2020年12月29日火曜日

定期的なワクチン接種の効果を考える(1)

いつも記事を読んでくださり、ありがとうございます。

読者の方の中には
インフルエンザの予防接種を毎年行っている方もいると思います。
これまでの数年、あるいはそれ以上の
自身の風邪やインフルエンザの罹患状況を分析するとどうでしょうか?
予防接種の効果は少なくとも
翌年に接種するときに何らかの影響を与えている
というのは考えないものですが、そうとはいえないかもしれません。
新型コロナウィルスのワクチン接種も1シーズンで終了するでしょうか?
それは未知な部分がありますが、
もし繰り返し接種するとなれば、
抗体の持続期間、流行の時期などを考えて
そのタイミングを定める事になります。
しかし、T細胞やB細胞がワクチン接種によって
受けた抗原に対する記憶の効果は少なくとも1年以上は続くと
一般的には考えられています。
そうすると繰り返しワクチンを接種することは
身体の免疫機能にとってどのような影響があるでしょうか?
積み重なる効果、定期的に免疫を刺激する効果。
必ずしも良い効果だけではなく、副反応もあるかもしれません。
それについて考える事は
これから感染症に対して向き合っていく上で
一つの重要な学域であると考えられます。

Mihai G. Netea氏,Jorge Domínguez-Andrés氏
Luis B. Barreiro氏, Triantafyllos Chavakis氏, 
Maziar Divangahi氏, Elaine Fuchs氏, 
Leo A. B. Joosten氏, Jos W. M. van der Meer氏, 
Musa M. Mhlanga氏, Willem J. M. Mulder氏, 
Niels P. Riksen氏, Andreas Schlitzer氏, 
Joachim L. Schultze氏, Christine Stabell Benn氏, 
Joseph C. Sun氏, Ramnik J. Xavier氏
Eick Latz氏による国際的な医療、研究チームは
「訓練された免疫(trained immunity)」に対する
病気や健康について総括しています(1)。
本日はその内容の一部を
詳しく追記しながら読者の方と情報共有したいと思います。
(※)
=====の⇒は私の追記、考察

//概略//--------
免疫記憶はB細胞やT細胞に代表されるリンパ球などによる
獲得免疫系に対して一般的に定義されるものです。
しかし、マクロファージ、単球、樹状細胞、NK細胞などの
自然免疫系を新型コロナウィルスのワクチン接種などによって
刺激することで次に訪れる病原体などに対するきっかけに対しての
反応性を迅速にする、高めることが可能です。
もちろんそれは上述した獲得免疫系でもいえることです。
このプロセスを私たちは
「Trained immunity(訓練された免疫)」
このようにここで定義します。
ここ10年の研究では私たちの身体、つまり宿主の
そのような訓練された免疫によって構築された防御機能が
様々な病気に良い効果をもたらすことが示されています。
-----

つまり、このことはインフルエンザや新型コロナウィルスの
ワクチン接種によって免疫機能を定期的に訓練することは
それら特定の感染症に対する効果はもちろんのこと
他の疾患に対しても効果があるかもしれないことを示唆しています。
例えば、インフルエンザワクチンの接種で
新型コロナウィルス感染が病院内で抑えられ
その時のサイトカインの反応性が良いという報告もあります(2)。
そのような例はもっと広範に確認される可能性があります。
-----
しかし、一方で注意が必要です。
そのような免疫の刺激が免疫を介した、
あるいは慢性的な炎症疾患などに通ずる副反応を生み
潜在的に悪い結果を生み出すことも考えられます。
このような「コインの表側、裏側」の正負両方の側面が想定される事を考え
例えば、ワクチン接種に対する副反応を減らし、
相対的に良い効果を大きく引き出すためには
「trained immunity(免疫の訓練)」についての
生物学的なプロセスを理解する必要があります。
それは、身体に備わっている内的な刺激、
あるいは遺伝子、代謝機能などの後天的な変化を含みます。
--------

