いつも記事を読んでくださり、ありがとうございます。
例えば、癌では悪性度が高く、進行すると
他の離れた組織、臓器に転移することがあります。
その向性というのはある程度理解されており、
肺は転移されやすい臓器だと考えられています。
例えば、乳がんが原発腫瘍であり、
その後、転移して肺で見つかるケースがあります。
そういった場合、肺に転移した腫瘍は
乳癌から上皮間葉転換して血管内に侵入して
そこから肺に対して走化性を持って運ばれ
そこで微小環境を形成し組織として成長するといった
プロセスが考えられます。
そうした場合、癌細胞の元は乳房、胸部にあるわけですから
その肺に転移したがん組織は
元々の原発巣の細胞の特徴をある程度引き継いでいると考えられます。
そうした場合に、
転移したものも含めて内科的に治療するとすると
その細胞の特徴を考えてそれに特異性があるように
輸送することで、輸送効率を上げられる可能性があります。
例えば、その細胞が特定の型のインテグリンを多く形成していれば
そのインテグリンのリガンドとなる装飾因子を
ナノ粒子の表面に多く形成すると
ある程度優先的に癌組織まで届いてくれることが期待できます。
しかし、肺、乳房に限らず
脳、腸、肝臓、腎臓、心臓、骨、筋肉、、、
あらゆる組織、臓器において
薬剤の輸送を考えるときの戦略はある程度異なります。
腸の場合は経口投与が好ましいかもしれないし、
肺の場合は気管を通しての投与が好ましいかもしれません。
また脳などは血管脳関門を超えないといけないので
そこで効率を落とさないように特別に考える必要があります。
その様な事を考えると
同じ病気であってもその病巣がどこにできるか?
によって薬剤の設計も変わってくると考えられます。
Michael J. Mitchell氏ら研究グループは
今述べた投与方法、臓器の特徴を
ナノ粒子薬剤輸送の観点で総括されています(1)ので
読者の方と情報共有したいと思います。
生体工学的に設計したナノ粒子を特定の組織に対して
働かせる時には、リンパ管や血管を通って
患部まで運ばれた薬剤は血管から外に出る必要があります(2,3)。
血管やリンパの内皮細胞は細胞同士、
完全に密着して組織形成しているのではなく
細胞の間にはカドヘリンなどの結合因子があり
ある程度の空間、隙間を作っていると考えられます。
そうした場合、当然ナノ粒子の大きさによって
血管外に出られる確率、効率は異なり
ナノ粒子が小さいほうが血管外に出やすいことになります(4-6)。
この時にリンパ管、毛細血管、血管など
管の太さや場所によってその空壁の大きさは異なると考えられますが、
それはそこの組織の健康状態にも影響を受けます。
例えば、癌組織は固形癌の場合は血管の内皮細胞が
微小環境の一つの要因でその細胞、周辺環境の特徴が
通常と異なっているケースが多いです。
実際に癌組織がある血管の部分の上述した細胞間の隙間は
通常よりも大きいと考えられています(5)。
一方、
このような血管外のナノ粒子の流出、浸潤は
患部特異的に制御するのが難しいと考えられている(4)ので
癌周辺環境の隙間の大きさを利用して
「通常では通れない大きさで癌組織近くの隙間だけ通れる」
大きさにうまく調整すれば、
(つまり、少し大きめに設計する)
大きさという要因だけである程度特異性を持たせられる
可能性もあります。
ナノ粒子薬剤に限らず、通常の薬剤においても
どのルートで患部まで薬剤を届けるか考えることは
重要だと考えられます(7,8)。
例えば、ポリマーのナノ粒子の場合は
静脈注射で輸送した場合には肝臓や脾臓に蓄積されやすいですが、
皮下注射や結節注射などを通して薬剤投与した場合には
局所的なリンパ節に薬剤が蓄積されると言われています(9)。
リンパ節は胚中心があり、
そこで免疫細胞が抗原認識して、
病状に合わせた特異的な細胞発展を遂げるので
皮下注射や結節注射などによる投与は免疫療法の応用として
有利である可能性が示唆されています(9,10)。
/肺への輸送/
肺に対しては、肝臓での代謝を防ぐために
鼻腔や気管に点滴、スプレーすることで
直接的に届ける方法が検討されています(7)。
しかしながら、そういったルートを検討しても
肺胞にある粘膜、界面活性剤が物理的な障壁となって
肺組織への輸送を阻害します。
そういった効率は個人差があり、
また疾患の状態によっても変わると言われています(11,12)。
新型コロナウィルスのような
口腔、鼻腔、気管、気管支、肺胞を通して
感染する疾患においての治療薬を開発するときには
一つの考え方として
こういった点鼻、気管を通した投薬の仕方が
検討されるものだと考えられます。
/脳への輸送/
脳の疾患をナノ粒子薬剤で治療する場合には
冒頭で述べた様に血管脳関門(blood brain barrier)を超える必要があります。
その際には血管内皮にある関連受容体にリガンドがついて
それによって組織細胞内に入り込み、
そして細胞から出る必要があります(13,14)。
