2020年12月26日土曜日

ワクチンに対するアドジュバントの役割(3)

いつも記事を読んでくださり、ありがとうございます。

新型コロナウィルスのワクチンは
世界で100種類以上開発され、
動物実験やその他条件をクリアしたものが治験に進んでいます。
日本ではアンジェス社(さん)が
大阪大学と共同でワクチンの開発が進んでいて、
現在治験の第二段階です。
接種を進められている医師(の方)のメディアでのコメントによれば
結果は良好であるということです。
新型コロナウィルスのワクチンであれば、
ウィルスが細胞感染の時に結合するSタンパク質に
高い中和能を持ってぴったり結合するような
質の良い抗体を作ることが目的となります。
一般にワクチンのテストでは抗体価、中和能力を
新型コロナウィルスに罹患した後、回復した人の
それらと比較します。
その値を上回っていれば
ワクチンとして十分機能するだろうということです。
そして大規模に接種した時に
安全性の問題、感染が実際に防がれるか
ということを偽薬群と比較評価することになります。
その他、気になる点としては
ワクチンの効果はどれだけ続くか?
また変異があった時に同様に効果があるか?
これらがあります。
ワクチンの効果の継続性に対しては
抗体価、中和能、疫学調査などがあります。
変異があった時の評価
あるいは継続的に接種していくときの評価の中には
抗体だけではなく
他の免疫細胞のワクチンの効果も同様に考える必要があります。
また抗体を生み出すプロセスについても考える必要があります。
他の免疫細胞について考える
あるいは抗体のプロセスを考えるときには
ワクチン接種によって改変された免疫細胞
記憶化された免疫細胞を評価することになります。
それらは一般的に抗体の持続時間よりも長いと考えられていますし
抗体に比べれば交差性が高く、変異にも強いと考えられるので
継続的にワクチン接種していく上で非常に重要な情報になります。
インフルエンザのように毎年接種していく事になれば、
積みあがる効果について副反応、リスクにも留意しながら
その利点について考えていく必要があります。

今述べたワクチン接種から抗体が生み出されるプロセスも
まだよくわかっていない部分が多くあると思っています。
・抗原が認識されるまでの経路
・抗原認識されてから抗体が生み出されるまでの経路
・B細胞以外の免疫細胞の貢献、影響
これらそれぞれに対して
身体のどのような経路で?という
幾何学的な要素
細胞同士の遺伝子変化、物理化学的な結合という
生物学的な要素
これらがあるので非常に複雑です。
また、mRNAやDNAワクチンの場合は
生きたウィルスを使うわけではないので
おそらく「アドジュバント(免疫補強剤)」が必要です。
このアドジュバントが上の要因にどのように関わっているか?
それを考えると状況はさらに複雑になります。
そのような複雑性の中においても
「抗原認識を効率化させる鍵となる部分」
「抗体分泌を効率化させる肝となる部分」
これらを掴むためには
一つ一つ丁寧に考えていく必要があります。

アドジュバントはワクチン接種において
抗体を生み出すプロセスの中で
T細胞やB細胞が抗原認識するまでの初期過程に
大きくかかわる物質で
この選択、組み合わせが不適合であれば
抗体を生み出す効率が大きく下がることになると考えられます。
Steven G Reed氏、Mark T Orr氏、Christopher B Fox氏
研究グループは各ワクチンに対して
アドジュバントを設計、適用するときの
どのような要因を考える必要があるか?
それについて総括されている(1)ので
本日はその情報の一部を読者の方と情報共有したいと思います。
(※)
=====の⇒は私の追記、考察

//各種類のアドジュバントの特徴//-------------
(アルミニウム塩)
アドジュバントとして広く使われるアルミニウム塩。
電荷を強く帯びていて、伝導性であるので
粒子一つ一つの相互作用が強く凝集する傾向にあります(1)。
-----

輸送の際に血液中にある他のタンパク質やDNAなどを
引き付けて、それらを装飾した状態で運ばれることもある
と思います。またどれくらい凝集しやすいかによって
塊としての大きさも異なると思います。
そうした中で、標的とする自然免疫系の
Toll様受容体(TLR)の認識度も変わってくると考えられます。
-----

