2020年12月6日日曜日

デコイ受容体による中和能

いつも記事を読んでくださり、ありがとうございます。

今、世界の企業、団体が鋭意開発しているワクチンは
いろんなタイプがありますが、
基本的には新型コロナウィルスのSタンパク質、突起に
中和抗体を付けて、身体に多く存在する細胞への
エントリー受容体であるACE2受容体との結合性を
顕著に弱めることです。
それによって細胞内でしか増殖できないウィルスは
数を増やすことができず、やがて寿命を迎え、RNAは分解し消滅します。
しかし、
新型コロナウィルスの感染を防ぐという
意味では他のアプローチも存在します。
例えば、
このACE2という細胞表面にある受容体を蓋するような
タンパク質を入れたり、設計図をいれることで
体内で生成することでウィルスの細胞内の
侵入を防ぐという方式もあります。
ただ、この場合、ACE2がある細胞は
いろんな組織に存在するので
そのたんぱく質をうまく分散できるか?
といった課題はあるかもしれません。
もう一つの方式は、
エントリー受容体ACE2を作るということです。
元々細胞表面に存在するACE2で細胞の侵入に関与していますが、
ACE2「だけ」を単体で体の中に入れて、
ウィルスはそれと「優先的に」結合することで
細胞内に入る効力を失います。
導入したACE2には細胞が結合していないからです。
それに結合しても増殖することができません。
そのような受容体を「デコイ受容体」と呼びます。
「デコイ(decoy)」とは日本語で
「おびき寄せる」という意味なので、
「細胞にくっつく前にこっちに来い」と
おびき寄せるというイメージです。
従って、
ACE2デコイ受容体を量を考えたり、
引力や結合能力が高いように設計すれば、
細胞に結合する前にウィルスの効力をなくすことができます。
このデコイ受容体のメリットは
「ウィルスの変異に強い」ということです(1)。
基本的に新型コロナウィルスは
RNAウィルスで(DNAよりも可塑性に富んでいるので)
変異しやすいといわれています(2-4)。
上述した新型コロナウィルスのワクチンの性能を決める
抗体と結合するSタンパク質の結合面
(receptor binding domain:RBD)も同様に
すでに変異が確認されています(5,6)。
インフルエンザも同じRNAウィルスですが
毎年のように変わるのでワクチンのタイプが変わったり
ある年は効き目が弱くなったりします。
新型コロナウィルスは
これだけ世界的な流行があるので
おそらくワクチンが普及して、接種して
ある程度世界的に集団免疫ができたとしても
インフルエンザのように毎年流行する可能性も否定はできません。
そうした中で、同じように変異して
ワクチンの効き目に影響を与える可能性がありますが、
そういったことも想定すると
上述した「ウィルスの変異に強い」というのは
大きな利点ではあります。
上手く臨床試験をクリアして安全性が確かめられて
市場に出回ることがあるならば、
毎年、比較的統一的に使うことができる
ということにもつながる可能性があります。
では、なぜデコイ受容体を使った形式は変異に強いのか?
おそらくその一つの理由は
デコイ受容体がACE2そのもので大きいために
細かい構造変異があったとしても
その結合性を大きく変えるものではないから
と言えるからだと考えます。
参考文献(1) Fig.1(A)、Fig.2(A)を見るとわかりますが、
非常に多くの結合面を持っていることがわかります。
従って、
多少Sタンパク質に変異があっても
結合性に大きく影響を与えるものではない
とベースとしては考えられます。
ただ、抗体ワクチンの場合はFcドメインによって
免疫機能を鍛えることができますし、
B細胞、T細胞をメモリ化したりすることもできるので
その点はメリットです。
毎年接種し、それが繰り返されれば、
新型コロナウィルスにどんどん強くなる
という事も考えられます。
おそらくデコイ受容体の場合は
免疫機能に対する副反応というのは
今のところ明確ではないと思います。

Thomas W. Linsky氏ら研究グループは
人型のACEsデコイタンパク質をデザインし
「ハムスター」でそのデコイたんぱく質による
中和能を確認しました(1)。

