2021年1月13日水曜日

2種類のACE2受容体とインターフェロンの関係

いつも記事を読んでくださり、ありがとうございます。

京都大学の西浦教授が実行再生産数を使った数理モデルで
人との接触の頻度、対策の程度によって
感染者数がどのような推移になるか計算されています。
実効再生産数が1ならば、
当然、感染者数は横ばいになります。
従って、今よりも状況を良くしていくためには
実効再生産数を1以下にする必要があります。

しかし、これは病理を考慮にいれるともっと複雑です。
PCRの検査の陽性、陰性で
今は実行再生産数の過去から現在の結果を示しています。
PCRの検出下限感度が仮に1000(copies/mL)RNAであれば
その数を下回ればウィルス感染があっても陰性になります。
そのウィルスの数に関わる要因は
鼻、口、目からどれだけのウィルス量を吸い込むか?
そしてその後のウィルスの増減はどうか?
これらが関わります。
仮に100(copies/ml)を吸い込んで
その後、自然減や免疫機能によって1000(copies/mL)まで
届かなければ、いつPCRをしても陰性になります。
そうであれば当然、数にはカウントされず
実行再生産数の増加要因にもなりません。

物理的に人との接触機会を減らす。
このことは「確実な方法」です。
従って、これはもちろんベースにはあるのですが、
日常生活で人との接触は避けられない部分があります。
そうした場合、
より感染のリスクを避けるためにはどうしたらいいか?
そのことを考える事も多重的な感染対策になります。
従来から言われている
ーー
〇手をこまめに洗う事
〇換気をする事
〇3密(密集、密接、密閉)を避ける事
〇マスクをする事
ーー
これらがあります。
この対策の中において一つ留意しておきたい事があります。
それが「マスク」です。
マスクを装着するときには
「鼻をしっかり覆うこと」が非常に大事です。

新型コロナウィルスはACE2という受容体に結合する事で
細胞内に感染して、そこでRNAを増やすことができます。
逆にそれができなければ、
体内の免疫機能や自然減などで速やかに減少します。
従って、このACE2受容体というのは
ウィルスが生き残るためには欠かせない物質です。
このACE2というのは身体の細胞に広く分布していますが
その密度には偏りがあります。
その中で鼻の上皮細胞や繊毛に多く存在している
と言われています(1,2)。
(参考文献(1) Fig.2(b)より)
そうすると当然、鼻では新型コロナウィルス
増えやすいわけですから
鼻腔が多くのウィルスに暴露されると
感染のリスクが同じ環境でも高まります。
従って、
マスクをするときには
前述したように鼻もしっかり覆うことが大事です。
マスクの線維よりもウィルス径は小さいので
完全にガードすることはできませんが、
全てではなくても半分、1/4にするだけで
感染リスクを下げることができます。
従って、
目、鼻、口の入り口をできるだけガードする
ということが大事だともいます。
目に関してもコンタクトとメガネを選択できるのであれば
メガネのほうがいいという可能性もあります。

このようなACE2受容体を利用して
新型コロナウィルスは細胞内に入ってRNAを複製して
ウィルス量を維持、増加させます。
しかし、このACE2受容体は体にとっては必要なものです。
その役割
ーー
・血圧、塩分、水分バランスの調整(3,4)
・小腸でのアミノ酸の取得(5,6)
・グルコース恒常性(7,8)
・膵臓のβ細胞機能(7,8)
・急性の肺傷害からの防御(9-12)
ーー
これらが挙げられています。
新型コロナウィルスでは肺傷害がありますから
それを防ぐ機能があるならばACE2はウィルスの入り口になりますが
一方で欠かせないものと言えます。

このACE2は身体の反応によって増減する事がわかっています(13)。
ACE2受容体の増減はウィルスの増殖、身体の機能調整両方に関わります。
新型コロナウィルスに感染した後、
あるいはリスクの高い基礎疾患などによって
ACE2受容体の増減がどうなるか?
これを考える事が重要です。

