nature Reviews Immunology (2020)
(2)
World Health Organization.
Global vaccine action plan 2011–2020. WHO
https://www.who.int/immunization/global_vaccine_action_plan/GVAP_doc_2011_2020/en/ (2013).
(3)
World Health Organization.
Child mortality and causes of death. WHO
https://www.who.int/gho/child_health/mortality/mortality_under_five_text/en/ (2020).
(4)
Hatherill, M., White, R. G. & Hawn, T. R.
Clinical development of new TB vaccines: recent advances and next steps.
Front. Microbiol. 10, 3154 (2019).
(5)
Bekker, L. G. et al.
The complex challenges of HIV vaccine development require renewed and expanded global commitment.
Lancet 395, 384–388 (2020).
(6)
Matz, K. M., Marzi, A. & Feldmann, H.
Ebola vaccine trials: progress in vaccine safety and immunogenicity. Expert Rev.
Vaccines 18, 1229–1242 (2019).
(7)
Ahmed, S. F., Quadeer, A. A. & McKay, M. R.
Preliminary identification of potential vaccine targets for the COVID-19 coronavirus (SARS-CoV-2) based on SARS-CoV immunological studies.
Viruses 12, 254 (2020).
(8)
Wilkins, A. L. et al.
AS03- and MF59-adjuvanted influenza vaccines in children.
Front. Immunol. 8, 1760 (2017).
(9)
Katherine McMahan, Jingyou Yu, Noe B. Mercado, Carolin Loos, Lisa H. Tostanoski, Abishek Chandrashekar, Jinyan Liu, Lauren Peter, Caroline Atyeo, Alex Zhu, Esther A. Bondzie, Gabriel Dagotto, Makda S. Gebre, Catherine Jacob-Dolan, Zhenfeng Li, Felix Nampanya, Shivani Patel, Laurent Pessaint, Alex Van Ry, Kelvin Blade, Jake Yalley-Ogunro, Mehtap Cabus, Renita Brown, Anthony Cook, Elyse Teow, Hanne Andersen, Mark G. Lewis, Douglas A. Lauffenburger, Galit Alter & Dan H. Barouch
Correlates of protection against SARS-CoV-2 in rhesus macaques
Nature (2020)
(10)
Camaron R. Hole, Chrissy M. Leopold Wager, Natalia Castro-Lopez, Althea Campuzano, Hong Cai, Karen L. Wozniak, Yufeng Wang & Floyd L. Wormley Jr.
Induction of memory-like dendritic cell responses in vivo
Nature Communications volume 10, Article number: 2955 (2019)
(11)
Halstead, S. B., Rojanasuphot, S. & Sangkawibha, N.
Original antigenic sin in dengue.
Am. J. Trop. Med. Hyg. 32, 154–156 (1983).
(12)
Kim, J. H., Skountzou, I., Compans, R. & Jacob, J.
Original antigenic sin responses to influenza viruses.
J. Immunol. 183, 3294–3301 (2009).
(13)
ACTIV-3/TICO LY-CoV555 Study Group
A Neutralizing Monoclonal Antibody for Hospitalized Patients with Covid-19
The New England Journal of Medicine December 22, 2020
(14)
World Health Organization.
Tetanus vaccines: WHO position paper, February 2017 — recommendations.
Vaccine 36, 3573–3575 (2018).
(15)
World Health Organization.
Diphtheria vaccine: WHO position paper, August 2017 — recommendations.
Vaccine 36, 199–201 (2018).
(16)
Sandmann, F. et al.
Infant hospitalisations and fatalities averted by the maternal pertussis vaccination programme in England, 2012–2017: post-implementation economic evaluation.
Clin. Infect. Dis. 71, 1984–1987 (2020).
(17)
Demicheli, V., Barale, A. & Rivetti, A.
Vaccines for women for preventing neonatal tetanus.
Cochrane Database Syst. Rev. 7, CD002959 (2015).
(18)
Madhi, S. A. et al.
Influenza vaccination of pregnant women and protection of their infants.
N. Engl. J. Med. 371, 918–931 (2014).
(19)
Madhi, S. A. & Dangor, Z.
Prospects for preventing infant invasive GBS disease through maternal vaccination.
Vaccine 35, 4457–4460 (2017).
(20)
Madhi, S. A. et al.
Respiratory syncytial virus vaccination during pregnancy and effects in infants.
N. Engl. J. Med. 383, 426–439 (2020).
(21)
長井 智則1), 斉藤 正博2), 斎藤 麻紀1), 林 直樹1), 馬場 一憲2), 竹田 省1), 石川 源3), 照井 克生
埼玉医科大学総合医療センター産婦人科1), 埼玉医科大学総合医療センター総合周産期母子医療センター母体部門2), 埼玉医科大学総合医療センター総合周産期母子医療センター麻酔部門3)
産科救急
妊娠中に発症したアナフィラキシーショックの2例
登録:
コメントの投稿 (Atom)

0 コメント:
コメントを投稿