Thomas W. Linsky氏らが作製した
デコイ受容体がなぜ変異に強いかというのは
結合面が保たれるからという記述があります(1)。
アミノ酸が無傷であるという記述があり
アミノ酸の構造的な要因(柔軟性、安定性?)
が貢献している可能性を考えました。

35000通りのタンパク質のデザインを計算し
その中で196種類のデザインに絞り、
最終的にCTC-445というたんぱく質を選定しました。
160個のアミノ酸の中には18個の自然アミノ酸があり、
システインやトリプトファンなどの残基は含んでいません。
この構造の置ける親和性は
細胞表面にあるACE2受容体の10倍を超えます(1)。
従って、
両方存在するときには
デコイ受容体に「優先的に」結合することが想定されます。
しかし、
構造的な不安定性があったために
結合面と関連性の低いところで
5つの構造変異を行い安定性を高めました(CTC-445.2)。
また、このデコイタンパク質は
単量体であるために熱的にも安定であると考えられています。
単量体で構造安定性が高いのは
ドメイン同士を結合する留め金となる
システインなどの必要性がないため
その開放などによる構造的変化がないからである
と考えています。
ワクチンでは低温で保存する必要のものも
構造の安定性のために必要なものがありますが、
このデコイ受容体をつかった方式では
温度条件に対しては寛容である可能性があります。
例えば、
この構造変異より熱的な安定性を高めることで
融点を75.3℃から93℃まで高めることができました(1)。
このCTC-445.2の構造改変を行うことで
さらに結合親和性が10倍高まりました(1)。
従って、
自然に存在する人のACE2受容体よりも
100倍高い結合親和性を示す結果となっています。

また、SARS-CoV-1との交差性も確認されているため(1)
このデコイ受容体は
同時に違うタイプのSARSにも効果を発揮する可能性があります。
また、SARS-CoV-2におけるSタンパク質の
受容体結合面の構造パターン(Up、Down)
両方に対して結合性を示し、
3つあるRBDに同時に結合していることも
低温顕微鏡で確認されています。
(参考文献(1) Fig.3(A-D)より)

また、連続的な複製(Serial duplication)のため
生体内の環境が整えば、
構造の保持時間も長いと考えられています。

試験管の実際の細胞に対する評価では
人の胚腎臓(HEK)293T細胞において
擬ウィルスにおいて細胞感染が抑制されました。
肺の上皮細胞(Calu-3)においても同様です(1)。

ハムスターにおいては
全ての個体で生存が確認され、
デコイがない状態で感染させた個体の死亡が確認されたことから
生体内でも「ハムスターにおいては」
一定の効果が確認されました(1)。

基本的には抗体を使ったワクチンとデコイ受容体は
それぞれメリット、デメリットがある(と思われる)ので
もし臨床試験を通れば、
それを補い合う形での利用可能性があると考えられます。
例えば、
新型インフルエンザのように
従来のワクチンの効果が期待できないほど
重大な変異と毒性がある場合には
ある程度普遍的に使えるデコイ受容体ワクチンを使って抑え込んで、
その状態で感染が収まればよいですし、
そうでなく効果が部分的であった場合には
その間にまたワクチンを開発するというような
ことも将来考えられるかもしれません。

以上です。

(参考文献)
(1)
Thomas W. Linsky et al.
De novo design of potent and resilient hACE2 decoys to neutralize SARS-CoV-2
Science  04 Dec 2020: Vol. 370, Issue 6521, pp. 1208-1214
(2)
E. C. Smith, M. R. Denison, 
PLOS Pathog. 9, e1003760 (2013).
(3)
S. Duffy, 
PLOS Biol. 16, e3000003 (2018).
(4)
Z. Zhao et al., 
BMC Evol. Biol. 4, 21 (2004).
(5)
A. Baum et al., 
Science 369, 1014 – 1018 (2020).
(6)
T. N. Starr et al., 
Cell 182, P1295 – P1310.E20 (2020).


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