2021年1月12日火曜日

肺炎患者の肺胞免疫系経路分析と治療戦略

いつも記事を読んでくださり、ありがとうございます。

日本の新型コロナウィルスの
重症患者数は864人で過去最高です(1/11時点)。
その推移を見てみるとその増加率は今までで最大となっています。
基本的には感染者数はPCRの件数や
どれだけ無症状の方を拾うことができるかに関わりますが、
重症患者数は見落とすことがほとんどないことから
どの期間においても感染の実情を示していると言えます。
4月の第一波の時よりも増えているということですから
間違いなく状況は最悪であると言えます。
また感染が増え始めて2週間、3週間後に重症化するとすると
この数はこれから1月後半にかけてもっと増える可能性があります。
そうすると一部の重症の患者さんを病院は受け入れることができない
ということになります。
従って、感染対策を進めて陽性者を減らすという事は
私たちが社会生活を送るうえで常に基礎としてあって、
その上で中等症、重症に発展させない治療が必要になります。
あるいは重症化した人を早期に回復させて
重症ベットを空けることが大切になります。
昨日の報道で
イギリスのインペリアル・カレッジ・ロンドンの
グループが行った重症患者800人を対象とした
「アクテムラ=トシリズマブ」と
それと同じ仕組みのの「サリルマブ」いずれか
を投与して効果を調べたところ
救命不可だった割合が
投与群:28% / 投与なし:35.8%
と統計的に優位な差が見られました。
従って、イギリスの政府は重症患者に対する投与を推奨しています。
これは大阪大学、中外製薬が開発した関節リウマチの薬で
炎症性サイトカインIL-6の働きを抑えるので
炎症性免疫抑制すると考えられます。
またアメリカを中心に行ったアクテムラの調査でも
投与から4~7日の退院の割合が偽薬群に対して高くなっています(2)。
このような結果も踏まえて
日本でも試験的な適用も含めて中等症、
あるいは重症の患者さんの治療に
早期に生かしていただきたいと考えます。
開発したのが日本の薬という点もあるので、
それが推進する力にもなると思います。

このような重症化した患者(さん)に対する治療を考えた時に
多くのケースで併発している「肺炎」の症状をどう治療するか
を考える事になります(3-6)。

Rogan A. Grant氏ら医療、研究グループ
(The NU SCRIPT Study Investigators)
アメリカのグループによって肺炎が起こっている時の
肺胞の免疫系細胞とその経路について詳しく分析しています(1)。
この内容の一部について読者の方と情報共有したいと思います。
(※)
=====の⇒は私の考察、追記です。

//条件//ーーーーー
(人数)
肺炎、呼吸器疾患
重症新型コロナ陽性患者88人

他の感染症、非感染症肺炎患者211人と比較
--
(平均年齢)
57歳(21~86歳)
--
(性別)
男性:58人/女性:30人
--
(気管挿管の期間)
1~153日(中央値:18日)
--
(投薬状況) 投薬/投薬なし人数
レムデシビル 17/71
サリルマブ 30/58
ステロイド 30/58
ヒドロキシクロロキン 17/71
--
(分析方法)
気管支肺胞洗浄(Bronchoalveolar lavage)
※気管挿管から48時間以内
ーーーーー

//結果//ーーーーー
--
(C反応性タンパク質)
新型コロナウィルス≒他の感染症>非感染症
C反応性タンパク質の量が非感染症肺炎に比べて高い
(参考文献(1) Extended Data Fig. 1dより) 
-----

C反応性タンパク質は肝臓で作られ
炎症が生じているときに血液中で増えると言われています。
特に炎症が起こった時に数時間以内に
血液中に放出されます。
従って、C反応性タンパク質が高いとは
「今、現在進行中で炎症が起こっている」
このことを示していると考えられます。
-----
--
(好中球)
新型コロナウィルス<他の感染症<非感染症
つまり新型コロナウィルスの肺胞の好中球の数は
他の感染症に比べて低い。
また肺炎以外のコントロール群よりも低い
但し、患者(さん)によってバラツキが大きい。
-----

好中球がリンパ球に対して高いことが報告されていましたが
肺胞の肺炎重症患者においては逆の結果。
-----
--
(CD4+T細胞)
新型コロナウィルス>他の感染症≒非感染症
但し、患者(さん)によってバラツキが大きい。
--
(単球)
新型コロナウィルス>他の感染症≒非感染症
但し、患者(さん)によってバラツキが大きい。
--
(CD8+T細胞)
新型コロナウィルス>他の感染症≒非感染症
但し、患者(さん)によってバラツキが大きい。
(参考文献(1) Fig.2(b)より)
-----

CD4+T細胞、CD8+T細胞、単球の量が
新型コロナウィルス肺炎患者の肺胞で多い。
--
(ケモカインを含め遺伝子発現)
新型コロナウィルスの特徴
CCL7、CCL8、CCL13、IFIT2、ISG15が多い。
(参考文献(1) Fig.2(c)より)
-----