(乳液)
1990年代までは承認されることがありませんでした。
今使われているのが中油水とよばれる
水と油を混在させた物質で
水系の物質の中に体に無害な界面活性剤で乳化させた
ナノサイズの油の液滴が含まれています。
-------------

//アドジュバントの設計因子//---------------
物理的要因
・粒子サイズ・多分散性・形・表面電荷
・標的性・化学的構造
組み合わせ要因
・抗原・免疫調整分子・投与のルート
これらは
・自然免疫系の細胞(マクロファージ、樹状細胞など)による
取り込み(2-4)
・リンパ節までの輸送、胚中心での信号伝達(5-7)
・免疫反応の質、持続性(8,9)
・有害性(10)
これらの要因に関わります。
---
(例)
オボアルブミン抗原(※)を搭載した
「230nm」の脂質ベースのナノ粒子において
「708nm」のナノ粒子よりも
・樹状細胞、マクロファージに効率的に取得
・リンパ節まで効率的輸送
・強いIgG抗体の誘発
・細胞毒性T細胞の反応の強化
これらにつながりました(4)。
(※)
オボアルブミンは卵白などのタンパク質で
ワクチン接種におけるカギとなる物質です。
---
(例2)
スクアレンベースの乳液は
マラリアやインフルエンザのアドジュバントとして使われ
IgG抗体量の向上や、抗体分泌期間の延長などがありました(11)。
-----

従って、ワクチンに対するアドジュバントの選択で
抗体量だけではなくワクチンの抗体の持続時間にも
効果がある事が示されています。
-----
---
(例3)
ポリマーナノ粒子に包まれたCpG(※)と抗原の組み合わせ輸送で
細胞毒性のT細胞の活動が顕著に向上しました(12)。
(※)
自然免疫系がパターン認識するための受容体(TLR9)
のリガンドとして働きます。
CpG oligodeoxynucleotide (ODN),
---
免疫機能に認識されるまでのルート、
どのような組織を通過する必要があるか、
宿主のタンパク質や核酸などの吸収は設計の上で
非常に重要な要因となります(13,14)。
例えば、
リンパ節に直接接種した場合と
皮下注射した場合では抗体の発現量が異なる
という報告もあります(15)。
-----

新型コロナウィルスの場合は肩の筋肉注射ですが
身体は完全に左右対称ではないので
左肩に接種するか、右肩に接種するかで
抗体量などに影響がある可能性も否定はできません。
ただ、感染予防に影響を与える程度の
変化かどうかはまた別要因の部分があります。
-----

//アドジュバント設計検討要因(まとめ)//------------
(生物学的な反応)
・安全性
・免疫細胞までの経路
・抗原の適切な投与量
・抗体反応
・細胞を介した免疫
・免疫反応の質
・免疫反応が弱い免疫細胞の反応強化
---
(材料的な要因)
・材料
・製造性
・粒子の表面状態
・抗原の互換性、相互作用、相乗効果
・安定性
---
(参考文献(1) Table.2より)
------------

-----

//追記、考察//
実際にはToll様受容体の型によって
どの自然免疫系細胞がパターン認識して
獲得免疫系の抗原認識性を高めるかは異なります。
実際には自然のウィルス感染によって
パターン認識する受容体はTLR2が主要であると考えていますが、
アドジュバントの標的ではTLR4が多いです。
(参考文献(1) Table 1より)
その理由はおそらく
TLR4の方が多くの免疫細胞が持っている受容体であり
多面的な機序で抗原認識から抗体発現まで
促すことができるというのがあると思っています。
しかし、こうした差異が
どのような影響を与えるか?未知の部分があると思います。
また、
自然免疫系がパターン認識する場所と
獲得免疫系が抗原認識する場所は異なります。
主に獲得免疫系の抗原認識から
メモリ細胞までの発展までは
2次リンパ組織であるリンパ節の中の胚中心で
行われると理解しています。
そうした中で
アドジュバントと抗原を
自然免疫系細胞との連携を含めながら
どのように輸送すればいいのか?
これに関して効果的なワクチン開発のためには
細かく考えていく必要がある部分があると思います。
-----