Cornelia Blume氏ら、
イギリスとスウェーデンの医療、研究チームは
ACE2には2種類同系のもの(Long,Short)があって、
それらの特徴は異なる事を示しています(1)。
その中でShort-ACE2と呼ばれる分子量が小さい型は
新型コロナウィルスのスパイクとの結合面を持っていないために
エントリー受容体として働かない事がわかっています(1)。
従って、ACE2の受容体の増減に対する
新型コロナウィルスの影響を考えていくときには、
エントリー受容体として働くLong-ACE2受容体と
そうではないShort-ACE2受容体を切り分けて評価していく事が
非常に大事になります。

その中で重要な事実は
気管支上皮細胞のACE2受容体の評価では
Long-ACE2受容体は
Ⅰ型インターフェロン(IFN-β)
Ⅱ型インターフェロン(IFN-γ)
これらが増えると
Long-ACE2受容体は減少する事が確認されています。
(参考文献(1) Extended Data Fig. 6(c)より)
逆に
Short-ACE2受容体は
Ⅰ型インターフェロン(IFN-β)
Ⅱ型インターフェロン(IFN-γ)
Ⅲ型インターフェロン(IFN-λ)
これらによって亢進、発現が促進されます。
(参考文献(1) Fig.4(a)より)
--
一方、従来の研究ではインターフェロンの亢進によって
ACE2受容体が増え、新型コロナウィルスは
それを感染促進のために利用していると考えられていました(13)。
しかし、
この結果からはインターフェロンは逆に
新型コロナウィルスの感染力を弱める可能性がある
と考える事ができます。
なぜなら、Long-ACE2は減っているからです。
新型コロナウィルスでは、
抗ウィルス性を示すⅠ型インターフェロンの分泌量が
少ないと重症化する傾向があると言われています。
(参考文献(14) Extended Data Fig.5(d)より) 
これは単に抗ウィルス性を示すだけではなく
Long-ACE2の受容体の数も減らしていて
新型コロナウィルスが増殖しにくい環境になっていることを
示している可能性もあります。

//私の考察、追記//ーーーーー
ShortとLongの同系のACE2受容体があるとして
それらが共存することで何らかの影響があるかどうか?
その点が気になります。
受容体は度々、2量体、多量体化することが知られています(15)。
ACE2でも2量体化に関する報告があります(16)。
ShortとLongが2量体化した場合には
新型コロナウィルスに対する感受性はどうなるか?
あるいはShort-ACE2がある事で
新型コロナウィルスの細胞付近での走化性が変わるかどうか?
そのような観点を得ました。
また、上述したACE2の機能において
LongとShortはそれぞれどのような機能に貢献しているのか?
例えば、
肺傷害の保護、修復においてShort-ACE2が大きく貢献しているならば
インターフェロンの分泌は肺傷害の保護において
間接的に重要な役割を果たしている事が推測できます。
ーーーーー

