いつも記事を読んでくださり、ありがとうございます。
新型コロナウィルスが世界的に流行して1年以上が経ちました。
その中でウィズコロナという言葉も生まれました。
その背景には新型コロナウィルスの感染力
また世界的な広がりを考えると、
完全に撲滅する事は難しく、今後共存していく必要がある
ということがあるからです。
ウィルスとの共存というのは生物がこの世に生まれてから
長く続いてきたことだと考えられます。
従って、進化の中でその痕跡が多く残っていることが考えられます。
実際に内在性レトロウィルスと呼ばれるものがあります。
ウィルスの遺伝子配列によく似た部分が細胞内にあり
過去の生物がレトロウィルスに感染し、
改変された遺伝子が子孫である人に引き継がれたもの
とされています。
その様に考えると生物は常にウィルスと共存してきたし
その痕跡も身体の遺伝子の中に含まれるということになります。
またヘルペスウィルスのように多くの人に
感染しているウィルスもいます。
まだよくわかっていないウィルスもいると言われています。
その中で、
新型コロナウィルスが社会的な脅威となっているのは
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〇感染力が強いこと
〇媒体が空気であること
〇未知であり身体が強く反応すること
-
少なくともこれらが挙げられると思います。
-
〇感染力が強い
空気中での寿命の長さ
細胞での増殖力
細胞内への侵入能力があります。
-
〇媒体が空気
例えば、媒体が蚊であれば、
ある程度、感染対策の選択肢は生まれますが、
遍在する空気なので人と人との接触を減らすしかありません。
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〇未知であり、身体が強く反応する
新しいウィルスで体が記憶していないため
応答が遅く、その後、身体が強く反応します。
従って、免疫機能が大きく乱されます。
-
特にこの記事で一つ問題としたいのは
「乱された免疫機能」についてです。
サイトカインストームとも呼ばれますが、
サイトカインは免疫細胞を引き付ける役目もあるので
免疫機能を制御する因子の一つです。
それが異常になることは免疫異常を示します。
新型コロナウィルスの場合
発症から10日程度で人から人への感染力が落ちると
言われています。
重症の方でも治療を受けている時には
すでにウィルスは体には多くはいない状態の方もいると思います。
しかし、免疫機能が異常な状態で
それに伴って組織が損傷しているので
引き続き治療が必要であるということです。
また、軽傷でも後遺症が現れる人は
免疫の異常が体に残っていることが考えられます。
例えば、自己抗体が血中に生まれて、残っており
自己免疫疾患のような症状が現れているかもしれません。
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長期的な治療も想定すると
脳神経系も含めた体全体のバランスの崩した免疫機能を
どうやって正常に戻していくか?
このことを実際の臨床症状を確認しながら
治療として実現していく必要があると考えられます。
そうした場合、
特定の表現型を示す免疫細胞がバランスを崩している
原因となっているとするならば、
その免疫細胞だけを認識して、
その機能を弱めるような医療介入を行うことができれば
症状が改善する可能性があります。
免疫細胞の走化性を制御する
サイトカインやケモカインを制御する方法もありますが、
一方、免疫細胞の表面にある受容体の
機能を改変する事で免疫細胞の活性を制御する
治療戦略も存在します。
その受容体が免疫異常によって生じた
後天的な遺伝子改変によって特異的な構造を示している場合には
その特徴的な構造を調べることで
その異常な免疫細胞だけを標的とするような
医療介入の可能性を得る事ができます。
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Benjamin A. H. Smith氏、Carolyn R. Bertozzi氏は
免疫細胞表面にある糖鎖とその糖鎖と結合している
レクチンを標的とすることによる治療の可能性を
包括しています(1)。
その内容の一部について、追記しながら
読者の方と情報共有したいと思います。
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//糖鎖(Glycan)とレクチン(Lectin)の関係//ーーーーーーーー
免疫細胞を始めとする細胞の表面上の30nm程度という
ごく薄い密度の高い層として糖鎖があります。
その糖鎖とレクチンの相互作用における価数が大きければ
レクチンは下地である糖鎖に親和性が高く、
強く結合することができます(2)。
他にはこのような多価による相互作用がある時には
親和性が高いだけではなく、
糖鎖の構造に対して寛容的で