CCL7、CCL8、CCL13は単球とT細胞を引き付ける
誘引因子(chemoattractants)です。
従って、
CD4+T細胞、CD8+T細胞、単球の量が
新型コロナウィルス肺炎患者の肺胞で多いことと
整合を示します.
-----
--
(気管挿管の期間)
新型コロナウィルス>非感染症>他の感染症
但し、患者(さん)によってバラツキが大きい。
(参考文献(1) Fig.2(j)より)
他の調査結果と一致します(3)。
--
(Ⅰ型インターフェロンとの気管挿管期間の関係)
少なくともⅠ型インターフェロンが
気管挿管初期の時期に多く発現されている患者さんは
挿管気管が短いことを示しています。
しかし、量が少なくても短い人がいます。
一方、気管挿管気管が長い人は共通して
Ⅰ型インターフェロンの分泌量が少なくなっています。
(参考文献(1) Extended Data Fig.5(d)より) 
-----

Ⅰ型インターフェロンの役割は
(1)ウイルス複製を抑制する
(2)ウイルス非感染細胞のNK細胞の攻撃から保護する
(3)NK細胞を活性化させてウイルス感染細胞を除去する
これらが挙げられています。
感染初期でⅠ型インターフェロンが遅れる事と
新型コロナウィルスの重症化との相関は知られています(7)。
-----
--
(新型コロナウィルス量と気管挿管期間の関係)
挿管から10日以内でウィルス量は検出限界以下に下がっています。
(参考文献(1) Extended Data Fig.5(i)より) 
-----

このことは挿管してから症状が長引く人は
ウィルスとの闘いではなく
ウィルスによって乱された免疫機能との闘いの色合いが
強くなっていることを示しています。
-----
--
(免疫細胞(マクロファージ)への感染)
肺胞組織に常在しているマクロファージ
(tissue-resident alveolar macrophages(TRAM2))
単球から分化した肺胞マクロファージ
(monocyte-derived alveolar macrophages(MoAM2))
(2はおそらく2型というpolarizationを示している)
これらの細胞へのウィルス感染が確認されています。
(参考文献(1) Fig.4(d)より)
しかし、新型コロナウィルスの細胞への
エントリー受容体であるACE2受容体は確認されませんでした。
実際に
過去のSARS、MARSでも肺胞のマクロファージへの
感染が報告されています(8-10)。
-----

ACE2ではない感染の考えられる機序は
ウィルスへの食作用による感染であると考えられています。
Fcドメインによる抗体依存性感染増強が考えられます(11,12)。
しかし、これは
ワクチンなどで抗体を生み出すことのリスクを
そのまま示すものではないと考えられます。
肺炎など肺胞に炎症が生じ、
そこにマクロファージが引き付けられている
「重症化した状態」での抗体による感染増強であると考えられます。
従って、発症する前のワクチンによる抗体の悪影響を
そのまま意味するものではないと考えられます。
但し、抗体を入れる事によるマクロファージの改変については
今後、研究を進める必要があると考えられます。
-----
--
(炎症性サイトカイン:IL-6)
アクテムラで主に作用すると考えられるIL-6については
他の感染症と差はありません。
しかし健康な人と比べると1桁、2桁以上大きな値となっています。
また肺炎ではない新型コロナウィルス患者でも
上昇がみられることから
アクテムラの薬効は重症患者に限定されない可能性があります。
(参考文献(1) Extended Data Fig.5(b)真ん中下から2つ目より) 
--
ーーーーー

//考えられるモデル//ーーーーー
Rogan A. Grant氏らが考えるモデルは
ACE2が高いレベルで発現されている鼻腔などを含む
呼吸器官の入り口のところでウィルスが増加して(13,14)
その一部が気管支や肺胞に入ると考えられています。
(ウィルス:鼻腔⇒気管支、肺胞)
-
肺胞で上皮細胞や組織に常在するマクロファージに感染します(15)。
この感染マクロファージは
記憶型T細胞を引き付けます。
(マクロファージ⇒CD4+、CD8+T細胞)
-
マクロファージは感染して細胞死しますが、
単球より分化させたマクロファージを引き付け数を維持します。
この記憶型のT細胞は、炎症性サイトカインを放出するように
遺伝子改変が促進されています。
この炎症性サイトカインに関わるのは
2型インタフェロンであると考えられます。
(参考文献(1) Fig. 4(c)より)
-----

ケモカインなどを通じて、これらが肺胞に走化性を示し
循環して細胞数を維持するような恒常性が働くため
新型コロナウィルスにおける肺炎、呼吸困難の状況は
長く続いている可能性があります。
従って、
ケモカインCCL7、CCL8、CCL13に結合して
機能を弱めるような薬剤を肺胞に届ける事ができたら
この恒常性を阻害できる可能性があります。
また、IFN-γに対しては
デキサメタゾンなどのグルココルチコイドが
抑制剤となります(16)ので
吸引型のデキサメタゾンなど肺胞に効率的に届くような
輸送形式で投与できないか検討の余地があります。
-----
ーーーーー

