2020年12月14日月曜日

生体工学ナノ粒子輸送系統と精密医療(6)

いつも記事を読んでくださり、ありがとうございます。


細胞特異的輸送系統では新しい視点としては
患部組織、細胞の集合において
特徴的な受容体などの表面突起物質を見つけて
その突起物質に特異的に結合するような装飾をナノ粒子に施して、
その突起物質を錨(アンカー)として使う事です。
そうすると患部に隣接するときに
長い時間滞在することが可能になるので
そこでの薬剤放出の確率が上がるという事です。
そのアンカーが他の組織になく患部特異的であれば、
患部と違う組織に反応するオフターゲット効果も減らすことができます。
そうすれば細胞レベルでの精密医療に貢献すると考えています。
今までの視点というのは、
ナノ粒子を患部まで運ぶ際においては
患部の特定の細胞の中にナノ粒子を浸入させることを意図しています。
例えば、
ナノ粒子の中にCas9とguideRNAを入れて
細胞核の中の遺伝子編集をして、
特定の遺伝子異常が強く出ている疾患を治療する場合には
そのナノ粒子を細胞内に入れて
さらに細胞核の中に入れる必要があります。
また細胞質にある様々な遺伝子、たんぱく質に作用させる場合も
外部から受容体を通した細胞内外のやりとり(Trafficking)を
意図するもの(主にモノクローナル抗体など)の他に、
このような細胞内にエンドサイトーシスさせて
そこで薬剤を放出することで薬効を高めようと試みられてきました。

Michael J. Mitchell氏ら研究グループは
患部まで輸送する事における様々な障害に触れてきましたが
最終的に患部まで届いたとしても
そこから細胞内に浸入させるためには
そのエンドサイトーシスの効率を上げるためには
いろんな条件がある事を示しています(1)。
本日はその内容について私の視点を追記しながら
読者の方と情報共有したいと思います。

ナノ粒子における細胞内への浸入は、
マクロファージや癌細胞など細胞種によっても異なるし
ナノ粒子の特性である親水性、電荷の状態によっても異なります(2-4)。
そのような細胞内へエンドサイトシースするためには
幾重にもなる細胞膜を超える必要があります。
最も外側にあると考えられる細胞膜は2重構造になっており
その細胞膜を貫通するタンパク質や突出した脂質などは
400種類にもなると言われています(4-6)。
そのような物質は細胞内への浸入に一定の役割を持っていますが、
細胞内には形を決める骨となるような細胞骨格があり
細胞の変形などの硬さを決める一つの要因であり
浸入する際には細胞膜が変形するので
このような細胞骨格をベースとした細胞の硬さも
エンドサイトーシスに影響を与えるものです(7)。
また、細胞の形は微視的に見れば対称性は高くないので
局所的な形であったり、前述した突起物質なども関連して
場所によって浸入のしやすさが変わったり、
細胞とナノ粒子の接触時間によってもその効率は変化します(1).
一般に細胞膜は負に帯電しているために
ナノ粒子の表面の電荷が負であると反発力を生み
細胞内へ浸入するための時間が短くなりますが、
一方で正に帯電すると引き付けられますが、
その引力による細胞とナノ粒子の接触、衝突によって
細胞膜がダメージを受けて細胞毒性を示すことがあります(8-11)。
このような細胞とナノ粒子の最初の接触は
その後の細胞の運命と治療の潜在性に影響を与えるものです(1)。

ナノ粒子の形、大きさにおいて
一義的に最適なものを提示することは難しいとされていますが
細胞の食作用ではない、膜の間を貫通するように
細胞内に浸入させるための大きさとしては
10~60nm程度である必要があるとされています。
当然小さいほうが浸入しやすくなりますが、
小さくなると一般的には細胞毒性を示しやすい傾向にある
とされています(5,9,12)。
今述べた細胞膜を貫通するような細胞内浸入は
「Passive」とされています。
一方、細胞膜が変形して飲み込むような食作用による
細胞内への取り込みは「Active」と分類されます(6)。
このように「Active」な食作用における
細胞内へのナノ粒子のエンドサイトーシスは
細胞膜が変形してナノ粒子を包むように脂質膜が覆い
やがて覆った脂質膜で
細胞中でシャボン玉のように閉空間を作り、
その後、その閉空間が破られ
細胞質、細胞の中にナノ粒子が放出されます(1)。
その「Active」なエンドサイトーシスの経路の中には
小さなナノ粒子に対しては「ファーゴサイトーシス」
大きなそれに対しては「ピノサイトーシス」
と呼ばれ分類されています(13)。

また参考文献(1)のFig,4(a)のように
エンドサイトーシスには様々な種類がありますが、
突出した脂質を使って浸入するものは
「Caveolin-mediated endocytosis」
と呼ばれます。
一方
「Clathrin-mediated endocytosis」は
受容体を通じてエンドサイトーシスしますが
これは疎水性相互作用、静電気的相互作用を通じて行われます(4,13)。
一般的にナノ粒子の硬さのおいては
変形しにくい硬いものの方が
低いエネルギーで細胞内に取り込まれると
理論的に考えられ、実験でも確認されています(14,15)。
このような細胞膜の変形を通じた細胞内への
エンドサイトーシスにおいては
30nm以上小さいと細胞膜を動かすだけのエネルギーが得られず
この機序で浸入することは難しいと考えられています。
最低50nm程度の径のナノ粒子が必要であるとされています(16-19)。
上述したように
細胞膜の変形によって包まれるように細胞の中に
入っていったナノ粒子は
細胞内の閉空間の中で
酸性(低pH)、高いイオン強度、たんぱく質分解酵素
これらの特性を示す環境に暴露されることになります(4)。
従って、これらの環境変化を見越した設計が必要になりますが、
この環境変化を利用して
ナノ粒子を分解させ中の物質を解放させるという
選択肢ももちろんあります。

