いつも記事を読んでくださり、ありがとうございます。
12月25日に大阪大学(吹田キャンパス)で記者発表が行われました。
大阪大学大学院医学系研究科(心臓血管外科)の澤芳樹教授らの
研究グループはヒトiPS細胞から心筋細胞を作り出し
それを大量に培養し、心筋組織(シート状)としました。
それを動脈硬化などの原因によって
血管が硬く、狭くなり心筋に十分な血液、
それに伴う栄養が行きわたらなくなる
虚血性心筋症に罹患している患者さん3名に対して
ヒトiPS細胞で作り出した心筋シートを移植しました。
移植手術経過後は順調に推移しているようです。
参考文献(2)では腹膜の網(omentum)とともにヒトiPS細胞を
移植することで毛細血管の生成、筋線維芽細胞生成を
促すことができたと理解しています(2)。
(VEGF, SDF-1, bFGFの亢進)
このことは、ヒトiPS細胞を種として
そこから筋組織や血管などの生成が自発的に促された
ことを意味していると考えました。
参考文献(1)でも示されている通り、
心筋の機能が失われると心臓の免疫機能や間質液圧の
恒常性に関わるリンパ節や
栄養、酸素などのガス、代謝生成物を運ぶ血液の流れが
抑制されるため、さらに虚血性心疾患を悪化させる事に
繋がると考えられます。
人の心臓の再生機能は決して高くないと言われており(3)、
iPS細胞によってその運命を劇的に変えられる可能性がある事は
医療として大きな道を切り開くものであると考えられます。
記者発表の内容の中には社会に与える影響として
重症心不全に対する有効な治療法がなく
今は心臓移植に頼るしかない状況で、
十分なドナーは存在せず課題がありましたが、
その課題に一石を投じる治療法になる
とされています。
このような再生医療をより有効にするためにも
心臓組織に備わる再生の生理を如何に有効に引き出すか
その機序について考える必要があります。
Konstantinos Klaourakis氏, Joaquim M. Vieira氏、Paul R. Riley氏
からなるイギリスの医療、研究チームは
マクロファージなどの免疫細胞による再生において
免疫細胞の生成や運搬に関わるリンパ節に対する
心臓組織の再生、治療戦略について詳しく総括しています(1)。
本日はその内容の一部について読者の方と情報共有したいと思います。
(※1)
=====の⇒は筆者の追記、考察
(※2)
心臓の回復機序についてはマウスやゼブラフィッシュなどの
人以外のモデルでの報告が多く、
それを人に適用する際には構造的な違いなどを含めた
付加的な考慮が必要です。
//血管とリンパ節の概説//ーーーーーーーー
身体には血管とリンパ管があります。
血管は心臓から血液が送り込まれますが、
動脈と静脈、その中の毛細血管などは
基本的には血液が身体の中に
滞留すること、出血することは身体には害がありますから、
閉じた経路(Closed system)となっています。
その閉ループの血液の循環の中で
酸素や二酸化炭素などのガス、
血液の成分(血小板、白血球、赤血球など)、
摂食などで得た栄養素、代謝生成物などを
細胞や細胞からなる組織に運ぶ役割があります(4)。
--
一方、身体の組織は細胞の外側に間質と呼ばれる部分があり
そこは血管、リンパ管などの間に存在します。
その間質には間質液という液体が流れており、
その組織の流れの均衡状態はリンパ管によって維持されています(5)。
このリンパ管は参考文献(1)a,bの緑のラインからわかるように
臓器、組織に終端する形となっています(Open circulatory system)。
参考文献(1)Fig 1cに示されるように終端した部分には
リンパ液が流れ出ないように出口がふさがれており、
側面にはリンパ系内皮細胞があり外部に滲出しないように
制御されています。また所々に弁のような構造があり
液体の流れが制御されています。
またリンパ管はリンパ節があり、
そこでは細胞が抗原などの信号に応じて特異的な発展を遂げます。
そのような免疫細胞が細胞の集合である組織に機能する際には
このようなリンパ系のつながりが非常に重要になります。
ーーーーーーーー
//リンパ系と心臓の修復//ーーーーーーーー
リンパ系は免疫機能の発展や輸送に関わっていますから
心臓を含めた臓器や組織などの恒常性に関わるものです。
また心筋など組織が損傷した時には
免疫細胞などを通じて筋組織を修復させる際に
重要な経路となります(6)。
ーーーーーーーー
//虚血性心筋症の機序//ーーーーーーーー
心臓には血液を送り出すために収縮する必要があります。
従って、柔軟性に富む筋組織がありますが、
