2020年12月19日土曜日

生体工学ナノ粒子輸送系統と精密医療(7)

いつも記事を読んでくださり、ありがとうございます。


細胞特異的輸送系統の対象となる疾患は
特定されるものではないですが、
ほぼ全身にできる癌に対しては
それぞれ全身に対して、
性質の異なるいくつかのタイプを持つ癌細胞に対して
薬剤、栄養、間質液、水分、酸素(特定の純度の高い気体)など
を輸送することになります。
そうした研究開発を包括することで
身体全体の循環に対して特定の物質を輸送するときの
理科的(物理、化学、生物)な要因が理解できるようになるので
他の色んな疾患、予防医学、感染症にも
貢献できる可能性があります。

本日は癌に対するナノ粒子の輸送について
Michael J. Mitchell氏ら研究グループが
今までの研究実績を細かく包括している(1)ので
その内容の一部について考察を追記しながら
読者の方と情報共有したいと思います。
(※)
=====内の⇒が私の考察、追記
それ以外は参考文献(1)の内容に準拠
//追記//は独自に記載

//ナノ粒子の特異的輸送、走化性//-----------
(患者さんの癌細胞膜を利用)
ナノ粒子の周りを患者さんから採取した癌細胞膜で覆って
癌細胞に吸着しやすいようにしました(2,3)。
-----
⇒癌細胞の周りには様々な膜貫通受容体や表面突起
あるいは膜の分子パターンなどがあります。
複合的な受容体が一致すれば、
その癌細胞特異的な輸送が可能になるかもしれません。
細胞特異的輸送系統では
例えば、転移性前立腺癌であれば、
その前立腺癌にしかない、あるいは特異的に多く存在する
表面受容体を標的として特異的親和性、走化性を発揮させることを
目的としています。そのためにはナノ粒子の周りに
その特異的な受容体だけに結合するような物質を
遺伝子などの導入によって装飾させて
前立腺に届きやすいようなルートで投薬することです。
一方、
参考文献(1)で紹介されている上記の方法が素晴らしいのは
癌細胞膜を「無傷で」取り出すことができれば
表面受容体の特徴を一致させた形で
ナノ粒子の周りを覆うことができます。
もちろん上述した「特定の重要な受容体を見つける」事が
良い結果を生む場合もあると思いますが、
「複合的な一致」に関しては、
癌細胞膜をそのまま取り出して
ナノ粒子の周りに貼り付けるほうが良い可能性もあります。
あるいは
iPS細胞のように患者さんの癌細胞を取り出して
それを幹細胞の初期化して、
そこから増殖させて
それをそのままナノ粒子として使うというのは
もう一つのアプローチとしてあると思います。
ただ、その際には初期化する過程で
表面に出る突起物質の種類が変わる可能性があるので
そういった不利な部分は残るかもしれません。
もう一つの観点は
癌細胞の細胞膜表面にある分子パターンです。
感染症の場合はこの分子パターンを自然免疫系が認識して
免疫機能が高められ、抗原認識に寄与します。
癌細胞にもそのような特異的な分子パターンを
マクロファージ、NK細胞、単球などが認識して
その後のリンパ球なども含めた抗原認識に貢献する可能性があります。
そうした時にその抗原認識が
実際に患者さんの体内にある癌組織と一致していると
抗原が一致するために
適切な、特異的な免疫機能の誘発に貢献する可能性もあります。
従って、
「表面突起物質のパターンの一致」
「癌細胞膜の分子パターンの一致」
これらの2つを兼ね備える可能性がある事は
標的性だけではなく、特異的な免疫機能誘発に貢献する
可能性も考えられます。
-----

(患者さんの免疫細胞膜を利用)
マクロファージやそれを含む白血球膜で覆います。
またハイブリッド膜も考えられます。
それによって癌細胞輸送において特異性、
走化性が確認されました(3-5)。

(肺、脳に対しての輸送特異性、走化性)
poly(β- amino- ester) (PBAE) ter-polymer
/PEG lipid conjugate 
これにより試験管、生体内(ただし、マウス)両方で
2桁以上の輸送特異性を肺組織に対して示しました(6)。
また、
脳の膠芽細胞種においても特異性が示されました(7)。

(トリプルネガティブ乳がんへの輸送特異性)
金からなるナノ粒子を最適化することで
トリプルネガティブなので標的とすることが難しい
乳癌において走化性が示されました(8)。
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//癌組織近傍での薬剤の放出機構//-----------
固形癌の場合は積みあがっている癌組織の間には
・水圧が高い間質液
・密度の高いタンパク質の蓄積
これらがありナノ粒子が近くまで届いたとしても
中に癌組織の中に浸潤することは難しいと言われています(9,10)。
従って、
癌組織の周辺での環境変化を利用して
その近傍で薬剤を放出するような機能をナノ粒子に持たせる
必要があります。

(酸性、低酸素状態の利用)
癌組織の周りは酸性、低酸素状態なので
そのような環境でナノ粒子が分解して、
中の薬剤が放出されるような材料選択をします(9,11-13)。