その際、脳は糖を栄養源としているので
グルコース輸送体を利用して血管脳関門を超える事が
一つの脳への薬剤輸送戦略として考えられます(15,16)。
このような血管脳関門の受容体を通じた通過は
当然ナノ粒子の周りについた付着物によって
その効率が変わります(17)。
血液中には糖がありますから
脳に輸送する際には上述したように
血管輸送中にうまく糖を取り込みながら
脳に届くようにすることも薬剤輸送の上で考えられることです。
/腸への輸送/
腸への輸送を考えるときには食道、胃腸は
消化器系なので基本的には経口投与が候補として挙げられます。
しかし、
ナノ粒子を経口投与して腸の患部に運ぶことにおいては
多くの物理化学生物学的な障壁があると考えられます(18)。
その中で、P糖たんぱく質は
薬剤を血管から腸の内腔に戻す働きがある(1)ので
血管から輸送し、腸の上皮、粘膜に作用させる場合には
この機能を利用できますが、
腸管から組織内に浸潤させようとする場合には
このP糖たんぱく質が障害となります。
一方、
タンパク質薬剤の経口投与によるもので
無機のナノ粒子をスクリーニングして選び出し
その中で粒子径が小さく、陰性に電荷を帯びている
シリカからできたナノ粒子においては、
細胞と細胞を繋ぐ結節部(Tight junction)を開放させ
細胞内への取り込み、外への脱出をバイパスして
輸送できることが示されています(19)。
他方で、
ナノ粒子の形状設計の上での傾向としては
表面が波打ったり、凹凸があったり、
あるいはポリマーナノ粒子のように
多くの毛、糸が表面にあるような
表面積が大きいものが胃腸管との相互作用が大きく
経口投与において
(おそらく上皮細胞に疾患がある場合においては特に)
好ましいと考えられます(20)。
腸においては腸細胞、M細胞による取り込みにおいて
それぞれ粒子として適した大きさがあり、
両方を兼ね備えるように設計しようとした場合には
100nm程度がよいとされています(21)。
また、形としては球状よりもアスペクト比の大きな
ロッド(棒)様の形が好ましいと考えられています(22-24)。
おそらく上皮組織に吸着するときに
アスペクト比の大きな形状の方が
体積当たりの吸着力が上がるからであると考えられます。
イメージとしては薄い片が張り付くような感じです。
球状の場合は転がってしまうので
結合によって「Arrest(固定)」してもらう必要があります。
一方、
生化学的なアプローチとして
腸がトランスフェリンという物質を
それに関する受容体を通して取り込むことを利用して
ナノ粒子の周辺をトランスフェリン処理、塗布することで
大腸癌や潰瘍性大腸炎などの治療に有効である
ということが期待されています(25)。
しかしながら、
消化器の中には飲食物、消化液があり
粘膜を形成する胚細胞があり
周辺を装飾する可能性があるので
それらが意図した設計の障害となることも考えられます(1)。
こういった変化要因は
患部の病状によっても変わります。
炎症があれば、粘膜の形成、pH、腸内細菌など
多くの要因が変わるので
それによって異種性、特異性を持ちます(26,27)。
/標的性向上について/
細胞特異的輸送系統では患部標的性を上げることが
一つの骨子となっています。
そのような戦略の種類として
・抗体(28)・糖(29)・トランスフェリン(30)・葉酸(31)
・輸送体(32)・インテグリンリガンド(33)
などが考えられています。
また、個別な医療として
関節炎に関してはタイプ3のコラーゲンに
ペプチドが結合するように設計することで
関節にナノ粒子が蓄積するようにして
標的性を上げている例もあります(34)。
このように他の組織に対して標的組織の特異性を上げる事は
作用させる薬剤の量を最小化し、副作用を減らすうえで
基本的な考え方になりますが、
一方で、そのように狙うことによって
標的患部とは異なる組織に特異的親和性を示してしまう
「オフターゲット効果」も考えられます。
このような例は過去、確認されています(35-38)。
例えば、
数あるインテグリンのうちαvβ3型は
悪性度の高い卵巣がんに発現していることがわかっています(39)。
従って、悪性度の高い卵巣がんに特異的に結合するような
αvβ3型のリガンドをナノ粒子の周りに装飾して
卵巣がんとの反応性を高めようとしても、
そのαvβ3型のインテグリンが他の細胞にも発現されていると
特異性を失い、オフターゲット効果が予想されます。
従って、複合的な受容体の関わり合いや
インテグリンの細かい構造を分析したり、
あるいは周辺環境を調べて
ケモカインの走化性を利用したり、
前述したように輸送経路を考えたり、
そういった複合的な要因を階層的に組み合わせることで
オフターゲット効果は完全にはゼロにはできないですが、
10%、1%、0.1%と段階的に下げていく事が可能になると思います。
以上です。
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