いつも記事を読んでくださり、ありがとうございます。
今、日本で承認されている
エボラ出血熱のためのレムデシビル
あるいは承認申請されている
インフルエンザ治療薬のアビガン。
これらの薬はともに「ウィルスの増殖を防ぐため」のものです。
これらのようなウィルスの複製を細胞内で防ぐ研究は
今日本を含め(7)、世界で鋭意行われています(2)。
しかし、新型コロナウィルスは
無症状、発症しているかわからない状態が一定期間ある場合あり
そうした場合、発症した時には
すでにウィルス量がかなり多くなっている可能性もあります。
今は医療機関の逼迫もあり、
治療のガイドラインも十分に定まっていない状態なので
初期治療については後手に回っている部分があります。
つまり、症状が出て中等症、重症になった患者を
優先的に多くの医療従事者(の方)が
十分ではない人的資源を投資して治療にあたっています。
おそらく、上述したような
「ウィルスの増殖を防ぐことを目的とした薬」は
症状が出る前の極めて初期の段階で処方する必要があります。
なぜなら、ウィルスが増えた後では
内的に出た抗体の量が十分であり
ウィルス量が減少している可能性がある事(3)と
その時点で問題となっているのは
免疫機能のバランスが崩れている事だからです。
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(※)
これが一部正しいかどうかは
標準的な治療時におけるウィルス量の推移や
無症状、軽症、中等症、重症患者のウィルス量の比較
などを通して確認できると思います。
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従って、免疫機能を調整する
デキサメタゾンやアクテムラは一定の奏功が得られている
と考えています。
しかしながら、
・今の医療体制の問題
・潜伏期間が長い新型コロナウィルスの病理
これらの事から初期の治療は医療運用上においても難しく
同じ呼吸器系の感染症である
インフルエンザよりも治療が難しい部分がある可能性があります。
そうすると
事前に抗体を入れて
常時新型コロナウィルスに対して防御態勢を築く
「ワクチンの接種」は治療薬ができたとしても
インフルエンザよりも重要度が高いかもしれない
と考えることもできます。
本日紹介する内容も
今述べた事とおそらく関連しており
新型コロナウィルスの治療の難しさを示唆するものです。
アメリカの国立衛生研究所(NIH)が主導している
ACTIV-3/TICO LY-CoV555 Study Group
(デンマーク、シンガポールなど)
医療、研究チームによる中和抗体(LY-CoV555)の
「入院患者(さん)」に対する
「標準的な治療を行っている上での付加的な効果」を
比較評価しています(1)。
本日はその内容について
医療従事者の方、行政の方を始め
読者の方と情報共有したいと思います。
(※)
=====の⇒は主に私の追記、考察
//結果概要、考察//-----------
(事前の結果でウィルス量減少に対して効果があった(4))
中和抗体(LY-CoV555)を入院患者に
通常の治療に付加的に投与したことによる
新型コロナウィルス治療における奏功、良い効果は確認できない。
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⇒
既に中等症以上の患者(さん)は
「発症」から平均して7日経過しています。
「感染」はそれよりも前の可能性があります。
すでに患者さんの体内で抗体が内的に形成されている可能性があり
ウィルスが最大量よりも減少傾向にある時期かもしれません。
その時期には「ウィルスを減らすよりも」
・「酸素、水分、栄養状態の管理」
・「免疫調整剤による免疫機能の管理」
こちらの方が治療として大切になっている可能性があります。
今回の結果は
「治療が遅れた場合はウィルス量を減らすアプローチは
治療的な優位性を示さない可能性。」
これを示唆したものではないかと考えます。
・抗ウィルス薬(今、世の中で鋭意開発)
・リパーポスの抗ウィルス薬(レムデシビル、アビガンなど)
・抗体(今回の報告)
これらを臨床で使用する場合には
「いつ」投与するのか?