糖鎖の構造が変わっても結合することができるようになります(3)。
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しかしながら、生体内では
血流、脳脊髄液、間質液などの流れがあります。
あるいは小胞や細胞などの流れもあります。
その中で糖鎖に結合しているレクチンは
それらの流れによってせん断応力を受けます。
従って、試験管内で結合状態が保たれる環境でも
生体内では異なる可能性があります。
--
また、レクチンが結合する場所は糖鎖のエピトープ(結合部位)
だけに限らず、より細胞膜側の土台の部分や
タンパク質ではなく脂質に結合する事もあります。
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//糖鎖(Glycan)とインフルエンザ治療薬の関係//ーーーーーーーーー
インフルエンザの治療薬であるザナミビル
オセルタミビルは糖鎖をターゲットとする薬で
感染細胞からウィルスの放出を防ぐ役目があります。
(参考)
ザナミビルに関しては現在、使用は非推奨となっています。
但し、これらの薬は感染細胞からの放出を防ぐものなので
上述したような免疫細胞を狙ったものではないと考えられます。
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//セレクチン(レクチン一種)//ーーーーーーーー
セレクチンはカルシウム依存のレクチンで
免疫細胞の内皮への吸着などを通して
免疫細胞の抗原に基づく特異的発展を遂げる胚中心を含む
2次リンパ系組織や組織損傷が起こっている炎症箇所への
結合に関わる受容体です。
これらのレクチンと糖鎖の相互作用による
免疫細胞と内皮の結合は
赤血球形状異常(Sickle cell)、癌の転移、骨髄移植など
との関連性が指摘されています。
免疫細胞は2次リンパ系、胸腺、脾臓などを通して
特異的な発展を遂げ、血管、リンパ管、間質など
体中を循環します。
そして、炎症組織があれば、ダメージ関連分子パターンを
認識してマクロファージなどの自然免疫系が引き付けられたり
炎症性サイトカインなどを通じて引き付けられたりしますが、
その走化性とともに炎症箇所の固着と関わるものである
と理解しています。
また、血管の内皮に結合するので
その固定的な近接を通じて血管から組織内部への
滲出にも関わるとされています。
このことは直接的、あるいは間接的に
癌細胞が転移するときに行われる上皮間葉転換とも
関わっている可能性があります。
参考文献(1) Fig.1にセクレチンが
内皮や白血球表面にある突起物質と結合するか
図示されています。
このセクレチンを抗体で蓋したり、デコイ受容体で
任意に免疫細胞をおびき寄せたりすることが
炎症性を示す免疫細胞の組織への固着を防ぐことにつながりますが、
セクレチンを標的とした薬剤では
まだ承認されているものはありません。
(参考文献(1) Table 1より)
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//Siglecs(レクチン一種)//ーーーーーーーー
Siglecsはシアル酸が免疫グロブリン様レクチンの先端に
結合した複合体からなる受容体であり、
ほとんどの免疫細胞に存在します。
構造は
〇細胞内に免疫受容抑制性(スイッチ)チロシンモチーフ(ITIM,ITSM)
〇細胞外にC2タイプIgドメイン
〇細胞外先端にVタイプIgドメイン
これらがあり
これらの3つの構造がそれぞれ異なることによって分類分けされています。
実際に人で確認されているSiglecsは少なくとも17種類あります。
(参考文献(1) Fig 4(a)(c)より)
-
例えば、その中のCD22という型はは
B細胞にしか存在しないと言われているので
B細胞が癌化している場合には
このCD22を標的として治療することができます(5)。
-
他には例えば、Siglec-16とSiglec-11は
マクロファージとマイクログリアにしか存在しないので
脳神経の免疫機能を調整したいときの
標的としては適している可能性があります。
実際にSiglec-11を標的とすることで
マイクログリアの過剰活性から神経細胞を守る
可能性が示唆されています(6)。
またB細胞とマイクログリアにあるCD22も標的として
注目されています。
CD22はアルツハイマー病やパーキンソン病
あるいは認知症にも関連があるとされる
アミロイドβやα-synucleinなどの
間質に蓄積されるたんぱく質のマイクログリアを
通じた生成を防ぐ可能性が示唆されています(7)。
-
Siglecsは上述したように細胞内に
免疫受容抑制性(スイッチ)チロシンモチーフを持ちますが、
これが細胞内への信号伝達に関わるDAP12というたんぱく質を
含んでいて、それが一因となって
免疫機能の恒常性が制御されています。
この受容体によって免疫細胞が細胞死したり、