細胞の中の構造は
実際の教材に図示されている物とは異なる部分があると思っています。
ミトコンドリアがミミズのように動いて
細胞当たり一つではなく多く存在して
激しく動いて互いに融合したりしています。
非常に動的な細胞内器官とも言えると思います。
従って、教科書に載っているようなゾウリムシのような
形とは少し実情は異なります。
また細胞核の周りには膜が記載されていますが、
実際には細胞内は
もっと細かく区画化されているかもしれないといわれています(7)。
従って、様々な膜がある可能性があるため
細胞質内の任意の細胞内器官に薬剤を働かせるためには
同じようなエンドサイトーシスを繰り返す必要があります。
少なくとも
細胞核やミトコンドリアに対して薬剤を作用させる際には
外側の細胞膜を通過しても
これらの小器官の中の例えば遺伝子に作用する場合には
再度膜を超える必要があります。
冒頭で述べたCas9、guideRNAを細胞核に働かせるためには
細胞の外からナノ粒子を入れてから
細胞質を泳がせて、さらに細胞核の周りにある膜を超えて
そしてその中の遺伝子にこれらの遺伝子編集ツールを
作用させる必要があります。

細胞は基本的には若い細胞の方が
ナノ粒子の取り込みが良く細胞毒性も働きにくいとされています(20)。
先ほど、ナノ粒子は硬いほうがエネルギーが小さくて済む
といわれました。
おそらくナノ粒子が変形すると
細胞膜の形を変えるときに
それに作用するナノ粒子自体が柔軟に形を変えてしまうために
より大きなエネルギーが必要だからかもしれません。
その考えをナノ粒子から細胞に転化させると
若い細胞の方が取り込みが良いということは
細胞骨格がしっかりしていて形が安定しているということの
裏付けである可能性を考えました。
ナノ粒子に限らず多くの薬剤において
細胞内への浸入が必要な場合がありますが、
その薬効を上げるために
アドジュバントとして細胞骨格を整えるような薬剤や
栄養を届けることが大事になるかもしれません。

癌の治療などでは広く使われる白金ベースの薬において
細胞の取り込みにおいて抵抗性を示す場合があるとされています(1)。
しかし、周囲に毛、糸のような突起が延びた
ミセルのナノ粒子においては
このようなこのような薬剤の抵抗性に影響が受けにくく
細胞核までの輸送効率が良い傾向にあるとされています(21,22)。

以上です。

(参考文献)
(1)
Michael J. Mitchell, Margaret M. Billingsley, Rebecca M. Haley, Marissa E. Wechsler, Nicholas A. Peppas & Robert Langer 
Engineering precision nanoparticles for drug delivery
Nature Reviews Drug Discovery (2020)
(2)
Scheetz, L. et al. 
Engineering patient- specific cancer immunotherapies. 
Nat. Biomed. Eng. 3, 768–782 (2019).
(3)
Ho, L. W. C., Liu, Y., Han, R., Bai, Q. & Choi, C. H. J. 
Nano-cell interactions of non- cationic bionanomaterials. 
Acc. Chem. Res. 52, 1519–1530 (2019).
(4)
Behzadi, S. et al. 
Cellular uptake of nanoparticles: journey inside the cell. 
Chem. Soc. Rev. 46,  4218–4244 (2017).
(5)
Kou, L. et al. 
Transporter-guided delivery of nanoparticles to improve drug permeation across cellular barriers and drug exposure to selective cell types. 
Front. Pharmacol. 9, 1–16 (2018).
(6)
Gehr, P. & Zellner, R. 
Biological Responsese to Nanoscale Particles: Molecular and Cellular Aspects and Methodological Approaches 
(Springer, 2019).
(7)
Trimble, W. S. & Grinstein, S. 
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J. Cell Biol. 208, 259–271 (2015).
(8)
Blanco, E., Shen, H. & Ferrari, M. 
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Nat. Biotechnol. 33, 941–951 (2015).
(9)
Hoshyar, N., Gray, S., Han, H. & Bao, G. 
The effect  of nanoparticle size on in vivo pharmacokinetics and cellular interaction. 
Nanomedicine 11, 673–692 (2016). 
(10)
Ho, L. W. C., Liu, Y., Han, R., Bai, Q. & Choi, C. H. J. 
Nano-cell interactions of non-cationic bionanomaterials. 
Acc. Chem. Res. 52, 1519–1530 (2019).
(11)
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(12)
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J. Nanobiotechnol. 12, 5 (2014).
(13)
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(World Scientific, 2017).
(14)
Foroozandeh, P. & Aziz, A. A. 
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Nanoscale Res. Lett. 13, 339 (2018).
(15)
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