以上です。

(参考文献)
(1)
Steven G Reed, Mark T Orr & Christopher B Fox 
Key roles of adjuvants in modern vaccines
Nature Medicine volume 19, pages1597–1608(2013)
(2)
Kim,  H.M.,  Uto,  T.,  Akagi,  T.,  Baba,  M.  &  Akashi,  M.  
Amphiphilic  poly(amino acid) nanoparticles induce size-dependent dendritic cell maturation. 
Adv. Funct. Mater. 20, 3925–3931 (2010).
(3)
Sharma, G. et al. 
Polymer particle shape independently influences  binding and internalization by macrophages. 
J. Control. Release 147, 408–412 (2010).
(4)
Teo, B.K.K. et al. 
The effect of micro and nanotopography on endocytosis in drug and gene delivery systems. 
Biomaterials 32, 9866–9875 (2011).
(5)
Chua,  B.Y.,  Al  Kobaisi,  M.,  Zeng,  W.,  Mainwaring,  D.  &  Jackson,  D.C.  
Chitosan microparticles and nanoparticles as biocompatible delivery vehicles for peptide and protein-based immunocontraceptive vaccines. 
Mol. Pharm. 9, 81–90 (2012).
(6)
Pal,  I.  &  Ramsey,  J.D.  
The  role  of  the  lymphatic  system  in  vaccine  trafficking  and immune response. 
Adv. Drug Deliv. Rev. 63, 909–922 (2011).
(7)
Reddy,  S.T.  et  al.  
Exploiting  lymphatic  transport  and  complement  activation  in nanoparticle vaccines. 
Nat. Biotechnol. 25, 1159–1164 (2007).
(8)
Henriksen-Lacey, M., Devitt, A. & Perrie, Y. 
The vesicle size of DDA:TDB liposomal adjuvants plays a role in the cell-mediated immune response but has no significant effect on antibody production. 
J. Control. Release 154, 131–137 (2011).
(9)
Li,  X.,  Sloat,  B.R.,  Yanasarn,  N.  &  Cui,  Z.  
Relationship  between  the  size  of nanoparticles  and  their  adjuvant  activity:  data  from  a  study  with  an  improved experimental design. 
Eur. J. Pharm. Biopharm. 78, 107–116 (2011).
(10)
Alkilany, A.M. & Murphy, C.J. 
Toxicity and cellular uptake of gold nanoparticles: what we have learned so far? 
J. Nanopart. Res. 12, 2313–2333 (2010).
(11)
Fox,  C.B.,  Baldwin,  S.L.,  Duthie,  M.S.,  Reed,  S.G.  &  Vedvick,  T.S. 
Immunomodulatory  and  physical  effects  of  oil  composition  in  vaccine  adjuvant emulsions. 
Vaccine 29, 9563–9572 (2011).
(12)
Beaudette,  T.T.  et  al.  
In  vivo  studies  on  the  effect  of  co-encapsulation  of  CpG DNA  and  antigen  in  acid-degradable  microparticle  vaccines.  
Mol.  Pharm.  6, 1160–1169 (2009).
(13)
Walczyk, D., Bombelli, F.B., Monopoli, M.P., Lynch, I. & Dawson, K.A. 
What the cell “sees” in bionanoscience. 
J. Am. Chem. Soc. 132, 5761–5768 (2010).
(14)
Zhang,  H.  et  al.  
Quantitative  proteomics  analysis  of  adsorbed  plasma  proteins classifies  nanoparticles with different surface properties and size. 
Proteomics 11, 4569–4577 (2011).
(15)
Mohanan, D. et al. 
Administration routes affect the quality of immune responses: A  cross-sectional  evaluation  of  particulate  antigen-delivery  systems.  
J.  Control. Release 147, 342–349 (2010).


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