それが非常に重要になると考えられます。
それはウィルスが最大量に達する前の増加期の
「感染初期である」必要があると今は考えています。
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//条件//-----------
※偽薬(プラセボ)とほぼ統一、記載割愛
(実施期間)
2020年8月5日~10月13日
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(場所)
アメリカ23か所、デンマーク7か所
シンガポール1か所
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(人数)
中和抗体(LY-CoV555):163人
偽薬:151人
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(対象)
「入院患者」
※すでにある程度症状が出ている。感染初期ではない。
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(年齢)
63歳(50~72歳)
※年齢層は高い。リスクが高い年齢層。
但し、80代以上はいない。
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(併存している疾患)
高血圧:50% / 糖尿病:33% / 腎疾患:15%
※リスクの高い疾患を抱えている人が多い。
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(併用薬)
レムデシビル:37%
抗菌薬:33%
グリココルチコイド:49%
血液抗凝固剤:65%
※すでに標準的な治療が行わています。
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(開始時、症状の程度)
酸素不必要:27%
酸素必要:37% (<4(l/min))
酸素高濃度必要:18% (≧4(l/min))
非侵襲通気:18% (鼻腔カニューレ)
侵襲通気 or ECMO:0%
※対象となった患者の7割以上が酸素必要。
つまり低酸素状態であると考えられます。
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(血管の状態)
Median B-lymphocyte count 784(cell/mm3) (通常:3800-9800)
Median C-reactive protein 94(mg/L) (通常 10以下)
※B細胞減少、炎症が起きている
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(治験開始地点)
症状が現れて
平均7日(5~9日)
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(事前の抗体の抗ウィルス性について(4))
投与から3,4日目くらいで1桁くらいの減少量の差が
偽薬群に比べてあります。
抗体の抗ウィルス性の効果は確認された。
(参考文献(4) Figure 3より)
※ただし、対象は入院患者ではない。
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//結果//----------
継続的な回復、退院にについては
抗体投与における奏功は
投与から40日間のいずれの期間においても見出されません。
(参考文献(1) Figure 1より)
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⇒
以前報告(4)での投与から数日のウィルス減少の効果が
この調査では臨床症状に反映されていません。
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抗体投与における
救命不可、重篤な副作用、臓器不全の患者数は
偽薬群に対して高い。
亡くなられた方は投与30日後から差が現れる。
(参考文献(4) Supplementary appendix Figure S2より)
-----
⇒
救命状況については数が少ないので
統計的な有意差があるかどうかは議論の余地があります。
しかし、
少なくとも症状改善、悪化において
抗体投与における奏功は見出されません。
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//議論、考察//----------
抗体投与によって治療的な利点が見いだされない
理由は不明である。
考えられる理由として
・抗体の患部への輸送の問題
・中和能力の問題
・抗体の副作用、副反応(抗体依存性感染増強)(5,6)
-----
⇒
抗体のFcドメインによる免疫細胞への影響。
抗体依存性感染増強は一般的に
抗体の中和能力が低い時に起きるので
事前の結果で抗ウィルス性が見られていることから
大きな変異がない限り、
抗体依存性増強の可能性は低いのではないかと考えます。
ただし、抗体が多すぎる事による
Fcドメインを通した免疫機能の惹起は考えられます。
-----
TICO研究グループは
新しい中和抗体による治験も行っています。
-----
⇒
おそらくどういう状態の患者さんを選ぶかによって
結果は変わると思われます。
少なくとも中等症、重症の血液や臓器の炎症、不全が
ある程度所見される患者さんに対しては
抗体による効果はあまり期待できないのではないか
と考えられます。
もし、効果があるとすれば
Fabドメインではなく、Fcドメインをうまく使って
免疫機能を調整する場合に限られると考えます。
-----
以上です。
(参考文献)
(1)
ACTIV-3/TICO LY-CoV555 Study Group
A Neutralizing Monoclonal Antibody for Hospitalized Patients with Covid-19
The New England Journal of Medicine December 22, 2020
(2)
Nora Schmidt, Caleb A. Lareau, Hasmik Keshishian, Sabina Ganskih, Cornelius Schneider, Thomas Hennig, Randy Melanson, Simone Werner, Yuanjie Wei, Matthias Zimmer, Jens Ade, Luisa Kirschner, Sebastian Zielinski, Lars Dölken, Eric S. Lander, Neva Caliskan, Utz Fischer, Jörg Vogel, Steven A. Carr, Jochen Bodem & Mathias Munschauer
The SARS-CoV-2 RNA–protein interactome in infected human cells
Nature Microbiology (2020)
(3)
Roman Wölfel, Victor M. Corman, Wolfgang Guggemos, Michael Seilmaier, Sabine Zange, Marcel A. Müller, Daniela Niemeyer, Terry C. Jones, Patrick Vollmar, Camilla Rothe, Michael Hoelscher, Tobias Bleicker, Sebastian Brünink, Julia Schneider, Rosina Ehmann, Katrin Zwirglmaier, Christian Drosten & Clemens Wendtner
Virological assessment of hospitalized patients with COVID-2019
Nature volume 581, pages465–469(2020)
(4)
Peter Chen, M.D., Ajay Nirula, M.D., Ph.D., Barry Heller, M.D., Robert L. Gottlieb, M.D., Ph.D., Joseph Boscia, M.D., Jason Morris, M.D., Gregory Huhn, M.D., M.P.H.T.M., Jose Cardona, M.D., Bharat Mocherla, M.D., Valentina Stosor, M.D., Imad Shawa, M.D., Andrew C. Adams, Ph.D., Jacob Van Naarden, B.S., Kenneth L. Custer, Ph.D., Lei Shen, Ph.D., Michael Durante, M.S., Gerard Oakley, M.D., Andrew E. Schade, M.D., Ph.D., Janelle Sabo, Pharm.D., Dipak R. Patel, M.D., Ph.D., Paul Klekotka, M.D., Ph.D., and Daniel M. Skovronsky, M.D., Ph.D., for the BLAZE-1 Investigators
SARS-CoV-2 Neutralizing Antibody LY-CoV555 in Outpatients with Covid-19
The New England Journal of Medicine October 28, 2020
(5)
Arvin AM, Fink K, Schmid MA, et al.
A perspective on potential antibody- dependent enhancement of SARS-CoV-2.
Nature 2020; 584: 353-63.
(6)
Lee WS, Wheatley AK, Kent SJ,
DeKosky BJ. Antibody-dependent enhancement and SARS-CoV-2 vaccines and therapies.
Nat Microbiol 2020; 5: 1185-91.
(7)
Mika Okamoto, Masaaki Toyama, Masanori Baba
The chemokine receptor antagonist cenicriviroc inhibits the replication of SARS-CoV-2 in vitro
Antiviral Research Volume 182, October 2020, 104902

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