病原体を攻撃したり、サイトカインをしたり、
免疫細胞のサイクルや基本的機能に関わっています。
-
従って、この受容体を標的にして
アゴニストやアンタゴニストとなる抗体を付ける事は
その標的として免疫細胞の機能を調整することになります。
基本的には参考文献(1) Fig.5に示されているように
これらの受容体が2量体化、多量体化するときに
機能が高まるとされているので
その受容体が束になることを防ぎ
孤立化させるような抗体を付けるとアンタゴニスト
抑制剤として働きます。
一方、2量体化、多量体化を安定化させるような
結合をすることは機能を強める事になります。
例えば、抗体の2つのFabドメインが
両方、Siglecsに結合して
2つの受容体を架橋するような機能を果たすと
アゴニスト、増強剤として働きます。
-
//糖鎖(グリカン)標的抗体//ーーーーーーーー
レクチンの土台として細胞の表層に薄く、高密度で
存在する糖鎖(グリカン)は、
例えば、癌などの疾患によって改変されることがあります(8,9)。
そうすると体はそれに応じた抗体を体内で
生成します(Neoantigen)。
これは脳の前頭葉などの組織の硬化が
自己免疫疾患やウィルスなどによって起こる
多発性硬化症でもこのようなグリカンの改変に反応した
抗体が検出されています(10)。
クローン病でも同様です(11)。
例えば、癌細胞では酸素よりも糖代謝が活発になり、
代謝機能の改変が見られることが知られていますが、
このような代謝改変は細胞表面に層として存在する
糖鎖の構造改変と因果性を持つことが示唆されています。
実際に、糖鎖は免疫細胞の吸着や走化性と関わる
レクチンの土台となるものですから
これらが改変されることは
癌細胞の免疫回避などに関係している可能性もあります。
従って、
これらの改変された糖鎖を標的とする抗体による
免疫療法の補助的な治療としての採用が検討されています。
参考文献(1) Table 1によれば
改変された糖鎖を標的とした抗体の治験の対象は
乳癌、大腸癌、肺癌、メラノーマ、卵巣癌
転移性肉腫、神経芽細胞種、膵臓癌など
血液癌などの流動性の癌ではなく
組織に固着した固形癌が対象とされています。
実際には「癌ワクチン」と呼ばれていますが、
基本的に固形癌は血中を流動するような白血病などに比べて
薬剤の輸送が難しいとされていると理解しています。
その上で選ばれているという事は
この糖鎖は癌特有の構造を持っていて
ワクチンとして導入された抗体のオフターゲット効果が
比較的少ないといえるのではないかと考えました。
例えば、新型コロナウィルスのワクチンは
新型コロナウィルスのSタンパク質に
非常に親和性の高い抗体が生成されるために
新型コロナウィルス特異的に働いてくれます。
「癌ワクチン」と呼ばれることは
それだけ糖鎖が癌特有の構造を持っていて
標的として優れている事を示しているのかもしれません。
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//細胞特異的輸送系統の観点//ーーーーーーーー
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(免疫細胞への作用経路を増やす)
これらの免疫細胞特有のレクチンを標的とする場合
細胞特異的輸送系統の場合は
その結合エピトープだけの作用だけではなく
それをアンカーしている時に
Drug-antibody-conjugateの拡張版のように
iPS細胞や脂質ナノ粒子の中に
化学療法として使われる薬剤や
特定の栄養素などをアドジュバントとして入れる事ができます。
そうすることによって
レクチンを通した免疫細胞への働きかけの
選択肢を高めたり、作用を強める事ができる可能性があります。
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(免疫細胞を輸送媒体とする)
例えば、レクチンなどの免疫細胞特有の受容体に
様々な機能を搭載した胞をアンカーさせて
そのうえで免疫細胞に運んでもらい
その免疫細胞の機能をリガントして結合した
胞が多様化してくれる可能性を想定しています。
例えば、NK細胞に結合した胞が
NK細胞が持つ機能と胞に搭載した薬剤などの機能が
NK細胞が走化性を示す組織に同時に働くイメージです。
NK細胞のアドジュバント(補強剤)として想定します。
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(各表現型に対して細かな構造変化を見る)
例えば、ほとんどの免疫細胞に存在するSiglecsがあります。
これらは特定の型を除くと、多くの種類の免疫細胞に
同時に存在しているのでその受容体に関しては
標的としては好ましくないことになります。
なぜなら、他の意図しない免疫細胞に働きかけて
しまう可能性があるからです。
例えば、免疫細胞の発展の中で表現型が変わった時に
