2021年1月9日土曜日

ミトコンドリア機能改変による自然免疫系の阻害機序

いつも記事を読んでくださり、ありがとうございます。

新型コロナウィルスの重症患者では
細胞内の自然免疫系の応答であるインターフェロンの反応が
遅れるという特徴があります(2)。
自然免疫系は初期の応答でインターフェロンは抗ウィルス性に
関与するので、この応答が遅れる事は
初期のウィルス量に関係します。
それによって数を免疫によって減らすことができず
ウィルス量が増えて、免疫機能のバランスが乱される
という事があると思います。
重症の患者さんの中和抗体量は軽症の方よりも多いので
そのことがウィルス量に関係している事を暗示しています。
従って、この免疫を弱める機序を理解することは
患者の重症化を防ぐことにつながる可能性があります。

Brendan Miller氏ら医療、研究グループは
こうした新型コロナウィルス感染時の細胞内の
免疫機能の阻害はミトコンドリアの機能改変に起因している
事を仮定してその研究、調査をしています(1)。
その内容について、読者の方と情報共有いたします。

従来から今述べたミトコンドリアはウィルス感染直後の
インターフェロンなどの自然免疫信号の制御に関わっています(3)。
そのミトコンドリアの生理機序の中で
The Mitochondrial Antiviral Signaling protein (MAVS) 
という抗ウィルス信号タンパク質の免疫との関連が指摘されています(4,5)。
この免疫機能はMAVSがエネルギー代謝に関わるリン酸化反応、
IRF3の核の転座が誘発されたときに強化されます。
また代謝によって生み出された活性酸素もMAVSの負の制御に関わっています(6)。
またミトコンドリアを通した遺伝子発現も免疫機能に関わっている
ことが指摘されている(7)ので
・Nuclear‑encoded mitochondrial (NEM) genes 
・mtDNA‑encoded gene expression 
これらがミトコンドリアを通した免疫機能の改変を調べる上で
有効であると仮定されました。

実際に、MAVS、NEM遺伝子、mtDNAの新型コロナウィルスの影響を
人の肺の細胞を含めて、
他のウィルス(A型インフルエンザ、RSウィルス)などと比較した結果の中で、
ここで抽出したい情報は、
MAVSの発現が新型コロナウィルス感染時に
他のウィルスの応答と異なり、それが抑制されなかったことです。
(参考文献(1) Figure 6(A)より)
MAVSが弱まった時に、インターフェロンの発現が促されると
考えられていいます。
これはTOM70というMAVSと結合して機能を弱める物質が
新型コロナウィルスのオープンリードフレーム9b(Orf9b)と
結合したことでその機能が阻害され
結果として細胞質にあるMAVのレベルが維持されたからである
と考えられています(8,9)。
従って、ミトコンドリアの表層上にある受容体である
TOM70に対する新型コロナウィルスのOrf9bの親和性を
下げるような薬剤を開発することで
MAVSとTOM70受容体との結合性を保ち、
それによってインターフェロンの発現を促すという戦略が考えられます。

以上です。

(参考文献)
(1)
Brendan Miller, Ana Silverstein, Melanie Flores, Kevin Cao, Hiroshi Kumagai, Hemal H. Mehta, Kelvin Yen, Su- Jeong Kim & Pinchas Cohen 
Host mitochondrial transcriptome response to SARS-CoV-2 in multiple cell models and clinical samples
Scientific Reports volume 11, Article number: 3 (2021)
(2)
Blanco-Melo, D. et al. 
Imbalanced host response to SARS-CoV-2 drives development of COVID-19. 
Cell 181, 1036-1045 e1039. (2020).
(3)
Tiku, V., Tan, M. W. & Dikic, I. 
Mitochondrial functions in infection and immunity. 
Trends Cell Biol. 30, 263–275. (2020).
(4)
Guzzi, P. H., Mercatelli, D., Ceraolo, C. & Giorgi, F. M. 
Master regulator analysis of the SARS-CoV-2/human interactome. 
J. Clin. Med. (2020).
(5)
Sun, Q. et al. 
The specific and essential role of MAVS in antiviral innate immune responses. 
Immunity 24, 633–642. (2006).
(6)
Buskiewicz, I. A. et al. 
Reactive oxygen species induce virus-independent MAVS oligomerization in systemic lupus erythematosus. 
Sci. Signal. 9, 115. (2016).
(7)
Shao, H. et al. 
Upregulation of mitochondrial gene expression in PBMC from convalescent SARS patients. 
J. Clin. Immunol. 26, 546–554.(2006).
(8)
Jiang, H. W. et al. 
SARS-CoV-2 Orf9b suppresses type I interferon responses by targeting TOM70. 
Cell. Mol. Immunol.(2020).
(9)
Gordon, D. E. et al. 
A SARS-CoV-2-human protein-protein interaction map reveals drug targets and potential drug-repurposing. 
bioRxiv (2020).


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