//背景//--------
脊柱動物の免疫システムは伝統的には
自然免疫系と獲得免疫系に分類することができます。
前述した単球、マクロファージ、樹状細胞、NK細胞などの
自然免疫系は例えば、
新型コロナウィルスやインフルエンザなどの病原体
それら疾患などによって損傷を受けたパターンを
・パターン認識受容体(pattern recognition receptors(PRRs))
この受容体で認識します(3,4)。
-
新型コロナウィルスやインフルエンザなどの病原体
これに対しては
病原体が持つ分子パターンを認識します。
(Pathogen-associated molecular patterns)
-
疾患など組織の炎症などが生じ損傷した場合には
損傷で生じた分子パターンを認識します。
(Damage-associated molecular patterns)
-
パターン認識受容体の働きによって活性化される過程は
基本的には「迅速である」といわれています。
その過程は基本的には「特異性が低い」と言われています。
特異性が低いとは、特定の病原体「だけ」認識して
それ特有の信号を出すわけではなく、
「病原体が広く持つ共通のパターン」を認識することを意味します。
そのパターン認識受容体が病原体の分子パターンを認識するときには
その病原体あるいはその一部を
樹状細胞、マクロファージ、単球などの自然免疫系の
細胞の中に取り込む
「ファーゴサイトーシス(phagocytosis)」
この過程があります。
その他、極性などによって細胞が移動する
「Cell locomotion」
あるいは
その過程の中で病原体や細胞そのものを死滅させることもあります。
またその病原体への攻撃を含む
サイトカインの放出も行われいます。
-
このような自然免疫系の機序は
一般的には侵入してきた病原体を消滅させるためには
非常に効率的であると言われています。
また、病原体に対する「門番」であり、
感染症などから体を守る初動を担うとも考えられます。
自然免疫系の樹状細胞
あるいは獲得免疫系のT細胞、B細胞は
「病原体にあった」免疫機能を獲得することに貢献します。
それらは自然免疫系の反応に加えて付随的に起こるとされています。
これらの獲得免疫のプロセスは
一般的に「遅い」と言われています。
-----

例えば、新型コロナウィルスのワクチン接種から
B細胞が十分な抗体を発現するまでには2週間程度かかります。
これは獲得免疫系の過程が遅いことを示しています。
-----
しかしながら、これらの獲得免疫系のプロセスは
自然免疫系と異なり、病原体に対して特異的な特徴を持ちます。
例えば、特定のインフルエンザだけに効果的に効く
免疫機能を構築することができます。
これらは冒頭で述べた様に長く記憶されると言われています(5)。
-----

このような「長く続く」免疫機能の記憶が
繰り返し、定期的にワクチンを接種するときの
積み重なる効果を科学的に考えていくときの一つの
鍵となる生理機能です。
-----
このような免疫機能の「記憶」は
獲得免疫機能「だけ」が排他的に持つ生理システムである
と長い間、常識的に考えられてきました。
しかしながら
自然免疫系の免疫細胞や組織に常在する幹細胞なども
このような「獲得免疫機能」を示す可能性が示唆されています(6-10)。
-
このような免疫の記憶によってウィルスなどに対する
再感染は人以外の植物や非脊柱動物でも確認されています(11-13)。
-----

植物など人とは離れた生物の免疫機能も
人のそれと類似性が見いだせるという事です。
植物の免疫機能などに特化した包括的な報告もあります(14)。
-----
しかし、興味深いことに
植物や非脊柱動物は獲得免疫系を持たないといわれています。
このことが自然免疫系が「記憶する」ということを暗示しています。
-
さらには特定の感染症に罹患する事
あるいはワクチンを接種することは
自然免疫系の生理機序を通して他の病原体に対して
広範な防御機能を示す可能性が示唆されています(7,15)。
-
「LPS tolerance」という現象があります。
このlipopolysaccharide(リポ多糖体)は
人や動物など生物の細胞に作用すると多彩な生物活性を示す
とされています。
このようなリポ多糖体や
自然免疫系の免疫細胞表面に広く形成される
・Toll-like receptor(Toll様受容体) 
これのリガンド
これらが外部刺激によって導入されることで
自然免疫系の免疫細胞が「改変される」ということです。
これはある種の「記憶性」を生み出し、
同じ刺激が2回あるとそれに対する炎症反応は小さくなります(16)。
-----