Siglecsのドメインにタンパク質などの装飾因子が結合して
それによってエピトープに構造変化が同じ型でも
生まれないかどうか?という観点です。
そのような構造変化を掴めば
同じ型でもその構造変化に合わせた装飾因子の設計をすることで
特定の表現型の免疫細胞だけを標的とできる
可能性が生まれます。
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(アンカーとして糖鎖の可能性)
糖鎖を使った抗体は癌においては固形癌が対象になっています。
これは特異的標的性として優れている事を暗示しています。
もしそうであれば、細胞特異的輸送系統のアンカーの候補として
優れている事を示すものです。
各表現型に対してエピトープの動性が高い受容体は
特異的親和性を持たせるために適しています。
また糖鎖は高密度で存在するので
この特徴をアンカーとして有効に使える可能性もあります。
また、他の受容体の場合は傾いたり、リガントが結合していたりして、
エピトープの揺らぎが大きい状態の中で
適合する受容体を見つける必要がありますが、
高密度で存在する事はその選択性が上がることにつながります。
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ーーーーーーーー
以上です。
(参考文献)
(1)
Benjamin A. H. Smith & Carolyn R. Bertozzi
The clinical impact of glycobiology: targeting selectins, Siglecs and mammalian glycans
Nature Reviews Drug Discovery (2021)
(2)
Varki, A.
Biological roles of glycans.
Glycobiology 27, 3–49 (2017).
(3)
Liang, R. et al.
Polyvalent binding to carbohydrates immobilized on an insoluble resin.
Proc. Natl Acad. Sci. USA 94, 10554–10559 (1997).
(4)
von Itzstein, M.
The war against influenza: discovery and development of sialidase inhibitors.
Nat. Rev. Drug Discov. 6, 967–974 (2007).
(5)
Chen, W. C. et al.
In vivo targeting of B- cell lymphoma with glycan ligands of CD22.
Blood 115, 4778–4786 (2010).
(6)
Wang, Y. & Neumann, H.
Alleviation of neurotoxicity by microglial human Siglec-11.
J. Neurosci. 30, 3482–3488 (2010).
(7)
Pluvinage, J. V. et al.
CD22 blockade restores homeostatic microglial phagocytosis in ageing brains.
Nature 568, 187–192 (2019).
(8)
Dube, D. H. & Bertozzi, C. R.
Glycans in cancer and inflammation — potential for therapeutics and diagnostics.
Nat. Rev. Drug Discov. 4, 477–488 (2005).
(9)
Pinho, S. S. & Reis, C. A.
Glycosylation in cancer: mechanisms and clinical implications.
Nat. Rev. Cancer 15, 540–555 (2015).
(10)
Dotan, N., Altstock, R. T., Schwarz, M. & Dukler, A.
Anti- glycan antibodies as biomarkers for diagnosis and prognosis.
Lupus 15, 442–450 (2006).
(11)
Dotan, I. et al.
Antibodies against laminaribioside and chitobioside are novel serologic markers in Crohn’s disease.
Gastroenterology 131, 366–378 (2006).

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