それらは動的であり、非常に大きなエネルギーを必要とする
と考えられます。そのエネルギー源は主に血液から
運ばれますから、その血管が硬化などによって
閉塞して血流が阻害されると筋組織は機能を失い
死滅してしまいます。それが進めば心不全となります。
そうするとそれと連動して
リンパ系組織の機能も改変され、
間質液なども含めた液体の排出機能が損なわれ
液体が溜まる浮腫などの原因にもなります(7-9)。
ーーーーーーー
//心臓を修復する免疫機能//ーーーーーーーー
心臓組織に栄養が届かず、組織が炎症を起こし
損傷した時にはダメージ関連分子が放出され
それを自然免疫系が感知して、免疫機能が
順次引き出されます。
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(心筋梗塞から3日まで)
好中球が放出されます。
-
(1日~4日)
炎症性単球が放出されます(10,11)。
-
(~5日)
単球と単球由来のマクロファージが放出されます(12)。
-
(5日~)
抗炎症性マクロファージが放出されます(10,11,13)。
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実際に修復に関わるマクロファージは
壊死した心筋組織に対して肉芽組織の形成を得て
柔軟性のある膠原線維や結合組織になる
「瘢痕」が形成されます。いわゆる傷跡です。
参考文献(1)Fig 3に示されているに
瘢痕には免疫細胞が居住し、残存します。
通常リンパ組織はこの過剰な免疫細胞を排出してくれますが、
瘢痕の程度がひどい場合にはその機能が十分働かず
そこに免疫細胞が残ることがあります。
それによって慢性的な炎症や瘢痕が残ることがあります(14,15)。
--
またこのような自然免疫系だけではなく
獲得免疫系が働くことがありますが、
この際にはCD4+、CD8+のエフェクターT細胞ではなく
免疫機能を抑える制御型T細胞の働きを引き出すことが
組織の修復のためには重要であるとされています(16,17)。
-
実際に心筋組織、機能を回復させるためには
血管生成を促す必要があります。
従って、冒頭で述べた澤教授チームの幹細胞シート移植においても
事前に豚の組織で血管生成因子が働いているかどうか
これのチェックが行われています(2)。
従って、再生が上手く機能していないときには
血管生成が阻害されている状態です(18)。
マクロファージは血管生成に直接的にも、間接的にも
関与すると言われているので免疫機能による
組織の回復においては中核をなす免疫細胞です(19)。
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//治療戦略//ーーーーーーーー
--
(積極的な組織の再生)
血管内皮細胞増殖因子受容体の一つである
VEGFR-3と親和性を持つ
「VEGFC-C156S」が心筋梗塞において
マウスのモデルでMRIなどの評価を通して
心臓機能が回復したことを示しています(15,20,21)。
ただ、この薬剤は血清では寿命が短いことから
アデノウィルスなどのウィルス輸送媒体が検討されています(20)。
実際に人における治験では
VEGFD-ΔNΔC遺伝子療法において
虚血性心筋の症状が認められる患者さんに対して
顕著な奏功が認められたものがあります(23)。
しかし、コストなどの課題が挙げられています。
--
(血流の改善)
損傷を起こしている組織、周辺組織も含めて
梗塞している血管を修復する必要があります。
そのために
ACE抑制剤、β-ブロッカーが薬剤の候補として上がります(22)。
また血管の閉塞度合いがひどく、
主要な血管の場合には血管バイアス手術なども考えられます。
--
(リンパ管の修復)
血管と同じようにリンパ管も修復する必要があります。
実際にリンパ管の生成と浸透率制御性を上げる
Adrenomedullinがあります(24,25)。
実際に人のケースでMRIにおいて
心筋梗塞において心筋の構造の改善が
Adrenomedullinの静脈注射による投与で確認されています(25)。
-----
⇒
実際に幹細胞シートなどによる組織の修復
血管やリンパ管の生成を促す薬剤
そしてそのベースとして
血管の流れをよくしたり、梗塞を取り除くような治療
これらを兼ね備える事が
心不全に対する治療において求められると考えられます。
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ーーーーーーーー
//新型コロナウィルスと関連//ーーーーーー
新型コロナウィルスでは免疫機能が乱され
サイトカインストームが起こります。