これは免疫寛容性と関係があるかもしれません。
例えば、自己免疫疾患の一つである
エリテマトーデス、関節リウマチでは
自分の身体の中に常時ある抗原を敵とみなして
免疫機能が過剰に反応(惹起)するといわれていますが、
このように自然免疫系の免疫機能の記憶性を利用することで
免疫寛容性を生み出すことが何らかの治療につながる可能性もあります。
しかしながら、一方で
感染症に対しては、再感染した時には
自然免疫系の寄与が小さくなり、獲得免疫系の抗病原体の寄与
が大きくなることを示している可能性があります。
その時には獲得免疫系が作用する「速度」が変わっている可能性があります。
-----
参考文献(1)ではワクチン接種の臨床的な応用も含めて
「免疫機能の訓練」に関する近年の発見について議論して
この学域における未来の研究の考えられる指針について
示していく事を目的とされています。
--------

以上です。

(参考文献)
(1)
Mihai G. Netea, Jorge Domínguez-Andrés, Luis B. Barreiro, Triantafyllos Chavakis, Maziar Divangahi, Elaine Fuchs, Leo A. B. Joosten, Jos W. M. van der Meer, Musa M. Mhlanga, Willem J. M. Mulder, Niels P. Riksen, Andreas Schlitzer, Joachim L. Schultze, Christine Stabell Benn, Joseph C. Sun, Ramnik J. Xavier & Eicke Latz 
Defining trained immunity and its role in health and disease
Nature Reviews Immunology volume 20, pages375–388(2020)
(2)
Priya A. Debisarun, Patrick Struycken, Jorge Domínguez-Andrés, Simone J.C.F.M. Moorlag, Esther Taks, Katharina L. Gössling, Philipp N. Ostermann, Lisa Müller, Heiner Schaal, Jaap ten Oever, Reinout van Crevel,  View ORCID ProfileMihai G. Netea
The effect of influenza vaccination on trained immunity: impact on COVID-19
medRχiv doi.org/10.1101/2020.10.14.20212498
(3)
Medzhitov, R. & Janeway, C. 
Innate immune recognition: mechanisms and pathways. 
Immunol. Rev. 173, 89–97 (2000).
(4)
Lanier, L. L.
NK cell recognition. 
Annu. Rev. Immunol. 23, 225–274 (2005).
(5)
Bonilla, F. A. & Oettgen, H. C. 
Adaptive immunity.  
J. Allergy Clin. Immunol. 125, S33–S40 (2010).
(6)
Bowdish, D. M. E., Loffredo, M. S., Mukhopadhyay, S., Mantovani, A. & Gordon, S. 
Macrophage receptors implicated in the “adaptive” form of innate immunity. 
Microbes Infect. 9, 1680–1687 (2007).
(7)
Netea, M. G., Quintin, J. & Van Der Meer, J. W. M. 
Trained immunity: a memory for innate host defense. 
Cell Host Microbe 9, 355–361 (2011).  
(8)
Naik, S. et al. 
Inflammatory memory sensitizes skin epithelial stem cells to tissue damage. 
Nature 550, 475–480 (2017).  
(9)
Lay, K. et al. 
Stem cells repurpose proliferation to contain a breach in their niche barrier. 
eLife 7, e41661 (2018).
(10)
Christ, A. et al. 
Western diet triggers NLRP3-dependent innate immune reprogramming. 
Cell 172, 162–175 (2018).  
(11)
Kurtz, J. 
Specific memory within innate immunesystems. 
Tr ends Immunol. 26, 186–192 (2005).
(12)
Conrath, U., Beckers, G. J. M., Langenbach, C. J. G.  & Jaskiewicz, M. R. 
Priming for enhanced defense. 
Annu. Rev. Phytopathol. 53, 97–119 (2015).
(13)
Gourbal, B. et al. 
Innate immune memory: an evolutionary perspective. 
Immunol. Rev. 283, 21–40 (2018).
(14)
Isabel M. L. Saur, Ralph Panstruga & Paul Schulze-Lefert 
NOD-like receptor-mediated plant immunity: from structure to cell death
Nature Reviews Immunology (2020)
(15)
Netea, M. G. et al. 
Trained immunity: a program of innate immune memory in health and disease. 
Science 352, aaf1098 (2016).
(16)
Novakovic, B. et al. 
β-glucan reverses the epigenetic state of lps-induced immunological tolerance. 
Cell 167, 1354–1368.e14 (2016).  


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