(参考文献)
(1)
Rogan A. Grant, Luisa Morales-Nebreda, Nikolay S. Markov, Suchitra Swaminathan, Melissa Querrey, Estefany R. Guzman, Darryl A. Abbott, Helen K. Donnelly, Alvaro Donayre, Isaac A. Goldberg, Zasu M. Klug, Nicole Borkowski, Ziyan Lu, Hermon Kihshen, Yuliya Politanska, Lango Sichizya, Mengjia Kang, Ali Shilatifard, Chao Qi, Jon W. Lomasney, A. Christine Argento, Jacqueline M. Kruser, Elizabeth S. Malsin, Chiagozie O. Pickens, Sean B. Smith, James M. Walter, Anna E. Pawlowski, Daniel Schneider, Prasanth Nannapaneni, Hiam Abdala-Valencia, Ankit Bharat, Cara J. Gottardi, G. R. Scott Budinger, Alexander V. Misharin, Benjamin D. Singer, Richard G. Wunderink & The NU SCRIPT Study Investigators-
Circuits between infected macrophages and T cells in SARS-CoV-2 pneumonia
Nature (2021)
(2)
Carlos Salama, M.D., Jian Han, Ph.D., Linda Yau, Ph.D., William G. Reiss, Pharm.D., Benjamin Kramer, M.D., Jeffrey D. Neidhart, M.D., Gerard J. Criner, M.D., Emma Kaplan-Lewis, M.D., Rachel Baden, M.D., Lavannya Pandit, M.D., Miriam L. Cameron, M.D., Julia Garcia-Diaz, M.D., Victoria Chávez, M.D., Martha Mekebeb-Reuter, M.D., Ferdinando Lima de Menezes, M.D., Reena Shah, F.R.C.P., Maria F. González-Lara, M.D., Beverly Assman, M.S., Jamie Freedman, M.D., Ph.D., and Shalini V. Mohan, M.D.
Tocilizumab in Patients Hospitalized with Covid-19 Pneumonia  
The New England Journal of Medicine  December 17, 2020,
(3)
Yang, X. et al. 
Clinical course and outcomes of critically ill patients with SARS-CoV-2 pneumonia in Wuhan, China: a single-centered, retrospective, observational study. 
Lancet Respir Med 8, 475–481 (2020).
(4)
Baud, D. et al. 
Real estimates of mortality following COVID-19 infection. 
Lancet Infect. Dis. 20, 773 (2020).
(5)
Zhou, F. et al. 
Clinical course and risk factors for mortality of adult inpatients with COVID-19 in Wuhan, China: a retrospective cohort study. 
Lancet 395, 1054–1062 (2020).
(6)
RECOVERY Collaborative Group et al. 
Dexamethasone in Hospitalized Patients with Covid- 19 - Preliminary Report. 
N. Engl. J. Med. (2020) https://doi.org/10.1056/NEJMoa2021436.
(7)
Annsea Park and Akiko Iwasaki
Type I and Type III Interferons–Induction, Signaling, Evasion, and Applicationto Combat COVID-19
Cell Host & Microbe May.27 (2020)
(8)
Zhou, J. et al. 
Active replication of Middle East respiratory syndrome coronavirus and aberrant induction of inflammatory cytokines and chemokines in human macrophages: implications for pathogenesis. 
J. Infect. Dis. 209, 1331–1342 (2014).
(9)
Yip, M. S. et al. 
Antibody-dependent infection of human macrophages by severe acute respiratory syndrome coronavirus. 
Virol. J. 11, 82 (2014).
(10)
Cheung, C. Y. et al. 
Cytokine responses in severe acute respiratory syndrome coronavirus-infected macrophages in vitro: possible relevance to pathogenesis. 
J. Virol. 79, 7819–7826 (2005).
(11)
Sariol, A. & Perlman, S. 
Lessons for COVID-19 Immunity from Other Coronavirus Infections. 
Immunity 53, 248–263 (2020).
(12)
Liu, L. et al. 
Anti-spike IgG causes severe acute lung injury by skewing macrophage responses during acute SARS-CoV infection. 
JCI Insight 4, (2019).
(13)
Sungnak, W. et al. 
SARS-CoV-2 entry factors are highly expressed in nasal epithelial cells together with innate immune genes. 
Nat. Med. 26, 681–687 (2020).
(14)
Hou, Y. J. et al. 
SARS-CoV-2 Reverse Genetics Reveals a Variable Infection Gradient in the Respiratory Tract. 
Cell (2020) https://doi.org/10.1016/j.cell.2020.05.042.
(15)
Chu, H. et al. 
Comparative replication and immune activation profiles of SARS-CoV-2 and SARS-CoV in human lungs: an ex vivo study with implications for the pathogenesis of COVID-19. 
Clin. Infect. Dis. (2020) https://doi.org/10.1093/cid/ciaa410.
(16)
Xiaoyu Hu, Wai-Ping Li, Charis Meng and Lionel B. Ivashkiv
Inhibition of IFN-γ Signaling by Glucocorticoids
The Journal of Immunology 2003, 170 (9) 4833-4839


0 コメント:

コメントを投稿

 
;