血管を通じて異常な免疫細胞が運ばれますから
心臓組織に対する影響も懸念されます。
実際に心筋組織、冠動脈の微視的構造が
このようなサイトカインストームを通じて
間接的に悪影響を受けていることが指摘されています(26-29)。
従って、心臓組織の修復、治療を考える事は
後遺症を含めた治療の中で重要性が高まっています。
ーーーーーー
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⇒
//細胞特異的輸送系統の観点//ーーーーーーーー
--------
(再生医療のアドジュバント)
再生医療によって心筋機能が回復していくのを助けるため
血管、リンパ管を通して再生医療によって
生み出された心筋シートに特異的な走化性を持つような
輸送媒体を使い、そこで再生に必要な栄養素、薬剤、
あるいは再生に関わる免疫細胞を引き付けるような物質を運びます。
従って、再生医療によって心筋機能が回復していくときに
その再生医療によって生み出された心筋シートが
他にはない何らかの受容体を持っていれば
それがマーカーとなる可能性があります。
そうすればヒトiPS細胞から作りだした筋組織シートが
より良く働くように補助的な役割を果たす薬剤などの投与の
可能性を開いてくれます。
--------
(血管、組織再生因子の特異的輸送)
もし、心筋閉塞症などによって心筋が損傷し
その損傷パターンによって生み出された免疫機能が
近くに存在するリンパ節などを通して
特異的な発展を遂げ、受容体などのマーカーがあれば、
そのマーカー受容体をアンカーのための標的として
輸送媒体を設計し、
VEGF, SDF-1, bFGFなど血管、リンパ管生成
組織再生因子を増やし、免疫細胞への負担を減らし
過剰に高めらえた免疫機能を抑え、
心筋組織の回復に貢献できないか考えます。
基本的には血管の生成を助けるVEGFCとそのイソ型は
血清での寿命が短いとされています(30)。
従って、ウィルスベクトルなどの輸送が検討されていると思います。
この点においても細胞特異的輸送系統において
VEGFCを保護しながら目的とする損傷した筋組織まで運ぶ
医療工学技術の介入余地があります。
ーーーーーーーー
以上です。
(参考文献)
(1)
Konstantinos Klaourakis, Joaquim M. Vieira & Paul R. Riley
The evolving cardiac lymphatic vasculature in development, repair and regeneration
Nature Reviews Cardiology (2021)
(2)
Masashi Kawamura, Shigeru Miyagawa, Satsuki Fukushima, Atsuhiro Saito, Kenji Miki, Shunsuke Funakoshi, Yoshinori Yoshida, Shinya Yamanaka, Tatsuya Shimizu, Teruo Okano, Takashi Daimon, Koichi Toda & Yoshiki Sawa
Enhanced Therapeutic Effects of Human iPS Cell Derived-Cardiomyocyte by Combined Cell-Sheets with Omental Flap Technique in Porcine Ischemic Cardiomyopathy Model
Scientific Reports volume 7, Article number: 8824 (2017)
Department of Cardiovascular Surgery, Osaka University Graduate School of Medicine, Suita, Japan.
Medical Center for Translational Research, Osaka University Hospital, Suita, Japan.
Center for iPS cell Research and Application, Kyoto University, Kyoto, Japan.
Institute of Advanced Biomedical Engineering and Science, Tokyo Women's Medical University, Tokyo, Japan.
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