以上です。

(参考文献)
(1)
Cornelia Blume, Claire L. Jackson, Cosma Mirella Spalluto, Jelmer Legebeke, Liliya Nazlamova, Franco Conforti, Jeanne-Marie Perotin, Martin Frank, John Butler, Max Crispin, Janice Coles, James Thompson, Robert A. Ridley, Lareb S. N. Dean, Matthew Loxham, Stephanie Reikine, Adnan Azim, Kamran Tariq, David A. Johnston, Paul J. Skipp, Ratko Djukanovic, Diana Baralle, Christopher J. McCormick, Donna E. Davies, Jane S. Lucas, Gabrielle Wheway & Vito Mennella 
A novel ACE2 isoform is expressed in human respiratory epithelia and is upregulated in response to interferons and RNA respiratory virus infection
Nature Genetics (2021)
(2)
Sungnak, W. et al. 
SARS-CoV-2 entry factors are highly expressed  in nasal epithelial cells together with innate immune genes. 
Nat. Med. 26, 681–687 (2020).
(3)
Donoghue, M. et al. 
A novel angiotensin-converting enzyme-related carboxypeptidase (ACE2) converts angiotensin I to angiotensin 1–9. 
Circ. Res. 87, E1–E9 (2000).
(4)
Tipnis, S. R. et al. 
A human homolog of angiotensin-converting enzyme. 
Cloning and functional expression as a captopril-insensitive carboxypeptidase. 
J. Biol. Chem. 275, 33238–33243 (2000).
(5)
Camargo, S. M. et al. 
Tissue-specific amino acid transporter partners ACE2 and collectrin differentially interact with Hartnup mutations. 
Gastroenterology 136, 872–882 (2009).
(6)
Kowalczuk, S. et al. 
A protein complex in the brush-border membrane explains a Hartnup disorder allele. 
FASEB J. 22, 2880–2887 (2008).
(7)
Niu, M.-J., Yang, J.-K., Lin, S.-S., Ji, X.-J. & Guo, L.-M. 
Loss of angiotensin-converting enzyme 2 leads to impaired glucose homeostasis in mice. 
Endocrine 34, 56–61 (2008).
(8)
Bindom, S. M., Hans, C. P., Xia, H., Boulares, A. H. & Lazartigues, E. 
Angiotensin I-converting enzyme type 2 (ACE2) gene therapy improves glycemic control in diabetic mice. 
Diabetes 59, 2540–2548 (2010).
(9)
Imai, Y. et al. 
Angiotensin-converting enzyme 2 protects from severe acute lung failure. 
Nature 436, 112–116 (2005).
(10)
Treml, B. et al. 
Recombinant angiotensin-converting enzyme 2 improves pulmonary blood flow and oxygenation in lipopolysaccharide-induced lung injury in piglets. 
Crit. Care Med. 38, 596–601 (2010).
(11)
Ferreira, A. J. et al. 
Evidence for angiotensin-converting enzyme 2 as a therapeutic target for the prevention of pulmonary hypertension.  
Am. J. Respir. Crit. Care Med. 179, 1048–1054 (2009).
(12)
Yamazato, Y. et al. 
Prevention of pulmonary hypertension by angiotensin-converting enzyme 2 gene transfer. 
Hypertension 54,  365–371 (2009).
(13)
Ziegler, C. G. K. et al. 
SARS-CoV-2 receptor ACE2 is an interferon-stimulated gene in human airway epithelial cells and is detected in specific cell subsets across tissues. 
Cell 181, 1016–1035.e19 (2020).
(14)
Rogan A. Grant, Luisa Morales-Nebreda, Nikolay S. Markov, Suchitra Swaminathan, Melissa Querrey, Estefany R. Guzman, Darryl A. Abbott, Helen K. Donnelly, Alvaro Donayre, Isaac A. Goldberg, Zasu M. Klug, Nicole Borkowski, Ziyan Lu, Hermon Kihshen, Yuliya Politanska, Lango Sichizya, Mengjia Kang, Ali Shilatifard, Chao Qi, Jon W. Lomasney, A. Christine Argento, Jacqueline M. Kruser, Elizabeth S. Malsin, Chiagozie O. Pickens, Sean B. Smith, James M. Walter, Anna E. Pawlowski, Daniel Schneider, Prasanth Nannapaneni, Hiam Abdala-Valencia, Ankit Bharat, Cara J. Gottardi, G. R. Scott Budinger, Alexander V. Misharin, Benjamin D. Singer, Richard G. Wunderink & The NU SCRIPT Study Investigators-
Circuits between infected macrophages and T cells in SARS-CoV-2 pneumonia
Nature (2021)
(15)
Hanako Ishida, Jinta Asami, Zhikuan Zhang, Tomohiro Nishizawa, Hideki Shigematsu, Umeharu Ohto & Toshiyuki Shimizu 
Cryo-EM structures of Toll-like receptors in complex with UNC93B1
Nature Structural & Molecular Biology (2021)
(16)
Renhong Yan et al.
Structure of dimeric full-length human ACE2 in complex with B0AT1
bioRχiv (2020)


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