(特定の高い酵素レベルを利用)
・Matrix metalloproteinases (MMPs) 
・Extracellular proteases 
これらの高い分泌があるため、
この酵素に対して分解性を示すようなナノ粒子材料を選択します(14-17)。
-----
⇒酵素が触媒作用を発揮して化学反応を推し進めるためには
「活性サイト」が必要です。
表面受容体は数百種類あって、
そこに対する特異性の潜在性は高いです。
つまり、特定の性質を持つ癌細胞しかない受容体が
細かい構造を含めると存在する可能性があります。
それは、今内容紹介した周辺の酵素などの物質でも同じかもしれません。
癌細胞の周りには
タンパク質、核酸、酵素などが存在します。
走化性の上で大切なサイトカイン
・インターロイキン
・ケモカイン 
・インターフェロン
・造血因子
・細胞増殖因子
・細胞傷害因子
・アディポカイン
・神経栄養因子
これらもあります。
膜で覆われて塊、胞になっているもの
あるいは分子としてむき出しのものもありますが、
それらとの「結合性」
あるいは今述べたような「反応性」は
輸送効率を考える上で潜在的可能性を示すものです。
「反応性」に関しては
分解するようにすれば、粒子の中の物質の放出を制御できるので
その粒子の分解特異性をあげてやれば、
「オフターゲット効果を減らす」事ができる可能性があります。
「特定の位置まで特異的に運ぶ」という事のほかに
「特定の位置だけで放出される」
ということも一つの特異的輸送の可能性を示すものです。
-----

(代謝を利用)
癌細胞は嫌気性で糖を代謝で多く消費するので
それを薬剤放出のために利用します(18)。

(外部刺激による薬剤放出)
〇超音波
超音波を患部に特異的に当ててナノ粒子の分解を促します(19,20)。
--
〇近赤外
近赤外は体を透過するので患部に焦点して分解を促します(21,22)。
-----
⇒より透過率の高い中赤外、遠赤外も使える可能性があります。
特定の波長に対して共鳴して材料変質を行うように
ナノ粒子に機能を持たせる(例えば、量子ドット)と
その波長を当てたときに「しか」分解しないようにできるため
薬剤の放出のタイミングと場所を制御できる可能性があります。
それは超音波でも同じです。
共鳴する特異的な周波数を材料に組み込んで
その時だけ分解するようにすることです。
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(患部近くでナノ粒子が分裂する)
ナノ粒子を1粒にするのではなく
塊にして結合性を持たせて患部まで輸送します。
ナノ粒子の大きさは循環の上では100nmくらいが好ましいと
言われていますが、癌細胞ではその大きさでは
浸潤しにくいためにもっと小さな5nmくらいの粒になるように
ナノ粒子の「大きさの変換を分解によって起こす」ことです(13)。
-----
⇒基本的にはナノ粒子を分解して中の物質を出すか
ナノ粒子通しの結合を切って粒として分解するか
これらの違いなので
その引き金とする方法は上の
・酸性、低酸素状態
・特定の酵素
・代謝
・外部刺激(音、光など)
これらに対して特異性を持たせることで
分解を制御することができます。
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//追記//-----------
ナノ粒子の「分解の段階を複数回にする」という観点もあります。
静脈注射や皮下注射によって
初めに血管中やリンパ管中に薬剤を入れるときに
「仮に大きいほうが輸送ロスが少ないのであれば」
iPS細胞をナノ粒子として使うならば
カドヘリンなどで細胞同士を
「ある程度塊にしておいて」
それで患部近くまで運んで
「適当な位置で」
例えば、外部刺激などでバラバラにして
個別の細胞からなるナノ粒子にして
さらに、患部の近傍になったときに
その環境を利用して細胞膜を分解して中の薬剤を放出します。

大きな領域での走化性が難しい場合には
「他の所ではナノ粒子を分解させない」
という特異性を持たせます。

「表面受容体」「周辺物質との結合」などの走化性
「分解制御による」放出特異性
これらの両輪を回すことができれば
細胞特異的輸送系統が目的とする
「患部だけに特定の物質を運ぶ」ということが
達成される可能性があります。
その「特定の物質」には
「純度の高い酸素」など特定の気体も加えました。
なぜなら
低酸素状態は癌組織で見られますし
他の疾患でもその可能性があるので
栄養とともに必要な気体を運ぶという事です。
気体の場合はナノ粒子膜の気密性がどうか?
という問題がありそうです。
他には
「間質液」「水分」などもあると思います。
間質液が不足すれば、
細胞外マトリックスが劣化した状態で溜まり
組織が硬化する可能性もあります。
従って、「任意に」いろんな物質を運ぶことを想定します。

以上です。

(参考文献)
(1)
Michael J. Mitchell, Margaret M. Billingsley, Rebecca M. Haley, Marissa E. Wechsler, Nicholas A. Peppas & Robert Langer 
Engineering precision nanoparticles for drug delivery
Nature Reviews Drug Discovery (2020)
(2)
Rao, L. et al. 
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Adv. Funct. Mater. 29, 1905671 (2019).
(3)
He, Z., Zhang, Y. & Feng, N. 
Cell membrane-coated nanosized active targeted drug delivery systems homing to tumor cells: a review. 
Mater. Sci. Eng. C. 106, 110298 (2020).
(4)
Wang, Y., Luan, Z., Zhao, C., Bai, C. & Yang, K. 
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Eur. J. Pharm. Sci. 142, 105136 (2020).
(5)
Li, R., He, Y., Zhang, S., Qin, J. & Wang, J. 
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Acta Pharm. Sin. B 8, 14–22 (2018).
(6)
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Nano Lett. 18, 6449–6454 (2018).
(7)
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Nanoscale 11, 20045–20057 (2019).
(8)
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Mol. Cancer Ther. 18, 579–591 (2019).
(9)
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Theranostics 10, 91–108 (2020).
(10)
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